怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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142)『捨てたはずのスマホ』

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3年前のある事件のあと、私はスマホを壊した。

 ハンマーで液晶を砕き、SIMを抜いて燃やし、
 金属回収の日に分解した部品を袋に詰めて、捨てた。

 画面には血のような赤いにじみが広がっていたし、
 あの中には、**“二度と見たくない記録”**がいくつも残っていた。

 あれは確かに、もうこの世にないはずだった。

 ……なのに、それは戻ってきた。

 異変が始まったのは、数週間前。

 新しいスマホの通知欄に、見知らぬフォルダが現れた。

 【旧端末からのデータが復元されました】

 そのフォルダ名は――「Re:device」
 開いてみると、中には画像と動画がずらりと並んでいた。

 日付を見ると、**“今日以降”**の日付が混じっていた。

 しかも、その中に映っていたのは“自分自身”だった。

 最初の動画:2025年4月12日 20:33

 画面には、私が駅のホームで立っている姿が映っていた。

 周囲に人影はなく、私は誰かと通話しているような素振りをしていた。
 でも、口の動きは――まったく何も言っていない。

 そのまま、電車が通過。
 動画は“音もなく”終わった。

 私はその日、その時刻――その場所に行く用事などなかった。

 けれど、なぜかスケジュールアプリには、
 “出張:20:00~会議終了後、○○駅経由で帰宅”と記されていた。

 入力した覚えはない。
 が、カレンダーは確かに未来の私の予定を知っていた。

 それ以降、動画は毎晩増えていった。

 ・無人の廊下を、誰かの後ろ姿がゆっくり歩いていく映像
 ・自室のベッドで寝ている“私”を、天井から見下ろすような角度の録画
 ・ゴミ袋を手にした“私”が、どこかの空き地に何かを埋めている姿

 どの動画にも、撮影者の影は映っていなかった。

 ある日、友人からLINEが来た。

 > 「お前、昨日の夜中、うちのアパートの前にいた?」

 > 「窓の下でスマホ構えて立ってた。
  声かけようとしたら、いきなり消えたんだけど……」

 その夜、私は家から一歩も出ていなかった。

 決定的だったのは、**“再生できないファイル”**だった。

 【locked_file_0424.mp4】

 再生ボタンを押すと、
 エラーメッセージのあとに動画が強制的に再生され始めた。

 その映像には、私が首から血を流しながら、スマホに向かって何かを呟く姿が映っていた。

 部屋の中。カーテンの隙間から誰かの影が入り込む。

 > 「……これを、見たときには……もう……」

 > 「同じことが……起きるから……」

 映像は、ぷつりと途切れた。

 私はスマホを初期化しようとした。
 だが、端末は操作を受けつけなかった。

 画面に表示されたのは、見覚えのある“古い端末”のホーム画面だった。

 その中のギャラリーに、こういう画像があった。

 「壊される直前の画面」
 「ごみ袋の中のバッテリー」
 「あなたが壊した“つもり”だった夜の寝顔」

 ……誰が撮った?

 もはや逃げられないと思った。

 私は決意して、そのスマホを再び壊すことにした。

 だが、ハンマーを振り上げた瞬間、画面が点いた。

 中の“私”が、こっちを見ていた。

 > 「また壊すの?」

 > 「じゃあ、また始まるよ?」

 > 「最後の記録、まだ見てないでしょ?」

 それは――“3年前の事件”の動画だった。

 当時のスマホのカメラが捉えていた、
 “事故”ではない瞬間。

 倒れた相手に、私は――
 何度も、何度も――

 「思い出せ」と叫びながら、
 スマホでその人の顔を撮り続けていた。

 記録がすべてだった。
 “忘れるわけにはいかなかった”のだ。

 そして今、
 私が捨てたはずのそのスマホが、
 私自身の記録を始めている。

 あのときと同じように。

◆エピローグ
 もし、見覚えのない動画がスマホに残っていたら。
 それがあなた自身を映していたら――

 それは、**“あなたが未来で見られている”**ということかもしれません。

 そしてその撮影者は、
 あなたがかつて“捨てたはず”の何かです。
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