怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

文字の大きさ
30 / 147

30)コインロッカーの中のもの

東京都内には、数え切れないほどのコインロッカーがある。
 駅の構内、繁華街の隅、地下道の一角。
 それらは日々、多くの人々に利用されているが——

 時々、**「開けてはいけないロッカー」**が存在する。

***********************************

 これは、都内に住むSさんが体験した話である。

 その日、彼は仕事帰りに新宿駅のコインロッカーを利用した。
 重たいカバンを一時的に預け、軽い身で飲みに行くためだった。

 ロッカーはほぼ埋まっていたが、端の方に一つだけ空きがあった。

 彼はカバンを入れ、鍵をかけた。

 そして、3時間後——

 酔い覚ましに戻ってくると、ロッカーの扉が少し開いていた。

 「え……?」

 確かに、鍵をかけたはずなのに。

 嫌な予感がしながらも、扉を開けると——

 中には、見知らぬ鍵が置かれていた。

 その鍵は、Sさんが使用したものではなかった。

 手に取ると、タグには「089」と書かれていた。

 「……このロッカーの番号じゃないな」

 気味が悪かったが、放置するわけにもいかず、彼は駅員に届けることにした。

 だが、駅員は不思議そうな顔をした。

 「089番のロッカー……ですか?」

 「ええ、これの鍵が入ってたんです」

 駅員はしばらく端末を操作した後、首を傾げた。

 「お客様、うちの駅には089番のロッカーは存在しませんよ」

 「……え?」

 Sさんは、全身に鳥肌が立った。

 089番のロッカーがない?

 では、この鍵は一体何なのか?

 Sさんは気味悪くなり、駅員に鍵を預けてその場を離れた。

 しかし、翌日——

 彼のポストに、同じ鍵が入っていた。

 鍵のタグには、やはり「089」と書かれている。

 Sさんは混乱した。

 駅に届けたはずの鍵が、なぜ自分のポストに?

 そして、その夜——

 スマホに「非通知」から着信があった。

 恐る恐る出ると、低い女の声でこう囁かれた。

 「……開けて」

 Sさんは、震えながら電話を切った。

 数日後、Sさんは意を決して、都内の別の駅でコインロッカーを調べた。

 そして、ある地下通路の奥で——

 089番のロッカーを見つけた。

 存在しないはずのロッカーが、そこにあったのだ。

 鍵穴は、持っている鍵とぴったり合いそうだった。

 Sさんは、躊躇した。

 だが、何かに導かれるように、鍵を差し込んだ。

 カチリ

 ロッカーの扉が開く——

 中には、古びたスマホが一台、置かれていた。

 それ以外、何もない。

 Sさんは、震える手でスマホを手に取った。

 その瞬間——

 画面が勝手に点灯した。

 そして、通話アプリが開かれた。

 そこには、たった一件の未送信メッセージがあった。

 それは、Sさんの名前宛てだった。

 「089番ロッカーを開けないで」

 Sさんは、血の気が引いた。

 そのメッセージは、送信者不明だった。

 しかし、よく見ると、送信者のアイコンには——

 自分とそっくりな顔が映っていた。

 Sさんは、恐怖でその場を逃げ出した。

 翌日、再びあの地下通路へ行った。

 しかし、そこには089番のロッカーはなかった。

 管理事務所で尋ねても、「最初から存在しない」と言われた。

 だが、それ以来——

 Sさんのスマホには、時々知らない番号から着信が入るようになった。

 その番号は、常に**「089」**で始まっていた。

***********************************

 もし、あなたが都内のコインロッカーを使った時——

 見知らぬ鍵が入っていたら、絶対に拾ってはいけない。

 なぜなら、それは——

 存在しないロッカーへの招待状だから。

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
【累計55万PV突破‼】 話題作「アンケートに答えたら、人生が終わった話」が10万PVを記録。 日常に潜む“逃げ場のない恐怖”を集めた、戦慄の短編集。 その違和感は、もう始まっている。 帰り道、誰もいないはずの部屋、何気ない会話。 どこにでもある日常が、ある瞬間、取り返しのつかない異常へと変わる。 意味が分かると凍りつく話。 理由もなく、ただ追い詰められていく話。 そして、最後の一行で現実がひっくり返る話。 1話1000〜2000文字。隙間時間で読める短編ながら、 読み終えたあと、ふとした静寂が怖くなる。 これはすべて、どこかで起きていてもおかしくない話。 ――あなたのすぐ隣でも。 洒落にならない実話風・創作ホラー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。