SKM ~そんな求婚お断りっ! 魔王にされた少女

モノリノヒト

文字の大きさ
19 / 56
第2章 受難編

そんな19話 「死神」

しおりを挟む
 ハルシオン家のでかい門。
 最近お世話になっている侯爵家の屋敷だ。

 緊急招集って急使が来たんで、それまでに行っていた調査を打ち切って戻ってきた。
 ドラゴンキラーを顎で行ったり来たりさせるなんて、大した坊ちゃんだぜ。

 門を抜け、やたら広い庭園を抜けないと本宅に辿り着けねえ。
 面倒な作りをしてやがるが、こういうのも貴族のたしなみってヤツなのかね。
 これだけデカけりゃ、俺のような無骨者が見ても、金を持ってそうだとは思う。

 そんな金持ちの坊ちゃんは、男みてえなツラした嬢ちゃんにご執心だ。
 今回もどうせ、それ関係の招集に違いねえ。
 ま、俺は金さえ貰えれば文句はねえがな。

 強めに応接間の扉をノックすると、出て来たのは執事のじいさんだった。
 確かバッツだったか。まあ、じいさんの名前なんぞ覚えても仕方ねえ。
 じいさんの話では、坊ちゃんが自室で待ってるらしい。

 …自室か。

 あの坊ちゃん、自室だとロクでもねえ話をするんだよな。
 前に請け負った調査も、この国の根底を揺るがすような内容だったからな。

 そんな依頼を打ち切ってまで呼ばれたんだ。
 坊ちゃんは、国より嬢ちゃんが大事なんだろうよ。

 最近、頻繁に通っているせいか、通り慣れてきた通路を歩く。
 中庭を右手に見た最初の部屋で立ち止まり、扉を叩く。
 ノックなんざ、一応の礼儀としてやっているだけだ。返事なんぞ待っていられるか。

「よう」

 返事を待たず部屋に入ると、坊ちゃんと嬢ちゃんが窓際のテーブルを挟んだイスに腰かけていた。
 ご歓談中だったか? 相変わらず仲のよろしいこって。

「よくきてくれた、レオニード」

 坊ちゃんは特に気にした様子もなく、声をかけてきた。
 部屋にいるのは、二人だけで、俺と同じように呼ばれたはずの男の姿はない。

「んだよ、ローウェルはいねえのか」
「ああ、彼とは連絡がついていない」

 やれやれ、面倒な依頼を一人で受けるのはゴメンだぜ。

「まず、相談させてほしいことがある」

 相談?

 坊ちゃんは嬢ちゃんの左手を取った。
 嬢ちゃん、細いほっせぇ腕してんな。

 そして、嬢ちゃんの薬指にはめられた指輪を強調して見せてきた。
 ドクロの指輪だ。

 …なんだか嫌な感じのする指輪じゃねえか、趣味わりいな。
 もちろん口には出さねえが。

「その指輪を婚約指輪にすんのか?」

 肯定されるなら目いっぱい褒めちぎってやるとするか。

 坊ちゃんは困ったように少し照れた後、睨むようにこっちを見て言った。

「違う、これは死神の指輪という呪いのアイテムだ。
 知っているか?」
「いんや、聞いたことねえな」

 そうか、呪いのアイテムってやつか。
 道理で嫌な感じがすると思ったぜ。
 まあ、俺も呪いとはちょっとした縁があるからな。

 坊ちゃんは死神の指輪について、語った。
 この指輪には、胸くその悪くなるような効果がある事がわかった。

「これを解呪したいと思っている」
「無理だ、命がなくなるんだろ?」

 そう言うと、坊ちゃんは百も承知と言わんばかりに、これまで失敗したという解呪方法について語った。
 中にはマジかよと思う方法もあったが、ワラをも掴む思いなら仕方ねえのかもな。

「…何かいい手はないか?」
「フッ」

 思わず鼻で笑っちまった。

 いい手か。
 "ある"んだなこれが。

 今の話が本当なら、心当たりはある。
 ただ効果があるかはわからねえ。
 ここは稼ぎどころだな。

「心当たりは、あるぜ」

「ほっ、本当か!!」

 思わず身を乗り出して迫ってくる坊ちゃん。
 おいおい落ち着けよ。
 急いては事を仕損じるってな。
 こっからはビジネスの話だ。

「教えてもいいが、条件がある」

 こっち有利で話を持っていかねえとな。

「何でも言ってくれ」
「返答が早えよ。
 条件ってのは、第一に金だ」
「言い値を出そう」

 さすが、お坊ちゃんは言う事が違うね。
 おじさん、吹っ掛けちまうぜ?

