自称25歳、実年齢は250歳の魔女

naomikoryo

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第3話「上階に大山快(元勇者)が引っ越しトラブル発生で初顔合わせ」

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その日は、朝から異様に騒がしかった。

 

「うぉらあああああああああ!!!」
「そいやっさああああああああ!!」

 

……上から、聞こえる。
しかも、地鳴り付きで。

 

「……なに、上、祭り?」

 

コタツで寝転がっていたルーナは、白目をむいて天井を見上げた。
パッと見、ただの古い天井。でも今はその上から、ガンッ!ドォン!という異音が断続的に鳴り続けている。

 

「クロ……何が起きてるのこれ?」

 

「知らん。てか、天井、ちょっと粉落ちてきてるぞ。築年数の限界だろコレ」

 

「やだ……天井抜けて落ちてくるとかやめてよマジで……」

 

そう。203号室の隣に続き、今日はさくらハイツの203号室の“上”――303号室に新たな住人が引っ越してくる日だった。

だがその新住人、なぜか軽トラックではなく自転車で登場していた。

しかもママチャリを魔改造したような車体に、背中には筋トレ器具を詰め込んだバックパック。
近所の子供に「怪獣!」と泣かれ、道行く人には「……撮影ですか?」と聞かれる始末。

 

そして、その住人は──現在、引っ越し中にトラブル真っ最中である。

 

「入らん!このダンベル、角度が足りない!」

 

──階段の踊り場に、筋肉が詰まっていた。

ゴリゴリに鍛え抜かれた二の腕。汗で貼りついたタンクトップ。光る笑顔。
その男こそ──大山快(おおやま かい)、かつての“勇者カイ・ディアノス”である。

今はまだ、筋肉系宅配員。自力で引っ越しする派。

 

「この角度……斜め45度にして、気合いでッッ!!」

 

ゴリッ!

「ッたあああああああああああ!!!」

 

「うるさッ!? 何事!?」

 

ルーナは耐えかねて部屋を飛び出した。

階段を見ると、そこには90kgのダンベルラックをかつぎ上げようとして、完全に詰まっている快の姿があった。

 

「えええええ!? なにその荷物!?ていうかあんた誰!?」

 

「あっ、下の人っすか!?すみませんっす!! 僕、上の階に引っ越してきた大山です!!」
「すみませんちょっと……この鉄の塊がどうしても曲がらなくて……!」

 

「曲がらなくてって、そういう問題じゃない!!何入れてんの!?引っ越しの荷物に“鉄の塊”て!!」

 

「あ、筋トレ器具です!ほぼそれだけです!あとはプロテインとマット!」

 

「生活道具は!?」

 

「……はっ!プロテインが生活だと思ってた!!」

 

「だめだこの人!」

 

ようやく手を貸し、ルーナは段ボールをいくつか受け取った。

見れば箱にはすべて手書きで内容物が書かれている。

「プロテイン1号」「プロテイン2号」「プロテイン(バナナ味)」「友情の記録(ノート)」

 

「……なんか逆に安心するわ……人間っぽくて」

 

(いや待て、私何に安心してるの?逆に怖いでしょ、こんな奴!)

 

「ありがとうございましたっす!マジ助かりました!優しいですね!」

 

「あ、いや、そんな……」

 

「てか、名前聞いてなかったっすね!えーっと……」

 

「藤原……ルナ」

 

「ルナさんっすね!!よろしくお願いします!!僕、快です!!大山快!!」

 

「(うわ……“快”って名前……まんま“カイ”じゃん……いやいや、偶然偶然!)」

 

「これからも何かあったら声かけてくださいね!あと、重い物運ぶときはいつでも呼んでください!すぐ行きます!」

 

「(筋肉便利枠……?)」

 

「じゃ、ちょっと部屋戻って整理しまーす!!」

 

颯爽と階段を駆け上がる快。しかもまだダンベルを両肩に乗せたまま。

それを見上げながら、ルーナは小声で呟いた。

 

「……なんでこのアパート、濃いのしか入ってこないの?」

 

「完全に引き寄せ体質だな、ババア」

 

「だから25歳!!」

 

 

──こうして、さくらハイツ303号室にもまたひとり。

かつて世界を救った“勇者”が、ごく普通の顔で住みついた。

だが彼の周囲に“勇者っぽいオーラ”など一切なく、ただ“筋肉の人”として近隣に定着し始めていた。

まだ、誰も“何者”かなんて気づいていない。

本人ですら、まだ思い出していない。

 

ただ──ほんの少しずつ。過去の影が、重なり始めていた。

 

(続く)
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