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エピソード35 【ただ事ではない?】
しおりを挟む★「おしゃれ」「お母さん」→マンモス白珊瑚の森に住む。おしゃれ金平糖ウミウシ。
★「いちご」→船形石珊瑚に住む「おしゃれ」の心友。いちごジャムウミウシ。
★「兄」→マンモス白珊瑚の森に住む14匹の魚たちの長男。青くて大きめの魚。過度の心配性の特徴あり。
★「妹」→マンモス白珊瑚の森に住む14匹の魚たちの末っ子。オレンジ色の小さな魚。しっかり者の性分。
******
「うわぁッ。ウツボだ。サメだ。気をつけろ。うわぁ。アタマが無くなっちゃったかも。どうしよう! 」
船は何かにぶつかったような衝撃と共に、明かりを失い、
《星の船》は、ただの亀の姿に戻ってしまったらしかった。
闇は、あらゆる妄想の宝庫である。
「兄」はいま、闇の中の宝物を、ていねいに一つ一つ開けていこうとしている。
動揺する「兄」のわめき声と、「兄」を必死にさとす「いちご」の声は、
深い眠りから「おしゃれ」を目覚めさすには十分だった。
それに「おしゃれ」も、身内にせまる危機を本能的に感じ取ったのだろう。
ふと、三匹は、遠くで微かに聴こえる水の音を聞いた。
水の音は、どんどん大きくなってくる。
「何の音かしら? ほら、大きくなってくる」
注意を促すように、「おしゃれ」が「兄」と「いちご」のそばに近寄って行った。
水が盛んに動いている音。
激流の音。
荒ぶる水の力の摩擦音。
嵐のような大きなうねり。
ただ事ではない。
同時に、三匹は声を掛け合い、ホシガメの背の上で寄り集まって、身構えた。
嵐のような時が、過ぎ去った。
それは一瞬の出来事だった。
その後には、かつてのような水の静けさが残された。
海が、水の力が、これだけその力を誇示したことがあったろうか。
その力は、一気に海面に解き放たれて行った。
急速に上昇していく水の中で、ホシガメは何度ももがくように、回転した。
やがて、ざわついた海面が持ち上がり、クジラの胴体ほどもある水の柱が、空に上がった。
柱は雲へと突き刺さるような勢いで、ぐんと伸びた。
雲に届きそうなくらい伸びたところで、柱は突然と消えた。
消えたと言っても、消えているのは柱の先端だけである。
足をばたつかせながら回転し続けるホシガメの背の上で、3匹は、空に吸い込まれていくような感覚を味わった。
それは初めての体験だった。
〈続く〉
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