怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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14)視線の先

視線の先
 私は、あの夜のことを今でも忘れることができない。
 あれは、私が東京のアパートに住んでいた頃の話だ。

***********************************

 当時、私は夜遅くまで仕事をすることが多く、帰宅するのはいつも深夜だった。
 ワンルームの小さなアパートは、駅から徒歩10分ほどの距離にあり、決して悪い立地ではなかった。

 しかし、ある時から違和感を覚えるようになった。

 夜、部屋にいると、ふと誰かに見られているような気がするのだ。

 最初は気のせいだと思っていた。

 だが、それは日に日に強くなっていった。

 ある夜、帰宅した私は、玄関のドアを開ける前に何気なく覗き穴を覗いた。

 しかし、そこには——

 何も見えなかった。

 いや、正確には、何かが塞いでいたのだ。

 私は息を呑んだ。

 誰かが、ドアの向こうに立っている。

 しかし、ピンポンも鳴らしていないし、気配もない。

 私は恐る恐るドアノブに手をかけた。

 しかし、今すぐに開けるべきではないと直感的に感じた。

 ポケットからスマホを取り出し何の気ない振りで、

「あれ?着信が入ってたのか」

 と、わざと少し声を出した。

 それからガチャガチャとわざと音を出しながら鍵を開け、何事もなかったかのように部屋に入った。

 ドアを閉めた瞬間、外でカタッと小さな音がした。

 それ以来、妙な現象が続いた。

 夜中の足音、窓の外からの視線、玄関前に立つ気配。

 私は気味が悪くなり、友人に相談した。

「……それ、ストーカーじゃない?」

 友人はそう言ったが、私は違う気がしていた。

 あの気配は、ただの人間のものではない。

 私は念のため、管理人に防犯カメラの映像を確認させてもらった。

 しかし——

 「特に不審な人物は映っていませんね」

 管理人は、そう言った。

 だが、私は確かに感じていた。

 誰かが、私を見ている。

 ある晩、私はふと洗面所の鏡を見た。

 そこに——

 知らない誰かが映っていた。

 私は、叫びそうになったが、声が出なかった。

 それは、ぼんやりとした人影だった。

 長い髪、痩せた腕、そして、異様に黒い目。

 しかし——

 振り向いても、誰もいなかった。

 私は、全身の血が引くのを感じた。

 これはもう、ストーカーや気のせいなどではない。

 "何か"が、ここにいるのだ。

 その夜、私は疲れ果てて布団に入った。

 しかし、眠れなかった。

 なぜなら、耳元でかすかな息遣いが聞こえたからだ。

 「……いる」

 私は、震えながら布団を頭までかぶった。

 すると、スマホの通知が鳴った。

 誰からだろう……?

 恐る恐る画面を開くと、「不明な番号」からのメッセージが届いていた。

 そこには——

 『おまえの後ろにいるよ』

 私は、心臓が止まりそうになった。

 そして、次の瞬間——

 背後から、冷たい手が肩に触れた。

***********************************

 それから、私はその部屋を引っ越した。

 しかし、それで終わりではなかった。

 新しい部屋でも、時折、視線を感じることがある。

 玄関の覗き穴が真っ暗になっていることがある。

 鏡の中に、何かが映ることがある。

 そして、たまに——

 スマホに**「不明な番号」からメッセージが届くのだ。

 『今も見ているよ』

 ……あなたの部屋にも、何かがいるかもしれない。

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