君よ

てつや

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君よ

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 春になったというのに、風はまだ冷たかった。
 薬草畑に囲まれた撫子寺の空気は百花の匂いに浮き立ち、濡れ縁から吹き込む風には、命の息吹が色濃い。ちょうど杏の花が見頃の時期を迎えており、春の女神の吐息が丸まったかのような薄紅色の花に、庭先は明るく見えるほどであった。
 美しい君の、そのものを表すような庭だと思った。


 撫子寺には、負傷兵がよく来る。ここの寺の娘、私は美人で傷を手当てするのが上手いと言われているから。彼もそうだ。幾年も続いている隣国との戦争で腕を切り落とされ、ここにおくられた。
 私、冬木(ふゆき)は目の前の男をちらっと見る。顔が火傷や傷だらけで、その中で金色の瞳がぎらぎらと光っており、屈強な体つきはこれまで幾人も殺してきたことを物語っていた。
(しかし、……)
 この男もこの傷が塞がれば、また戦場に行くのだろう。最近、兵士が足りないのかここにおくられてきた男たちも傷が塞がればまた戦場に行くことになっていた。そんなに大変なら、戦などやめてしまえばいいのにと冬木は思うが、それを男たちに言っても皆そろって、
『女にはわからない。女は黙ってろ。』
と言うものだから、どうしようもない。
「冬木殿。どうかいたしましたか。」
 男に問われて、はっと我に返る。手当の手が、止まっていたのだ。
「申し訳、ありません。物思いにふけっておりました。」
 男は責めるでもなく私を見つめ、また質問をしてきた。
「何を、考えていたのですか。」
 男の瞳を見つめ返し嘘が通用しないと悟り、正直に白状した。
「人が怪我をするくらいなら、戦争などしなければいいのにと、思っておりました。」
 男は目を細めて、しばらく考えこんでから口を開いた。
「それは…確かに。」
 今までこれを話した男たちとは明らかに異なる言葉に、冬木は目を見開いた。そんな冬木を気にも止めずに男は続ける。
「ですが、俺達は人なのですからこの戦が終わって、皆死んでしまっても行き着く先は同じでしょう。」
 女である冬木の疑問に大真面目に答える彼は他の男とは明らかに違う。少し、躊躇ってから質問する。
「あの、貴方、お名前は。」
「…雪馬(ゆきま)と申します。」
 突然の質問に少し驚いたような彼は、戸惑いながらもはっきり、そう答えた。

