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突然ですが、
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私は今、巨大な穴を落下している。
どのくらい落下しているかと言うと、確認できる限りかれこれ二時間程度はゆうに落下していることになる。
もともと私には色々あって自分の人生を自らの意思で終わらせるべく、この巨大な穴へやって来た。
ここに巨大な穴があることは以前、環境を扱うニュースで知っており、私は自分がもし自殺をするのなら絶対にこの穴に身を投じて死のうと心に決めていた。
泣け無しの貯金を切り崩し、それではぜんぜん足りず、さらに数少ない友人たちに交通費を借金してまでこの穴にたどり着いてやっとの思いでの身投げだった。
穴の入り口はとても広く、おそらく直径は1km程度あっただろうか。
それはとても雄大な姿で私は眼前に広がるこの穴にいたく感動し、満足のうちに人生を思い返して涙涙に世の中に感謝し穴に身を投じた。
そしてはっきりここに身を投じればすぐさま死ねると考えていた。
投じてみて初めて気付いたのだが、その考えははっきり言って甘かった。
すぐ楽になれると思っていた考えは至極早計で、今にして思えばことさら浅はかだったと言わざる負えない。
次、また自殺する機会があるならば、ちゃんと底が見えている穴か、調査が完了して確実に底があると判明している穴に身を投じるべきだった。
軽い気持ちでなんとなくかっこいいからとか、大きくて良い感じだったなどの理由で未知の穴に身を投じるべきではない。
このまま永遠にフリーフォールよろしく落下をし続けて行く場合、不覚にも私の死因は「餓死」ということになり、当初目標の身投げによる死亡では無くなってしまう。
統計によると、ビルの屋上から身を投げた先人達の死亡原因の多くは、頭蓋の骨折や脳の損傷などでは無く、恐怖によるショック死なのだそうだ。
つまり酷く痛い想いをするくらいなら先に死んでしまえと脳が判断し、痛い想いを勝手に想像してそのショックのあまり死んでいる、ということらしい。
是非このまま身投げが成功しあの世に到達した暁には、身投げをした先人達に結局あなたの死因はなんだったのですか?とアンケートを取りたいと思うのだが、残念なことにそれはまだまだ先のことになる可能性が高い。
わたしが身を投じた直径1kmにも及ぶ巨大な穴の入り口は、身投げ後からグングンとその光を小さくし、ものの数分で針の穴ほども見えなくなってしまった。おそらくそれを確認していたのがまずかった。
わたしはその光がいつになったら見えなくなるのかなどと、上を見上げてそんなことばかり気を取られ、ついぞショック死する機会を失ってしまったのだ。一寸先は闇とは良く行ったものだ。
ちなみに今落下距離の計算がだいたい終わった。大体計算通りならば現在、落下し始めて深度1500kmくらいを通過したことになる。実際には空気抵抗があるので、ちょっと少ない目に見積もって1000kmぐらいを落下したくらいか。
1000kmと言えば東京から京都までの距離のおよそ3倍の距離だ。ただ落下するだけで京都にいけるならわざわざ新幹線や飛行機に乗らなくても軽々と移動できる。チケット代も払わなくていい。エコだ。
エコと言えばこの死に方もエコだ。環境を最小限しか汚さない。
望む通り地面に激突した場合、血や脳髄の液が飛び散るのだろうが、そのうち雨や微生物が分解してくれるはずである。仮に激突する底が有ればの話だが。
しかしまさかせっかくの死ぬ機会なのだから底が見えないくらいの穴に飛び込んで死にたいと思ってここまで来たのに、まさか本当に底が無い穴だったとはいやはやまいった。
思えば私の人生はこんなことの連続だった。要領が悪く運に見放されおまけに激突する穴の底にまで見放されるとはあぁ情けない。
あと、先程からトイレを我慢している。
小や中ではなく大のほうだ。この穴の中は気温が低く、腹の具合が悪くなったらしい。実は小の方は身を投げてからすでに二回ほど済ましてしまった。さすがに下着を汚すのは本望ではないので、ズボンの小窓からちょちょいとモノを取り出し、足にかからぬように細心の注意を払って済ますことができたのだが、大に関してそうはいかない。
このままパンツとズボンを脱ぎ捨て大をしてもよいのだが、これまた仮にその格好で穴の底に到達してしまった場合、私の死亡後の姿はとても文章にしたくない破廉恥で愚かな格好になってしまう。そういった死亡姿になることは本意ではなくできれば避けたい。
しかしこのままトイレを我慢したまま穴の底と対面する場合、わたしは激突後に衝撃で下着を汚すことになるかもしれない。さらに最悪の場合はズボンにまで汚れが到達する危険性も考えられる。やはりここはパンツとズボンを手に持ったままことに当たり、大きいモノとおさらばした後に再びパンツとズボンを履きベルトをしめるのが最善の策だ。その際紙で尻を拭きたいところだが、さすがにこれは諦めたほうが良さそうだ。向かい風が強いし、なによりチリ紙は切らしてしまっている。そうと決まれば早速ことに当たろう。思い立ったが吉日日和、腹も空かねばなんとやら、もはや一刻の猶予もない。こうしているうちに待望の穴の底が目の前に現れるかもしれない。そして私の腹痛も限界だ!
