黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~世界を見よう! 家族旅行編~

あなたの支えに

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 俺たちは帰って来た――俺たちの世界へ。
 そしてステラとエルスィにこっぴどく怒られた。
 ステラには夢幻島への侵入を、エルスィには長期間の行方不明を――。
 俺だけ正座で一人説教された。

「ま、全く……スペリオルが動くので何もしないでくださいと言ったというのに……ゆ、許すのは今回だけですよ?」
 うちの店の永久タダ券を広げて瞳を輝かせている今のステラに神龍の威厳はない。まぁそんなものクーニャにもほとんど無い気がするが…………。
「聞いているのですか如月様っ! 英雄を派遣しておきながらその英雄が家族まるごと消失なんて事になってこちらは大変だったんですよ! 社長直々にお叱りまでもらって……ほんとこの二ヶ月間僕は生きた心地がしなかったです!」
「ゆるひへあげへ」
 頼むならもっと真剣に頼んで!? やる気なさげなフィオはグミをもきゅもきゅしていてこっちには大した関心が無さそうだ。
「いくら超兵最強のフィオ・ソリチュードの言葉でも聞けません。そもそもなんですか! 帰れない事情があったって……女の子にかまけてただけじゃないですか! そんな事の為に僕は寿命を縮めてたんですよっ!」
 暗い瞳をしたエルスィに襟を掴まれ持ち上げられる。
 わぁ凄い……小柄でも男で混血者だから当然と言えば当然なんだけど、よほど秀麿の叱責が怖かったらしい。あのオカマなにしたんだろう?

「聞いているのですか!」
「はい……」
「そもそも! 再侵入の可能性があるなら一度――せめて一月で戻っていただければどんなによかったか……分かりますか!? 如月様消失に腹を立てたロフィア様にもお仕置きされた僕の気持ちが! あなたは自分とご家族がどれほど重要人物か理解してください! 事情を知っている人たちは大騒ぎだったんですよ! ドラウトなんて船団を組んで広範囲の捜索だって行っていました。そ、お、い、う、お、た、ち、ば! なんですよ! 分かってるんですか?」
「エルスィ……一つだけいいか?」
「なんですか? つまらない言い訳は聞きませんよ」
 黙ってスマホの動画をエルスィに見せた。
 ルナのまうまう集とルナがリルとのお絵かきにはしゃいでるシーンだ。
 これでダメなら甘んじて罰を受けよう。

「如月様……こ、こここ、こんなもので罪が軽減されると思っているのですか? ――こんな……こんなの、こんなの許すに決まってるじゃないですか!? なんですかこの可愛らしい生物は……あぁ、なんにでも一生懸命で――はぅ!? 必死に描いていたのは皆さんとの仲良し風景……しかもこの安心しきった天使の微笑み――尊い……仕方ありません。この子の為であれば僕も怒りを納めましょう」
「ちなみにこんなのもあるぞ」
 丸めた画用紙を渡しつつ次の動画の再生を開始した。

「えうしぃ、ごめね……かきかきした。あげゆ」
「はぅ!? こ、これ僕を描いてくれてるんですか? ……くぅ、可愛い! 如月様! なんでルナちゃんも連れ帰ってくれなかったんですか!」
 どこにキレてんだ……今やエルスィの怒りポイントはルナに会って直接礼を言えないことになっている。そして再開される説教――。

「ステラが調べたところだと繋がりやすい周期みたいなものがあるらしい、周期はハッキリしないけど俺たちは偶々運良く戻ってきたらしい。だから俺たちもすぐには会いにはいけないってさ」
 それに普通に旅行の予定期間使いきってオーバーしたせいでロフィアが機嫌悪いしクロの仕事も溜まってるらしい。
「でもそれってカーバンクルでどうにかならないんですか?」
「もう試したけど駄目だったよ。日本に行く時の状態で開けるだけで夢幻島と繋がる状態にはならなかった。造物主の力で隔離してるからもさ達でも難しいんだろうってさ。まぁ周期があるならその内行ける事は行けるんだろうけどな」
「その時は是非同行させてください、僕もお友達にしてもらいたいですから」
「よし分かった。では、ステラの説得はエルスィに任せる」
「え゛? えぇ!? とっとと失せろとばかりに睨まれてるんですけど」
 夢幻島に行くのもルナに関わるのも反対してたからな。