 雪馬の傷はなかなか癒えず、気づけば夏だった。
 鮮やかな、深く澄みきった青の朝顔が、朝霧をひとつぶのせて、陽光のなかできらきらと咲き誇っていた。この数ヵ月の間に、まるきり、世界が変わってしまったようだった。
 この数ヵ月で何人もの兵士がここにおくられて、何人もの兵士がここからまた戦場へと旅立った。
「みんな、死にに行くのね。」
「それは違いますよ。」
 いつの間にか雪馬が隣にいた。
 雪馬は冬木を見下ろし、穏やかに言った。
「貴女と同じです。皆、誰かが行かなくてはならなくて、必要だから、いくのです。」
「死ぬかもしれないのにですか。」
「承知の上です。」
「それでは、私が傷を治した意味がないわ。」
 悲鳴のような声が出た。その声に雪馬は驚いたようだったが、また静かに答える。
「貴女が俺たちを助けようとしてくれたように、俺たちだって、お国を護りたいと思っているのですよ。」
 それがいけないことですか、と問われ、自分でも盛大に顔が歪んだのがわかる。
「戦いに勝つ努力をする前に、戦いを避ける努力をしないとならないのでは。」
 通りすがりの兵士が口をはさんだ。
「お嬢。あいつらが攻撃してくる以上、受けて立たぬわけにはいかんだろう。」
「でも、優先順位が違うのではなくて。」
「あんな連中と話し合えと?」
「一度傷つけられたことを憎んで、これからもっともっと犠牲者を増やすというの?私にはわからないわ。もう、誰一人傷ついてほしくないの。そう思う私は、間違っている?」
 縁側で話していたせいか、いつの間にか冬木たちのまわりには大勢の兵士たちがいた。雪馬と話していたのに、気づけば、雪馬が何処にいるかもわからない。雪馬がいないことにますます焦って、その場にいる男たちを見回した。
「話し合いで、なんとかなりませんの……」
 大切に大切に育てられてきた、お嬢様の論理だ。
 きっと、間違いではない。だがそれは、この国ではあまりにも的外れな見解だった。
 兵士たちがそろって宥めるような口調になる。
「だがお嬢。それを言っていいのは、戦場に立つ覚悟のある者だけだ。お嬢は、武人じゃねえだろ。俺たちに守られてる立場で何を言っても、戯言にしかならないよ。」
 その言葉をきいて、むっとした。
「だったら、一度、私に行かせてちょうだい。」
「お嬢……」
「確かに私は戦端が開かれたら無力よ。でも、戦端が開かれる前、戦いを避けるための戦いならば、出来るのではないかしら。」
 売り言葉に、買い言葉だった。
 そもそも、戦いたくないという感情だけで発言している冬木に、理詰めの説得はかえって逆効果だった。
 どうしたらいいものか、と皆が言いあぐねていたときだった。
「お止めなさい。冬木。」
「……父様。」
 冬木の後ろから、住職が現れた。
 おそらくは、仮眠している者のために、静かにやってきたのだろう。
 どこから聞いてたのか、住職は困ったものを見るような目付きで冬木に相対した。
「お前が戦争に行っても、死ぬだけだ。本気で自分にそれが出来ると思っているなら、私はあなたの評価を変えなければならない。」
 無駄死にされるとわかっていて、行かせるわけにはいかない、冷静になれ、と。
 しかし、冬木は食い下がった。
「確かに冷静ではなかったわ。でも、命をかける覚悟があるのは本当です。戦いを回避するためなら、私、何でもするわ。なにか、出来ることはないの?」
 それまで黙っていた雪馬が、聞こえよがしに溜め息をついた。
「ちょっと待ってくれ、姫さん。」
 姫さん、と、これまでされたことのない、生まれを揶揄するような呼び方に、冬木は目を丸くする。
「俺達のやっていることに安全な場所から難癖をつけられては、堪ったもんじゃない。あんたは、そんなくだらないことする前に、命をかけて戦う者にありがとうと言うべきだ。」
 冬木の顔が真っ赤になる。
「待って。難癖など、私、決してそんなつもりでは」
 しどろもどろになる冬木を、雪馬は剣呑に凄む。
「いいから。女は、すっこんでろと言っているんだ。」
 かつてなく冷やかに言われ、冬木は、今度は一転して真っ青になった。
 ぱくぱくと口を開くも、声になっていない。
 そのまま、無理やり一礼して早足で去っていく冬木を、呼び止める者は誰もいなかった。
「すまないな。」
 住職が言葉少なに言えば、「いいのです」と雪馬は軽く手を振った。

「よかったのか。」
 兵士の一人が言うと、彼は苦笑した。
「……ああでも言わなければ、彼女を止めることは出来ない。」
「だが、あんたは」
 そこまで言った兵士は、雪馬の顔を見て、口をつぐんだ。
 仕方ないのだ。こればっかりは。
「嫌われても、疎まれても、せめて、あの人が少しでも幸せになって欲しいと願うことだけは、許されると思ったんだ。」
 ああ、でも、やっぱり悔しいなあ。
 そういう雪馬はどこか遠いほうを見ていた。



