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噂
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「改まって…何が言いたいわけ?」
扇子を広げ、大きくため息を吐いたレレイを真っ直ぐに見つめる
「ダリアン・ブロガンテ」
たった一言告げたその人名に聞き覚えがあったのか、レレイの片眉が僅かに動いた
「ご存知なんですね?」
「いや、いやよ…私は関わりたくないわ」
そう言うとレレイは馬車の外へと視線を逸らす
「長く続いた南側の国士戦争をたった18歳で終結させた名誉騎士、しかも黄金色の長い髪が良く似合う見目麗しい方らしいじゃないですか」
「はぁ?あの、腹に何を抱えてるかも分からない男が…あんた…まさかあんなのに惚れたっていうわけ?」
「えっ…いやっ…えっ?」
ダリアン・ブロガンテ
小説の中では、金色の長い髪にエメラルドグリーンの瞳を持ち、貴族にも民にも分け隔てのない笑顔で接する素敵な騎士と書かれていたから、そのままを言ったのだがどうやらレレイの好みではなかったようだ
もしくは…彼の本性を知っている、ということなのだろうか
ダリアンは小説の中で「聖女」を崇拝しており、帝国を宗教国にしようと企んでいた人物。つまり、「吸血鬼」の差別を助長させていた黒幕、元凶がダリアンということだ
ダリアンは戦争跡地にある古代遺跡の中で、滅びた悪魔を呼ぶ術式が刻まれた石板をいくつか発見する。その中に「聖女」だけが倒すことの出来る悪魔がいると知り、「聖女」の名声を高めようと密かに復元しようとしていた
だが、その術には「人間の生贄」が必要だった
それに気づいた時のダリアンはもちろん踏みとどまった
ダリアン自身が父親を戦争で失い、戦場では祖国を守る為に捨て身で襲いかかる敵兵を切り、共に戦った仲間達の死もその目で数多に見てきた
弄ばれていい命などはない、ということをダリアン自身が一番に分かっていた
それでも大罪人処刑後の遺体を使って術を試せば遺体は動き、密かに荒れた辺境の罪人墓地を使って術を使えば、墓から沢山の亡骸が這い上がり、呻き声を墓地内に響かせた
だが、まるで意思を持たないそれはどう見ても失敗だった
ダリアンは動揺したが、亡骸の動き自体はとても遅く、軽く払うだけでも手足が取れてしまうほどに脆かった。つまり墓地を徘徊する屍人が人の住まう村まで到達することもないだろうと考え、「失敗作」だとしても「聖女」が動くまでの時間は充分にある、と放置した
そのような判断で放置された屍人と、過去の殺人を犯した吸血鬼による顔色のない被害者の遺体が重なり、屍人を発見した村人によって勝手に吸血鬼の仕業だと広まるとダリアンもそれが「聖女」にとって都合のいい噂だと考えた
ダリアンは最終的に悪魔と契約しようとするまでになり命を落としてしまうのだが、他人の命を取捨選択することに慣れ、窮地に立たされた彼の愛が結局「聖女」ただ一人だけに捧げたいと考えた上での結末だと考えるとなんとも不器用で身勝手で後味の悪いものだ
「はぁ…あの気味が悪い男が結局何な訳?」
「あっ!それはもうぴったりくっついていて欲しいんです!」
「は…」
「ほら!レレイさんもなんか妙に後暗い感じのオーラ感じますよね?あの人に」
「は…」
「なんなら求婚状でも送って、それはもうべったりと」
「はぁ?いやよっ!!ただでさえ違法薬草栽培の研究を仄めかされたばかりなのよ?下手に絡んで、私が積み上げてきたものを無くしたくはないわよ」
「えー…レレイさんも帝国じゃ禁止されている奴隷市場に通い詰めてるらしいじゃないですか」
