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第5話「全員“顔見知り”になるが、誰も気づかない」
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土曜の昼下がり。
空はうっすらと雲がかかり、少し風が涼しくなってきた。
ルーナは、商店街の八百屋の前で長ネギの値段と格闘していた。
「……高い……でも味噌汁には入れたい……でも98円って……高い……」
その横で、猫のクロが溜息をついている。
「戦争より悩んでるな、ネギ1本で」
「現代の戦いは家計なのよ……甘く見るな」
買い物袋を片手に立ち尽くす彼女の視線の先、商店街の向こうで──
「よっしゃあああ!!タイムアタック終了ーッ!!」
筋肉が、ダッシュで走っていた。
「あれ……」
と気づくルーナの目に飛び込んできたのは、
配達の制服を着て満面の笑顔で立っている男──大山快(303号室)。
汗びっしょりで、Tシャツがピチピチに張りついている。
足元にはママチャリ。なぜかハンドルには手作りの旗がついていた。
《配達も友情も、時間との戦いだ!》
「(こわ)」
「おっ! ルーナさーん!買い物っすか!? お疲れっすー!!」
「……お、おう……元気だね……」
「今っすか!?僕、3件回って全部5分前倒しでした!!
ついでに商店街の段差でジャンプして、勢いで屋根に荷物投げ込んだっす!!」
「それ、クレームこない?」
「まだ来てないっす!!」
「(まだ、か……)」
快は相変わらずのテンションで缶ジュースを一気飲みし、
「じゃ、また!」と陽気にチャリで去っていった。
その姿を見ながら、ルーナはクロに耳打ちする。
「ねぇ、あいつ……なんか“既視感”ない?」
「筋肉と声量以外は知らん。けど確かに、なんか……“戦ってた感”はあるな」
「……だよねぇ……」
その時だった。
背後から──
「あっ、ルーナさん!」
振り返ると、セーラー服の少女が手を振って走ってくる。
水瀬みりあ(101号室)。さっきの快とは別方向からやってきたらしい。
「こんにちは~。またお会いできて嬉しいです。今日はネギですか?」
「(なぜ買い物内容を即座に把握してるの!?)」
「……うん。今ね、心のバトル中」
「それなら、“長ネギと小松菜の共存可能性”を考えてみるといいですよ。
色合い的にも味的にも、バランスが取れていて、心にも優しい」
「何そのアドバイス!?なに!?精霊の知恵袋なの!?」
「え? あ、いえいえ~ただの自炊女子です♪」
(違う、絶対違う、全然ただの女子じゃない)
ふと見ると、みりあの手には紙袋。中には薄い本と魔法円っぽいグッズが見える。
「……それ何?」
「観察日記です。あと、“人間と魔術的思考の共鳴効果”についての……趣味資料」
「うん、趣味って単語に全部押し込んでるけど、内容ガチねそれ」
みりあは涼しい笑顔で手を振ると、またスキップするように歩いていった。
その方向は──さくらハイツ。
(……え、ちょっと待って)
(さっきの筋肉も、今の女子高生も──あれ、みんな、同じアパートじゃない!?)
気づいた瞬間、全身に変な汗が浮く。
(偶然?偶然ってこんなことある?)
(ていうか、私が住み始めてから……やたらと“変な人”が……いや、普通の人なんだけど、“気になる人”が……)
「おい、顔が引きつってるぞ」
「ちょっと静かにして今、脳内で記憶と魔力の波長照合してるから」
その頃──
さくらハイツのゴミ集積場の前では、また別の接点が生まれていた。
「うっす、ゴミ袋こっちで合ってます?」
「はい、大丈夫ですよ~。こっちは燃えるゴミの日ですから」
佐倉直也(203号室)と、みりあ(101号室)が偶然鉢合わせていた。
「お、引っ越したばっかっすよね?よろしくっす」
「はい。佐倉さんも……最近でしたっけ?」
「うん、なんか静かで落ち着くアパートですよね。いやー、前に住んでたとこはなんかこう……終末感すごくて」
「……終末感?」
「……いや、雰囲気っす。山の方だったんで」
「(それ絶対異世界の話だ)」
だが、お互い“妙に察しが良い”せいで、あえて深追いしない。
“何かを感じた”瞬間には、なぜかそれ以上触れず、ふんわり笑って終わらせてしまう。
これは、偶然ではない。
“そうするようにできている”かのように──
そして夜。
ルーナの部屋では、クロが畳の上に転がっていた。
「これでお前含めて、上も下も両隣も“集まった”わけだ」
「……全員が“何か”の転生者で、でも誰も何も気づいてないって……
これもう、ホラーよね。現代社会に完全に馴染んだ異物たちの集会所じゃん……」
「でも気づいてないのって、ある意味、平和だぞ」
「まあね……戦う理由がないからね、今のところ」
「で、いつ気づくんだろうな。誰が最初に“全部”思い出すんだ?」
「……それ、私じゃないといいな」
ルーナはコタツにもぐりながら、ふぅっと息を吐いた。
──静かで、穏やかで、ちょっとだけ不穏な日常。
このアパートの住人たちは、今日も“平和なご近所付き合い”を続けている。
過去に世界を救ったことも、壊しかけたことも、誰も口にしない。
それでも、確かに──何かが、始まりつつあった。
(続く)
空はうっすらと雲がかかり、少し風が涼しくなってきた。
ルーナは、商店街の八百屋の前で長ネギの値段と格闘していた。
「……高い……でも味噌汁には入れたい……でも98円って……高い……」
その横で、猫のクロが溜息をついている。
「戦争より悩んでるな、ネギ1本で」
「現代の戦いは家計なのよ……甘く見るな」
買い物袋を片手に立ち尽くす彼女の視線の先、商店街の向こうで──
「よっしゃあああ!!タイムアタック終了ーッ!!」
筋肉が、ダッシュで走っていた。
「あれ……」
と気づくルーナの目に飛び込んできたのは、
配達の制服を着て満面の笑顔で立っている男──大山快(303号室)。
汗びっしょりで、Tシャツがピチピチに張りついている。
足元にはママチャリ。なぜかハンドルには手作りの旗がついていた。
《配達も友情も、時間との戦いだ!》
「(こわ)」
「おっ! ルーナさーん!買い物っすか!? お疲れっすー!!」
「……お、おう……元気だね……」
「今っすか!?僕、3件回って全部5分前倒しでした!!
