怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

文字の大きさ
87 / 147

87)ナイトマーチャーズの行進(ハワイ)

1. ハワイの夜の足音
 ハワイ——
 美しいビーチ、陽気な音楽、そして青い空が広がる楽園の島。

 しかし、この楽園には古くから恐れられる存在がいる。

 それは、**「ナイトマーチャーズ(Night Marchers)」**と呼ばれる霊たちの行進である。

 「夜に山の近くで太鼓の音が聞こえたら、決して外に出てはいけない」
 「もし行進に遭遇したら、決して目を合わせるな」

 これは、実際にナイトマーチャーズを見てしまった男の話である。

2. 禁じられた山道
 Tさん(30代・男性)は、日本からハワイへ移住したばかりだった。

 仕事の合間に現地の文化を学び、ローカルの友人とも親しくなった。

 ある日、地元の知人のマカニが忠告した。

 「夜に山道には行くなよ。特に、カウアイ島のワイメア渓谷は危ない。」

 「なんで?」

 マカニは、真剣な顔で言った。

 「ナイトマーチャーズが通るんだ」

 Tさんは、笑った。

 「そんなの、ただの昔話でしょ?」

 しかし、その夜——
 Tさんはワイメア渓谷の近くで、恐ろしいものを目にすることになる。

3. 遠くから聞こえる太鼓
 夜11時過ぎ、Tさんは仕事帰りに車を走らせていた。

 ハワイの夜道は、驚くほど暗い。

 車のヘッドライトだけが、頼りだった。

 すると、突然——

 「ドン……ドン……ドン……」

 太鼓の音が、どこからか響いてきた。

 「……なんだ?」

 音は、だんだん大きくなってくる。

 それと同時に、視界の端に動く影が見えた。

4. 霧の中の行進
 Tさんは、車を路肩に停めた。

 道の向こう側に、異様な光景が広がっていた。

 松明を持った男たちが、ゆっくりと歩いている。

 大きな兜をかぶり、槍を持った男たち——
 まるで、戦士の行列のようだった。

 だが——

 彼らの足が、地面に触れていなかった。

 Tさんの心臓が、早鐘のように鳴る。

 「これが、ナイトマーチャーズ……?」

5. 目が合ったら終わり
 マカニの言葉を思い出した。

 「ナイトマーチャーズを見たら、決して目を合わせるな。」

 Tさんは、すぐに車の中に身を伏せた。

 しかし——

 「ドン……ドン……ドン……」

 太鼓の音は、すぐそばまで近づいていた。

 Tさんは、息を潜めた。

 そして——

 窓のすぐ外に、戦士の顔があった。

6. 亡霊の視線
 Tさんは、凍りついた。

 戦士の顔は、青白く、目が真っ黒だった。

 しかし、戦士はまっすぐ前を向いたまま、通り過ぎていった。

 Tさんは、恐怖で体が動かなかった。

 だが、その時——

 「おい、お前……」

 低い声が、耳元で囁いた。

7. もう一つの影
 Tさんは、恐る恐る顔を上げた。

 そこには——

 さっきの戦士が、車の窓越しに覗き込んでいた。

 目が合った。

 次の瞬間——

 Tさんの意識は、真っ暗になった。

8. 消えた時間
 気がつくと、Tさんは車の中で朝を迎えていた。

 「……何があった?」

 スマホを確認すると、夜11時だったはずの時間が——

 午前4時を指していた。

 5時間も消えていたのだ。

 しかし、それ以上に異常なことがあった。

 Tさんの車のボンネットには、無数の泥の足跡が残っていた。

9. 戦士の警告
 Tさんは、急いでマカニの家へ向かった。

 マカニは、話を聞いて顔を真っ青にした。

 「お前、本当に“目を合わせた”のか?」

 Tさんは、震えながら頷いた。

 マカニは、低い声で言った。

 「お前は、見られたんじゃない。」

 「お前は、選ばれたんだ。」

10. その後の異変
 Tさんは、それ以来奇妙な現象に悩まされるようになった。

 夜になると、どこからか太鼓の音が聞こえる。

 鏡を見ると、自分の後ろに——

 戦士の影が立っていることがあった。

 そしてある日、Tさんはマカニに電話をかけた。

 「今、また太鼓の音が聞こえる……」

 しかし、マカニの声は震えていた。

 「T、お前、どこにいるんだ?」

 「家だけど?」

 マカニは言った。

 「今、お前の家の前にいるんだよ。」
 「お前の部屋、ずっと真っ暗だけど……?」

***********************************

 もし、あなたがハワイの山道を夜に歩くことがあれば——

 決して、太鼓の音を追ってはいけない。

 そして、もし——

 誰かの視線を感じたら。

 その瞬間、あなたの後ろには——

 ナイトマーチャーズの戦士が立っているのだから。

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
【累計55万PV突破‼】 話題作「アンケートに答えたら、人生が終わった話」が10万PVを記録。 日常に潜む“逃げ場のない恐怖”を集めた、戦慄の短編集。 その違和感は、もう始まっている。 帰り道、誰もいないはずの部屋、何気ない会話。 どこにでもある日常が、ある瞬間、取り返しのつかない異常へと変わる。 意味が分かると凍りつく話。 理由もなく、ただ追い詰められていく話。 そして、最後の一行で現実がひっくり返る話。 1話1000〜2000文字。隙間時間で読める短編ながら、 読み終えたあと、ふとした静寂が怖くなる。 これはすべて、どこかで起きていてもおかしくない話。 ――あなたのすぐ隣でも。 洒落にならない実話風・創作ホラー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。