……ああ、最悪だ。最悪の事態になってしまった。先ほどの私は愚かな選択をしてしまった。挑戦は失敗だ。まさに痴態をさらす事態に陥ってしまった。このままいくと私の死因は変死扱いになる可能性が極めて高い。
ズボンとパンツを脱いだところまではうまくいったのだ。しかし外れたベルトがスルリとすり抜け私の顔の決して高くはない鼻っ面に激突し、その痛みの拍子に掴んでいたズボンが手から離れパンツごと吹き飛んでどこかへ行ってしまった。アディオスパンツ。さよならアミーゴ。
私の今の姿はとても文章にするのは憚られる最も恐れていた姿になってしまった。
このまま次の瞬間、穴の底が眼下に現れた場合私は最悪の姿で激突してしまうだろう。それを避けるためにはもはや、上着を脱ぎ、全身生まれたままの姿にするべきだろうか、それとも往生際悪くTシャツを脱ぎ、そのTシャツを足に通して下半身だけは死守したほうが良いのだろうか。
こういう決断は非常に苦手だ。いままで私は決断というものを人生でしたことが無かった。決断しない人生。それが私の人生だった。生まれてこの方、何不自由無く幼少期を過ごし、学業を終えると人生の岐路には親が用意してくれた道をただひたすら歩み続ける人生だった。そうすれば幸せになれると教えられ、そのように生きてきたのだが、結果わけのわからぬまま好みの穴に身を投じ、ついに下半身は丸出しになり凍えている。
良いだろう。そっちがその気なら、私は今度こそ自分の運命に対峙しようと思う。この抑圧された服こそがそもそもの弱さの元凶だったのだ。ならば私はこの服を捨てていくっ!
落下し続けていると思っていたが実はこれは同じところをループしているんじゃないだろうか。知らない間にブラックホールのような次元の狭間に迷い込み、4次元や5次元の世界を永遠に落下し続ける。そんな感覚がしている。風を常に受けているためかろうじて下の方角はわかるがずっと落ち続けているのはやはりおかしい。真っ裸で言うのはなんだがこのまま地球を突き抜け反対側に出てしまったら捕まって別の国の刑務所に入れられてしまうかもしれない。
……寒い。恐れていた事態が来てしまった。
風速で身体の末端が寒くて凍える。
このままでは当初の目的の落下死より先に凍死してしまうかもしれない。いや間違いなくこのままでは凍死する。
息が白く身体中に霜が張り付き始めた。風のせいで体感温度はさらに下がり体温が奪われていく。意識が朦朧として遠くなる。もうダメか。
……なんだろう。寒さに慣れたせいか少しずつ暖かくなってきた。地熱だろうか。あたたかい。あたたかいって素晴らしい!脱いで良かったー。まるで常夏の中、ハワイのような楽園にやって来た開放感だ。ヤシの実やココナッツのジュースがあればなお良い。そろそろ喉やお腹が空いてきた。さきほどの霜を舐めて少しでも喉を潤そう。
……熱い。暑いではなく熱い。間違いなくこれはマグマだ、マグマが穴の壁面を流れている。これでは脱水症状を起こして死んでしまう。蒸気で視界が見えない。蒸し焼きか、黒焦げか。どちらにせよまともな死に方ではない。凍死のほうが眠るように死ねたはず。
火傷で死ぬのは苦しい。痛そうだ。いやだ。
あまりにも暑すぎる。鼻の穴や口が息をするたびに熱い。まるでサウナ。サウナは苦手なんだ。喉が焼ける。出たい!早くこのエリアを出たいー!
