怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

文字の大きさ
73 / 147

73)夜泣き石

昔から日本各地には、「夜泣き石(よなきいし)」と呼ばれる怪談が残っている。
 夜になると、まるで泣いているように音を立てる石。
 それにまつわる悲しい伝説。
 しかし——

 「石の涙を見た者は、生きて帰れない」

 これは、実際に起きた出来事である。

***********************************

 Tさん(40代・男性)は、地方の歴史を研究する学者だった。

 ある日、彼はとある山奥の村を訪れた。

 そこには、古くから「夜泣き石」の伝説が残っていた。

 村の古老は、静かに語った。

 「夜になると、石が泣くのじゃ……」

 「そして、その涙を見た者は、必ず消える」

 Tさんは、その話をただの迷信だと思った。

 しかし、村人たちは誰一人として夜にその場所へ近づこうとしなかった。

 Tさんは、どうしてもその「夜泣き石」を見たかった。

 村人に場所を尋ねると、しぶしぶ教えてくれた。

 「村の外れ、古い峠道の途中にある……」

 「誰も近づかないのですか?」

 村人は、低い声で答えた。

 「昔、ある女が石にされたのじゃ」

 「それ以来、夜になると泣き続けておる」

 「面白い話ですね」

 Tさんは、軽い気持ちでその場所へ向かった。

 日が傾く頃、Tさんは峠道を歩いていた。

 山道の途中、ぽつんと異様な形の石が立っていた。

 まるで、人間がしゃがみこんで泣いているかのような形。

 「これが、夜泣き石か……」

 触ってみると、ひんやりと冷たかった。

 「こんな石が泣くわけがない」

 そう思い、Tさんは写真を撮り、日が落ちるのを待った。

 夜10時。

 峠道には誰もいなかった。

 Tさんは、じっと石を見つめていた。

 「……ヒュウウ……」

 風が木々を揺らし、不気味な音を立てる。

 しかし、石は何も言わない。

 「やっぱり迷信か」

 Tさんが帰ろうとした、その時——

 「ヒ……ヒィ……ヒィ……」

 微かな泣き声が、耳元で聞こえた。

 Tさんは、息を呑んだ。

 石をじっと見つめる。

 すると——

 石の表面に、黒いしずくが流れていた。

 まるで、本当に涙を流しているように。

 「これは……」

 Tさんは、研究者としての好奇心が勝った。

 スマホを取り出し、涙を拭い取ろうとした。

 しかし——

 「……見たな?」

 背後で、誰かが囁いた。

 Tさんは、ゾクリと背筋が凍った。

 急いで振り返ったが、誰もいない。

 「風の音か?」

 そう思いながらも、石を見る。

 すると、石の形が変わっていた。

 Tさんは、信じられなかった。

 さっきまでしゃがんでいた形の石が、ゆっくりと立ち上がっていたのだ。

 まるで、女が立ち上がるように。

 その瞬間——

 「……見たな?」

 再び、耳元で声がした。

 Tさんは、必死で村へと走り戻った。

 翌朝、村人たちに昨夜の出来事を話した。

 すると——

 村人たちは、顔を真っ青にした。

 「夜泣き石の涙を見たのか!?」

 「ええ、確かに黒いしずくが……」

 村人たちは、低く囁いた。

 「見た者は、必ず連れて行かれる」

 Tさんは、そんなこと信じなかった。

 しかし、その日——

 村の若者が、一人姿を消した。

 その若者は、Tさんが夜泣き石を見に行くのを止めようとした人物だった。

***********************************

 Tさんは、急いで村を離れた。

 しかし、それから数日後——

 彼のスマホに、見覚えのない番号から通知が届いた。

 「……見たな?」

 もし、あなたが夜泣き石を見つけても——

 決して、その涙を見てはいけない。

 そして、もし——

 「見たな?」という声が聞こえたら。

 その瞬間、あなたの影は——

 石と一体化しているかもしれない。

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
【累計55万PV突破‼】 話題作「アンケートに答えたら、人生が終わった話」が10万PVを記録。 日常に潜む“逃げ場のない恐怖”を集めた、戦慄の短編集。 その違和感は、もう始まっている。 帰り道、誰もいないはずの部屋、何気ない会話。 どこにでもある日常が、ある瞬間、取り返しのつかない異常へと変わる。 意味が分かると凍りつく話。 理由もなく、ただ追い詰められていく話。 そして、最後の一行で現実がひっくり返る話。 1話1000〜2000文字。隙間時間で読める短編ながら、 読み終えたあと、ふとした静寂が怖くなる。 これはすべて、どこかで起きていてもおかしくない話。 ――あなたのすぐ隣でも。 洒落にならない実話風・創作ホラー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。