怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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04)消えた踏切

それは、私が新聞記者として働いていた頃の話だ。
 オカルト事件や未解決失踪事件を担当していた私は、ある日、ある地方の小さな町で「奇妙な踏切」の噂を耳にした。

「あの踏切を夜中に渡ると、戻ってこられない」

 最初はよくある都市伝説の一つだろうと軽く考えていた。
 だが、詳しく調べていくうちに、妙なことに気がついた。

 実際に、その踏切を渡ったまま行方不明になった人間が何人もいるのだ。

 噂の踏切は、〇〇町の外れにあった。
 廃線になった鉄道の一部で、もう列車は通らないはずだった。

 だが、その踏切にはなぜか警報機がついており、夜中に時折鳴るというのだ。

 しかも、不思議なことに、その音を聞いた人が近づくと、ちょうどその瞬間に音が止まるという。

 そして——

 音が止まった踏切を渡ると、二度と戻ってこられない。

 その話を聞いた私は、調査のために地元の警察に問い合わせた。

 だが、返ってきたのは曖昧な返答だった。

「確かに、何人か行方不明になった人はいるが……それが踏切と関係あるかどうかは分からない」

「しかし、偶然にしては多すぎるのでは?」

「……まあ、あまり詮索しないほうがいい」

 警察はそれ以上は話したがらなかった。

***********************************

 私は、直接その踏切へ向かうことにした。

 昼間の踏切は、特に不気味な感じはなかった。
 線路は錆びつき、枕木は朽ち果て、雑草が生い茂っている。

「……ただの廃線じゃないか」

 私は、軽く溜息をついた。

 しかし、現地で話を聞いているうちに、ある共通点が浮かび上がった。

 行方不明になった人たちは、全員夜にこの踏切を訪れていた。

 夜になると、何かが起こるのか?

 私は、その日の夜、もう一度この踏切へ行くことにした。

 夜の踏切は、まるで別の世界だった。

 辺りは深い闇に包まれ、月明かりだけがかすかに線路を照らしている。
 人の気配はなく、風が草を揺らす音だけが響いていた。

 私は、慎重に周囲を見渡しながら待った。

 午前一時を過ぎた頃——

カンカンカン……

 踏切の警報音が鳴り響いた。

 私は息を呑んだ。

 ここは廃線のはずだ。列車など通るはずがない。

 しかし——

 赤い警報灯が点滅し、遮断機がゆっくりと降りていく。

「……ありえない」

 私は震える手でカメラを構え、踏切の様子を撮影した。

 そして、恐る恐る近づき、遮断機の向こう側を覗き込んだ。

 すると——

 暗闇の中から、ぼんやりとした光が近づいてきた。

 それは、まるで列車のライトのようだった。

 次の瞬間、冷たい風が吹き抜けた。

 私は反射的に身を引いた。

 すると、警報音がピタリと止まった。

 辺りは再び静寂に包まれる。

 そして、私は気づいた。

 遮断機の向こう側に、誰かが立っている。

 闇の中、微かに浮かび上がる影があった。

 それは、ぼろぼろの服を着た男の姿だった。

 顔は見えない。しかし、こちらをじっと見ている気配がする。

「……誰だ?」

 私は声をかけた。

 しかし、男は答えない。

 ただ、ゆっくりと手を上げ、私に向かって指をさした。

 その瞬間——

 世界が歪んだ。

 気づくと、私は見知らぬ場所に立っていた。

 踏切はなく、周囲には朽ち果てた建物が並んでいる。

 いや——これは廃墟になった駅だ。

 私は、自分がいつの間にか線路の上に立っていることに気づいた。

 周囲を見渡したが、どこにも道はなく、出口も見えない。

 そして——

 私は、遠くから聞こえてくる音に気づいた。

カンカンカン……

 再び、踏切の警報音が鳴り始めた。

 その音は、どんどん大きくなる。

 私は全身の血が引いた。

 何かが、こちらに向かってくる。

 私は、線路の先を見た。

 すると——

 暗闇の中から、ありえないものが現れた。

 それは、人々がぎっしりと詰まった列車だった。

 窓の中には、無数の青白い顔が並んでいた。

 彼らは、私を見ている。

 いや——私を呼んでいる。

「オイデ……」

 どこからか、囁き声が聞こえた。

 足がすくんだ。

 列車は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 私は、動けなかった。

 その時——

「おい!」

 誰かの声が聞こえた。

 次の瞬間、私は強い力で引っ張られた。

 気がつくと、私は踏切の前で倒れていた。

 朝日が昇り始めていた。

「……夢?」

 いや、そんなはずはない。

 私は、足元を見た。

 そこには、古びた切符が落ちていた。

 それは、行き先の書かれていない切符だった。

***********************************

 それ以来、私は二度とあの踏切に近づいていない。

 あれが何だったのか、説明できる言葉を私は持たない。

 ただ一つ、確かなことがある。

 あの踏切は、まだどこかへ続いている。

 そして、次にそこを渡るのは——あなたかもしれない。

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