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静まり返る空間に不規則に落ちる水音が響く。雨が降っているのだろうか、それとも通り雨が過ぎて、空には大きな虹でも掛かっているのだろうか。考えた所で、目の前にある大きな鍵のついた鎖がその空想に陰を刺し、答えを知る事は叶わない。
この地下に放り込まれて、もう何日経ったのだろうか。
カラカラに張り付いて上手く飲み込めない喉元を擦り、柔く湿った己の唇を撫でた。
不意に白く柔い手が延びてくる。
飢えを覚えた私に、その腕から放たれる甘ったるい匂いが鼻腔を脳を腹を刺激させる。涎すら乾いた口が力無く開くと伸びた犬歯が下唇をゾワゾワと擽った。
「はぁ……」
平常心を装ったつもりだったのに、吐き出された溜め息が熱くて重い。ふつふつと湧き上がる様々な欲が私を襲ってくる。
心情を写した瞳はギラギラと紅く揺れているだろう。そんな私を小動物その物のような彼が嬉しそうな顔で見上げてくる。
「やめて……やめてよ。貴方を殺したくはないのに…」
鉄格子越しに伸びた腕は、躊躇うことも無く両耳を包み、背けようとした私の頬を撫でてくる。拒めない自分が情けなくて…欲望に抗えない瞳を隠すように伺えば、彼は真っ直ぐに私を見つめていた。
「僕を避けないで…拒まないでよ……お願い。君に喰われたっていいんだよ…養分になったっていい…ずっとずっと一緒に居れるのならそれで構わない」
そう言って、くしゃっと笑って出来た涙袋が重く不健康な影を消す。それがたまらなく愛おしくて、しょうがないのだ。彼の全てが欲しくて、どうしようもなくて…
人の創った道筋はそう簡単には変えられないのだな、と嘆いた…
――――――――――
どさりと重たい鞄を放り投げて、ため息を吐く。ジンジンと痛む足裏を揉みながら乱暴にストッキングを引っ張った。
適当に浴びたシャワーの後に首元の緩くなったtシャツを被って、缶ビール片手にスマホの画面をスライドさせる。
─────────────────
高瀬:明日までにチェックお願いします。
─────────────────
日野:お疲れ様です(^^)25日の予定確認お願いします♪
─────────────────
★特売★時間帯セール!!今だけ!!
─────────────────
溜まりに溜まった通知は疲れを増長させていく。
「あー、めんどくさぁ……」
─────────────────
new☆『吸血依存症』───ついに、完結。
「え、まじか……」
お気に入りに入れた小説の更新に嘆きながら、ソファに沈み込む。
嫌なことを考えさせないネット小説は大好きだ。
もう終わりを迎えるのかぁ……
期待を込めて、どこか寂しい気持ちで更新された章をタップし、その文字列にゆっくりと呑み込まれていく。
『吸血依存症』は異世界恋愛のカテゴリの更新欄に載っていて、たまたま読み始めた小説だった。ストーリーは真祖の吸血鬼の姫が主人公。人間の間違った解釈によって吸血鬼が迫害される世の中で、奔走する。吸血姫が初めて吸血した日を境に吸血衝動に苦しむが、人を救い人に救われながら勇者と旅をする──そんな冒険混じりな恋愛小説だ。
『魔法』や『勇者』、『吸血鬼』という異世界が大好きな私はすぐにのめり込んでいった。
それ以上に『彼』が報われるのを待っていた。ずっと待っていた。
期待と不安を胸にその文字列に呑み込まれていく。
この地下に放り込まれて、もう何日経ったのだろうか。
カラカラに張り付いて上手く飲み込めない喉元を擦り、柔く湿った己の唇を撫でた。
不意に白く柔い手が延びてくる。
飢えを覚えた私に、その腕から放たれる甘ったるい匂いが鼻腔を脳を腹を刺激させる。涎すら乾いた口が力無く開くと伸びた犬歯が下唇をゾワゾワと擽った。
「はぁ……」
平常心を装ったつもりだったのに、吐き出された溜め息が熱くて重い。ふつふつと湧き上がる様々な欲が私を襲ってくる。
心情を写した瞳はギラギラと紅く揺れているだろう。そんな私を小動物その物のような彼が嬉しそうな顔で見上げてくる。
「やめて……やめてよ。貴方を殺したくはないのに…」
鉄格子越しに伸びた腕は、躊躇うことも無く両耳を包み、背けようとした私の頬を撫でてくる。拒めない自分が情けなくて…欲望に抗えない瞳を隠すように伺えば、彼は真っ直ぐに私を見つめていた。
「僕を避けないで…拒まないでよ……お願い。君に喰われたっていいんだよ…養分になったっていい…ずっとずっと一緒に居れるのならそれで構わない」
そう言って、くしゃっと笑って出来た涙袋が重く不健康な影を消す。それがたまらなく愛おしくて、しょうがないのだ。彼の全てが欲しくて、どうしようもなくて…
人の創った道筋はそう簡単には変えられないのだな、と嘆いた…
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どさりと重たい鞄を放り投げて、ため息を吐く。ジンジンと痛む足裏を揉みながら乱暴にストッキングを引っ張った。
適当に浴びたシャワーの後に首元の緩くなったtシャツを被って、缶ビール片手にスマホの画面をスライドさせる。
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高瀬:明日までにチェックお願いします。
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「あー、めんどくさぁ……」
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「え、まじか……」
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もう終わりを迎えるのかぁ……
期待を込めて、どこか寂しい気持ちで更新された章をタップし、その文字列にゆっくりと呑み込まれていく。
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『魔法』や『勇者』、『吸血鬼』という異世界が大好きな私はすぐにのめり込んでいった。
それ以上に『彼』が報われるのを待っていた。ずっと待っていた。
期待と不安を胸にその文字列に呑み込まれていく。
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