悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

文字の大きさ
39 / 66

密言 5 ー王と影 3ー

しおりを挟む
 閨事ねやごとの後、弟は清められて寝台ベッドに寝かせられた。

 気を失しなったまま、くたりと横たわる弟の視界を奪っていたきれは、すでに外されて、あどけない表情かおを見せて眠っていた。



 §



「ーー何だ、日陰シェイ?」

 兄は日陰シェイドの、何かを思うよう眼差まなざしに気づいて、問い掛けた。

「いえ、お可愛らしい、と」
 日陰シェイドが、ふっといつくしみを笑みに乗せ、兄に応えた。

「・・・それは、俺の可愛げの無さを当てあてこすっているのか?」

「まさか、そのような」

 憮然ぶぜんとして、兄は問い、兄の穿うがったもの言いに、日陰シェイドは苦笑する。

「リシェが可愛いのは、言うまでもない。ーーだから、日陰シェイが何を言いたいのか、俺には分からない」

 兄はいぶかしげに、日陰シェイドに重ねて問い掛けた。

「リシェ様が、先ほどーー……肛門アヌス最奥おくいて欲しい、と……」
   
日陰シェーーイ……!」  

最中さなか、耳に届いておられたか? あるじ
 リシェ様は、“ぎゅ、ってして……!” と、言っていらした。ーーあるじ最奥おくを責められるのは……リシェ様にとっては、あるじ抱擁ほうようと同じ」

 兄は、虚をつかれたように口をつぐみ、それから、おもむろに口を開いた。

「……ねやでのねだりごとに、意味など」

「いいえ」

 日陰シェイドは、あるじの言をさえぎり、伝える。

「例えどのように抱かれても。いましめられて責められても。リシェ様にはあるじの慈しみで満たされた抱擁ほうようーーだから、満ち足りた寝顔かおをされている」

 二人は、すうすうと眠る弟に見入った。

「ーーだから……激しく責めさいなむのをよせとは申しません。リシェ様も、それはそれでお好きなようですしね。ただ、ほどほどになさいませ。それに……」

「それに?」
 ため息交じりに、兄が問う。

「最後は優しく抱いて差し上げるとよろしいでしょう。リシェ様がお好きなのは、後ろからですよ」

「ーー考慮する。だが、後ろでは表情かおがよく分からない」       

 日陰シェイド可笑おかしそうに笑う。ーーすすめは本気であるが、いくらかは本気であるじ揶揄からかっているのだろうーー彼にはそれが許されている。

「日陰の換言かんげんを心に止めてくださるあるじに、日陰からのすすめです。閨事ねやごとの夜は、できればこちらでお休みください。彼方あちらへお戻りになる必要があるならば、お起こしいたします。ーー目覚めた時にあるじられなくとも、となりで眠ったあとがお分かりになるのでしょう。……あるじがお泊まりになられた朝は、リシェ様が嬉しそうな表情かおをなさっています」

 ーーそうか、善処しよう……と、兄が応ずる前に、日陰シェイドが言ったひと言で、兄の機嫌がいささか下降する。

「ーー日陰は、その表情おかおが好きですよ」

日陰おまえ、もうしばらくリシェとは口をくなよ」

 日陰シェイドがわざと言って誘導したみちびいたそれは、心を許す者が他にいないあるじに、日陰シェイドへの甘えを許すためのものであり、また兄弟二人の世界をつくるためでもあった。

「ーー承知。ならば、日陰はあるじ悋気りんきが治まるのをお待ちしていましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...