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第4章:「双星の終焉(そうせいのしゅうえん)」
第3話「記憶の臨界」
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――自分の意志は、自分のものだ。
それは当たり前のことのようで、時に最も危うい幻想になる。
今、剛はまさにその境界に立っていた。
富士山地下の極秘施設――かつてΦ計画が行われたとされる研究区画。
魔王の核の“残滓”が眠る場所で、剛は完全にそれと繋がってしまった。
最初は微かだった。
青白い光が皮膚をなぞり、胸の奥が冷えるような感覚があっただけだった。
けれど、それは徐々に確かな“声”になり、やがて――自分の思考と混ざり始めた。
「キミは無力だった」
「友達も守れなかった。仲間が死んだとき、ただ立ち尽くしていた」
「それでも勇者を名乗るのか?」
「それでも世界を救いたいのか?」
「うるさい……俺は……!」
剛は床に膝をつき、頭を抱え込んだ。
視界が歪む。世界の輪郭が滲んでいく。
視界の端で、京が何か叫んでいる。
でも、その声すら、もう遠い。
剛の中で、過去の記憶が呼び覚まされる。
クラスの中でひとり浮いていた自分。
何か言えば否定され、何もしなければ透明人間。
誰かに声をかける勇気もなければ、逃げる場所すらなかった。
その記憶が、今になって、核に“引き寄せられている”。
魔王の核とは、記憶の集合体。
人々の恐怖、怒り、絶望、そして――忘れ去られた感情の堆積。
そしてそれは、「剛の弱さ」そのものに反応した。
「……お前は、いらない存在だ」
「やめろ……やめてくれ……」
「お前がいなくなっても、誰も困らない」
「――やめろって言ってるだろっ!!!」
剛の周囲に青白いオーラが弾ける。
その魔素が施設全体に充満し、警報が鳴り始める。
京が叫ぶ。
「剛!! もうやめて!! それ以上引き込まれたら、戻ってこれなくなる!!」
だが、剛にはそれが“届いていない”。
いや――届いているのに、受け止める余裕がなかった。
核の声が、自分の声にすり替わる。
どこまでが自分で、どこからが“魔王”なのかが、分からなくなる。
そのとき。
微かな光が差し込んだ。
手のひらに、京が握らせてくれたお守りがあった。
小さな布袋に、彼女の手書きの文字が刺繍されている。
「バカでも、弱くても、生きてるだけで、価値がある」
その言葉が、剛の脳裏にふっと浮かんだ。
――俺は。
弱い。
臆病だ。
すぐ逃げたくなる。
でも、それでも、誰かの役に立ちたいと思った。
命を救いたいと思った。
「俺は、俺だ!!」
剛が叫ぶ。
その声と共に、魔王の核との同調が一瞬だけ、切れた。
重力が戻り、世界が現実に引き戻される。
だが、余波はあまりにも大きかった。
剛の体から噴き出した魔素が、周囲の壁を吹き飛ばし、施設の一部が崩れ始める。
「剛っ!!」
京が駆け寄り、倒れた剛を抱きとめる。
「ごめん、俺……暴走、しかけてた」
「もう……いい、よく戻ってきた……」
彼女の手が、剛の背に触れる。
温かかった。
こんなにも、ちゃんと“現実”がある。
核は、まだそこにある。
剛の魔素に反応し続けている。
でも、もう飲み込まれはしない。
「俺は、鍵であって、扉じゃない」
「記憶に使われるんじゃない。俺が、記憶を“終わらせる”」
その宣言に、核がかすかに沈黙する。
まるで、認めたように。
剛は立ち上がる。
その背には、もはや怯えや不安はなかった。
「京。……一緒に来てくれるか」
「当たり前でしょ。置いてったら張り倒すから」
ふたりは再び手を取り、魔王の核の前に立った。
剛の中で、静かに火が灯る。
世界を、記憶に呑ませはしない。
たとえその記憶が、どんなに哀しくても。
「これは、俺の物語だ」
「俺自身が選ぶ。生きて、抗って、終わらせる」
青白い魔素の中で、剛の決意が確かな形となって光り始める。
遠く、空の向こうで、タケルの剣が光を放っていた。
ふたりの勇者が、今、完全に覚悟を重ねた。
それは当たり前のことのようで、時に最も危うい幻想になる。
今、剛はまさにその境界に立っていた。
富士山地下の極秘施設――かつてΦ計画が行われたとされる研究区画。
魔王の核の“残滓”が眠る場所で、剛は完全にそれと繋がってしまった。
最初は微かだった。
青白い光が皮膚をなぞり、胸の奥が冷えるような感覚があっただけだった。
けれど、それは徐々に確かな“声”になり、やがて――自分の思考と混ざり始めた。
「キミは無力だった」
「友達も守れなかった。仲間が死んだとき、ただ立ち尽くしていた」
「それでも勇者を名乗るのか?」
「それでも世界を救いたいのか?」
「うるさい……俺は……!」
剛は床に膝をつき、頭を抱え込んだ。
視界が歪む。世界の輪郭が滲んでいく。
視界の端で、京が何か叫んでいる。
でも、その声すら、もう遠い。
剛の中で、過去の記憶が呼び覚まされる。
クラスの中でひとり浮いていた自分。
何か言えば否定され、何もしなければ透明人間。
誰かに声をかける勇気もなければ、逃げる場所すらなかった。
その記憶が、今になって、核に“引き寄せられている”。
魔王の核とは、記憶の集合体。
人々の恐怖、怒り、絶望、そして――忘れ去られた感情の堆積。
そしてそれは、「剛の弱さ」そのものに反応した。
「……お前は、いらない存在だ」
「やめろ……やめてくれ……」
「お前がいなくなっても、誰も困らない」
「――やめろって言ってるだろっ!!!」
剛の周囲に青白いオーラが弾ける。
その魔素が施設全体に充満し、警報が鳴り始める。
京が叫ぶ。
「剛!! もうやめて!! それ以上引き込まれたら、戻ってこれなくなる!!」
だが、剛にはそれが“届いていない”。
いや――届いているのに、受け止める余裕がなかった。
核の声が、自分の声にすり替わる。
どこまでが自分で、どこからが“魔王”なのかが、分からなくなる。
そのとき。
微かな光が差し込んだ。
手のひらに、京が握らせてくれたお守りがあった。
小さな布袋に、彼女の手書きの文字が刺繍されている。
「バカでも、弱くても、生きてるだけで、価値がある」
その言葉が、剛の脳裏にふっと浮かんだ。
――俺は。
弱い。
臆病だ。
すぐ逃げたくなる。
でも、それでも、誰かの役に立ちたいと思った。
命を救いたいと思った。
「俺は、俺だ!!」
剛が叫ぶ。
その声と共に、魔王の核との同調が一瞬だけ、切れた。
重力が戻り、世界が現実に引き戻される。
だが、余波はあまりにも大きかった。
剛の体から噴き出した魔素が、周囲の壁を吹き飛ばし、施設の一部が崩れ始める。
「剛っ!!」
京が駆け寄り、倒れた剛を抱きとめる。
「ごめん、俺……暴走、しかけてた」
「もう……いい、よく戻ってきた……」
彼女の手が、剛の背に触れる。
温かかった。
こんなにも、ちゃんと“現実”がある。
核は、まだそこにある。
剛の魔素に反応し続けている。
でも、もう飲み込まれはしない。
「俺は、鍵であって、扉じゃない」
「記憶に使われるんじゃない。俺が、記憶を“終わらせる”」
その宣言に、核がかすかに沈黙する。
まるで、認めたように。
剛は立ち上がる。
その背には、もはや怯えや不安はなかった。
「京。……一緒に来てくれるか」
「当たり前でしょ。置いてったら張り倒すから」
ふたりは再び手を取り、魔王の核の前に立った。
剛の中で、静かに火が灯る。
世界を、記憶に呑ませはしない。
たとえその記憶が、どんなに哀しくても。
「これは、俺の物語だ」
「俺自身が選ぶ。生きて、抗って、終わらせる」
青白い魔素の中で、剛の決意が確かな形となって光り始める。
遠く、空の向こうで、タケルの剣が光を放っていた。
ふたりの勇者が、今、完全に覚悟を重ねた。
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