名探偵マコトの事件簿3

naomikoryo

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第74話:それでも、この場所が好き

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「――というわけで、ぶちまるは“カバン泥棒未遂容疑”で要注意猫に指定されたわけだが」

マコトは猫カフェ「にゃんこ茶房」の奥のソファ席で、コーヒーを啜りながら宣言した。まるで自分が警察署長にでもなったかのような口ぶりである。

「……その顔、めちゃくちゃ嬉しそうなんだけど」

早紀は呆れ顔で言った。膝の上には、すっかり懐いた三毛猫・ミミが丸くなって眠っている。

「そりゃあもう。ぶちまるが“事件解決の立役者(?)”なんだからな。おやつで操られ、現場再現で暴走、証拠品を引きずってくるっていう、お前、名探偵バディにぴったりの逸材よ?」

「……こっちはバッグの中に毛玉突撃されて、チョコ溶けてたんだけど?」

「犯猫に私物の損害を問うのはナンセンス!」

「何キャラ?」

事件から数日後。にゃんこ茶房には日常が戻っていた。

猫たちは変わらず自由気まま。客たちはその愛らしさに癒され、誰もが自然と笑顔になる。そう、あの日のように「誰かを疑う」目は、もうなかった。

猫たちを管理するルールは少し厳しくなったけど、それでもこの空間の空気は柔らかい。

「……あ、あれ見て」

早紀が小声でマコトの肩をつつく。

入口から入ってきたのは、あの老紳士――中田さん。そしてその隣には、娘さんらしき女性の姿。

中田さんは、ゆっくりとした足取りでカフェの中央へ進み、ぶちまるの姿を見ると、ふっと微笑んだ。

「来てくれたんですね……!」

オーナーの老婦人が笑顔で駆け寄る。

「ええ。父が……“ぶちまるにまた会いたい”って」

娘さんは少し照れながら言った。

中田さんは、オーナーから渡された編み棒を手に、以前と同じ席へ座った。そして、ゆっくりと、毛糸を動かし始める。

「……まるで、時間が巻き戻ったみたい」

早紀が呟く。

「でも、前と違う」

マコトが続ける。

「誰も、彼を疑ってない。みんなが、それを“知ってる”から」

しばらくして、ぶちまるが例のごとく中田さんの足元に顔をすり寄せていった。だが今回は、娘さんがしっかりとカバンを抱えて防御体勢。

「だーめ、ぶちまるくん。今日のカバンは“ノータッチ”でお願いします!」

笑いが店内に広がる。

そしてその中心に、優しい視線を交わす父娘の姿と、猫たちのしっぽが揺れていた。

■その夜──

マコトと早紀は、商店街のベンチに並んで座っていた。

「今日はさすがに、事件じゃなかったな」

マコトが笑って言う。

「うん。事件の“後”って、ちゃんとあるんだなって思った」

早紀の声は、どこかやわらかい。

「私、あのとき……ちょっと怖かったんだ。中田さんのこと、責められたらどうしようって。猫たちが、“悪いことした存在”になっちゃうかもって」

「でも、誰もそうしなかった」

「うん……。マコトのおかげ、かもね」

「えっ……そ、そうか?」

「うそ。8割ぶちまるの功績」

「お前なぁぁぁ!」

ふたりのやりとりに、通りがかった美穂が「またバカップルやってる~!」と突撃してくる。

続いて綾小路、佐伯、霧島、日向の生徒会メンバーがぞろぞろと集結。

「猫カフェの“真相報告会”があるって聞いて来たのに!もう終わってんじゃん!」

「コーヒーだけでも飲んでけよ~! ぶちまるが暴れてくれるかもしんないし!」

「データベース更新済み。ぶちまる=フレンドリーファイア型“野良トラップ”。再検証対象に指定」

「ぶちまる……わたしにも乗ってほしいなぁ~」

全員が勝手に盛り上がっていく様子を見ながら、マコトはポツリと呟いた。

「……なんか、事件があっても、こうして終わった後に笑っていられるのって、幸せかもな」

早紀は隣でうなずき、マコトの手をぎゅっと握った。

「それでも、この場所が好き」

猫たちも、カフェも、商店街も、そして――

「……お前も」

「ん? 何か言った?」

「いや、にゃんこ茶房最高って言っただけ!」

「へぇー? “お前も”って聞こえたけど?」

「気のせい!にゃんこしか勝たん!」

「この小心者!」

こうして、猫カフェに舞い降りた小さな事件は、優しい余韻とともに幕を下ろした。

誰かを疑う前に、誰かを思いやる。

猫たちのしっぽの先にあったのは、ほんの少しだけ、大人になったふたりの笑顔だった。
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