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92)赤いワンピースの女
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1
大学時代の友人、森下から連絡があったのは三年ぶりだった。
「お前、最近時間あるか? ちょっと会って話したいことがあるんだ」
電話越しの声はやつれていた。妙に息が荒く、話しながらも何度か周囲を気にするような素振りがあった。
「どうしたんだよ、急に」
「……実は、おかしなことが続いててさ」
その一言に興味を引かれた。森下は理系の男で、幽霊やオカルトを信じるようなタイプではない。そんな彼が「おかしなこと」と言うのは相当だ。俺は指定された喫茶店に向かうことにした。
2
「なあ、覚えてるか? あの女のこと」
森下の第一声に、俺は思わず眉をひそめた。
「あの女……って?」
「あの夜、二人で肝試しに行っただろ? 廃墟になったビルに」
言われて、記憶が甦る。俺たちは大学四年の夏、暇を持て余して心霊スポット巡りをしていた。中でも強烈に印象に残っているのが、郊外の工場跡だった。
数年前に廃業し、そのまま放置された工場。噂では、そこで働いていた女性従業員が工場の機械に巻き込まれ、即死したという。しかも、死体はそのまま放置され、腐敗が進んでから発見されたのだという。
俺たちは軽い気持ちで足を踏み入れた。だが、そこで異様なものを目撃した。
――赤いワンピースの女。
薄暗い廃工場の奥、崩れた機械の陰に立っていた。顔は見えなかったが、髪の毛は乱れ、ワンピースには黒ずんだシミがついていた。
「……あれって、誰かのイタズラだったんじゃないのか?」
俺がそう言うと、森下は首を振った。
「いや……違う。あれは本物だった。」
3
その後、俺たちは工場を飛び出し、二度と近寄らないと誓った。しかし、森下の話はそこで終わらなかった。
「あの夜以来……俺は、ずっと見られてる」
森下の手が震えていた。
「最初は気のせいだと思った。夜道を歩いてると、誰かが後ろからついてくる気がする。でも振り向いても誰もいない。気のせいだと思いたかった。でも――」
彼はスマホを取り出し、写真を見せた。
それは彼の部屋の窓を映したものだった。だが、ガラスに映り込んだものが問題だった。
――赤いワンピースの女。
乱れた髪。シミのついた布。黒い靄のようなものが周囲に広がっている。
「これ、お前が撮ったのか?」
「ああ……偶然、部屋の写真を撮ったら、映ってた。けど、これだけじゃない」
森下はスマホを操作し、別の写真を見せた。
コンビニの防犯カメラ映像。彼が店を出る瞬間、後ろのガラスに赤いワンピースの女が映っている。
「ずっと、ついてきてるんだ……」
4
森下の話を聞いてから、俺の身にも異変が起こり始めた。
夜、部屋の隅に気配を感じる。誰もいないはずなのに、暗闇の中に“何か”が立っている気がする。
ある晩、眠れずにスマホをいじっていると、通知が来た。
「画像が追加されました」
そんな操作はしていない。恐る恐る開くと、そこには――
俺の部屋のベッドの脇に立つ、赤いワンピースの女の姿があった。
ぞっとしてスマホを投げ捨てた。息が荒くなる。怖い。心臓が異常なほど早く打っている。
そして、その夜。
俺の耳元で囁く声が聞こえた。
「――見つけた」
5
翌朝、森下に電話した。だが、何度かけても繋がらない。
嫌な予感がした。俺は彼のアパートへ向かった。
チャイムを押しても応答がない。ドアを叩いても、返事はない。仕方なく管理人を呼び、ドアを開けてもらった。
中に入ると、異様な光景が広がっていた。
部屋の壁一面に、「赤いワンピースの女」の写真が貼られていた。
鏡に映る姿、コンビニのガラス越しの姿、電車の窓に写った姿――どれも森下の生活の中に、彼女がいた。
そして、その中央。
森下は、首を吊っていた。
6
森下の死は自殺と判断された。遺書はなかったが、彼が精神的に不安定だったと警察は結論づけた。
俺は、もう何も言えなかった。ただ、彼の遺品を整理していたとき、一枚のメモが見つかった。
「俺は、あの時見てしまった。本当の姿を。目が合った時、呪いは始まる。もう逃げられない。お前も気をつけろ――」
その夜、俺は夢を見た。
暗闇の中で、森下が立っている。
だが、その後ろに、あの女がいた。
ボロボロの赤いワンピース。乱れた髪。そして、にやりと裂けた口元。
彼女はゆっくりと顔を上げ、俺の方を見た。
そして、低く囁いた。
「――次は、お前の番」
大学時代の友人、森下から連絡があったのは三年ぶりだった。
「お前、最近時間あるか? ちょっと会って話したいことがあるんだ」
電話越しの声はやつれていた。妙に息が荒く、話しながらも何度か周囲を気にするような素振りがあった。
