悪魔のいる天国

B.H アキ

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悪魔のいる天国

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ある晴れた日、青年は自慢の車をとばして喫茶havenに向かっていた。
ここのマスターは悩み事の相談にのってくれる事で有名で、いつも店内はマスター目当てのお客で賑わっていた。彼も今日はマスターに失恋で傷ついた心を癒してもらうために向かっていた。
havenに着いた彼は両足を揃えてポンと自動ドア前のマットに乗った。
スーッとドアが開くといつものあの優しいマスターの笑顔が目に飛び込んで来た。
ウン?
でも何かがおかしい、彼は直ぐさま異変に気付いた。
時間が止まっていたのだ。
カタッとカウンターの隅で物音がした。
目を向けると、そこには黒いスーツに身を包み、肩まで長髪の男がこちらを見ていた。
男も驚いた様子で
「どうして人間がこの空間に入り込んだんだ?」
と呟きながら立ち上がった。
「私の操作ミスかマシンの故障か」
男はマシンと思われる黒いスーツケースを持ってカウンターの椅子に座り、スーツケースを開きながら言った。
「まあいい。君もこの状態に驚いているようだから説明してあげよう」
彼は男の手招きに従って男の横に座るなり聞いたみた。
「あなたは何者ですか?」
男は彼の目を見ながら答えた。
「悪魔さ」
困惑している彼に男は話し出した。
「人間世界の言葉でいう悪魔だね。いいかい、君がいるこの空間は人間世界の数億分の1秒の世界なんだ」
男はスーツケースの中の配線をチェックしながら話し続けた。
「私はこの時間の中で人間の耳元で囁いてやるんだ。そいつに都合のいいようにね」
男はアゴでマスターをさしながら
「この男は店を繁盛させるためには何でもすると誓った。それで契約成立さ。自分に都合がいい事ばかり話しているとどうなる。最終的には混乱さ。人間社会が混乱で溢れるどうなる……」
男は 彼の耳元で囁いた
ヒ・ト・ガ・シ・ヌ
「はっ、はっ」と男は乾いた声で笑った。
「違う!本当に人の事を思って考えている人間もいるはずだ!」
彼は男の冷めた態度に思わず声を荒らげて叫んでしまった。
「おやおや。今の言葉は君の本心かい?それとも私の同業者が君に言わせた言葉かい?」
男は切れ長の口をニヤリとつり上げた。
彼は困惑し絶句してしまった。
「まあいい。故障も直ったし、そろそろ仕事に戻るよ」
男がマシンのスイッチを入れると微かな金属音しだした。
「悪いが時間の流れが戻ったら、ここでの事はすべて忘れてもらうよ」
男が再び彼の耳元でそう囁くと彼の意識は次第に遠のいていった。

「わっはっは!」
大きな笑い声で彼は意識を取り戻した。
目の前のカウンター越しでマスターが皿を拭きながら笑っていた。
「おやっ、いつ来たんだい?」
口髭を生やした人懐っこい顔を彼に向けながらマスターが言った。
「その顔はまた、ふられたな。だいたい恋愛というものはだな……」

彼はマスターのいつもの優しい言葉を聞きながら思った。
「ああ、ここはまさにhaven、天国だ。ここにいると心が落ち着いてゆく……」
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