75 / 79
第74話:それでも、この場所が好き
しおりを挟む
「――というわけで、ぶちまるは“カバン泥棒未遂容疑”で要注意猫に指定されたわけだが」
マコトは猫カフェ「にゃんこ茶房」の奥のソファ席で、コーヒーを啜りながら宣言した。まるで自分が警察署長にでもなったかのような口ぶりである。
「……その顔、めちゃくちゃ嬉しそうなんだけど」
早紀は呆れ顔で言った。膝の上には、すっかり懐いた三毛猫・ミミが丸くなって眠っている。
「そりゃあもう。ぶちまるが“事件解決の立役者(?)”なんだからな。おやつで操られ、現場再現で暴走、証拠品を引きずってくるっていう、お前、名探偵バディにぴったりの逸材よ?」
「……こっちはバッグの中に毛玉突撃されて、チョコ溶けてたんだけど?」
「犯猫に私物の損害を問うのはナンセンス!」
「何キャラ?」
事件から数日後。にゃんこ茶房には日常が戻っていた。
猫たちは変わらず自由気まま。客たちはその愛らしさに癒され、誰もが自然と笑顔になる。そう、あの日のように「誰かを疑う」目は、もうなかった。
猫たちを管理するルールは少し厳しくなったけど、それでもこの空間の空気は柔らかい。
「……あ、あれ見て」
早紀が小声でマコトの肩をつつく。
入口から入ってきたのは、あの老紳士――中田さん。そしてその隣には、娘さんらしき女性の姿。
中田さんは、ゆっくりとした足取りでカフェの中央へ進み、ぶちまるの姿を見ると、ふっと微笑んだ。
「来てくれたんですね……!」
オーナーの老婦人が笑顔で駆け寄る。
「ええ。父が……“ぶちまるにまた会いたい”って」
娘さんは少し照れながら言った。
中田さんは、オーナーから渡された編み棒を手に、以前と同じ席へ座った。そして、ゆっくりと、毛糸を動かし始める。
「……まるで、時間が巻き戻ったみたい」
早紀が呟く。
「でも、前と違う」
マコトが続ける。
「誰も、彼を疑ってない。みんなが、それを“知ってる”から」
しばらくして、ぶちまるが例のごとく中田さんの足元に顔をすり寄せていった。だが今回は、娘さんがしっかりとカバンを抱えて防御体勢。
「だーめ、ぶちまるくん。今日のカバンは“ノータッチ”でお願いします!」
笑いが店内に広がる。
そしてその中心に、優しい視線を交わす父娘の姿と、猫たちのしっぽが揺れていた。
■その夜──
マコトと早紀は、商店街のベンチに並んで座っていた。
「今日はさすがに、事件じゃなかったな」
マコトが笑って言う。
「うん。事件の“後”って、ちゃんとあるんだなって思った」
早紀の声は、どこかやわらかい。
「私、あのとき……ちょっと怖かったんだ。中田さんのこと、責められたらどうしようって。猫たちが、“悪いことした存在”になっちゃうかもって」
「でも、誰もそうしなかった」
「うん……。マコトのおかげ、かもね」
「えっ……そ、そうか?」
「うそ。8割ぶちまるの功績」
「お前なぁぁぁ!」
ふたりのやりとりに、通りがかった美穂が「またバカップルやってる~!」と突撃してくる。
続いて綾小路、佐伯、霧島、日向の生徒会メンバーがぞろぞろと集結。
「猫カフェの“真相報告会”があるって聞いて来たのに!もう終わってんじゃん!」
「コーヒーだけでも飲んでけよ~! ぶちまるが暴れてくれるかもしんないし!」
「データベース更新済み。ぶちまる=フレンドリーファイア型“野良トラップ”。再検証対象に指定」
「ぶちまる……わたしにも乗ってほしいなぁ~」
全員が勝手に盛り上がっていく様子を見ながら、マコトはポツリと呟いた。
「……なんか、事件があっても、こうして終わった後に笑っていられるのって、幸せかもな」
早紀は隣でうなずき、マコトの手をぎゅっと握った。
「それでも、この場所が好き」
猫たちも、カフェも、商店街も、そして――
「……お前も」
「ん? 何か言った?」
「いや、にゃんこ茶房最高って言っただけ!」
「へぇー? “お前も”って聞こえたけど?」
「気のせい!にゃんこしか勝たん!」
「この小心者!」
こうして、猫カフェに舞い降りた小さな事件は、優しい余韻とともに幕を下ろした。
誰かを疑う前に、誰かを思いやる。
猫たちのしっぽの先にあったのは、ほんの少しだけ、大人になったふたりの笑顔だった。
