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第3話「上階に大山快(元勇者)が引っ越しトラブル発生で初顔合わせ」
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その日は、朝から異様に騒がしかった。
「うぉらあああああああああ!!!」
「そいやっさああああああああ!!」
……上から、聞こえる。
しかも、地鳴り付きで。
「……なに、上、祭り?」
コタツで寝転がっていたルーナは、白目をむいて天井を見上げた。
パッと見、ただの古い天井。でも今はその上から、ガンッ!ドォン!という異音が断続的に鳴り続けている。
「クロ……何が起きてるのこれ?」
「知らん。てか、天井、ちょっと粉落ちてきてるぞ。築年数の限界だろコレ」
「やだ……天井抜けて落ちてくるとかやめてよマジで……」
そう。203号室の隣に続き、今日はさくらハイツの203号室の“上”――303号室に新たな住人が引っ越してくる日だった。
だがその新住人、なぜか軽トラックではなく自転車で登場していた。
しかもママチャリを魔改造したような車体に、背中には筋トレ器具を詰め込んだバックパック。
近所の子供に「怪獣!」と泣かれ、道行く人には「……撮影ですか?」と聞かれる始末。
そして、その住人は──現在、引っ越し中にトラブル真っ最中である。
「入らん!このダンベル、角度が足りない!」
──階段の踊り場に、筋肉が詰まっていた。
ゴリゴリに鍛え抜かれた二の腕。汗で貼りついたタンクトップ。光る笑顔。
その男こそ──大山快(おおやま かい)、かつての“勇者カイ・ディアノス”である。
今はまだ、筋肉系宅配員。自力で引っ越しする派。
「この角度……斜め45度にして、気合いでッッ!!」
ゴリッ!
「ッたあああああああああああ!!!」
「うるさッ!? 何事!?」
ルーナは耐えかねて部屋を飛び出した。
階段を見ると、そこには90kgのダンベルラックをかつぎ上げようとして、完全に詰まっている快の姿があった。
「えええええ!? なにその荷物!?ていうかあんた誰!?」
「あっ、下の人っすか!?すみませんっす!! 僕、上の階に引っ越してきた大山です!!」
「すみませんちょっと……この鉄の塊がどうしても曲がらなくて……!」
「曲がらなくてって、そういう問題じゃない!!何入れてんの!?引っ越しの荷物に“鉄の塊”て!!」
「あ、筋トレ器具です!ほぼそれだけです!あとはプロテインとマット!」
「生活道具は!?」
「……はっ!プロテインが生活だと思ってた!!」
「だめだこの人!」
ようやく手を貸し、ルーナは段ボールをいくつか受け取った。
見れば箱にはすべて手書きで内容物が書かれている。
「プロテイン1号」「プロテイン2号」「プロテイン(バナナ味)」「友情の記録(ノート)」
「……なんか逆に安心するわ……人間っぽくて」
(いや待て、私何に安心してるの?逆に怖いでしょ、こんな奴!)
「ありがとうございましたっす!マジ助かりました!優しいですね!」
「あ、いや、そんな……」
「てか、名前聞いてなかったっすね!えーっと……」
「藤原……ルナ」
「ルナさんっすね!!よろしくお願いします!!僕、快です!!大山快!!」
「(うわ……“快”って名前……まんま“カイ”じゃん……いやいや、偶然偶然!)」
「これからも何かあったら声かけてくださいね!あと、重い物運ぶときはいつでも呼んでください!すぐ行きます!」
「(筋肉便利枠……?)」
「じゃ、ちょっと部屋戻って整理しまーす!!」
颯爽と階段を駆け上がる快。しかもまだダンベルを両肩に乗せたまま。
それを見上げながら、ルーナは小声で呟いた。
「……なんでこのアパート、濃いのしか入ってこないの?」
「完全に引き寄せ体質だな、ババア」
「だから25歳!!」
──こうして、さくらハイツ303号室にもまたひとり。
かつて世界を救った“勇者”が、ごく普通の顔で住みついた。
だが彼の周囲に“勇者っぽいオーラ”など一切なく、ただ“筋肉の人”として近隣に定着し始めていた。
まだ、誰も“何者”かなんて気づいていない。