……また、普通の温度に戻ってきた。そして、まだかろうじて生きてる。もうきっとこれはあれだな。この穴には底は無いな。底の無い穴だ。ただ少しまずい問題が出てきた。壁面が近い。度々激突しそうになる。もっと穴の真ん中に戻るべきか、それとも来ない底を待つよりいっそ壁に身体を削られて死んでみるのはどうだろう。手や足を削られると痛いだろうから、やるなら頭からだ。頭から行けばスピードに乗っているから一気に削られる。でもスピードが乗りすぎているから、もしかしたら弾き飛ばされるかもしれない。そうなるとまるでピンボールだ。視界がジェットコースターのようにグニャグニャな軌道を描いて身体をあちこちにぶつけまくって死ぬだろう。
死因としては全身打撲による出血多量か痛みによるショック死。それはちょっと嫌だなぁ。
もしかして、私はもう死にたくないんじゃないだろうか。さっきからなんだかんだ理由をつけて生きたいと願っているような、そんな気がする。まさか、そうなのか? いや、気のせいだ。この後に及んで生きることを望むなど有り得ない。だいたいもう助かりはしない!私は死にたいからここに来た!そう死にたい、早く死にたい!死にたい死にたい!
……ついに私は悟りを開いてしまった。ブッダ、ダルマ、お釈迦様やチベットの高僧たちが宇宙の心理を知ったように。そう、この落下し続けている状態こそ、実はもう死んでいるのだ。これこそが、死。そして無。死シテ無二至ル道。
私は遂に死を克服してしまった。
…さっきは死を克服した気がしたが、なんだかお腹が空いてきた。よく考えたら心臓も動いてるし、やっぱりまだ生きてるな。
あー…底、遠いなぁー……
やっぱ、まだ生きてても良かったなぁ~
生きて、もう一回がんばってみたかったなぁ……
———そして、光が私の意識を包んで行く……
眩んだ目を開けると私は真っ裸のまま地平に立っていて、
目の前にはグレイ型宇宙人のような銀色の生命体が大きく目を見開き呆れた様子でこちらを見ていた。
……
……
……生きる?
うん!
どのくらい落下しているかと言うと、確認できる限りかれこれ二時間程度はゆうに落下していることになる。
もともと私には色々あって自分の人生を自らの意思で終わらせるべく、この巨大な穴へやって来た。
ここに巨大な穴があることは以前、環境を扱うニュースで知っており、私は自分がもし自殺をするのなら絶対にこの穴に身を投じて死のうと心に決めていた。
泣け無しの貯金を切り崩し、それではぜんぜん足りず、さらに数少ない友人たちに交通費を借金してまでこの穴にたどり着いてやっとの思いでの身投げだった。
穴の入り口はとても広く、おそらく直径は1km程度あっただろうか。
それはとても雄大な姿で私は眼前に広がるこの穴にいたく感動し、満足のうちに人生を思い返して涙涙に世の中に感謝し穴に身を投じた。
そしてはっきりここに身を投じればすぐさま死ねると考えていた。
投じてみて初めて気付いたのだが、その考えははっきり言って甘かった。
すぐ楽になれると思っていた考えは至極早計で、今にして思えばことさら浅はかだったと言わざる負えない。
次、また自殺する機会があるならば、ちゃんと底が見えている穴か、調査が完了して確実に底があると判明している穴に身を投じるべきだった。
軽い気持ちでなんとなくかっこいいからとか、大きくて良い感じだったなどの理由で未知の穴に身を投じるべきではない。
このまま永遠にフリーフォールよろしく落下をし続けて行く場合、不覚にも私の死因は「餓死」ということになり、当初目標の身投げによる死亡では無くなってしまう。
統計によると、ビルの屋上から身を投げた先人達の死亡原因の多くは、頭蓋の骨折や脳の損傷などでは無く、恐怖によるショック死なのだそうだ。
つまり酷く痛い想いをするくらいなら先に死んでしまえと脳が判断し、痛い想いを勝手に想像してそのショックのあまり死んでいる、ということらしい。
是非このまま身投げが成功しあの世に到達した暁には、身投げをした先人達に結局あなたの死因はなんだったのですか?とアンケートを取りたいと思うのだが、残念なことにそれはまだまだ先のことになる可能性が高い。
わたしが身を投じた直径1kmにも及ぶ巨大な穴の入り口は、身投げ後からグングンとその光を小さくし、ものの数分で針の穴ほども見えなくなってしまった。おそらくそれを確認していたのがまずかった。
