SKM ~そんな求婚お断りっ! 魔王にされた少女

モノリノヒト

文字の大きさ
15 / 56
第2章 受難編

そんな15話 「脱出」

しおりを挟む
 はっ、と目が覚める。

 見慣れた暗い倉庫。
 倉庫に充満する下世話な臭い。

 夢か、今のは夢。

 それにしても、はっきり耳に残っている彼の声。

 『キミが道を踏み外したなら、僕が救う』

 その言葉を反すうしていると、心が温かくなった。

 忘れていた温かい気持ち。
 そうか、私は、助けを求めているのか。

 当たり前の事を、当たり前だと気付くのは、当たり前が当たり前ではなくなった時だと聞く。
 忘れていた、当たり前。

 身体の痛みは引いていた。
 アザは残っているかもしれないが、この暗がりではそこまで確認できない。

 ──そうだ、逃げる方法を考えないと。

 思考に入ろうとした時、扉の外に気配を感じた。
 同時に漏れてくる明かり。
 静かな気配。

 お嬢様でも、メイドさんでもない。
 知らない気配だ。

 では、一体誰が。

 とうとうお嬢様が、一線を超えた命令を下したのか。
 となれば、館の関係者は全員が敵だ。

 私は壁に張り付き、扉が開くのを待った。
 このまま開かれないならそれで良し、開かれるなら…。
 間違いなく、敵だ。
 不意を打てば逃げられるはず。

 …気配は動かない。
 こちらを警戒しているのだろうか。

 気配を消すなんて器用なマネはできないが、それでも見つからないように息を殺し、動かない事に徹した。

 扉の外から、ぼそぼそと息づかいが聞こえる。
 …話してる?
 相手は一人じゃないのかもしれない。

 最悪のパターンを考えれば、複数人の相手である可能性は高い。
 ほとんど誰もこないはずの地下。
 昨日のお嬢様のことを考えると、やはり自分以外の誰かに私を任せた可能性が高い。
 直接的な暴力ではなく、さらに尊厳を踏みにじられ、命を奪われるかもしれない。

 扉に手がかけられた。

 …開ける気だ。

 どうしよう。
 このまま息を殺していれば、見つからずに済むかもしれない。
 思い切って飛び出せば、逃げられるかもしれない。
 でも、取り返しのつかない事になるかもしれない。

 私の葛藤かっとうをよそに、静かに扉が開いた。

 恐る恐る、倉庫に入ってくる人影。
 歩き方に品があり、身なりの良さそうな人物に見える。
 ぼんやりとカンテラに照らされた顔から察するに、男性のようだ。
 大方、探検がてらやってきた館の客人か、お嬢様に何らかの口添えをされた下賤げせんの者だろう。

 ──どちらにしても、敵…!

 遠慮する事はない。
 不意を突いて、一気に倒そう。

 男が扉から完全に姿を現した時が、勝負。

 あと少し。

 扉から手を離した。

 男が一歩前に出る。

 ──今だ!

 決意と共に飛び出した私の足は、男の一歩手前でもつれてしまう。

 ──あっ…!

 つんのめった私を、男は驚きながらもカンテラを持っていない手で受け止める。

「んっ!?」

 突然、男が驚いたような声を出した。
 そうか、私の臭いか。

 まだ、今なら挽回できる!
 そうだ! カンテラを奪って、倉庫に火を放ってしまえば!

「リプリシス…?」
「えっ」

 久しく聞いていなかった単語。
 それは間違いなく私の名前だった。

 思わず手を止めた私を、男はぎゅっと抱きしめる。

 ──しまった、動きを封じられた!

「なんて…、なんてことだ」

 男が震えている。
 抱きしめられているが、決して苦しくはない。

 ──あれ、優しい…? 敵じゃ、ない?

