123 / 147
123)『鏡の中のひとりごと』
最初に気づいたのは、鏡の中の自分の瞬きのタイミングがずれていたことだった。
朝の洗顔後。
いつものように顔を拭いて、鏡を見た。
鏡の中の自分が、ほんの一瞬、一拍遅れて瞬きをした。
「あれ……?」
気のせいだと思った。寝不足かもしれない。
でも、その日から、鏡の中の自分に対する違和感が、どんどん増えていった。
翌日、鏡の自分が“笑っていた”。
こちらは無表情だったはずなのに、鏡の中の顔だけがふっと口元をゆがめて笑ったのだ。
「なに、これ……」
顔を近づける。
じっと目を合わせる。
そのとき、自分の目に、違う“誰か”が宿っている気がした。
ほんの一瞬、黒目がふるふると震えて、瞳の奥で“口”が動いていた。
その夜から、夢に“もう一人の自分”が出てくるようになった。
同じ顔、同じ声。
でも、どこかおかしい。
彼はいつも鏡の中から出てこようとしていた。
> 「ねえ、入れ替わろうよ。そっちの方が楽だよ」
夢の中の自分は、鏡の中から手を伸ばしてくる。
その手は冷たくて、ガラスを突き抜けて肌に触れてきた。
数日後。鏡の前で歯を磨いているとき、ふと気づいた。
鏡の中の自分の指の数が“4本”になっていた。
親指、人差し指、中指、薬指――小指がない。
気づいた瞬間、指がにゅるりと伸びて5本になった。
まるで、「バレた」とでも言うように。
おかしい。
何かがおかしい。
本物の自分はどっちなんだ?
日中、自分の手を見ていても、感覚がずれている気がする。
声も、ほんの少しだけ高さが違う。
笑い方が、“自分じゃない誰か”に似てきた。
ある晩、眠れずに洗面所の鏡を見た。
中の“俺”が喋り始めた。
> 「ねえ、こっちに来なよ。もう、こっちは“楽”になったよ」
「……楽って、何が?」
> 「こっちは、全部忘れられるの。名前も、過去も、責任も。
> ただ“君であること”だけが残る」
俺は鏡に手を伸ばした。
すると、中の“俺”がこちらの手を掴んだ。
ガラスがぐにゃりと歪み、腕ごと吸い込まれそうになった。
目を覚ますと、部屋の中だった。
夢かもしれない。
でも、鏡の中の自分が、一拍早く瞬きをした。
入れ替わってる――?
部屋の物音が、自分の耳じゃない方から聞こえてくる。
声を出そうとすると、まったく違う声が出た。
「…………おはよう」
女の声だった。
混乱して鏡を割ろうとした。
だが、割れた破片に映っている自分は、笑っていた。
そして、耳元でささやくように言った。
> 「よかった。これで、やっと入れ替われたね」
◆エピローグ
あなたが今、鏡を見るとき。
瞬きのタイミング、指の本数、笑い方。
ほんの少しでも違和感を覚えたら――
それ、“あなた”じゃないかもしれません。
今、鏡の中で笑っているのは、誰ですか?
朝の洗顔後。
いつものように顔を拭いて、鏡を見た。
鏡の中の自分が、ほんの一瞬、一拍遅れて瞬きをした。
「あれ……?」
気のせいだと思った。寝不足かもしれない。
でも、その日から、鏡の中の自分に対する違和感が、どんどん増えていった。
翌日、鏡の自分が“笑っていた”。
こちらは無表情だったはずなのに、鏡の中の顔だけがふっと口元をゆがめて笑ったのだ。
「なに、これ……」
顔を近づける。
じっと目を合わせる。
そのとき、自分の目に、違う“誰か”が宿っている気がした。
ほんの一瞬、黒目がふるふると震えて、瞳の奥で“口”が動いていた。
その夜から、夢に“もう一人の自分”が出てくるようになった。
同じ顔、同じ声。
でも、どこかおかしい。
彼はいつも鏡の中から出てこようとしていた。
> 「ねえ、入れ替わろうよ。そっちの方が楽だよ」
夢の中の自分は、鏡の中から手を伸ばしてくる。
その手は冷たくて、ガラスを突き抜けて肌に触れてきた。
数日後。鏡の前で歯を磨いているとき、ふと気づいた。
鏡の中の自分の指の数が“4本”になっていた。
親指、人差し指、中指、薬指――小指がない。
気づいた瞬間、指がにゅるりと伸びて5本になった。
まるで、「バレた」とでも言うように。
おかしい。
何かがおかしい。
本物の自分はどっちなんだ?
日中、自分の手を見ていても、感覚がずれている気がする。
声も、ほんの少しだけ高さが違う。
笑い方が、“自分じゃない誰か”に似てきた。
ある晩、眠れずに洗面所の鏡を見た。
中の“俺”が喋り始めた。
> 「ねえ、こっちに来なよ。もう、こっちは“楽”になったよ」
「……楽って、何が?」
> 「こっちは、全部忘れられるの。名前も、過去も、責任も。
> ただ“君であること”だけが残る」
俺は鏡に手を伸ばした。
すると、中の“俺”がこちらの手を掴んだ。
ガラスがぐにゃりと歪み、腕ごと吸い込まれそうになった。
目を覚ますと、部屋の中だった。
夢かもしれない。
でも、鏡の中の自分が、一拍早く瞬きをした。
入れ替わってる――?
部屋の物音が、自分の耳じゃない方から聞こえてくる。
声を出そうとすると、まったく違う声が出た。
「…………おはよう」
女の声だった。
混乱して鏡を割ろうとした。
だが、割れた破片に映っている自分は、笑っていた。
そして、耳元でささやくように言った。
> 「よかった。これで、やっと入れ替われたね」
◆エピローグ
あなたが今、鏡を見るとき。
瞬きのタイミング、指の本数、笑い方。
ほんの少しでも違和感を覚えたら――
それ、“あなた”じゃないかもしれません。
今、鏡の中で笑っているのは、誰ですか?
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
【累計55万PV突破‼】
話題作「アンケートに答えたら、人生が終わった話」が10万PVを記録。
日常に潜む“逃げ場のない恐怖”を集めた、戦慄の短編集。
その違和感は、もう始まっている。
帰り道、誰もいないはずの部屋、何気ない会話。
どこにでもある日常が、ある瞬間、取り返しのつかない異常へと変わる。
意味が分かると凍りつく話。
理由もなく、ただ追い詰められていく話。
そして、最後の一行で現実がひっくり返る話。
1話1000〜2000文字。隙間時間で読める短編ながら、
読み終えたあと、ふとした静寂が怖くなる。
これはすべて、どこかで起きていてもおかしくない話。
――あなたのすぐ隣でも。
洒落にならない実話風・創作ホラー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。