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エピソード39 【桜貝の2つの箱】
しおりを挟む★「おしゃれ」「お母さん」→マンモス白珊瑚の森に住む。おしゃれ金平糖ウミウシ。
★「いちご」→船形石珊瑚に住む「おしゃれ」の心友。いちごジャムウミウシ。
★「兄」→マンモス白珊瑚の森に住む14匹の魚たちの長男。青くて大きめの魚。過度の心配性の特徴あり。
★「妹」→マンモス白珊瑚の森に住む14匹の魚たちの末っ子。オレンジ色の小さな魚。しっかり者の性分。
******
どこからこんなご馳走を運んでくるのだろうか。
大好きな子エビや子ガニ、白魚が、所狭しと前に出されて、「妹」は唾を飲んだ。
気がついたら、手当たり次第に口をつけて、止まらない。
どうしてしまったのだろう。
お腹がふくれるごとに、身に到来する安心感に浸ることができる。
食べ尽くした時、少し前まで感じていた不安は、いつの間にか消え失せていた。
その代わりに不思議な安らぎが「妹」をゆったりと包んでいる。
すっかり身を任せてしまえば、今にも眠ってしまいそうだった。
眠ってしまいそうだから気をつけよう、と思っていたけど、ダメだった。
眠ってしまった。
起きた時、真っ暗だった。
ただ「妹」の寝ていたヒラメの全長ぐらいある海底のヒカリ藻だけのが、
暗い海中に明るく浮かび上がっていた。
前に二つ、箱が置いてあった。
桜貝でできた、淡いピンク色の小さな箱だ。
ふと、「妹」の頭をよぎったのは、「浦島太郎伝説」だった。
まさかとは思うが。
偶然にしても、何という似たような場面に遭遇したことだろうか。
「どちらかの箱をお取り下さい」
光ににじんだ、あの声が、聞こえてきた。
背筋に寒気が走る。
「妹」はいま、自分が浦島太郎と同じ境遇にあることを認めざるえなかった。
どちらか選ばなければならない。
そんな海の世界の暗黙のルールが「妹」にのしかかってくる。
昔、「お母さん」からあのお話を聞いた時、
自分もいつか、きっと浦島太郎とそっくりの困ったことに出会う時がくるだろう、
と、頭の片隅で漠然と感じていたことは今でも覚えている。
来るべき時が来た、という感じだった。
迷いに迷ったあげくに、「妹」が一つの箱を選ぼうとした時、
「そっちじゃない。別のほうをえらべ」
という声が、近くで聞こえた気がした。
錯覚だろうか。
試しに声が指示する方の箱と反対の方に、口をかけてみる。
〈続く〉
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