文字の大きさ
大
中
小
36 / 36
番外編.サシャ視点3
ミリア様の死を知ったからといって、わたしの生活は変わらない。でもわたしはこの地でいることを選び、毎日自分の仕事をこなした。
「崩落事故だ。怪我人がいる!急いで」
野菜の下ごしらいをしていると、鉱山の役人が慌ててやってきた。
「サシャ!」
他の修道女が医療具の入ったカバンを投げつけながらわたしの名前を叫んだ。
「先に行きます!」
カバンを受け止め、叫び返すと走り出した。
鉱山の入り口へ行くと埃がすごい。
そんななか血まみれの男たちが何人もうずくまっていた。
「助けてくれ!」
「サシャッ!!」
なんど目にしても慣れない。
歯を食いしばり治療にあたる。
泣くな!
少しでも助けないと・・・。
それでも、無理なことはあった。
早く楽にして欲しいと願う人がいる。死ぬことを怖がり叫ぶ人、うめき苦しみ泣きながら死んでゆく。
苦しい。
わたしは手を取る。握りしめる手が緩やかに力を失うのがわかる。
「大丈夫よ。ゆっくり休んで・・・」
そんな言葉しかでてこない自分が情けない。
「サシャ様。ありがとよ」
小さなお礼。
嬉しくないお礼。こんなお礼なんていらない。
それよりも生きて欲しい・・・
以前にも感じた不思議な感覚がわきあがる。
ー治して・・・
その感覚に従って強く願う。
すると、あたたかな光に包まれた。
「サシャ様?」
目の前にいた男があれ?といった感じでわたしを見ていた。
「これ・・・?」
「なぜだ?傷がない?」
驚いている男を無視して立ち上がった。
なぜ、また?
だが、理由より目の前のことを優先する。
「重傷者から見るわ!」
助けたいー。
その思いで、わたしは覚悟を決めた。
その数ヶ月後、久しぶりに司祭様の顔を見ることになった。
「サシャ。久しぶりだね」
昔に比べ、顔や手にシワが増えら背中が丸くなっていてどこか頼りなく見える。
「司祭様、お久しぶりです」
わたしたちは教会の談話室で話をすることになった。
「サシャ。聞いたのだがー」
「わたしは「元聖女」で、今はただの修道女です」
司祭様の言葉を遮り、自分の思いを先に伝える。
「・・・きっとこの地にいるからこそある力だと思っています。わたしはこの地にいる人が少しでも幸せであって欲しい。どんな犯罪を犯している人でも幸せになる権利はあると思います。それを許したくない人がいるのもわかります。でも・・・罪を償う時間は必要なのではないでしょうか?」
「サシャ・・・」
「償いの中にだって幸せがあっていいと思います。幸せがあるからこそ自分を見つめるきっかけになると思っているからです。確かに自分から逃げようとする人も一握りいるでしょう。でもわたしは信じたいのです。それに・・・冬に向かうこの地は病気にもなりやすい。わたしの力をここで役立てたいのです」
真っ直ぐに司祭様を見た。
「わたしはミリア様に恥じない生き方をしたい。あの方は愚かなわたしに詰りもしませんでした。ミリア様に誇れるように、わたしは、この地で一生を終える気でいます」
「サシャ・・・。よいのですか?」
「はいっ。みんなわたしを待ってくれています。わたしにとってこの生活が幸せなんです」
「そうか、これ以上はいいません」
司祭様は優しく笑ってくれた。
その日、司祭様とたくさん語った。
次の日、帰る前に司祭様は一枚の紙をわたしに差し出してくれた。
「一度、ご両親に手紙を出してあげなさい」
「えっ・・・」
「心配されてましたよ」
「でも・・・」
きっと、恨んでいる・・・。
「どんなものであれ、自分の子供を心配しないで親はいませんよ」
涙が伝う。
もう、一生関わることがないと諦めていた。
「サシャ。元気で」
「はい。司祭様もお身体に気をつけください」
司祭様の乗る馬車を見送ると、わたしは踵を返した。
今日も忙しい。今日もご飯炊きが待っている。メニューを思い出しながら手紙をポケットの中に突っ込み、ふんっと気合いをいれて、食堂へと向かった。
これが、後に「北の聖女」と言われるようになった・・・わたしの人生の始まりである。
ーおわりー
「崩落事故だ。怪我人がいる!急いで」
野菜の下ごしらいをしていると、鉱山の役人が慌ててやってきた。
「サシャ!」
他の修道女が医療具の入ったカバンを投げつけながらわたしの名前を叫んだ。
「先に行きます!」
カバンを受け止め、叫び返すと走り出した。
鉱山の入り口へ行くと埃がすごい。
そんななか血まみれの男たちが何人もうずくまっていた。
「助けてくれ!」
「サシャッ!!」
なんど目にしても慣れない。
歯を食いしばり治療にあたる。
泣くな!