マコトは猫カフェ「にゃんこ茶房」の奥のソファ席で、コーヒーを啜りながら宣言した。まるで自分が警察署長にでもなったかのような口ぶりである。
「……その顔、めちゃくちゃ嬉しそうなんだけど」
早紀は呆れ顔で言った。膝の上には、すっかり懐いた三毛猫・ミミが丸くなって眠っている。
「そりゃあもう。ぶちまるが“事件解決の立役者(?)”なんだからな。おやつで操られ、現場再現で暴走、証拠品を引きずってくるっていう、お前、名探偵バディにぴったりの逸材よ?」
「……こっちはバッグの中に毛玉突撃されて、チョコ溶けてたんだけど?」
「犯猫に私物の損害を問うのはナンセンス!」
「何キャラ?」
事件から数日後。にゃんこ茶房には日常が戻っていた。
猫たちは変わらず自由気まま。客たちはその愛らしさに癒され、誰もが自然と笑顔になる。そう、あの日のように「誰かを疑う」目は、もうなかった。
猫たちを管理するルールは少し厳しくなったけど、それでもこの空間の空気は柔らかい。
「……あ、あれ見て」
早紀が小声でマコトの肩をつつく。
入口から入ってきたのは、あの老紳士――中田さん。そしてその隣には、娘さんらしき女性の姿。
中田さんは、ゆっくりとした足取りでカフェの中央へ進み、ぶちまるの姿を見ると、ふっと微笑んだ。
「来てくれたんですね……!」
オーナーの老婦人が笑顔で駆け寄る。
「ええ。父が……“ぶちまるにまた会いたい”って」
娘さんは少し照れながら言った。
中田さんは、オーナーから渡された編み棒を手に、以前と同じ席へ座った。そして、ゆっくりと、毛糸を動かし始める。
「……まるで、時間が巻き戻ったみたい」
早紀が呟く。
「でも、前と違う」
マコトが続ける。
「誰も、彼を疑ってない。みんなが、それを“知ってる”から」
しばらくして、ぶちまるが例のごとく中田さんの足元に顔をすり寄せていった。だが今回は、娘さんがしっかりとカバンを抱えて防御体勢。
「だーめ、ぶちまるくん。今日のカバンは“ノータッチ”でお願いします!」
笑いが店内に広がる。
そしてその中心に、優しい視線を交わす父娘の姿と、猫たちのしっぽが揺れていた。
■その夜──
マコトと早紀は、商店街のベンチに並んで座っていた。
「今日はさすがに、事件じゃなかったな」
マコトが笑って言う。
「うん。事件の“後”って、ちゃんとあるんだなって思った」
早紀の声は、どこかやわらかい。
「私、あのとき……ちょっと怖かったんだ。中田さんのこと、責められたらどうしようって。猫たちが、“悪いことした存在”になっちゃうかもって」
「でも、誰もそうしなかった」
「うん……。マコトのおかげ、かもね」
「えっ……そ、そうか?」
「うそ。8割ぶちまるの功績」
「お前なぁぁぁ!」
ふたりのやりとりに、通りがかった美穂が「またバカップルやってる~!」と突撃してくる。
続いて綾小路、佐伯、霧島、日向の生徒会メンバーがぞろぞろと集結。
「猫カフェの“真相報告会”があるって聞いて来たのに!もう終わってんじゃん!」
「コーヒーだけでも飲んでけよ~! ぶちまるが暴れてくれるかもしんないし!」
「データベース更新済み。ぶちまる=フレンドリーファイア型“野良トラップ”。再検証対象に指定」
「ぶちまる……わたしにも乗ってほしいなぁ~」
全員が勝手に盛り上がっていく様子を見ながら、マコトはポツリと呟いた。
「……なんか、事件があっても、こうして終わった後に笑っていられるのって、幸せかもな」
早紀は隣でうなずき、マコトの手をぎゅっと握った。
「それでも、この場所が好き」
猫たちも、カフェも、商店街も、そして――
「……お前も」
「ん? 何か言った?」
「いや、にゃんこ茶房最高って言っただけ!」
「へぇー? “お前も”って聞こえたけど?」
「気のせい!にゃんこしか勝たん!」
「この小心者!」
こうして、猫カフェに舞い降りた小さな事件は、優しい余韻とともに幕を下ろした。
誰かを疑う前に、誰かを思いやる。
猫たちのしっぽの先にあったのは、ほんの少しだけ、大人になったふたりの笑顔だった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる