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第22話「レナ、ルーナに“昔話”という名の探りを入れる」
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──その日の夜。
さくらハイツ裏手のゴミ集積所には、
たまたま同じタイミングで“二人の女”が立っていた。
一人は、黒猫の使い魔を連れた元魔女・藤原ルーナ。
そしてもう一人は、昼に引っ越してきたばかりの新住人──レナ。
「奇遇ですね」
「ええ、まさかゴミ出しのタイミングまで同じとはね」
ふたりは互いに笑いながらも、目がまったく笑っていない。
目の奥で火花が散っている。
静かな攻防戦──“相手がどこまで記憶を思い出しているか”の探り合いが始まっていた。
「引っ越し、落ち着いた?」
「ええ、まあ。荷ほどきの呪文はうまく唱えられませんでしたけど」
「……呪文?」
「冗談ですよ。箱が多くて、ちょっと魔法でも使いたくなったという意味で」
(わざとでしょその言い方!?)
ルーナは笑顔の仮面を崩さないまま、内心ツッコミを入れる。
レナはさらに畳みかける。
「でも、ルーナさんって不思議ですよね。
アパート住民の中で、誰よりも“中心”にいる感じがして」
「まぁ……年の功ってやつかしら。
私、自称25歳だけど、実年齢は250歳超えてるし」
「まあ、それは……自称なんですね?」
「そう、自称。戸籍上は25歳。年齢詐称じゃないわよ?」
「でも、実際は……」
「言ったら消すわよ」
(おぉっとぉ……言葉に棘が混じってきた。これは“自覚あり”と見てよさそうね)
レナはわずかに口角を上げて、歩みを一歩だけ近づける。
その声は、まるで古くからの友人に語りかけるような優しさを纏っていた。
「ルーナさん。……もしかして、あなたも、あの戦いの記憶を?」
「……記憶?」
「ええ。燃える城。崩れた空。巨大な魔力。
“あの魔王”と、“あの勇者”と、あの時、隣にいた仲間たち」
(来た──名指しなしのワード爆弾)
(さて、どう返すか)
ルーナは口元をぬるりと笑い、
「ふふ……昔話って、思い出補正入るわよね。
私、最近たまに夢を見るの。昔いた世界のこと。
でも、ほら。夢と現実は違うから」
「でも、夢があまりに具体的だと、もしかしてそれって“記憶”だったり……」
「そうねぇ。
私、記憶操作魔術は割と得意だったわ。
下手な夢も、調整すれば割と都合よくなるのよ」
「記憶操作まで!? ああ、なるほど、それって魔女系の──あっ」
レナが軽く口を押さえる。
「あ、ごめんなさい。つい、“魔女”って口走っちゃいました。失礼」
「気にしないで。
私、ハロウィンの時は“魔女のコスプレ”似合うって言われるから」
(お前ら二人とも確信犯だろ!!!)
──その頃、屋根の上で缶チューハイ片手に聞き耳を立てていた快が、
一人でツッコんでいたが誰にも届かなかった。
◇
ルーナはゴミ袋をそっとコンテナに入れながら、
ふと真顔に戻った。
「レナさん。あなた──最初から“全部覚えてる”でしょ?」
レナも袋を置き、まっすぐ彼女を見つめる。
「そうですね。
……最初にこの場所を見た時から、記憶は“再生”されていったわ。
けれど、私は他の皆と同じく、選んで思い出すことにしたの」
「なぜ?」
「そうしないと、“また同じ結末”をなぞる気がしたから」
ふたりの間に、しばしの沈黙。
「……戦わないつもり?」
「ええ。私、あの頃より賢くなったつもり。
戦っても、誰も幸せにならないなら──その未来は選ばないわ」
「ふふ。250年生きても、そっちは変わらないのね」
「貴女こそ、強がってるけど……根っこは優しいままだわ、ルーナ」
「…………ばか」
「今、少し泣きそうになった?」
「泣かないし。あたしは泣かない主義だし。
っていうか、泣いたらチーク落ちるし」
「ふふ。変わらないわね」
月のない夜空の下。
魔女と賢者は、ゴミ袋を挟んで再会していた。
もう名前を呼ばなくても、お互いが“誰か”を知っていた。
レナは、そっと笑った。
「また会えて、よかった。……今度こそ、ちゃんと生きようね、ルーナ」
ルーナは一度だけまばたきをし、
そのまま玄関に向かって歩き出す。
「……じゃ、今度飲もう。酒。
記憶の話はしないってルールでさ」
「いいわよ。“魔力の検査はしない”ってルールもつけてね」
「じゃないと私、秒で正体バレるし」
「もうバレてるけどね」
「うっせぇ!」
ふたりの笑い声が、深夜のアパートにほんの少しだけ響いた。
(続く)
さくらハイツ裏手のゴミ集積所には、
たまたま同じタイミングで“二人の女”が立っていた。
一人は、黒猫の使い魔を連れた元魔女・藤原ルーナ。
そしてもう一人は、昼に引っ越してきたばかりの新住人──レナ。
「奇遇ですね」
「ええ、まさかゴミ出しのタイミングまで同じとはね」
ふたりは互いに笑いながらも、目がまったく笑っていない。
目の奥で火花が散っている。
静かな攻防戦──“相手がどこまで記憶を思い出しているか”の探り合いが始まっていた。
「引っ越し、落ち着いた?」
「ええ、まあ。荷ほどきの呪文はうまく唱えられませんでしたけど」
「……呪文?」
「冗談ですよ。箱が多くて、ちょっと魔法でも使いたくなったという意味で」
(わざとでしょその言い方!?)
