怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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90)姫路城・井戸の女(兵庫県)

1. 姫路城の伝説
 兵庫県・姫路城——。
 その美しさから「白鷺城」とも称され、日本屈指の名城として知られる。

 しかし、この城には決して語ってはいけない話がある。

 「城の井戸の水を覗いてはいけない」
 「夜になると、井戸から女のすすり泣きが聞こえる」
 「女の影を見た者は、必ず姿を消す」

 これは、実際に姫路城で起こった恐ろしい出来事である。

2. 井戸の噂
 Tさん(40代・男性)は、歴史ドキュメンタリー番組の制作スタッフだった。

 ある日、姫路城でのロケを計画していたところ——

 地元のガイドから、奇妙な話を聞いた。

 「城内にある“お菊井戸”には、近づかないほうがいいですよ」

 「お菊井戸?」

 「井戸を覗いた者は、必ず夢の中で“あの女”を見るんです……」

 Tさんは興味をそそられ、ロケ当日、カメラを持って井戸へ向かった。

3. 井戸の底の影
 お菊井戸は、姫路城の一角に静かに佇んでいた。

 かつて、この井戸には「皿屋敷の怪談」に登場する女中・お菊が投げ込まれたという。

 Tさんは、井戸の縁にカメラを向けた。

 そして、好奇心から——

 覗き込んだ。

 井戸の中は暗く、底が見えない。

 しかし、その時——

 「……イチマイ……ニマイ……」

 井戸の底から、かすれた女の声が聞こえた。

4. 夢の中の女
 Tさんは、背筋が凍りついた。

 「今の……気のせいか?」

 気を取り直し、撮影を続けたが——
 その夜、異変が起こった。

 夢の中で、Tさんは姫路城の井戸の前に立っていた。

 そして、背後から——

 「アナタ……見たわね……?」

 振り向くと——

 白い着物を着た女が、すぐ後ろに立っていた。

 Tさんは、恐怖で目を覚ました。

5. 消えた映像
 翌日、Tさんはロケの映像を確認した。

 しかし——

 井戸を撮影した映像だけが、消えていた。

 それどころか、Tさんのスマホには見知らぬ動画が保存されていた。

 再生すると、井戸の映像が映り——

 カメラが、何かを捕らえた瞬間で終わっていた。

 最後の一瞬——

 画面に白い着物の女が映り込み、にやりと笑っていた。

6. 取り憑かれた男
 その日以来、Tさんは悪夢に悩まされた。

 「イチマイ……ニマイ……」

 毎晩、耳元で数える声が聞こえるのだ。

 ある日、Tさんが鏡を覗くと——

 自分の後ろに、お菊の影が映っていた。

 そして、女はこう囁いた。

 「ジュウマイ……モウ、オワリ……」

 Tさんは、突然、意識を失った。

7. 井戸に引きずり込まれる
 翌朝——

 Tさんは、姫路城の近くで発見された。

 意識はあったが、ずっと井戸の方向を指さしていた。

 「……井戸の中に、誰かいる……」

 警備員が井戸を確認すると——

 水面に、白い影がぼんやりと浮かんでいた。

 次の瞬間——

 「ジュウマイ……」

 井戸の底から、女の声が響いた。

8. 井戸の封印
 Tさんは、それ以来、姫路城には近づかなかった。

 しかし、ある日——

 姫路城の観光客が、夜の井戸の写真を撮った。

 すると、その写真には——

 井戸の奥から、白い手が伸びているのが写っていた。

 現在、お菊井戸の周囲には供養の札が貼られている。

 だが、夜になると——

 今でも井戸の中から、皿を数える女の声が聞こえるという。

***********************************

 もし、あなたが姫路城のお菊井戸を訪れることがあれば——

 決して、覗き込んではいけない。

 そして、もし——

 「イチマイ……ニマイ……」と声が聞こえたら。

 その瞬間、あなたの背後には——

 井戸の底から這い上がる女がいるのだから。

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