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ー生き直す、と云うことー
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遅くなりました。
2025年もよろしくお願いいたします。
ハルキを脱出する話を書きかけましたが、それ挟んで今話に戻るのは、幾らなんでも行きつ戻りつし過ぎか……と。
ー逆行ー より、明くる朝になります。
━━━* †……━━━* †……━━━* †……
「ん……」
覚醒した後、弟の胸がトクンと波打つ。見慣れぬ天井には、未だ慣れなかった。
弟は、身体を起こそうとしたが、腰に鈍く走る痛みに、早々に諦めた。
「リシェール様」
失くした名で呼ばれ、弟はふぃっと顔を背ける。何が自分を揺さぶるのか分からない。ーーただ悔しさに似た何かに唇を噛み締めた。
「……その名は、もう僕の名じゃない」
硬い声音で返す言葉は、 日陰には予想されていたことだろう。
「初めて貴方のことをアレク様とお話した時も、日陰はリシェール様と呼んだのです。影は王宮の理に囚われない存在。ただアレク様に請われたのです。貴方をリシェと呼ぶことを」
「……だから?」
「日陰は、貴方を“リシェール様”とお呼びしたかった」
日陰は薄く微笑み、話を続けた。
「ハルキの理は、もうイリーリアには及びません。王は、イリーリア読みの“リシャール”を貴方に授けられましたが、それはお兄さま以外の者に貴方を“リシェール”と呼ばせないため。“レオーシャ”の名がお兄さまに授けられたのも同様」
イリーリアの王、兄弟の母方の祖父は、兄弟が“対”であることを許し、それを周知した。
「ハルキから逃れて、別の名を受けた。なのに今更、ハルキの名を……呼ぶ?」
だが、そう言って弟は、苦く笑った。
日陰は、褥に座り込み、膝に弟を抱き上げる。ーー弟はされるまま、それに逆らわなかった。
「ハルキから逃れ、新しい生を受けたのです。生き直さなけばなりませんーー私達は」
日陰は、弟を抱き締め、そして静かに告げた。
「お兄さまと共に罪を背負うと定められたでしょう? 苦しむことが贖いです。そして、新しい生を幸せと感じるなら……そこから逃げてもいけない。本当は……分かっていますね?」
コク、と頷いた弟に、日陰はその瞳に滲む涙を吸い、そして唇に口づけた。
「でも……幸せで……っ! 忘れ……そうに、なる…………!」
弟は、 日陰に縋り付いて泣いた。
「生き直す、と云うことは大変なことですね……」
日陰は、弟の背をとん、とん、と優しく叩きながら、ふうっと息を吐く。
「貴方は忘れません。だから、必要以上に心を追い詰めてはいけない。……そして、少しずつ生き直して行きましょう……私達はイリーリア生きて行くのですから」
日陰はもう一度、そっと弟の唇に口づけた。
「兄さまが居なくても、僕に口づけするんだね……兄さまの情人、に、互いに認めた情人になった、から?」
日陰はその弟の問いに、ふーーと、長く嘆息した。
「……それは、未だ」
「えっ?!」
「…………ただ、そろそろ本当に仕置かれそうなので。もう、自棄と申しましょうか……」
驚いて声を上げた弟は、我に返るとくすくすと笑い出した。
「そう……そう、なの。なら、僕、邪魔、しないから、その時は日陰のところを貸してね」
日頃、褥を共にしているが、 日陰は従者として、隣り合わせの控えの間を与えられていた。
日陰は、もう一度深く嘆息して、それでも頷く。
「日陰……兄さまは?」
今更のように弟は聞いた。
「既に政務に赴かれました」
分かっていた通りの応えを聞き、弟は自嘲するように呟く。
「……生き直すのは、大変、って……日陰も、兄さま、も……一番兄さまが、大変、なのに……僕はいつだって、自分のことだけで……」
とん、とん、と 日陰は弟の背をあやしながら伝える。
「それでも、リシェール様が、アレク様を支えています。……そして、日陰もです。お二人の存在が、そのまま日陰の存在意義となる」
ポタ……弟の涙が頬を伝って落ちる。
「僕、も……?」
「貴方も」
弟は、泣き笑いの顔で 日陰を見、そして言った。
「そう……。ーーなら、リシェって呼んで。いつもじゃなくて、いいから」
「……はい。リシェ?」
弟は、日陰の声に頷いて顔を上げて眼を閉じ、そして二人の唇が重なった。
━━━* †……━━━* †……━━━* †……
兄の居ないところでは、シない筈では……( ̄  ̄;
それでも、口づけ止まりです。二人とも、兄が好き過ぎる。
お気づきの方は多いでしょうが、弟を許していないのは弟だけです。