 その日に傷が塞がった雪馬は、次の日戦場におくられた。

 そして一月後、全身焼け爛れ、意識のない雪馬が、撫子寺におくられてきた。


 薬師たちの監督のもと、雪馬の看病は、冬木が手伝っていた。
 最初、雪馬についた下女が泣いて「自分にはできない」と言ってきたとき、冬木は頭に来た。
「この意気地無し!いいわ、私がやる。」
 奮起して自ら向かおうとすると、怒られた下女は、違うのです、と言って泣いた。
 その声を振り払うようにして雪馬のもとに向かった冬木は、実際にその姿を見て、下女たちの涙の理由を知った。
  火傷にはすでに、蛆が湧いていた。
「これは、」
 絶句する冬木に、薬師たちは呻くように言う。
「こんな早く蛆が湧くなど、普通の火傷ではあり得ません。」
「やはり、この傷はおかしい。」
「我々にはお手上げだ…。」
 話には聞いていたが、実際の傷は、想像の範疇をはるかに越えていた。
 治療が出来ないと言ったのは、痛そうで見るに耐えないとか、気持ちが悪いからとか、そういう単純な理由ではなかったのだ。
「怒鳴って悪かったわね。ここは、もういいわ。」
 襷をかけ、髪が落ちてこないよう、頭巾を被る。
 そして、止める下女たちに構わず、薬師に向かって頭を下げた。
「どうか、ご指示をください。私にはこれくらいしか出来ることがないもの。お手伝い出来ることがあるなら、どうかおっしゃって。」
 引かない構えを見せれば、薬師も止めようとはしなかった。
「……では、箸を持ってきてください。」
 それからは、箸で一匹一匹、箸でつまんで取っていくことになった。
 蛆は、薬師の手だけでは到底取りきれない数だったのだ。
 取っても取っても、傷の奥から、白い虫が自然と湧いてくる。
 このまま放置していたら、雪馬の体が食い尽くされてしまうと思った。
 聞こえているかはわからないが、耳元で声をかける。
「大丈夫よ、雪馬さま。私たちがついています。だから貴方も、…負けないで。」
 菅の奥から、咳き込むような呼吸音がした。

 雪馬の枕元で、冬木は壁にもたれてうとうとしていた。
 病状が落ち着いた雪馬を見て、薬師は、冬木を安心させるように
「もう大丈夫です。」
と、言ったのだ。 
 安心したせいもあってか、看病を手伝ってくれるようになった下女と交替で食事を取った後、つい、眠くなってしまったのだ。
 しかし、ふと、雪馬が呻いたのに気づき、飛び起きる。
「雪馬。」
 呼びかければ、その声に応じて、ゆっくりと包帯の下で瞳が動いた。
 障子の内側には、まだ青く明るい薄闇が広がっている。薄い紙を隔てた朝焼けの光を受けて、濡れた瞳が確認できた。
 意識が戻ったのだ。撫子寺に連れてこられて以来、初めてのことだった。
「雪馬。雪馬さま。わたしよ。冬木です。」
 何をして欲しいの、何でもおっしゃって、と急いで言えば、わずかに開いた目が、ぼんやりと冬木を捉えた。
「てを」
「え?」
「手を、握ってはくれますまいか……」
 かすれにかすれ、ほとんど吐息に近い声だった。だが、確かに聞き取れた。
 意外な頼みだと思ったが、こんな状況になれば、人恋しくなるのも無理はない。
 勿論です、と何の疑念もなく手をのばしかけ、ふと、こちらを見る雪馬の視線に気づいてしまった。
 ばっちりと、目と目が合う。
 そうして、ゆっくりと瞬いた雪馬の目には、焼けてしまって睫毛はない。包帯の隙間から覗く金色の瞳が、一瞬だけ、しまった、と苦笑し損ねたように見えた。
 焼け爛れ、見た目は随分と変わってしまった。
 表情だってろくに分からない。けれど確かに、その瞬間の雪馬の顔は、冬木にとって、随分と見慣れたものであった。
 それで、気づいてしまった。
 呆気にとられ、まじまじと見返す。
「あなた」
 雪馬は、堪えきれなくなったように目を閉じた。
 疲れたのだろう。そのまま、眠ってしまった。
 結局、冬木は雪馬の手を握るどころか、指一本触れることさえ出来なかった。
 これまで、治療の過程で彼の身体に触れることはさんざんあったが、それとは全くわけが違う。ふらふらと、逃げるように外へ出る。
 気づかなかった。気づけなかった。
 一体、どうして、……いつから。
 それに気づいてしまえば、これまでのことが一事が万事、違って感じられる。
 なんて馬鹿な男だろう、と思った。そして、それに気づかなかった自分は、雪馬よりもずっと馬鹿で、どうしようもない女だった。
 思い違いであれば、思い上がりであれば良かった。
 だが、おそらくは違う。雪馬が命をかけて守ろうとしたものは、お国だけではなかったのかもしれない。
 花一つ、かんざしひとつ、甘い言葉ひとつとしてなかったけれど、それでも確かに、冬木は雪馬に愛されていたのだ。

