黒い天使、白い悪魔

B.H アキ

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黒い天使、白い悪魔

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天上界の腐敗に心を蝕まれた天使・樺我乃は、ついに自らの翼を焼き落とした。
焼け焦げた羽が光の中を舞い、彼女は静かに地上へと堕ちた。
人の姿を得て、名もない町でひっそりと生きることを選んだ――
それが贖罪なのか、逃避なのか、自分でもわからぬままに。

ある日、友人の見舞いで訪れた病院の廊下で、樺我乃はふと足を止めた。
薬品と消毒液の匂いの中に、かすかに混じる異臭。
それは、天界で幾度となく嗅いだ“悪意”――堕ちた魂の腐臭だった。

声のする方へ目をやると、白衣の医師が患者の耳元で囁いていた。
「もう、頑張らなくていい。……楽になりましょう。」
その声はやわらかく、まるで祈りのように優しい。
だが、言葉の奥底には、死を誘う甘い毒が潜んでいた。

樺我乃はその腕を掴んだ。
「人の命を奪って、何を救うつもりだ。」
医師はゆっくりと顔を上げ、微笑んだ。
その瞳には、底のない闇が映っていた。

――悪魔だった。

刹那、世界が音を失う。
光と闇がねじれ合い、現実が裂ける。
二人の姿は、時間の流れを持たぬ異界へと引きずり込まれた。
そこは、天と地の狭間――永遠に曇った光が漂う空間。

無数の羽が舞い、黒と白の閃光が交錯する。
樺我乃の拳が悪魔の胸を貫くたび、白衣は黒く滲み、
悪魔の言葉が樺我乃の心に影を落とした。

「お前も天を嫌った。
 愛を謳いながら、腐敗に目を背けた者たちを憎んでいるだろう。」

その言葉に、樺我乃は歯を食いしばる。
確かに、天上界は純粋ではなくなっていた。
だが、それでも――。

「光を汚したのは闇ではない。
 闇を恐れ、見ぬふりをした光自身だ。」

最後の一撃。
黒と白の光が弾け、悪魔の姿は虚空へと消えた。
静寂の中で、樺我乃は膝をつき、肩で息をする。

背後から、穏やかな声が響いた。
「よくやったな、樺我乃。」

振り向くと、病院のベッドにいた患者が立っていた。
彼の体は黄金の光を帯び、頭上に輪が浮かぶ。

――熾天使セラフィム。

「やはり、そなたは天上界に必要な者だ。
 戻って、私の片翼となれ。」

樺我乃は静かに頷いた。
闇を知った今、ようやく光の意味を理解できた気がした。

天界へ還る光の中、セラフィムが微笑む。
「闇を知った光を持つ者こそ、真の天使だ。」

再び、樺我乃の背から白い翼が広がった。
その羽の先は、黒く染まりながらも、美しく輝いていた。

――黒い天使、白い悪魔。
光と闇、そのどちらも抱いて、
樺我乃は新たな空へと飛び立った。
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