「うっ…まだ数回しか行ってないわよっ!はぁ…もうやだ…胃が痛いわ…」
どうやらすぐには首を縦に降ってはくれなさそうだ。だが、「彼」を食ってから一ヶ月後にダリアンが起こすある事件はどうしても阻止したい
「せめて狩猟大会までは…」
「もうぅ…何考えてるわけ?はぁ…狩猟大会が始まる1ヶ、それ以上は無理だから。とりあえずあいつを監視すればいいんでしょ?」
「監視だけじゃだめなんですっ!石板の解析を遅らせないとっ!!」
「せきばん?何よそれ…」
「あはは…でも、レレイさんのその美貌があればダリアンなんてイチコロだと思うんですよね」
「ふふ…ふふふ、そうよね!私に落とせない男なんていないのよ!」
「よっ!薔薇姫様!さすがっ!帝国一の魔女さま!!」
あんなに気味悪がっていた男を落とすというのに鼻高々に高笑いするレレイを見て思わず唖然としてしまう
チョロい、チョロすぎるぞこの魔女…
少しだけ心配になってくるが、ダリアンは既に墓荒らしすることへの抵抗がなくなり、新たな段階へと計画を進めているはずだ。少しでも情報が欲しい
「で…?あんたはこれからどうするわけ?」
考え込んでいると、いつの間にか正気に戻ったレレイがどこから出したのかも分からない書類の束を片手に持ち、こちらを見ていた
「あっ…今から皇城の地下牢にお邪魔しようかと」
「は?」
バサバサと手元から舞い落ちる書類の束には目もくれず、レレイが紫の瞳を零しそうなほどに見開き固まっている
「爆破とかしませんよ?こっそり…あくまでこっそりです」
「…あんた、本当に…何をしようとしているの?」
「あっ!灰青色の髪をした黒目の男の子知ってます?名前だけで、も…」
意識ははっきりしていたはずなのに急激に瞼が重くなる。抗えない眠気の中で視界に映るレレイが冷めたような目でこちらを見下ろしているのを見つけて、そこで意識は途切れた
扇子を広げ、大きくため息を吐いたレレイを真っ直ぐに見つめる
「ダリアン・ブロガンテ」
たった一言告げたその人名に聞き覚えがあったのか、レレイの片眉が僅かに動いた
「ご存知なんですね?」
「いや、いやよ…私は関わりたくないわ」
そう言うとレレイは馬車の外へと視線を逸らす
「長く続いた南側の国士戦争をたった18歳で終結させた名誉騎士、しかも黄金色の長い髪が良く似合う見目麗しい方らしいじゃないですか」
「はぁ?あの、腹に何を抱えてるかも分からない男が…あんた…まさかあんなのに惚れたっていうわけ?」
「えっ…いやっ…えっ?」
ダリアン・ブロガンテ
小説の中では、金色の長い髪にエメラルドグリーンの瞳を持ち、貴族にも民にも分け隔てのない笑顔で接する素敵な騎士と書かれていたから、そのままを言ったのだがどうやらレレイの好みではなかったようだ
もしくは…彼の本性を知っている、ということなのだろうか
ダリアンは小説の中で「聖女」を崇拝しており、帝国を宗教国にしようと企んでいた人物。つまり、「吸血鬼」の差別を助長させていた黒幕、元凶がダリアンということだ
ダリアンは戦争跡地にある古代遺跡の中で、滅びた悪魔を呼ぶ術式が刻まれた石板をいくつか発見する。その中に「聖女」だけが倒すことの出来る悪魔がいると知り、「聖女」の名声を高めようと密かに復元しようとしていた
だが、その術には「人間の生贄」が必要だった
それに気づいた時のダリアンはもちろん踏みとどまった
ダリアン自身が父親を戦争で失い、戦場では祖国を守る為に捨て身で襲いかかる敵兵を切り、共に戦った仲間達の死もその目で数多に見てきた
弄ばれていい命などはない、ということをダリアン自身が一番に分かっていた