 
 お茶を注ぐと、湯飲みからふわっと湯気が立ち上った。
 なんとなく、湯気がゆれながら消えていくのを見届けてから立ち上がり、茶菓子を出そうと戸棚をあけると、白い紙袋が目にとびこんできた。
「…………あ、しまった。」
 豆を香ばしく煎って香味塩をふったこのお菓子は、湿気やすいのだ。いただいたとき、缶に入れておかなきゃと思っていたのに、すっかり忘れていた。
 木皿に出してみると、案の定、湿気てしまっている。
(やっちゃった……)
 近ごろ、こういうことが多い。
 衣や玩具が散らかっている部屋のなかを見まわすと、思わずため息が出た。頭の芯に、いつもなんとなく鈍い痛みがあるのは、気が休まる暇がないからなのだろう。
 その気疲れの種は、板の間に敷いた夜具の上で手足を広げ、すうすう寝息をたてている。さっきも大泣きしたので、ほっぺたに涙の跡がついていた。
 しばらくぼうっと息子の春正(はるまさ)の顔をながめてしまってから、はっと我に返り、あわててお盆を持ち上げた。せっかくの熱いお茶が冷めてしまう。
 仕事場との仕切り戸を軽く指でたたくと、おう、と返事があった。
 戸をあけると、雪馬がふりかえった。
 仕事が一段落したときの、安らかな表情をしている。この顔を見たとたん、自分がお茶をいれはじめたのは、それまで聞こえていた作業の音が途切れたからだったのだと気づいた。
 いつのまにか、そういうことが肌の感覚のようになってしまっている。お茶をいれる時刻、竈に火を入れる時刻、すべてが。不思議なものだ。
「ちびすけ、また泣いていたのですね。」
 ちらっと居間を見た夫に、冬木はため息をついてみせた。
「……まったく、ね。もう理屈をつけるのですよ。聞いたでしょう?」
 幸い春正は元気いっぱいで、はいはいするのも立って歩きだすのもはやかったし、言葉を話しはじめたのも、おとなりさんの、楓さんのところの三男の柊(ひいらぎ)くんよりはやかった。
 でも、同じころに生まれた柊くんは、なんというか、おっとり落ち着いていて、いつ見ても、にこにこ笑っている。お兄ちゃん、お姉ちゃんがそばにいて、がまんしなくてはならない場面が多いせいか、春正よりずっと心が成長しているような気がする。
 柊くんに比べると、うちの春正は、なにしろわがままで頑固で、言うことをきかない。
 二歳のお誕生祝いをした昨日の夜、もう二歳になったんだから、おかあさんのお乳を吸いながら寝るのはおしまいと言ったら、天と地がひっくり返るような大泣きをして、大変だった。
 ご近所にもご迷惑だし、根負けして、昨夜は結局お乳をやるはめになってしまったのだけれど、泣けばわがままを通せると思わせてはいけないので、さっき膝に抱いて、ゆっくりと話をしながら、もう乳離れしなきゃいけないのよ、と言うと、涙をぽろぽろこぼして泣きはじめたのだ。
 こういう泣き方をされると、わめかれるよりこたえる。
「泣いてもだめよ、お兄ちゃんになったら、赤ちゃんみたいに、おかあさんのおっぱいを吸うのは、恥ずかしいでしょ?おかあさん、恥ずかしい子は嫌いよ。」
と言うと、今度はのけぞって泣きはじめたのだった。
 お茶をすすって、湿気た煎り豆の後味を流しながら、
「なんで、あの子は、ああ聞き分けがないのかしら。」
とつぶやくと、雪馬は湯飲みを盆におきながら、
「吸われると痛いんだと、言ってみたらどうです?案外、きくかもしれませんよ。」
と言った。

