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ルームから出たがまだ2人は自分たちの世界に浸り、私の為にどれだけフォローしたか、そしてお互いがどれだけ素晴らしいかを褒め合い、いちゃついていた・・・

その間にレオンとブランも着替えてくる事になった。2人とも良いところの子息に見える。この国では獣人は攫われる確率が高いのでケモ耳は認識阻害の魔法をかけてあるから見えなくて残念だ。飾りは少ないが良い生地で仕立ての良い服だ、まるで生粋の貴族の様に着こなし、洗練された動きが美しい。いつの間にか取得したらしい、元の出来が良く何でもスポンジの様に吸収する2人が羨ましい。

そんな2人と共にウサール様とニコールの元へ隣のブースから向かう。植物で区切られてはいるけれど個室では無い為彼らから見える位置で一声かける。ウサール様とニコール様がいちゃついている間に店内は貴族、平民問わず恋人同士や女の子同士で楽しむ人々でいっぱいになっていた。

「突然のお声掛け失礼致します。」とカーテシーをとる。レオンとブランも優雅にボウ・アンド・スクレープだ

「君達は誰だ?失礼だぞ・・見たことの無い顔だが何者だ?」
とウサール様が仰る。約10年もの間婚約していたと言うのに分からないなんて、悲しいわ。

お茶を頂いておりましたが、懐かしいお二人の声に是非とも御結婚のお祝いをお伝えしたく、失礼ながらご挨拶をと思いましたの。」

顔を見合わせ怪訝な表情の御二人。
「いや、失礼ながら私は君には会った事は無いよ。ここまで美しい女性ならば覚えている事だろう。」

「ウサールさまぁ、私よりも美しくて素敵だと仰るの?」とニコール様が、悲しげに小首を傾げて 得意のウルウルの瞳であざとく見上げる。

「い、いや、もも、勿論ニコール以上に美しい人は居ないよ。私の愛はニコールにのみ捧げているからね。」といちゃつく二人。

ああ、ウザイ
「ふふふ、仲が宜しいようで何よりですわ。病弱で我儘なばっかりに振りまわしてしまった様で申し訳ありません・・・メイドとしても半人前、執務もサイン以外の事しかやっておりませんでした。 華やかな社交には、仕事が遅いせいで【教育】して頂いて傷だらけのワタクシが、身体を庇いながらではダンスも出来ず・・・その上地味な者が出る訳にはいかず、全てにお任せしてしまっておりました。申し訳ありません。」と、さも申し訳無さそうに俯く私。

私が声をかけてから、徐々に注目が集まっている中堂々と話している私の声は周りにも聞こえている様だ。
周りから「何だかお聞きしていた事と違いますわね。」
「ええ、何だか姉であるアイ、アイリ?様?の方が大変そうですわね。メイドとか執務も・・・私なら出来ませんわ。それよりも、貴族令嬢の扱いでは御座いませんわね。」などと聞こえてくる


「えっ、お姉様?そんな筈ないわ。だって、病弱で痩せていつもボロボロで汚くてふらふらだったもの!こんなに美しい筈がないわ!ドレスだって、新しい物なんてお持ちじゃない筈だもの!」

「ああ、これは買いましたわ。ああ、そう言えば今ニコール様がお召しになっているドレスも含めてお義母様の分も、ここ2、3年は私が仕立てておりましたが・・・で他国に参りますのでこれからは、クチュールでお願いして下さいませね。」

と私が告げると、ザワザワと店内から
「やはり、王都内のどのクチュールにも似たデザインも仕立ての上手さも見た事無いと思いましたわ。」
「お姉様がお仕立てになっていたのなら分かりますわね。」
「どうりで教えて頂けない筈だわ。社交の時は御姿の美しさもさる事ながら、ドレスの素晴らしさにも溜息が出たものでしたが・・・その陰でお姉様の方は、メイドに執務に、その上ドレスの仕立まで・・・」とヒソヒソと聞こえる


周りを気にしつつも私の事が気になる様子の二人。

「だが、最後に会った時君がもし本当にアイリーンならば、今にも倒れそうな程ボロボロで肌も髪も酷かった。それに、今よりも何倍も痩せていてどこから見ても病人の様だったよ・・・・・。」


「そう見えましたか、私の方は見ておられないと思っておりました。あの時、サイラシー公爵夫人からお名前を呼ぶ許可を頂きました。王都に戻ったらまた会おうとも・・・聞いておられましたか?」

「っ、確かに母上はそう仰った。本当に貴女はアイリーン穣なのか・・・?」


「はい、私は間違いなくアイリーンでございます。最後にお会いした時は、食事もたまにしか摂らせて貰えず、また摂る時間もありませんでした。メイド業務に執務、ドレスの仕立て・・・私は眠る時間も無いほど日々に追われていたのです。病弱故にゆえにウサール様とお会いする事も殆どなく、窓からウサール様とニコール様が散歩なさる様子を見るくらいしかお姿を見る事もなくなっておりましたし・・・私の顔をお忘れになるのも無理はありませんわね・・・」 

「「・・・・・」」

淡々と私の口から紡がれる真実に言葉を失ったのか無言のお二人。


「・・・でも、あの日アンコック伯爵家を出された後は、身体も癒えて食事も少しずつ摂れる様になって良く眠れておりますの。それと、以前はでご迷惑おかけし申し訳ございませんでした。今は、亡き母の跡を継ぎ商人と冒険者として生活出来ておりますの。 この様に、頼りになる方達も側に居てくださいますし、私とても幸せです。」とレオンとブランと微笑み合う

何だか、さっきはあんなに悲しくて辛かったのにこうしてウサール様とニコール様、と周りの方々にしている間にもう色々どうでも良くなって来た。


「・・・そう言えば、アイリーンの面影があるな。幸せそうで・・・良かった。大変んだったんだな。すまない・・・」

「お姉様、私一生懸命お手伝いしましたのよ?本当よ?」


「・・・・そうね、全部お願いしていたしありがとうございました。

どうか、お二人お幸せになってくださいませね。 

では、私はこれでごきげんよう。 サヨウナラ。」

 
呆然と立ち尽くす二人の事も、騒つく周りの事も・・・もう気にする事なく、レオンとブランと3人でお店の方に謝罪と多めに支払をして店を出た。


サヨウナラ、私の愛した人






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