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1.珍しいお客様
しおりを挟む「いらっしゃいませ~」
(……お客様がいらした時にいうこのセリフももう一年も経てば慣れたものですねぇ)
羽月はいつも通り、笑顔で購買を訪れる客を出迎える。
ただ、いつもと違ったのは訪れたその客。
ここはお金持ちの子息が多い学校なので、購買に来るのは大体奨学金をもらい通っている生徒だ。
なのに今日の客はその外部生でなく、生徒でもない教師だった。
この学校にいれば自然と耳に入ってくる程の有名人。
(この人確か、相沢 雪哉……)
となれば、当然購買の外に滅多に出ない羽月でも知っていた。
雪哉はこの学校の保健医で生徒会顧問も兼任している。
何故保健医が生徒会顧問を?と、思うであろうが、それは購買で働いているだけで学園のことには疎い羽月には知る由もない。
雪哉は羽月が勤め始めた時から1年間、1度も購買に訪れたことは無かった。
なのに何故今になってここに来たのだろうか?と、羽月は不思議に思ったが、雪哉の顔を見て思う。
羽月の目には雪哉が相当疲れているように見えた。
殆どはここにくる生徒の話で、羽月も数回だけ雪哉を見かけたことがあるくらいだが、雪哉はいつもシワのない白衣を羽織り、堂々としていた。
だが、今日購買に訪れた雪哉の着ている白衣はシワが目立ち、堂々と歩いてはいるがやはり疲れたように猫背になっていて、顔にはクマが出ている。
そんな雪哉の様子が羽月はどうしても気になり、雪哉がレジに来た時つい話しかけてしまったのだ。
「あのぅ……」
「……はい?」
話しかけられると思わなかったのか、雪哉はびっくりした顔をして羽月を見た。
雪哉に見つめ返された羽月は雪哉程の美形が至近距離にいることがあまりないせいか一瞬ビクッとして狼狽えながらも雪哉に話しかけた。
「相沢雪哉さん、ですよね?ここの保健医の」
「ええ、そうですが……」
いきなり話しかけた上に名前を呼ばれ、警戒した表情を見せた雪哉に羽月は慌てて弁解した。
「えとっ、名前を知っていたのはここにくる生徒達が噂していたからでっ、僕は決して怪しい者では……」
「、ははっ、別に、あなたが怪しい人だとかは思っていませんから安心してください」
「っ、そ、そうですか……それは良かったです」
羽月は雪哉が笑った顔に見とれてしまい、少し赤くなった顔を誤魔化すように吃りながらも笑って答えた。
そして、笑いがおさまった雪哉が羽月を見て問いかけた。
「それで、俺になにか用があって話しかけたんじゃないんですか?」
「あっ、えっと……」
羽月は雪哉に話しかけた理由をすっかり忘れかけていて、雪哉に聞かれてから思い出した。
「あの、初対面なのにと思われるかもしれませんけど、あなたがとても疲れた顔をしているように見えたので……」
「……そんなにわかります?」
雪哉が目を見開いて聞いてきたので、羽月は結構はっきりわかりますよ?と答えた。
「参ったな……同僚にはバレていなかったのに」
「そうなんですか?」
「ああ、はい。そんなこと指摘したのはあなただけだし……」
雪哉の呟きを聞いた羽月は気づかない方がびっくりだ、とばかりに目を見開く。
羽月は昔から人の表情や感情の変化に聡い方だった。羽月の場合は普通の人よりも聡すぎるくらいだ。
だからこそ、羽月だけが雪哉の今の状態に気づけたのだ。
「なにか、あったんですか?」
「ああ……いや、話すほどのことではないが」
「いえ、どんなに些細なことでも、聞かせて貰えませんか?そんな状態のあなたを放っておけませんから……」
(なんでだろう?今この人を帰らせちゃダメだって、そんな気がする……)
羽月は不思議な思いを内に、雪哉を一生懸命見つめていた。
しばらくすると羽月に根負けしたのか雪哉が苦笑しながら言った。
「……ありがとう。じゃあ、少しだけ甘えさせてもらおうかな。話、聞いてくれるか?」
「っ、はいっ」
こんなことは迷惑だとわかっているはずなのに、自分が雪哉の役に立てるかも知れないと思った羽月はぱあっと表情を輝かせて元気よく返事をした後、雪哉を購買の裏の応接室のような場所に案内した。
羽月の輝くような笑顔が直撃した雪哉が少し顔を赤く染めていたことを羽月本人は知らなかった。
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