 そんなことはあるまい、まだ赤ちゃんだし、わがままな子だし、と思いながらも、まあ言うだけ言ってみようと、添い寝をしてあげるまえに膝に抱っこして、
「春正、おかあさんね、おっぱい、いたい、いたいなの。」
と言うと、春正は目を大きく見開いた。
「ばっちん、したの?」
 冬木は思わず、吹き出した。
 突進しては、あちこちにぶつかってこぶをつくっているから、痛い、というとすぐに、ばっちん、と頭をぶつけることを連想するらしい。
「ちがうわ。春正がもう大きくなって、強くなったから、おっぱい吸うときも、強く吸うでしょ?だから、おかあさんのおっぱいね、いたい、いたいなの。」
 そう言ったとたん、春正の目がゆれた。口を開き、顔を歪めている。
 大きな目にみるみる涙が浮かんできたのを見て、どきっとした。
「はるが、いたい、いたい、したの?」
 ああ、言うんじゃなかった、と思った。春正を抱き締めて、
「大丈夫、大丈夫、そんなに痛くないから。」
と、ゆすりながら、心の中でため息をついた。
(乳離れ、させなきゃ……)
 でも、こんなに哀しそうに泣いているこの子を見ると、どうしてもそうしなければという気持ちがしぼんでいく。
 夜具に寝かしつけて、脇に横になると、春正はちらっと冬木の顔を見た。
 枕元の灯りに、ぼんやりと浮かび上がっている幼い息子の心配そうな、でも、おっぱいに吸い付きたくてしかたがない顔をみていると、つい口から言葉がこぼれてしまった。
「明日ね。……明日は、お兄ちゃんになるのよ。」
 春正は真面目な顔で、うん、と言った。
「約束、守れる?」
 春正はまた、真面目な顔でうなずいた。
「それじゃ、今日だけね。」
 言うや、春正はいそいそと懐に潜り込んできた。赤ちゃんらしい吸い付き方で乳首に吸い付いてきたけれど、いつものようにぐいぐい吸うのではなく、そっと吸っている。
 その吸い方を感じたとたん、胸に温もりが広がった。
 これで充分、と思った。
 
 春正が寝息をたてはじめたころ、カタッと小さな音がして、そうっと戸があき、雪馬が部屋に入ってきた。
 そばに来ると、湯上がりのいい匂いがした。
 起こさぬように脇にかがみこんで、春正が冬木の胸に鼻をくっつけて眠っているのを見、そるから顔をあげて冬木を見た。
 満足そうに眠っている息子をはさんで、わたしたちは顔を見合わせ、声をたてずに笑った。


 春になったというのに、風はまだ冷たかった。
 薬草畑に囲まれた撫子寺の空気は百花の匂いに浮き立ち、濡れ縁から吹き込む風には、命の息吹が色濃い。ちょうど杏の花が見頃の時期を迎えており、春の女神の吐息が丸まったかのような薄紅色の花に、庭先は明るく見えるほどであった。
 美しい君の、そのものを表すような庭だと思った。 
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