自称25歳、実年齢は250歳の魔女

naomikoryo

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第5話「全員“顔見知り”になるが、誰も気づかない」

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土曜の昼下がり。
空はうっすらと雲がかかり、少し風が涼しくなってきた。

ルーナは、商店街の八百屋の前で長ネギの値段と格闘していた。

 

「……高い……でも味噌汁には入れたい……でも98円って……高い……」

 

その横で、猫のクロが溜息をついている。

 

「戦争より悩んでるな、ネギ1本で」

 

「現代の戦いは家計なのよ……甘く見るな」

 

買い物袋を片手に立ち尽くす彼女の視線の先、商店街の向こうで──

 

「よっしゃあああ!!タイムアタック終了ーッ!!」

 

筋肉が、ダッシュで走っていた。

 

「あれ……」

 

と気づくルーナの目に飛び込んできたのは、
配達の制服を着て満面の笑顔で立っている男──大山快(303号室)。

汗びっしょりで、Tシャツがピチピチに張りついている。
足元にはママチャリ。なぜかハンドルには手作りの旗がついていた。

《配達も友情も、時間との戦いだ!》

 

「(こわ)」

 

「おっ! ルーナさーん!買い物っすか!? お疲れっすー!!」

 

「……お、おう……元気だね……」

 

「今っすか!?僕、3件回って全部5分前倒しでした!!
ついでに商店街の段差でジャンプして、勢いで屋根に荷物投げ込んだっす!!」

 

「それ、クレームこない?」

 

「まだ来てないっす!!」

 

「(まだ、か……)」

 

快は相変わらずのテンションで缶ジュースを一気飲みし、
「じゃ、また!」と陽気にチャリで去っていった。

その姿を見ながら、ルーナはクロに耳打ちする。

 

「ねぇ、あいつ……なんか“既視感”ない?」

 

「筋肉と声量以外は知らん。けど確かに、なんか……“戦ってた感”はあるな」

 

「……だよねぇ……」

 

その時だった。

背後から──

「あっ、ルーナさん!」

 

振り返ると、セーラー服の少女が手を振って走ってくる。
水瀬みりあ(101号室)。さっきの快とは別方向からやってきたらしい。

 

「こんにちは~。またお会いできて嬉しいです。今日はネギですか?」

 

「(なぜ買い物内容を即座に把握してるの!?)」

 

「……うん。今ね、心のバトル中」

 

「それなら、“長ネギと小松菜の共存可能性”を考えてみるといいですよ。
色合い的にも味的にも、バランスが取れていて、心にも優しい」

 

「何そのアドバイス!?なに!?精霊の知恵袋なの!?」

 

「え? あ、いえいえ~ただの自炊女子です♪」

 

(違う、絶対違う、全然ただの女子じゃない)

 

ふと見ると、みりあの手には紙袋。中には薄い本と魔法円っぽいグッズが見える。

 

「……それ何?」

 

「観察日記です。あと、“人間と魔術的思考の共鳴効果”についての……趣味資料」

 

「うん、趣味って単語に全部押し込んでるけど、内容ガチねそれ」

 

みりあは涼しい笑顔で手を振ると、またスキップするように歩いていった。
その方向は──さくらハイツ。

 

(……え、ちょっと待って)

(さっきの筋肉も、今の女子高生も──あれ、みんな、同じアパートじゃない!?)

 

気づいた瞬間、全身に変な汗が浮く。

 

(偶然?偶然ってこんなことある?)

(ていうか、私が住み始めてから……やたらと“変な人”が……いや、普通の人なんだけど、“気になる人”が……)

 

「おい、顔が引きつってるぞ」

 

「ちょっと静かにして今、脳内で記憶と魔力の波長照合してるから」

 

その頃──

さくらハイツのゴミ集積場の前では、また別の接点が生まれていた。

 

「うっす、ゴミ袋こっちで合ってます?」

「はい、大丈夫ですよ~。こっちは燃えるゴミの日ですから」

 

佐倉直也(203号室)と、みりあ(101号室)が偶然鉢合わせていた。

 

「お、引っ越したばっかっすよね?よろしくっす」

「はい。佐倉さんも……最近でしたっけ?」

「うん、なんか静かで落ち着くアパートですよね。いやー、前に住んでたとこはなんかこう……終末感すごくて」

「……終末感?」

「……いや、雰囲気っす。山の方だったんで」

「(それ絶対異世界の話だ)」

 

だが、お互い“妙に察しが良い”せいで、あえて深追いしない。

“何かを感じた”瞬間には、なぜかそれ以上触れず、ふんわり笑って終わらせてしまう。

 

これは、偶然ではない。

“そうするようにできている”かのように──

 

そして夜。
ルーナの部屋では、クロが畳の上に転がっていた。

 

「これでお前含めて、上も下も両隣も“集まった”わけだ」

 

「……全員が“何か”の転生者で、でも誰も何も気づいてないって……
これもう、ホラーよね。現代社会に完全に馴染んだ異物たちの集会所じゃん……」

 

「でも気づいてないのって、ある意味、平和だぞ」

 

「まあね……戦う理由がないからね、今のところ」

 

「で、いつ気づくんだろうな。誰が最初に“全部”思い出すんだ?」

 

「……それ、私じゃないといいな」

 

ルーナはコタツにもぐりながら、ふぅっと息を吐いた。

 

──静かで、穏やかで、ちょっとだけ不穏な日常。
このアパートの住人たちは、今日も“平和なご近所付き合い”を続けている。

過去に世界を救ったことも、壊しかけたことも、誰も口にしない。

それでも、確かに──何かが、始まりつつあった。

 

(続く)
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