情人でなく、愛人に変えようかなぁ……今だ、迷い中。いつの間にかかわっていたら、ごめんなさい。
2025年もよろしくお願いいたします。
ハルキを脱出する話を書きかけましたが、それ挟んで今話に戻るのは、幾らなんでも行きつ戻りつし過ぎか……と。
ー逆行ー より、明くる朝になります。
━━━* †……━━━* †……━━━* †……
「ん……」
覚醒した後、弟の胸がトクンと波打つ。見慣れぬ天井には、未だ慣れなかった。
弟は、身体を起こそうとしたが、腰に鈍く走る痛みに、早々に諦めた。
「リシェール様」
失くした名で呼ばれ、弟はふぃっと顔を背ける。何が自分を揺さぶるのか分からない。ーーただ悔しさに似た何かに唇を噛み締めた。
「……その名は、もう僕の名じゃない」
硬い声音で返す言葉は、 日陰には予想されていたことだろう。
「初めて貴方のことをアレク様とお話した時も、日陰はリシェール様と呼んだのです。影は王宮の理に囚われない存在。ただアレク様に請われたのです。貴方をリシェと呼ぶことを」
「……だから?」
「日陰は、貴方を“リシェール様”とお呼びしたかった」
日陰は薄く微笑み、話を続けた。
「ハルキの理は、もうイリーリアには及びません。王は、イリーリア読みの“リシャール”を貴方に授けられましたが、それはお兄さま以外の者に貴方を“リシェール”と呼ばせないため。“レオーシャ”の名がお兄さまに授けられたのも同様」
イリーリアの王、兄弟の母方の祖父は、兄弟が“対”であることを許し、それを周知した。
「ハルキから逃れて、別の名を受けた。なのに今更、ハルキの名を……呼ぶ?」
だが、そう言って弟は、苦く笑った。
日陰は、褥に座り込み、膝に弟を抱き上げる。ーー弟はされるまま、それに逆らわなかった。
「ハルキから逃れ、新しい生を受けたのです。生き直さなけばなりませんーー私達は」
日陰は、弟を抱き締め、そして静かに告げた。
「お兄さまと共に罪を背負うと定められたでしょう? 苦しむことが贖いです。そして、新しい生を幸せと感じるなら……そこから逃げてもいけない。本当は……分かっていますね?」
コク、と頷いた弟に、日陰はその瞳に滲む涙を吸い、そして唇に口づけた。
「でも……幸せで……っ! 忘れ……そうに、なる…………!」
弟は、 日陰に縋り付いて泣いた。
「生き直す、と云うことは大変なことですね……」
日陰は、弟の背をとん、とん、と優しく叩きながら、ふうっと息を吐く。
「貴方は忘れません。だから、必要以上に心を追い詰めてはいけない。……そして、少しずつ生き直して行きましょう……私達はイリーリア生きて行くのですから」
日陰はもう一度、そっと弟の唇に口づけた。
「兄さまが居なくても、僕に口づけするんだね……兄さまの情人、に、互いに認めた情人になった、から?」
日陰はその弟の問いに、ふーーと、長く嘆息した。
「……それは、未だ」
「えっ?!」
「…………ただ、そろそろ本当に仕置かれそうなので。もう、自棄と申しましょうか……」
驚いて声を上げた弟は、我に返るとくすくすと笑い出した。
「そう……そう、なの。なら、僕、邪魔、しないから、その時は日陰のところを貸してね」
日頃、褥を共にしているが、 日陰は従者として、隣り合わせの控えの間を与えられていた。
日陰は、もう一度深く嘆息して、それでも頷く。
「日陰……兄さまは?」
今更のように弟は聞いた。
「既に政務に赴かれました」
分かっていた通りの応えを聞き、弟は自嘲するように呟く。
「……生き直すのは、大変、って……日陰も、兄さま、も……一番兄さまが、大変、なのに……僕はいつだって、自分のことだけで……」
とん、とん、と 日陰は弟の背をあやしながら伝える。
「それでも、リシェール様が、アレク様を支えています。……そして、日陰もです。お二人の存在が、そのまま日陰の存在意義となる」
ポタ……弟の涙が頬を伝って落ちる。
「僕、も……?」
「貴方も」
弟は、泣き笑いの顔で 日陰を見、そして言った。
「そう……。ーーなら、リシェって呼んで。いつもじゃなくて、いいから」
「……はい。リシェ?」
弟は、日陰の声に頷いて顔を上げて眼を閉じ、そして二人の唇が重なった。
━━━* †……━━━* †……━━━* †……
兄の居ないところでは、シない筈では……( ̄  ̄;
それでも、口づけ止まりです。二人とも、兄が好き過ぎる。
お気づきの方は多いでしょうが、弟を許していないのは弟だけです。
情人でなく、愛人に変えようかなぁ……今だ、迷い中。いつの間にかかわっていたら、ごめんなさい。
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