静寂の星

naomikoryo

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第5章:沈黙の意思

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サミュエルの消失は、クルーたちの心に恐怖と疑念を植え付けた。
彼は突然姿を消し、その痕跡すら残っていない。
唯一残されたのは、船内で記録された奇妙な音声── 彼の声を模倣する何か だった。

「この星は“音を消す”意思を持っている──音を発する者は、排除される」

ノアの言葉が重くのしかかる。
ならば、自分たちはどうすればいいのか?
救助が来る可能性は限りなく低い。脱出手段もない。

そして次に消えるのが、自分たちの誰かかもしれない という恐怖が、じわじわと彼らを蝕んでいた。

音の実験
クルーたちは、惑星の“沈黙のルール”を探るための実験を行うことにした。

「理論が正しければ、ある程度の音なら許容されるはずだ。」

ノアは慎重に説明する。

「サミュエルは普段からよく独り言を言っていた。彼の失踪はそれと関係している可能性がある。」

「だが、俺たちだって会話していたぞ?」

イーサンが疑問を投げかける。

「そうだ。だから、音の“量”や“種類”が関係しているのかもしれない。」

「つまり、大きな音を出したり、特定の種類の音を発すると……“何か”が動き出すってことか?」

「試してみるしかない。」

リサは深く息を吸い込み、周囲を見渡した。

「……やるなら、慎重に。」

音を発するということ
ノアは岩の一つに向かい、小石を投げつけた。

──コツン。

乾いた音が響く。

「……何も起きないな。」

「じゃあ、これは?」

イーサンがしゃがみ込み、手を叩いた。

──パチン!

空気を打つ音が、かすかに響く。

──何も起きない。

「やはり、音の大きさが関係するのか?」

グラントが眉をひそめる。

「いや……」

ノアが冷や汗を浮かべながら、スキャナーを確認した。

「確かに、何かが変化している。」

「……どういうことだ?」

「空気の振動が減少している。まるで、音そのものが周囲に“吸収”されているかのように。」

「吸収……?」

リサが不審そうに岩に手を触れた。

「この岩……異常に滑らかだ。」

そう言って耳を近づける。

「……」

何も聞こえない。

「普通、耳を近づければ、わずかにでも風の音や自分の呼吸音が反響するはず。でも……」

リサは言葉を詰まらせた。

「まるでこの岩自体が音を飲み込んでいるみたい。」

クルーたちは沈黙する。

この星の大気、地表、そして岩すらも 音を吸収する性質を持っている 。

もしこの星が、意志を持って「音を消している」としたら?

彼らはこの惑星に、歓迎されていないのではないか ?

囁く声
実験を終え、船に戻ろうとした時だった。

──サァァ……

風のような音が聞こえた。

「……風?」

グラントが呟く。

「違う……風なんか吹いていない。」

ノアが顔を強張らせる。

──サァァ……ミュ……

「!!」

全員が動きを止めた。

それは確かに聞こえた。

「サミュエル」 と誰かが囁く声が。

「……今の、聞こえたか?」

イーサンが震える声で言う。

「ああ……確かに聞こえた。」

グラントが警戒しながら銃を構える。

しかし、周囲には誰もいない。

「どこから聞こえた?」

リサが慎重に尋ねる。

「……分からない。」

音の発生源が分からないのだ。
まるで、空間そのものが音を発しているように。

新たな犠牲者
船に戻ったクルーたちは、不安を抱えながら眠りについた。

そして、次の朝──

「……イーサンがいない。」

リサの声に全員が跳ね起きた。

「なに?」

「どこにもいないの。船の中にも、外にも……!」

グラントは歯を食いしばった。

「またか……!」

クルーたちは慌てて船の外に飛び出した。

そして、彼らは見つけた。

イーサンが昨夜寝ていた場所には、彼の服だけが残されていた。

「……消えた?」

「違う……彼は“消された”んだ。」

ノアが呆然と呟く。

「俺たちは間違っていた。この星は、ただ音を消すだけじゃない……」

彼は息を呑む。

「音を発した者の存在そのものを、消すんだ。」

沈黙が支配する。

グラントは静かに拳を握りしめた。

「……この星を出る。」

彼の言葉に、リサとノアが顔を上げる。

「どうやって?」

「方法は分からない。でも、ここにいたら俺たちも全員消される。」

「じゃあ、どうする?」

グラントは言った。

「この星の意志を探る。静寂の中心に踏み込むんだ。」

沈黙の中心へ
イーサンの消失を受け、クルーたちは最後の決断を下した。

この星の“沈黙のルール”を理解しなければ、生き残ることはできない。

静寂を生み出す原因を探し、そこを突き止める。

だが、それが何を意味するのか、彼らにはまだ分からなかった。

この惑星の静寂は、ただの性質ではない。
それは、
それ自体がひとつの 意志 なのだ。

クルーたちは、静寂の中心へと足を踏み入れた。

果たして、彼らに 生存の道 はあるのか?
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