少しでも助けないと・・・。
それでも、無理なことはあった。
早く楽にして欲しいと願う人がいる。死ぬことを怖がり叫ぶ人、うめき苦しみ泣きながら死んでゆく。
苦しい。
わたしは手を取る。握りしめる手が緩やかに力を失うのがわかる。
「大丈夫よ。ゆっくり休んで・・・」
そんな言葉しかでてこない自分が情けない。
「サシャ様。ありがとよ」
小さなお礼。
嬉しくないお礼。こんなお礼なんていらない。
それよりも生きて欲しい・・・
以前にも感じた不思議な感覚がわきあがる。
ー治して・・・
その感覚に従って強く願う。
すると、あたたかな光に包まれた。
「サシャ様?」
目の前にいた男があれ?といった感じでわたしを見ていた。
「これ・・・?」
「なぜだ?傷がない?」
驚いている男を無視して立ち上がった。
なぜ、また?
だが、理由より目の前のことを優先する。
「重傷者から見るわ!」
助けたいー。
その思いで、わたしは覚悟を決めた。
その数ヶ月後、久しぶりに司祭様の顔を見ることになった。
「サシャ。久しぶりだね」
昔に比べ、顔や手にシワが増えら背中が丸くなっていてどこか頼りなく見える。
「司祭様、お久しぶりです」
わたしたちは教会の談話室で話をすることになった。
「サシャ。聞いたのだがー」
「わたしは「元聖女」で、今はただの修道女です」
司祭様の言葉を遮り、自分の思いを先に伝える。
「・・・きっとこの地にいるからこそある力だと思っています。わたしはこの地にいる人が少しでも幸せであって欲しい。どんな犯罪を犯している人でも幸せになる権利はあると思います。それを許したくない人がいるのもわかります。でも・・・罪を償う時間は必要なのではないでしょうか?」
「サシャ・・・」
「償いの中にだって幸せがあっていいと思います。幸せがあるからこそ自分を見つめるきっかけになると思っているからです。確かに自分から逃げようとする人も一握りいるでしょう。でもわたしは信じたいのです。それに・・・冬に向かうこの地は病気にもなりやすい。わたしの力をここで役立てたいのです」
真っ直ぐに司祭様を見た。
「わたしはミリア様に恥じない生き方をしたい。あの方は愚かなわたしに詰りもしませんでした。ミリア様に誇れるように、わたしは、この地で一生を終える気でいます」
「サシャ・・・。よいのですか?」
「はいっ。みんなわたしを待ってくれています。わたしにとってこの生活が幸せなんです」
「そうか、これ以上はいいません」
司祭様は優しく笑ってくれた。
その日、司祭様とたくさん語った。
次の日、帰る前に司祭様は一枚の紙をわたしに差し出してくれた。
「一度、ご両親に手紙を出してあげなさい」
「えっ・・・」
「心配されてましたよ」
「でも・・・」
きっと、恨んでいる・・・。
「どんなものであれ、自分の子供を心配しないで親はいませんよ」
涙が伝う。
もう、一生関わることがないと諦めていた。
「サシャ。元気で」
「はい。司祭様もお身体に気をつけください」
司祭様の乗る馬車を見送ると、わたしは踵を返した。
今日も忙しい。今日もご飯炊きが待っている。メニューを思い出しながら手紙をポケットの中に突っ込み、ふんっと気合いをいれて、食堂へと向かった。
これが、後に「北の聖女」と言われるようになった・・・わたしの人生の始まりである。
ーおわりー
感想 0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
あなただけが私を信じてくれたから
樹里王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
【完結】奪われた令嬢と、偽りの夫
とっくり※このたび、第19回恋愛小説大賞の奨励賞をいただくことができました!!いつも読んでくださる皆さまのおかげです。心より感謝申し上げます。
元夫は従妹の夫に。奪われた令嬢、眠りの三年を取り返す。
伯爵令嬢アデルは、愛する夫ルイと結婚してわずか二週間後、
階段から転落して三年間の眠りについた。
目を覚ますと──
領地は度重なる不運で混乱し
爵位、財産は叔父に奪われ、
屋敷も令嬢としての立場も、すべてが消えていた。
そして何より信じられなかったのは、
夫だったはずのルイが、
アデルの従妹リゼットの“夫”になっていたこと。
冷たく距離を置くルイ。
優しく気遣うリゼット。
変わり果てた家族。
これは、奪われた令嬢が這い上がり、
偽りの夫と向き合い、
眠りの三年間に隠された謎へ挑む物語。
そして、
幸せだったはずの未来を壊した相手に──
必ずざまぁを返す。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかりティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。