SKM ~そんな求婚お断りっ! 魔王にされた少女

モノリノヒト

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第3章 戦争編

そんな27話 「丘陵制圧」

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「はぁ、はぁ…ふぅ……」

 ぼくは壁に寄りかかり、呼吸を整えた。

 ──大変な目に遭った。

 隣にいるエグザスも少し顔が青ざめている。
 目が合うと、エグザスはぼくをねめつけた。

「まったく、姉さまが考えナシに行動するから、こうなるんですよ」
「考えなしだなんてヒドイなぁ、ぼくはぼくなりに考えて…」
「姉さまの考えは、休んでいるのと同義です」

 ぴしゃりと言ってのける口の悪い弟に辟易へきえきする。

「いいですか、姉さま。
 もう後戻りはできませんから、とりあえず湖畔の別荘に隠れましょう。
 後の事は、その時にお話しします」

 でも頼りになるのだ、この弟は。

 身を隠しながら湖畔の邸宅へと向かう。
 邸宅に帰ったら、バートフが待っていたりしないだろうか。
 彼がいないのであれば、誰か召使いやメイドを雇わなければならない。

 …あ、でも、実家が使用人やお金を貸してくれるとは思えない。
 どうしよう、身の回りの整理すらできずに今後の事を行うのは不安だ。

 エグザスなら何か考えていそうだけど、弟に頼りっぱなしというのも情けない。
 もう少しお姉ちゃんらしいところを見せておかないと。

「ねえ、エグザス」
「姉さまの意見は必要ありません」

 突然の拒絶反応。
 ぼく、まだ何も言ってないのに…。

「どうせ姉さまの事ですから、姉らしいところでも見せようとしたのでしょう。
 必要ないですから、そういうの」

 うっ、バレバレじゃないか。

「とにかく、急ぎましょう。これからが大変なんですから…」

 * * *

 時は少しさかのぼる。

 クライヴの家を出たぼくは、王都を南下し、大都市ハンナベルへ向かっていた。
 ハンナベルの中心街には、マキアート家の邸宅もあるが、寄るつもりはない。

 アブナイから、と出立するのを止めたり、色々と気にかけてくれたクライヴ。
 彼には悪いけど、目的を果たす為に、マキアート家とは関わらないようにしなければならない。

 ハンナベルは、良くも悪くも、ぼくの事が知られ過ぎている。
 正体がばれないように、とクライヴに渡された外套がいとう
 それについているフードを目深まぶかにかぶりなおす。

 ハルシオン家の御者に礼を言い、ハンナベルを歩いて通過する。
 メインストリートは広い。
 北に用事がなかった事もあるが、この通りを通るのは久しぶりだ。

 周りを見渡せば、街の喧騒けんそうは変わらぬまま。
 少し傭兵っぽい人が増えたようだが、街の人も自由に外出し、商売も繁盛しているようだ。

 まだしっかりとショッピングだってしてないし、おいしい食べ物だってたくさんある。
 この街を戦争なんかで壊させてはいけないな。

 このまま、まっすぐ南下すれば懐かしの湖畔の邸宅が見えてくるだろう。
 しかし、今は戻る理由はない。

 急ごう。
 目的地は、西の丘陵だ。

 * * *

 丘陵が遠目に見えてきたところで、大勢の人だかりができている事に気が付いた。
 いや、人だかりなんて曖昧あいまいなものじゃない。あれは軍隊だ。
 リングリンランドの軍隊が、街の西門に駐屯ちゅうとんしている。

 あれじゃ、西門から出る事はできないな…。どうしよう。

 こういう時は夜の方が動きやすいかもしれない。
 大体、密偵とかって夜に活動するイメージがあるもんね。
 ふっふっふ、ぼくは秘密の工作員になるんだ。

 * * *

 夜が訪れ、闇の扉が開かれた。
 昼間の喧騒はすっかり鳴りを潜めているが、一部の区画は夜こそが本番と言わんばかりに明るい。

 こそこそと西門の様子を伺ってみれば、門とその周辺は赤々と照らされている。
 戦闘こそ起きていないとはいえ、やはり夜でも見張りはいるようで、西門から丘陵に向かうのは難しそうだった。

 少し遠回りになるけど、南門から出てみよう。

 南門から迂回うかいして、西側へ出る事が出来れば、より見つかる事なく進めるだろう。

 辺り一面、夜の闇。

 誰にも見つかる事なく、また、誰を見つける事もなく…。
 ぼくは一人、丘陵を静かに登る。

 * * *

 丘陵の頂上に到着した。
 果てしなく広がる高原。

 この高原を進めば、隣国ハンコックにつく。
 こんなに近いのに、戦争をしようとしている。
 近いからこそ、なのかもしれない。

 息を整え、いよいよ準備に入る。
 この丘陵の頂上全体に、水をせき止める大きな砦を作らねばならないのだ。

「すぅー…」

 大きく深呼吸し、ありったけの魔力を込める。
 丘陵の頂上に、そびえるような砦を作るイメージを作る。

「大地の恵み、天の御心の見知りしままに」

 一体どこまで続いているのかわからない広大な高原。
 この高原と丘陵の頂上を横断するように、壁を作るイメージを膨らませる。
 国交に影響が出るかもしれないが、戦争しようという方が悪いのだ。