「どうしたんだよ、急に」
「……実は、おかしなことが続いててさ」
その一言に興味を引かれた。森下は理系の男で、幽霊やオカルトを信じるようなタイプではない。そんな彼が「おかしなこと」と言うのは相当だ。俺は指定された喫茶店に向かうことにした。
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「なあ、覚えてるか? あの女のこと」
森下の第一声に、俺は思わず眉をひそめた。
「あの女……って?」
「あの夜、二人で肝試しに行っただろ? 廃墟になったビルに」
言われて、記憶が甦る。俺たちは大学四年の夏、暇を持て余して心霊スポット巡りをしていた。中でも強烈に印象に残っているのが、郊外の工場跡だった。
数年前に廃業し、そのまま放置された工場。噂では、そこで働いていた女性従業員が工場の機械に巻き込まれ、即死したという。しかも、死体はそのまま放置され、腐敗が進んでから発見されたのだという。
俺たちは軽い気持ちで足を踏み入れた。だが、そこで異様なものを目撃した。
――赤いワンピースの女。
薄暗い廃工場の奥、崩れた機械の陰に立っていた。顔は見えなかったが、髪の毛は乱れ、ワンピースには黒ずんだシミがついていた。
「……あれって、誰かのイタズラだったんじゃないのか?」
俺がそう言うと、森下は首を振った。
「いや……違う。あれは本物だった。」
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その後、俺たちは工場を飛び出し、二度と近寄らないと誓った。しかし、森下の話はそこで終わらなかった。
「あの夜以来……俺は、ずっと見られてる」
森下の手が震えていた。
「最初は気のせいだと思った。夜道を歩いてると、誰かが後ろからついてくる気がする。でも振り向いても誰もいない。気のせいだと思いたかった。でも――」
彼はスマホを取り出し、写真を見せた。
それは彼の部屋の窓を映したものだった。だが、ガラスに映り込んだものが問題だった。
――赤いワンピースの女。
乱れた髪。シミのついた布。黒い靄のようなものが周囲に広がっている。
「これ、お前が撮ったのか?」
「ああ……偶然、部屋の写真を撮ったら、映ってた。けど、これだけじゃない」
森下はスマホを操作し、別の写真を見せた。
コンビニの防犯カメラ映像。彼が店を出る瞬間、後ろのガラスに赤いワンピースの女が映っている。
「ずっと、ついてきてるんだ……」
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森下の話を聞いてから、俺の身にも異変が起こり始めた。
夜、部屋の隅に気配を感じる。誰もいないはずなのに、暗闇の中に“何か”が立っている気がする。
ある晩、眠れずにスマホをいじっていると、通知が来た。
「画像が追加されました」
そんな操作はしていない。恐る恐る開くと、そこには――
俺の部屋のベッドの脇に立つ、赤いワンピースの女の姿があった。
ぞっとしてスマホを投げ捨てた。息が荒くなる。怖い。心臓が異常なほど早く打っている。
そして、その夜。
俺の耳元で囁く声が聞こえた。
「――見つけた」
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翌朝、森下に電話した。だが、何度かけても繋がらない。
嫌な予感がした。俺は彼のアパートへ向かった。
チャイムを押しても応答がない。ドアを叩いても、返事はない。仕方なく管理人を呼び、ドアを開けてもらった。
中に入ると、異様な光景が広がっていた。
部屋の壁一面に、「赤いワンピースの女」の写真が貼られていた。
鏡に映る姿、コンビニのガラス越しの姿、電車の窓に写った姿――どれも森下の生活の中に、彼女がいた。
そして、その中央。
森下は、首を吊っていた。
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森下の死は自殺と判断された。遺書はなかったが、彼が精神的に不安定だったと警察は結論づけた。
俺は、もう何も言えなかった。ただ、彼の遺品を整理していたとき、一枚のメモが見つかった。
「俺は、あの時見てしまった。本当の姿を。目が合った時、呪いは始まる。もう逃げられない。お前も気をつけろ――」
その夜、俺は夢を見た。
暗闇の中で、森下が立っている。
だが、その後ろに、あの女がいた。
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そして、低く囁いた。
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