 旅行を終えて半月が過ぎた。
 店が再開した事で常連が押し掛けてきてリオは毎日忙しそうにしている。クロの方もロフィアに任せていた公務を片付けるのに必死だ。当然シロも同行していて家に居る時間は少ない。
 ミシャとリュン子も娘たちの為の鍛冶で工房に籠っている事が多く、気が散るからと工房は立ち入り禁止になっていて三日ほど顔を見ていない。
 ティナはティナでアドラと実家を行ったり来たりでこちらも会える時間が少ない。
 娘たちも昼間は日本人――というより秀麿が作った学校に行っている……そういえばもうそういう歳なんだよなと改めて過ぎ去ってしまった月日を実感した。

「家に居るのは暇人ばかりか……」
「失礼ね! 私とフィオはちゃんとお店を手伝ってるわよ!」
「私たちもアマゾネスをきっちりしごいて今日は休息日なだけ、仕事はしてるわ」
 フィオとシエルは娘たちが出掛けているのをいいことに俺の膝に乗って甘えん坊モードなので気にした風もないが家事をしていたアリスとリエルはおかんむりだ。
「暇人はワタルとクーニャ」
 グサッと来るから表情無しで見つめながら言うの止めて。
「ナハトは?」
「私はちゃんと働いている。店の手伝いや国で後進の指導をしている」
 なんかもうほんと俺ひもだな……最低だ。早く仕事したい……。
「如月様はまだぷーさんなのですか? 社長に仕事を貰えるように頼みましょうか?」
 ぷーさん言うな!
「いや、一応クロイツの騎士扱いで有事の際には召集されたり、あとは生還が公表されたから兵士の訓練に顔出して指導するようにって言われてるけど……模擬戦で瞬殺してからあまり来なくていいって言われた…………」
「なるほど……フィオ・ソリチュードの動きに付いていける如月様相手では混血者でも厳しいでしょうね、況してや普通の人間であればその差を見せつけられて自信喪失を招きそうです」

「そんなわけで結局今の仕事は家事手伝いだ。で、クーニャは畳でごろ寝か」
「うむ、儂は印税で収入を得ておる。特にすることはないのだ。つまり主……儂の部屋でご休憩していくか? ごろごろにゃんにゃんごろにゃんにゃんだぞ?」
 お前は猫じゃなくてドラゴンだろうが……その誘惑は大変魅力的だが、昼間っからなにやってんだとあとで落ち込みそうなので遠慮しておく。
 ナハトがトラウマになりそうな目でこっち見てるし。
「ちょっと綾さんの様子を見てくるよ」

 俺は細心の注意を払って目的の扉の前に立つ。
 扉の先から感じる熱気に若干尻込みをしてしまう。
 中からはか細くも熱の籠った声が聞こえてくる――息を呑み、勢いのままに扉を開けた。

 工房の中ではミシャとリュン子が真剣な表情で素材を加工している。
 綾さんはその横で工房に貯蔵されている刀剣類を観察している。これは日本でもやってたことだ。
 大量に武器を呼び出せるが同じ物は呼び出せないという特性上多くの種類を知る事が必要になる。
 能力を使った戦闘なんて綾さんはあれ以来してないがそれでもこれは習慣になってるようだった。
「あ、航君、やっぱりこっちの刀剣は素材もそうですけどミシャさん達の作る武器は出来が違いますね。ここにあるのは試し打ちの試作品が多いそうなんですけど、それでも一級品の物が沢山あるんですよ!」
 色んな物を見ているからか綾さんは刃に対する目利きが出来るようになったらしく良いものを見れた時にはテンションが上がりやすくなる。
「前に話した連携技とかいつか試したいですねぇ」
「俺は試す機会は来ない方がいいかな。せっかく帰ってきたしこのままみんなとのほほんと生きていきたい」
「そ……それは、そうですね」
 明らかに落ち込んでいく……そんなにやりたいか連携技……巨体だったり耐久力のある敵に対して綾さんが業物の物量で攻めて串刺し状態になった所に刃を避雷針代わりに敵の内部に直接黒雷を送り込んでやろうって事だが……大抵の敵にはレーヴァテインの刃で事足りるしなぁ。
 大量の避雷針を打ち込む必要のあるになんて出会いたくもない。