本人ですら、まだ思い出していない。
ただ──ほんの少しずつ。過去の影が、重なり始めていた。
(続く)
「うぉらあああああああああ!!!」
「そいやっさああああああああ!!」
……上から、聞こえる。
しかも、地鳴り付きで。
「……なに、上、祭り?」
コタツで寝転がっていたルーナは、白目をむいて天井を見上げた。
パッと見、ただの古い天井。でも今はその上から、ガンッ!ドォン!という異音が断続的に鳴り続けている。
「クロ……何が起きてるのこれ?」
「知らん。てか、天井、ちょっと粉落ちてきてるぞ。築年数の限界だろコレ」
「やだ……天井抜けて落ちてくるとかやめてよマジで……」
そう。203号室の隣に続き、今日はさくらハイツの203号室の“上”――303号室に新たな住人が引っ越してくる日だった。
だがその新住人、なぜか軽トラックではなく自転車で登場していた。
しかもママチャリを魔改造したような車体に、背中には筋トレ器具を詰め込んだバックパック。
近所の子供に「怪獣!」と泣かれ、道行く人には「……撮影ですか?」と聞かれる始末。
そして、その住人は──現在、引っ越し中にトラブル真っ最中である。
「入らん!このダンベル、角度が足りない!」
──階段の踊り場に、筋肉が詰まっていた。
ゴリゴリに鍛え抜かれた二の腕。汗で貼りついたタンクトップ。光る笑顔。
その男こそ──大山快(おおやま かい)、かつての“勇者カイ・ディアノス”である。
今はまだ、筋肉系宅配員。自力で引っ越しする派。
「この角度……斜め45度にして、気合いでッッ!!」
ゴリッ!
「ッたあああああああああああ!!!」
「うるさッ!? 何事!?」
ルーナは耐えかねて部屋を飛び出した。
階段を見ると、そこには90kgのダンベルラックをかつぎ上げようとして、完全に詰まっている快の姿があった。
「えええええ!? なにその荷物!?ていうかあんた誰!?」
「あっ、下の人っすか!?すみませんっす!! 僕、上の階に引っ越してきた大山です!!」
「すみませんちょっと……この鉄の塊がどうしても曲がらなくて……!」
「曲がらなくてって、そういう問題じゃない!!何入れてんの!?引っ越しの荷物に“鉄の塊”て!!」
「あ、筋トレ器具です!ほぼそれだけです!あとはプロテインとマット!」
「生活道具は!?」
「……はっ!プロテインが生活だと思ってた!!」
「だめだこの人!」
ようやく手を貸し、ルーナは段ボールをいくつか受け取った。
見れば箱にはすべて手書きで内容物が書かれている。
「プロテイン1号」「プロテイン2号」「プロテイン(バナナ味)」「友情の記録(ノート)」
「……なんか逆に安心するわ……人間っぽくて」
(いや待て、私何に安心してるの?逆に怖いでしょ、こんな奴!)
「ありがとうございましたっす!マジ助かりました!優しいですね!」
「あ、いや、そんな……」
「てか、名前聞いてなかったっすね!えーっと……」
「藤原……ルナ」
「ルナさんっすね!!よろしくお願いします!!僕、快です!!大山快!!」
「(うわ……“快”って名前……まんま“カイ”じゃん……いやいや、偶然偶然!)」
「これからも何かあったら声かけてくださいね!あと、重い物運ぶときはいつでも呼んでください!すぐ行きます!」
「(筋肉便利枠……?)」
「じゃ、ちょっと部屋戻って整理しまーす!!」
颯爽と階段を駆け上がる快。しかもまだダンベルを両肩に乗せたまま。
それを見上げながら、ルーナは小声で呟いた。
「……なんでこのアパート、濃いのしか入ってこないの?」
「完全に引き寄せ体質だな、ババア」
「だから25歳!!」
──こうして、さくらハイツ303号室にもまたひとり。
かつて世界を救った“勇者”が、ごく普通の顔で住みついた。
だが彼の周囲に“勇者っぽいオーラ”など一切なく、ただ“筋肉の人”として近隣に定着し始めていた。
まだ、誰も“何者”かなんて気づいていない。
本人ですら、まだ思い出していない。
ただ──ほんの少しずつ。過去の影が、重なり始めていた。
(続く)
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