「我ら力なき幼子を守りし、母なる大地の抱擁」

 詠唱が終わった。
 だが明らかに魔力が足りていない。
 もっと、もっと魔力を込めないと。

 ぼくに出来る事で戦争を避け、平和の為のいしずえとするのだ。

「──土砦形成魔法アースフォートレス!!」

 限界まで魔力を込めた魔法を放つ。
 大地が激しく揺れ、一帯の地形が変わる。

 揺れが収まった頃、目の前にはどこまでも続く砦が存在していた。
 土砦形成魔法アースフォートレスというには、あまりにも巨大すぎる壁。

 あ…あれ? こんなに派手になるとは思わなかった。
 これじゃ──。

「いたぞ!」

 やっぱり気付かれるよねぇ…。
 早く逃げないと。

 しかし、リングリンランドとハンコックをへだてた砦は、入口を作っていない為、中に入る事はできない。
 今来た丘陵を戻るしかないのだ。

 よし、戻ろう。
 そう決心して足を踏み出すが。

「あれっ…」

 足が体重を支え切れず、かくっとひざが曲がり、そのまま倒れ込む。
 反射的に身体を支えようとした腕も反応しなかった。

「痛ぁ…」

 おかしい、起き上がれない。
 身体に力が入らない。

 何が起きたのか考え始めた頃、現実の感覚が襲ってくる。
 顔が、熱い。

 どうやら倒れ込んだ拍子に、ケガをしてしまったようだ。
 よく顔面ダイヴしているような気がするが、神様はぼくの顔にうらみでもあるんだろうか。

「………」

 誰かが近づいてくる気配がする。
 間違いなく、リングリンランドの斥候せっこうだろう。
 ハンコックの様子を探る為に、この辺りには多くの斥候が放たれているはずなのだ。

 斥候…あー、そうか。きっと丘陵を超えて高原にまで行っていた人もいるだろう。
 この砦のせいで、リングリンランドに帰るのが遠回りになっちゃう人もいるんだな、ごめんね。

 何度も身体を動かそうと試みるが、重りでもつけられたかのようにピクリともしない。
 このまま斥候に見つかれば、良くて事情聴取、悪ければハンコックのスパイ疑いで処罰されてしまうかもしれない。

 僕の最後の魔法が土砦形成魔法アースフォートレスの進化系だなんて、それも悪くないか。
 そうだ、この魔法に名前をつけよう。

 脳内会議スタートだ。

「何かいい名前はある?」
 進行役のぼくAが仕切り始める。

「アースフォートレスの進化形だし、グレートウォールというのはどうかな」
 ぼくBの提案。なかなか良い意見だ。

「ダメダメ、オリジナリティが足りない。どうせなら"なにそれ"と言われるような名前にしようよ」
 ぼくCの激しい主張。

 続いて、ぼくDが現れる。
「大事なのは、どんな願いや思いが込められているかだよ」

「戦争を回避して欲しいという願いを込めて…。
 万里長城形成魔法ワンリーチャンチョンというのはどうだろう。
 ちょっと変わった響きなのが、ぼくのオリジナルへのこだわりって事で」
「「「異議なし」」」

「まったく、何やってるんですか」

 脳内会議の決定に、うすら笑いを浮かべていたぼくは、聞き覚えのある声に現実へ引き戻された。

「エグザス…!」

 もう懐かしさを覚える弟の声。
 まだ一カ月と離れていないはずなのに、遠い昔の事のように思える。

「立てないんですか?
 …姉さまともあろう方が、魔力酔いとは。
 まあ、これだけ大掛かりな事を起こせば、酔っても仕方ないのかもしれませんね」

 魔力酔い…?
 話には聞いていたが、ぼくには無縁の症状だと思っていた。

「少量ですが術酒がありますので、飲んでください。
 飲み過ぎると今度は発酵成分で別の酔いが回ってきますよ」

 エグザスが懐から取り出した、ぬるい術酒を口に含む。

 ──かっ、辛い! 舌が熱い!

 おちょこ一杯相当の少量ではあったが、初めて飲む術酒の味に、涙が出そうになった。

「起きてください。逃げますよ…!」

 周囲に人の気配は多いが、相変わらず足音や物音は聞こえない。
 斥候の集団がいるのは間違いなさそうだ。

 エグザスが先導し、その場を離れる。

 * * *

 エグザスの脱出経路は見事だった。

 丘陵は一部なだらかな地形があるため、そこだけを選び、滑り落ちるように駆け降りる。
 途中、死角に隠されたソリのようなものに乗って、一気に丘陵を降った。

「え、エグザス! これ、大丈夫なの!?」
「心配ありませんよ! しかし、最後には飛びますので準備してください!」 
「うん! …飛ぶ、って…!?」
「──氷塊形成魔法アイスブロック!」

 エグザスの詠唱に合わせ形成された氷のジャンプ台。
 斜面を滑り続け、すさまじいスピードになっていたソリが空中に放り出される。

「きゃああああああ!」

 足がソリから離れる。
 一向に感じられない足元の感覚、寄りかかるもののない浮遊感。

「姉さま! 大丈夫、大丈夫だから、そんなに暴れないで…、いてっ、暴れんなって! 心配なら、つかまってろ!」

 エグザスの言葉に従い、彼にぎゅっとつかまり、目をつぶる。

「…それでいい。そのままにしていろ。ボクの計算は完璧だからな。
 ──逆風・風圧魔法ウインドプレッシャー・リバース!」

 瞬間、地面から立ち上る風が、ぼく達の身体を押し上げる。
 地面に落下しようとしていた身体は、風圧により一時押しとどめられた。

「着地するぞ」

 すとん、と足が地面に着く。
 同時にひざが笑う。

「こ、怖かった…。
 リバースって何? すごいね」

 恐怖の感覚を払うように、話題を振った。
 実際、リバースなんて聞いた事もない。
 さすが自慢の弟だと鼻にかけたくなったのも事実だ。

「…無駄話はいいですから。行きますよ」

 いつもの調子に戻ったエグザスが、ぼくを引っ張っていく。
 リバースってなんなんだよぉ。
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