それでも大罪人処刑後の遺体を使って術を試せば遺体は動き、密かに荒れた辺境の罪人墓地を使って術を使えば、墓から沢山の亡骸が這い上がり、呻き声を墓地内に響かせた
だが、まるで意思を持たないそれはどう見ても失敗だった
ダリアンは動揺したが、亡骸の動き自体はとても遅く、軽く払うだけでも手足が取れてしまうほどに脆かった。つまり墓地を徘徊する屍人が人の住まう村まで到達することもないだろうと考え、「失敗作」だとしても「聖女」が動くまでの時間は充分にある、と放置した
そのような判断で放置された屍人と、過去の殺人を犯した吸血鬼による顔色のない被害者の遺体が重なり、屍人を発見した村人によって勝手に吸血鬼の仕業だと広まるとダリアンもそれが「聖女」にとって都合のいい噂だと考えた
ダリアンは最終的に悪魔と契約しようとするまでになり命を落としてしまうのだが、他人の命を取捨選択することに慣れ、窮地に立たされた彼の愛が結局「聖女」ただ一人だけに捧げたいと考えた上での結末だと考えるとなんとも不器用で身勝手で後味の悪いものだ
「はぁ…あの気味が悪い男が結局何な訳?」
「あっ!それはもうぴったりくっついていて欲しいんです!」
「は…」
「ほら!レレイさんもなんか妙に後暗い感じのオーラ感じますよね?あの人に」
「は…」
「なんなら求婚状でも送って、それはもうべったりと」
「はぁ?いやよっ!!ただでさえ違法薬草栽培の研究を仄めかされたばかりなのよ?下手に絡んで、私が積み上げてきたものを無くしたくはないわよ」
「えー…レレイさんも帝国じゃ禁止されている奴隷市場に通い詰めてるらしいじゃないですか」
「うっ…まだ数回しか行ってないわよっ!はぁ…もうやだ…胃が痛いわ…」
どうやらすぐには首を縦に降ってはくれなさそうだ。だが、「彼」を食ってから一ヶ月後にダリアンが起こすある事件はどうしても阻止したい
「せめて狩猟大会までは…」
「もうぅ…何考えてるわけ?はぁ…狩猟大会が始まる1ヶ、それ以上は無理だから。とりあえずあいつを監視すればいいんでしょ?」
「監視だけじゃだめなんですっ!石板の解析を遅らせないとっ!!」
「せきばん?何よそれ…」
「あはは…でも、レレイさんのその美貌があればダリアンなんてイチコロだと思うんですよね」
「ふふ…ふふふ、そうよね!私に落とせない男なんていないのよ!」
「よっ!薔薇姫様!さすがっ!帝国一の魔女さま!!」
あんなに気味悪がっていた男を落とすというのに鼻高々に高笑いするレレイを見て思わず唖然としてしまう
チョロい、チョロすぎるぞこの魔女…
少しだけ心配になってくるが、ダリアンは既に墓荒らしすることへの抵抗がなくなり、新たな段階へと計画を進めているはずだ。少しでも情報が欲しい
「で…?あんたはこれからどうするわけ?」
考え込んでいると、いつの間にか正気に戻ったレレイがどこから出したのかも分からない書類の束を片手に持ち、こちらを見ていた
「あっ…今から皇城の地下牢にお邪魔しようかと」
「は?」
バサバサと手元から舞い落ちる書類の束には目もくれず、レレイが紫の瞳を零しそうなほどに見開き固まっている
「爆破とかしませんよ?こっそり…あくまでこっそりです」
「…あんた、本当に…何をしようとしているの?」
「あっ!灰青色の髪をした黒目の男の子知ってます?名前だけで、も…」
意識ははっきりしていたはずなのに急激に瞼が重くなる。抗えない眠気の中で視界に映るレレイが冷めたような目でこちらを見下ろしているのを見つけて、そこで意識は途切れた
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