「ヘッ、旦那。感動の再会は後にして、早く逃げようぜッ」

 扉の外には、もう一人の男がいる。

 やっぱりもう一人いたのか。
 でも気配が全然わからなかった。

「ああ。
 行こう、リプリシス。静かにね」

 優しい声。聞いたことのある声。
 私は彼に連れられ、館を出た。

 やっぱり見た事がない場所だった。
 広い庭、閑静な住宅地。
 時刻は夜だった。

「こっちだ」

 気配のしない男の案内で、館の敷地内から脱出する。

 * * *

 とある屋敷の一室。
 この屋敷の事は知っている。
 ハルシオン家だ。

 なぜハルシオン家が、私を助けてくれるのだろう。

 言われるがまま湯あみをし、用意された服を着込んだ私は、このまま逃げ出すかどうか迷っていた。

 このまま彼らの部屋に行けば、なし崩し的に襲われるのかもしれない。
 彼らは男だ。女と見れば誰でもいいと思っているアブナイ生き物だ。
 …しかし、あの地獄から救われた恩を考えれば、それも悪くはないかも…。

 ないない、そんな初体験はイヤです。
 それなりに端正な顔立ちの男性達ではあるけど、見ず知らずの男性を受け入れるほど、私は安くないつもり。

 しかも、もしこれがお嬢様の口添えだった場合。
 やることをやって捨てられ、すぐに地獄に戻されるんじゃないか。

 …でも、お嬢様の口添えなら、わざわざ隠れるように館を脱出しなくとも、正面玄関から堂々と出ればいいのではないか。
 ということは、やっぱり助けにきてくれた人達だ!

 …待った、短絡的に考えちゃいけない。
 今なら、逃げられる絶好の機会だということを忘れちゃいけない。

 例えば、お嬢様の口利きがあるにも関わらず、人目を忍んで脱出しなければならない可能性について考えてみよう。
 それは、私がリプリシスという存在であるからじゃないかな。
 人に見られては困る存在。

 でも、私は特別な存在じゃない。
 ただの小汚い娘のはず…。

 いや、違う。
 違うわ。

 私は"マキアート家の娘"だ。
 なんで忘れてたんだろう。

 大っぴらに私を譲渡する事ができなかったお嬢様は、誘拐の真似をして私をさらわせた。
 これだわ、これが最もしっくりくる。

 私がマキアート家の娘で「無理やり監禁されてました」「こんな酷い事をされました」と告発すれば困る人物がいるはず。
 …いるとすれば二人。

 お嬢様と、ハルシオン家だ。

 残念ながら、お嬢様がどこの令嬢なのかは知らないし、見たこともない。
 しかし、ハルシオン家が関わっている事はハッキリしている。
 お嬢様は…もしかしたらハルシオン家ゆかりの人物?

 だとすれば、やっぱり黒幕はハルシオン家じゃないか。

 危なくだまされるところだった。
 気を付けよう、優しい言葉と甘い罠ってね。

 やけに頭がさえ、理路整然とした理由が浮かぶ。
 驚くほど完璧な名推理に、私は若干興奮しながら脱出を決意した。

 ──決めた、ここから逃げよう。

 まずは、湯あみからずっとついてきているメイド二人を置いてきた。
 キーワードは、トイレに行く、道はわかる、ここに戻ってくる、だ。

 彼らが待っていると言った部屋は、ここから左の通路を進んだところにある。
 鉢合わせしない為に、右側の通路を進む。
 記憶を頼りに、ハルシオン家の地図を思い出す。

 ──確か、そう、この先に小さな塔があったはず。

 中庭に出たところで、小さな塔を発見する。

 ──この塔を登り切れば、屋敷を囲む壁に飛び移れるはず…。

 塔を登り、頂上が見えたところで、激しく息切れした。
 そんなに高い塔ではないが、弱った身体には、あまりにきつい運動だった。

 それでも何とか頂上についたところで──。

「何してんだぁ、こんなところで」

 壮年の男が待ち構えていた。

 終わった、と思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...