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番外編:⑥若旦那の恋ときどき嫉妬
「うらら、飯、まだか?」
「うん、あと少しで炊けるよ。ちょっと待ってて」
「じゃあ、ここで待つ」
「……台所の真ん中に正座されても、邪魔だよ」
「いいだろ、夫婦なんだから」
「もうっ……」
ふぅ、と小さなため息をついて、
それでもうららは、慣れた手つきで味噌汁をよそう。
振り返ると、慶次郎がじっと見つめていた。
「……なに?」
「いや。やっぱ、お前は台所が似合うな」
「それ、褒めてる?」
「最高に褒めてる」
(もう……)
頬が自然と熱くなる。
◆◇◆
結婚して、まだ数ヶ月。
毎日が初めて尽くしで、忙しいはずなのに、
この人は――毎日、こうだ。
朝起きれば、
「おはよう、今日のうららは特に可愛いな」
昼間は、
「番頭と話すとき、ちょっと声が甘くなってないか? 俺にもその声で話せよ」
夜になれば、
「布団、冷たくないか? ……じゃあ俺で温めてやるよ」
もう、どれだけ甘い言葉を浴びせてくるのか数えきれない。
しかも。
「おい、誰だ、うららのこと“ええ女将さんになったねぇ”って言ったのは」
「え? 裏の魚屋の……」
「……魚は二度と買わん」
「ちょっと!?」
「うらら、あの旅道具屋のおやじに話しかけられてたな」
「商品の話よ?」
「いや、目が違った」
「魚屋さんと同じ扱いするつもり?」
「うらら、町の子どもにまでモテてるな。すげぇな」
「ふふ、嬉しいなぁ」
「でも、抱きついてきたのはさすがに許さん」
「三つの子だよ!?」
溺愛、という言葉でも足りない気がする。
四六時中、目を離せば拗ねるし、
誰かが褒めれば機嫌が悪くなるし、
ちょっとそっけなくすると、すぐにふすまをドン!と押さえる。
「うらら」
「……なに?」
「壁の向こうから聞こえたあの声、誰に話してた?」
「おふじさんだけど」
「ならいい」
「じゃあ、ふすまをドンする意味は……」
「クセだ」
「クセなの!?」
それでも、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、言葉の端にある愛情の重さが、
くすぐったくも、ありがたくて、
こうして毎日笑っていられることが嬉しかった。
◆◇◆
ある晩。
慶次郎が、少し酔って帰ってきた。
「うららぁ……」
「おかえり。飲みすぎじゃないの?」
「んー……でも、今日は言わなきゃいけない気がして」
「何を?」
彼はうららの手を取って、真剣な顔をした。
「俺、お前のことが、好きすぎる」
「……うん」
「どれくらい好きかっていうと……」
「うんうん」
「毎日、ちょっとずつ寿命削ってでも、お前に好きって言いたいくらい」
「そんなに削らないで」
「でも、止まらん」
そう言って彼は、うららの手の甲に、
静かに口づけた。
「……ありがとね、慶次郎さん」
「ん?」
「いっぱい、好きでいてくれて」
言い終えた瞬間、慶次郎は顔を真っ赤にして押し倒してきた。
「うらら、今の……もう一回言って」
「や、やだ!」
「頼む! 一生に一度でいいから!」
「……一生に一度なら、今さっき使ったからもう終わり!」
「待て! 寿命削ってもいいからもう一回だけ!」
「もうっ……!!」
ふたりの声が、春の夜に響いていた。
これが、
蓬莱屋の若旦那の、ちょっとめんどくさいくらいに幸せな日常。
春燈の下で、今日も甘く、温かい灯りが揺れていた。
「うん、あと少しで炊けるよ。ちょっと待ってて」
「じゃあ、ここで待つ」
「……台所の真ん中に正座されても、邪魔だよ」
「いいだろ、夫婦なんだから」
「もうっ……」
ふぅ、と小さなため息をついて、
それでもうららは、慣れた手つきで味噌汁をよそう。
振り返ると、慶次郎がじっと見つめていた。
「……なに?」
「いや。やっぱ、お前は台所が似合うな」
「それ、褒めてる?」
「最高に褒めてる」
(もう……)
頬が自然と熱くなる。
◆◇◆
結婚して、まだ数ヶ月。
毎日が初めて尽くしで、忙しいはずなのに、
この人は――毎日、こうだ。
朝起きれば、
「おはよう、今日のうららは特に可愛いな」
昼間は、
「番頭と話すとき、ちょっと声が甘くなってないか? 俺にもその声で話せよ」
夜になれば、
「布団、冷たくないか? ……じゃあ俺で温めてやるよ」
もう、どれだけ甘い言葉を浴びせてくるのか数えきれない。
しかも。
「おい、誰だ、うららのこと“ええ女将さんになったねぇ”って言ったのは」
「え? 裏の魚屋の……」
「……魚は二度と買わん」
「ちょっと!?」
「うらら、あの旅道具屋のおやじに話しかけられてたな」
「商品の話よ?」
「いや、目が違った」
「魚屋さんと同じ扱いするつもり?」
「うらら、町の子どもにまでモテてるな。すげぇな」
「ふふ、嬉しいなぁ」
「でも、抱きついてきたのはさすがに許さん」
「三つの子だよ!?」
溺愛、という言葉でも足りない気がする。
四六時中、目を離せば拗ねるし、
誰かが褒めれば機嫌が悪くなるし、
ちょっとそっけなくすると、すぐにふすまをドン!と押さえる。
「うらら」
「……なに?」
「壁の向こうから聞こえたあの声、誰に話してた?」
「おふじさんだけど」
「ならいい」
「じゃあ、ふすまをドンする意味は……」
「クセだ」
「クセなの!?」
それでも、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、言葉の端にある愛情の重さが、
くすぐったくも、ありがたくて、
こうして毎日笑っていられることが嬉しかった。
◆◇◆
ある晩。
慶次郎が、少し酔って帰ってきた。
「うららぁ……」
「おかえり。飲みすぎじゃないの?」
「んー……でも、今日は言わなきゃいけない気がして」
「何を?」
彼はうららの手を取って、真剣な顔をした。
「俺、お前のことが、好きすぎる」
「……うん」
「どれくらい好きかっていうと……」
「うんうん」
「毎日、ちょっとずつ寿命削ってでも、お前に好きって言いたいくらい」
「そんなに削らないで」
「でも、止まらん」
そう言って彼は、うららの手の甲に、
静かに口づけた。
「……ありがとね、慶次郎さん」
「ん?」
「いっぱい、好きでいてくれて」
言い終えた瞬間、慶次郎は顔を真っ赤にして押し倒してきた。
「うらら、今の……もう一回言って」
「や、やだ!」
「頼む! 一生に一度でいいから!」
「……一生に一度なら、今さっき使ったからもう終わり!」
「待て! 寿命削ってもいいからもう一回だけ!」
「もうっ……!!」
ふたりの声が、春の夜に響いていた。
これが、
蓬莱屋の若旦那の、ちょっとめんどくさいくらいに幸せな日常。
春燈の下で、今日も甘く、温かい灯りが揺れていた。
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