わたしはその光がいつになったら見えなくなるのかなどと、上を見上げてそんなことばかり気を取られ、ついぞショック死する機会を失ってしまったのだ。一寸先は闇とは良く行ったものだ。
ちなみに今落下距離の計算がだいたい終わった。大体計算通りならば現在、落下し始めて深度1500kmくらいを通過したことになる。実際には空気抵抗があるので、ちょっと少ない目に見積もって1000kmぐらいを落下したくらいか。
1000kmと言えば東京から京都までの距離のおよそ3倍の距離だ。ただ落下するだけで京都にいけるならわざわざ新幹線や飛行機に乗らなくても軽々と移動できる。チケット代も払わなくていい。エコだ。
エコと言えばこの死に方もエコだ。環境を最小限しか汚さない。
望む通り地面に激突した場合、血や脳髄の液が飛び散るのだろうが、そのうち雨や微生物が分解してくれるはずである。仮に激突する底が有ればの話だが。
しかしまさかせっかくの死ぬ機会なのだから底が見えないくらいの穴に飛び込んで死にたいと思ってここまで来たのに、まさか本当に底が無い穴だったとはいやはやまいった。
思えば私の人生はこんなことの連続だった。要領が悪く運に見放されおまけに激突する穴の底にまで見放されるとはあぁ情けない。
あと、先程からトイレを我慢している。
小や中ではなく大のほうだ。この穴の中は気温が低く、腹の具合が悪くなったらしい。実は小の方は身を投げてからすでに二回ほど済ましてしまった。さすがに下着を汚すのは本望ではないので、ズボンの小窓からちょちょいとモノを取り出し、足にかからぬように細心の注意を払って済ますことができたのだが、大に関してそうはいかない。
このままパンツとズボンを脱ぎ捨て大をしてもよいのだが、これまた仮にその格好で穴の底に到達してしまった場合、私の死亡後の姿はとても文章にしたくない破廉恥で愚かな格好になってしまう。そういった死亡姿になることは本意ではなくできれば避けたい。
しかしこのままトイレを我慢したまま穴の底と対面する場合、わたしは激突後に衝撃で下着を汚すことになるかもしれない。さらに最悪の場合はズボンにまで汚れが到達する危険性も考えられる。やはりここはパンツとズボンを手に持ったままことに当たり、大きいモノとおさらばした後に再びパンツとズボンを履きベルトをしめるのが最善の策だ。その際紙で尻を拭きたいところだが、さすがにこれは諦めたほうが良さそうだ。向かい風が強いし、なによりチリ紙は切らしてしまっている。そうと決まれば早速ことに当たろう。思い立ったが吉日日和、腹も空かねばなんとやら、もはや一刻の猶予もない。こうしているうちに待望の穴の底が目の前に現れるかもしれない。そして私の腹痛も限界だ!
……ああ、最悪だ。最悪の事態になってしまった。先ほどの私は愚かな選択をしてしまった。挑戦は失敗だ。まさに痴態をさらす事態に陥ってしまった。このままいくと私の死因は変死扱いになる可能性が極めて高い。
ズボンとパンツを脱いだところまではうまくいったのだ。しかし外れたベルトがスルリとすり抜け私の顔の決して高くはない鼻っ面に激突し、その痛みの拍子に掴んでいたズボンが手から離れパンツごと吹き飛んでどこかへ行ってしまった。アディオスパンツ。さよならアミーゴ。
私の今の姿はとても文章にするのは憚られる最も恐れていた姿になってしまった。
このまま次の瞬間、穴の底が眼下に現れた場合私は最悪の姿で激突してしまうだろう。それを避けるためにはもはや、上着を脱ぎ、全身生まれたままの姿にするべきだろうか、それとも往生際悪くTシャツを脱ぎ、そのTシャツを足に通して下半身だけは死守したほうが良いのだろうか。
こういう決断は非常に苦手だ。いままで私は決断というものを人生でしたことが無かった。決断しない人生。それが私の人生だった。生まれてこの方、何不自由無く幼少期を過ごし、学業を終えると人生の岐路には親が用意してくれた道をただひたすら歩み続ける人生だった。そうすれば幸せになれると教えられ、そのように生きてきたのだが、結果わけのわからぬまま好みの穴に身を投じ、ついに下半身は丸出しになり凍えている。
良いだろう。そっちがその気なら、私は今度こそ自分の運命に対峙しようと思う。この抑圧された服こそがそもそもの弱さの元凶だったのだ。ならば私はこの服を捨てていくっ!