ついでに商店街の段差でジャンプして、勢いで屋根に荷物投げ込んだっす!!」
「それ、クレームこない?」
「まだ来てないっす!!」
「(まだ、か……)」
快は相変わらずのテンションで缶ジュースを一気飲みし、
「じゃ、また!」と陽気にチャリで去っていった。
その姿を見ながら、ルーナはクロに耳打ちする。
「ねぇ、あいつ……なんか“既視感”ない?」
「筋肉と声量以外は知らん。けど確かに、なんか……“戦ってた感”はあるな」
「……だよねぇ……」
その時だった。
背後から──
「あっ、ルーナさん!」
振り返ると、セーラー服の少女が手を振って走ってくる。
水瀬みりあ(101号室)。さっきの快とは別方向からやってきたらしい。
「こんにちは~。またお会いできて嬉しいです。今日はネギですか?」
「(なぜ買い物内容を即座に把握してるの!?)」
「……うん。今ね、心のバトル中」
「それなら、“長ネギと小松菜の共存可能性”を考えてみるといいですよ。
色合い的にも味的にも、バランスが取れていて、心にも優しい」
「何そのアドバイス!?なに!?精霊の知恵袋なの!?」
「え? あ、いえいえ~ただの自炊女子です♪」
(違う、絶対違う、全然ただの女子じゃない)
ふと見ると、みりあの手には紙袋。中には薄い本と魔法円っぽいグッズが見える。
「……それ何?」
「観察日記です。あと、“人間と魔術的思考の共鳴効果”についての……趣味資料」
「うん、趣味って単語に全部押し込んでるけど、内容ガチねそれ」
みりあは涼しい笑顔で手を振ると、またスキップするように歩いていった。
その方向は──さくらハイツ。
(……え、ちょっと待って)
(さっきの筋肉も、今の女子高生も──あれ、みんな、同じアパートじゃない!?)
気づいた瞬間、全身に変な汗が浮く。
(偶然?偶然ってこんなことある?)
(ていうか、私が住み始めてから……やたらと“変な人”が……いや、普通の人なんだけど、“気になる人”が……)
「おい、顔が引きつってるぞ」
「ちょっと静かにして今、脳内で記憶と魔力の波長照合してるから」
その頃──
さくらハイツのゴミ集積場の前では、また別の接点が生まれていた。
「うっす、ゴミ袋こっちで合ってます?」
「はい、大丈夫ですよ~。こっちは燃えるゴミの日ですから」
佐倉直也(203号室)と、みりあ(101号室)が偶然鉢合わせていた。
「お、引っ越したばっかっすよね?よろしくっす」
「はい。佐倉さんも……最近でしたっけ?」
「うん、なんか静かで落ち着くアパートですよね。いやー、前に住んでたとこはなんかこう……終末感すごくて」
「……終末感?」
「……いや、雰囲気っす。山の方だったんで」
「(それ絶対異世界の話だ)」
だが、お互い“妙に察しが良い”せいで、あえて深追いしない。
“何かを感じた”瞬間には、なぜかそれ以上触れず、ふんわり笑って終わらせてしまう。
これは、偶然ではない。
“そうするようにできている”かのように──
そして夜。
ルーナの部屋では、クロが畳の上に転がっていた。
「これでお前含めて、上も下も両隣も“集まった”わけだ」
「……全員が“何か”の転生者で、でも誰も何も気づいてないって……
これもう、ホラーよね。現代社会に完全に馴染んだ異物たちの集会所じゃん……」
「でも気づいてないのって、ある意味、平和だぞ」
「まあね……戦う理由がないからね、今のところ」
「で、いつ気づくんだろうな。誰が最初に“全部”思い出すんだ?」
「……それ、私じゃないといいな」
ルーナはコタツにもぐりながら、ふぅっと息を吐いた。
──静かで、穏やかで、ちょっとだけ不穏な日常。
このアパートの住人たちは、今日も“平和なご近所付き合い”を続けている。
過去に世界を救ったことも、壊しかけたことも、誰も口にしない。
それでも、確かに──何かが、始まりつつあった。
(続く)
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