「よし。
 第二に、効果があるとは限らねえ。
 失敗しても恨みっこなしだ」
「それは…もちろんだ」

 よしよし。
 さて、最後の条件を飲んでくれるかだが。

「第三に、失敗したら命がなくなるかもしれん。
 それを承諾してもらおう」
「…ば、ばかな!」

 ばかなって事はないだろう。
 さっきの話じゃ、解呪に失敗した事例は全員が神様仏様になっている。
 当然、今回の方法もリスキーなわけだよ。
 坊ちゃんがワラをも掴みたいほど、おぼれているかだな。

「おっと、この条件は坊ちゃんに聞くべきじゃなかったな。
 嬢ちゃん、どうする?」

 突然話を振られて、ぼーっとしていた嬢ちゃんが、おもむろにこちらを見る。

「え…。
 まだ生きていたいです」

 至極当然の発言。

「そりゃあそうだ、わっはっは!」

 思わず大笑いしてしまう。

「んじゃ、この話はナシだな。
 調査に戻るぜ、坊ちゃん」

 さて、と。
 席を立とうとすると、坊ちゃんの手が俺に伸びて来た。

「…何だよ?」
「第三の条件は飲めない。
 その代わり前二つの条件は飲む。方法を教えてくれ」

 それじゃ意味ねえだろうがよ。

「どちらにしても、このままでは彼女の命は奪われてしまう。
 方法を知ってから、彼女を説得して決めたい」

 はーん、なるほどな。
 その提案は俺にとって楽な道ではあるが…。

「そいつぁ無理な相談だ。
 なんつってもその方法は、俺じゃねえと連れて行けねえ場所に、嬢ちゃんを連れていかないといけねえんだよ」

 坊ちゃんの顔が険しくなる。
 おっと、これは信じてねえ顔だな。
 まあ、信じてもらおうとも思ってねえが。

「…少し、待って欲しい。彼女を説得する」

 マジかよ。

 * * *

「リプリシス、聞いてくれ」

 うー、最近クライヴがちょっと怖い。
 まさに鬼気迫る、という表現がよく似合ってる。
 鬼だ。恐ろしい鬼じゃあ。

「はい」

 聞いてくれと言われて、聞きたくないです、なんて返事はできない。
 どんな報復を受けるかわからないし。

「キミの記憶喪失は、どうやらその指輪が原因らしい」

 うん、話は聞いてた。
 物を触ったり、眺めてるだけで情報がわかるのは、死神の知識なんだね。
 便利じゃないか。

 これなら世の鑑定士もびっくりのスーパー鑑定団が作れるよ。
 魔力が無くなるような感じも今のところないし、危険度は低そう。
 大体、魔法がなくても不便はしてない。
 ハルシオン家は居心地がいいし、何ならこのまま居てもいいんだけど。

「このままでは、キミはどんどん大切な事を忘れていくだろう。
 キミ自身の魔力で、死神の侵食を抵抗レジストしているようだが、完全に制御できてるわけじゃない。
 それはわかるね?」

 うん、と首肯する。
 確かに、一部とはいえ記憶を失っているという事実は、死神に負けているという意味に捉えられなくもない。

「僕だって出来ればキミを危険な目に遭わせたくない。
 だが、そのままでいても、やっぱり危険な事に変わりはないんだ。
 もしかすると、放っておく事で、もっと取り返しのつかない事になるかもしれない」

 う~ん…。
 クライヴが私を大切にしてくれているのは、わかる。
 私の事を思って言ってくれているのも、わかる。
 でもそんな危ない思いをしてまで、この指輪を外さないといけないのかな。

 この指輪に魔力を吸いつくされるまでが寿命だと考えるなら、悪くない気がする。
 日々を無為に生きるより、残された時間を懸命に生きる人生。
 うん、割といい人生なんじゃないかな。

「クライヴ。私ね…」
「うん」

 真剣な眼差しのクライヴ。

 …言い出しにくい。
 ああ、この人、本気なんだ。
 本気でこの指輪を外した方がいいと思ってる。

 私は、このままでいいと思ってるのに。
 じゃあ、敵なのか、クライヴは。

 違う、クライヴは敵に回してはいけない。
 だから、懐柔するのだ。

「私ね、クライヴの事、好きよ」

 ガタンとイスから転げ落ちるクライヴ。
 そんなに驚かなくても…。

 私はイスから立ち上がり、クライヴを抱き起こす。

「だからね、命を賭けてまで指輪を外したくはないの。
 確かに私は長生きできないかもしれない。
 でも、出来れば好きな人と一緒にいたい」

 クライヴが紅潮している。
 もう一押し。

「クライヴ…。
 私を、もらってくれませんか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...