「おっ? おー、ワタル君、どうしたんだ? あたし達を労いにでも来てくれたのか? 嬉しいぞ」
 三日前は思い付きが上手くいかなかったらしく声を掛けたら気が散ると怒られたが今日は機嫌が良いようだ。
「そうじゃないけど、上手くいってるのか?」
「それは…………」
 今の態度が全てを物語っている。
 二人とも物凄い負のオーラを纏っているもの……。
「天明の剣のような感じで想い――魂の強さで盾の強度や刃の切れ味を上げる特殊加工を試しておるのじゃが……どうにも上手くいかないのじゃ」
 ミシャの尻尾が元気なく垂れ下がって、耳も伏せてしまっている。ここは元気付ける為にももふっとこう。
「ふ、にゃん!? うにゃんっ、ぁ、ぁぅ、旦那様ぁ」
 うむ、もさ達とはまた違う高級感溢れる毛並みで大変よろしい、毎日もふっても飽きない手触りだ。
「お、お二人のアダマンタイトの加工技術は一流なんですよね? お二人に出来ないのなら諦めて紋様師に頼んだらどうでしょう?」
「自分たちの子に持たせるものだぞ? 極力自分たちでやってあげたいのが親の心情だぞ。ほらほら、ここは職人の仕事場だぞ、気が散るから出たでた」
 自分たちでどうにかするのだと再び素材に向き合った二人に集中出来ないからと綾さん共々追い出されてしまいすることもなくなったので少し町を散策する事にした。

「こうやって航君と二人で歩くのも久しぶりですね」
 二人きりってのはたしかに久しぶりだな、日本では必要な時以外は出不精になってた俺を綾さんが連れ出してくれていた。
 あの時はめんどくさいって思ってたが今思い返してみると案外気晴らしになっていて救われていたのかもしれない。
「綾さんとのデートもだいぶしてなかったもんなぁ」
「で、デート……ですか……あの、航君っ、えぇと、あのですね。ティナ様が式場の準備をしてくれてるそうでですね……だからその――私も家族になっていいですかっ? って、なんで笑うんですか!?」
 戻ってきた時の家族会議で既に決定事項になってた気がするが、綾さんが今一度確認するなら俺もそうしよう。

「綾さんが望んでくれるなら、でも綾さんはそれでいいの? ここ異世界だし――」
「まだまだ知らないものが溢れてるなんて素敵ですよね」
「俺重婚してるし――」
「だから今更私が加わってしまっても問題はないですよねっ」
「子供十二人も居るし――」
「私は家族が居ませんし大家族って憧れだったんですよ?」
「えぇと……他には、そうだ、アスモデウスとかロフィアとかみたいな問題もあるし?」
「……」
 何故そこで黙って目を逸らす!?

「航君の心にはずっとリオさん達が居ましたから、私が一人占め出来るとも一番になれるとも思ってません。それでも一緒に居たい、私はこれからも航君を支えていきたい。普通の家族の形とは違う、実はそんな所も気に入ってたりするんです。今回の旅行でそれが分かったんです。だから――あなたさえ良ければ私も家族にしてください」 
 往来の真ん中で一際力強い声音で告げられる言葉――それは俺に届くと同時に見物を始めていた人達の歓声に変わった。
「おいどうすんだよ、如月さん! 女の子待たせちゃ駄目だぜ」
 冷やかす者、羨む者、妬む者、祝福する者、呆れる者――。
 かけられる言葉は様々だが皆一様に笑っている。 
 そんな人たちに急かされて俺は綾さんに応えるのだった。
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