ルーナは笑顔の仮面を崩さないまま、内心ツッコミを入れる。
レナはさらに畳みかける。
「でも、ルーナさんって不思議ですよね。
アパート住民の中で、誰よりも“中心”にいる感じがして」
「まぁ……年の功ってやつかしら。
私、自称25歳だけど、実年齢は250歳超えてるし」
「まあ、それは……自称なんですね?」
「そう、自称。戸籍上は25歳。年齢詐称じゃないわよ?」
「でも、実際は……」
「言ったら消すわよ」
(おぉっとぉ……言葉に棘が混じってきた。これは“自覚あり”と見てよさそうね)
レナはわずかに口角を上げて、歩みを一歩だけ近づける。
その声は、まるで古くからの友人に語りかけるような優しさを纏っていた。
「ルーナさん。……もしかして、あなたも、あの戦いの記憶を?」
「……記憶?」
「ええ。燃える城。崩れた空。巨大な魔力。
“あの魔王”と、“あの勇者”と、あの時、隣にいた仲間たち」
(来た──名指しなしのワード爆弾)
(さて、どう返すか)
ルーナは口元をぬるりと笑い、
「ふふ……昔話って、思い出補正入るわよね。
私、最近たまに夢を見るの。昔いた世界のこと。
でも、ほら。夢と現実は違うから」
「でも、夢があまりに具体的だと、もしかしてそれって“記憶”だったり……」
「そうねぇ。
私、記憶操作魔術は割と得意だったわ。
下手な夢も、調整すれば割と都合よくなるのよ」
「記憶操作まで!? ああ、なるほど、それって魔女系の──あっ」
レナが軽く口を押さえる。
「あ、ごめんなさい。つい、“魔女”って口走っちゃいました。失礼」
「気にしないで。
私、ハロウィンの時は“魔女のコスプレ”似合うって言われるから」
(お前ら二人とも確信犯だろ!!!)
──その頃、屋根の上で缶チューハイ片手に聞き耳を立てていた快が、
一人でツッコんでいたが誰にも届かなかった。
◇
ルーナはゴミ袋をそっとコンテナに入れながら、
ふと真顔に戻った。
「レナさん。あなた──最初から“全部覚えてる”でしょ?」
レナも袋を置き、まっすぐ彼女を見つめる。
「そうですね。
……最初にこの場所を見た時から、記憶は“再生”されていったわ。
けれど、私は他の皆と同じく、選んで思い出すことにしたの」
「なぜ?」
「そうしないと、“また同じ結末”をなぞる気がしたから」
ふたりの間に、しばしの沈黙。
「……戦わないつもり?」
「ええ。私、あの頃より賢くなったつもり。
戦っても、誰も幸せにならないなら──その未来は選ばないわ」
「ふふ。250年生きても、そっちは変わらないのね」
「貴女こそ、強がってるけど……根っこは優しいままだわ、ルーナ」
「…………ばか」
「今、少し泣きそうになった?」
「泣かないし。あたしは泣かない主義だし。
っていうか、泣いたらチーク落ちるし」
「ふふ。変わらないわね」
月のない夜空の下。
魔女と賢者は、ゴミ袋を挟んで再会していた。
もう名前を呼ばなくても、お互いが“誰か”を知っていた。
レナは、そっと笑った。
「また会えて、よかった。……今度こそ、ちゃんと生きようね、ルーナ」
ルーナは一度だけまばたきをし、
そのまま玄関に向かって歩き出す。
「……じゃ、今度飲もう。酒。
記憶の話はしないってルールでさ」
「いいわよ。“魔力の検査はしない”ってルールもつけてね」
「じゃないと私、秒で正体バレるし」
「もうバレてるけどね」
「うっせぇ!」
ふたりの笑い声が、深夜のアパートにほんの少しだけ響いた。
(続く)
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※小説家になろうにも掲載中です。
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