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【着ぐるみを着たパンダ】
しおりを挟むリンリンは、優吾の顔を下から覗き込みながらしばらく黙り込む。
その間にも優吾の回りには、パンダを見に来た観光客たちが絶えず人だかりをつくり、賑(にぎわ)っている。
この間、優吾は考えていた。
パンダになら何でも打ち明けることができる自分のことを。
やはり、自分は何か変なんだろうか?
不意に、リンリンの声がした。
「ユウゴは、正真正銘の人間さ。パンダの僕が言うんだから間違いないよ」
優吾は苦笑いしながら、頷いた。
「また遊びにおいでよ」
リンリンが丸い目を優吾に向ける。
「そうだね。また来るよ」
優吾はそう言うと、背を向け、人込みをかき分けて行った。
パンダ舎から出ると、動物病院の方に足を向けた。
歩いているうちに、白くてドーム形の大きなテントが見えてきた。
いつの間にできたのだろう。サーカスでもやっているのだろうか。
大きな円形の入口の前には、人だかりがしている。
何気なく近づいていくと、子供たちが着ぐるみのパンダを取り囲んでいた。
20人は居るだろうか。
まだ小学校にも上がってないような幼児たちだった。
男の子はパンダの回りをちょこまかと跳びはね、女の子は手をつないでいる。
「ピエロじゃなく、着ぐるみパンダか……」
優吾は苦笑して、また歩きだした。
それにしても、この子たちの親はいったいどこに居るんだろう?
辺りをキョロキョロ見回しながら、子供たちのそばを通り過ぎようとしたその時、
どこからともなく声が聞こえてきた。
優吾は、目を見張り、立ち止まる。
確かに聞いたことがある声だった。
今しがた話したリンリンの声のようだった。
と同時に、幸福村を訪れた時のジャイアントパンダ、或いは枯れた桜に花を咲かせたパンダの声のようにも聞こえた。
しかし、次の瞬間、 ハッキリと耳もとで声がしたのが分かった。
「パラレルワールドへようこそ!」
着ぐるみのパンダの声だった。
優吾は振り向きざまに、着ぐるみのパンダを見た。
〈完結〉
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