落下し続けていると思っていたが実はこれは同じところをループしているんじゃないだろうか。知らない間にブラックホールのような次元の狭間に迷い込み、4次元や5次元の世界を永遠に落下し続ける。そんな感覚がしている。風を常に受けているためかろうじて下の方角はわかるがずっと落ち続けているのはやはりおかしい。真っ裸で言うのはなんだがこのまま地球を突き抜け反対側に出てしまったら捕まって別の国の刑務所に入れられてしまうかもしれない。
……寒い。恐れていた事態が来てしまった。
風速で身体の末端が寒くて凍える。
このままでは当初の目的の落下死より先に凍死してしまうかもしれない。いや間違いなくこのままでは凍死する。
息が白く身体中に霜が張り付き始めた。風のせいで体感温度はさらに下がり体温が奪われていく。意識が朦朧として遠くなる。もうダメか。
……なんだろう。寒さに慣れたせいか少しずつ暖かくなってきた。地熱だろうか。あたたかい。あたたかいって素晴らしい!脱いで良かったー。まるで常夏の中、ハワイのような楽園にやって来た開放感だ。ヤシの実やココナッツのジュースがあればなお良い。そろそろ喉やお腹が空いてきた。さきほどの霜を舐めて少しでも喉を潤そう。
……熱い。暑いではなく熱い。間違いなくこれはマグマだ、マグマが穴の壁面を流れている。これでは脱水症状を起こして死んでしまう。蒸気で視界が見えない。蒸し焼きか、黒焦げか。どちらにせよまともな死に方ではない。凍死のほうが眠るように死ねたはず。
火傷で死ぬのは苦しい。痛そうだ。いやだ。
あまりにも暑すぎる。鼻の穴や口が息をするたびに熱い。まるでサウナ。サウナは苦手なんだ。喉が焼ける。出たい!早くこのエリアを出たいー!
……また、普通の温度に戻ってきた。そして、まだかろうじて生きてる。もうきっとこれはあれだな。この穴には底は無いな。底の無い穴だ。ただ少しまずい問題が出てきた。壁面が近い。度々激突しそうになる。もっと穴の真ん中に戻るべきか、それとも来ない底を待つよりいっそ壁に身体を削られて死んでみるのはどうだろう。手や足を削られると痛いだろうから、やるなら頭からだ。頭から行けばスピードに乗っているから一気に削られる。でもスピードが乗りすぎているから、もしかしたら弾き飛ばされるかもしれない。そうなるとまるでピンボールだ。視界がジェットコースターのようにグニャグニャな軌道を描いて身体をあちこちにぶつけまくって死ぬだろう。
死因としては全身打撲による出血多量か痛みによるショック死。それはちょっと嫌だなぁ。
もしかして、私はもう死にたくないんじゃないだろうか。さっきからなんだかんだ理由をつけて生きたいと願っているような、そんな気がする。まさか、そうなのか? いや、気のせいだ。この後に及んで生きることを望むなど有り得ない。だいたいもう助かりはしない!私は死にたいからここに来た!そう死にたい、早く死にたい!死にたい死にたい!
……ついに私は悟りを開いてしまった。ブッダ、ダルマ、お釈迦様やチベットの高僧たちが宇宙の心理を知ったように。そう、この落下し続けている状態こそ、実はもう死んでいるのだ。これこそが、死。そして無。死シテ無二至ル道。
私は遂に死を克服してしまった。
…さっきは死を克服した気がしたが、なんだかお腹が空いてきた。よく考えたら心臓も動いてるし、やっぱりまだ生きてるな。
あー…底、遠いなぁー……
やっぱ、まだ生きてても良かったなぁ~
生きて、もう一回がんばってみたかったなぁ……
———そして、光が私の意識を包んで行く……
眩んだ目を開けると私は真っ裸のまま地平に立っていて、
目の前にはグレイ型宇宙人のような銀色の生命体が大きく目を見開き呆れた様子でこちらを見ていた。
……
……
……生きる?
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