双星の記憶(そうせいのきおく)

naomikoryo

文字の大きさ
54 / 55
最終章:「双星の残響(そうせいのざんきょう)」

第9話 「双星、共に立つ」

しおりを挟む
“始原の門”が閉じたあとの空は、どこか穏やかだった。

 だが、それが終わりを告げているわけではないと、誰もが理解していた。

 異世界と地球を繋いでいた“交差点”は、今まさに崩壊しかけている。

 このままでは、二つの世界は完全に分離される。
 もう二度と、互いを行き来することはできなくなるだろう。

 
 剛とタケルは、丘の上に並んで立っていた。
 それぞれの世界、それぞれの場所に帰るべきときが、来ている。

 
 「俺は、地球に戻る。京と一緒に、ちゃんと生きたいんだ」

 剛がそう告げると、リアと京は静かにうなずいた。

 タケルもまた、目を細めて頷いた。

 
 「俺も、この世界で、リアと共に生きていく。もう、誰かの理想じゃなく、自分のままで」

 
 ふたりは拳を合わせた。

 それは決別ではない。
 ただ、選んだ道を進むという、強い意思の表れ。

 
 だが――その静けさを破るように、ひとつの声が響いた。
 

 「ちょっと待ってよ!」
 

 その声の主は、カイルだった。

 剛の言葉を聞いてから、じっと黙っていた彼女が、ついに感情を爆発させたように前へ出てきた。
 

 「なんで!? なんでそんなに簡単に帰るって言えるのよ!」

 
 「カイル……」

 
 「こっちに残ってくれないなら、私も行く! その“地球”ってとこに!」

 
 周囲が息を飲む。

 カイルの目には、涙が滲んでいた。
 それでも、彼女は真っ直ぐ剛を見つめて言葉を続けた。

 
 「私……ずっと頑張ってきたの。剛が助けてくれてから、ずっと!
  剛がいたから、ここまで強くなれたんだよ!
  剛の背中、ずっと追いかけてきたんだよ……!」
 

 剛は何も言えなかった。

 そしてカイルは、涙をこらえきれずに、剛に一歩近づいた。
 

 「だったら、せめて――一度でいいから、あたしのこと、ちゃんと“女の子”として見てよ……!」

 
 そう言って、顔を近づける。

 剛が慌てて身を引こうとしたその瞬間――
 

 「ストーーップ!!」
 

 京の手がスパッとカイルの前に入った。

 
 「な、何すんのよ京さん!」
 

 「こっちの台詞よ! いきなりキス!? 冗談じゃないわ、こっちは命賭けて一緒に来てんのよ!?」

 
 「私だって命かけてる! ずっと前から! 剛のことずっと好きだったのに……!」
 

 二人の間に火花が散る。

 リアとタケルが後方で顔を見合わせ、小さく苦笑いを交わす。
 だが今回は、剛が真っすぐに声を上げた。

 
 「やめて……カイル。……ごめん。俺……」

 
 カイルがピクリと反応した。

 
 「……俺には、京がいる。
  ずっと一緒にいてくれた。迷ってた時も、逃げたくなった時も、支えてくれた。
  だから……これから先も、俺は――京と生きていきたい」
 

 その言葉に、カイルの肩が小さく震える。

 目元に溢れた涙が、一筋、頬をつたう。

 
 「剛の、バカ~~~!!!」

 
 そう叫ぶと、彼女は自分の首にぶら下げていた銀のペンダントを引きちぎった。

 それは、かつて彼女の一族に代々伝わる“守りの護符”。
 大切に、肌身離さず持っていたもの。

 
 カイルは、それを――京に向かって、放り投げた。

 
 「……持ってなさいよ! 剛を守るなら、あんたが最後まで守りなさいよ! 絶対に死なせるんじゃないわよッ!」

 
 京は無言でそれを受け取った。

 カイルはもう顔を上げられなかった。
 

 「……バカ……バカバカバカ……ッ!」

 
 叫びながら、カイルは駆け出した。

 大粒の涙を流しながら、森の奥へと消えていく。

 
 その背中に、誰も何も言えなかった。
 

 京がそっと護符を見つめる。

 「……ほんとに、いい子ね。あの子」

 
 剛は黙ってうなずいた。

 そして、京の肩に手を置いた。

 
 「……ありがとな。いてくれて、良かった」
 

 京の目にうっすら涙が浮かんでいた。

 だが彼女は笑い、涙をぬぐって言った。

 
 「……ばか。今さら惚れ直させないでよ」

 
 タケルとリアがふたりを見守りながら、門の前に立つ。

 
 「さあ、時間がない。門が閉じる前に、それぞれの場所へ戻るんだ」
 

 剛とタケルは再び向き合い、拳を合わせる。

 「またな、タケルさん」

 「ああ、剛。お前は、もう立派な勇者だよ」

 
 それぞれの世界へ、戻るべき人間として。

 二人は最後の門を通り、別れを告げた。

 
 そして――物語は、いよいよ最終決戦へ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ
ファンタジー
七つの大陸、それぞれを支配する“七大魔女”── 魔力あふれる世界《アルセ=セフィリア》は、魔女たちによる統治と恐怖に覆われていた。 だが、その支配に終止符を打つべく、一人の男が立ち上がる。 名はルーク・アルヴェイン。伝説の勇者の血を引く名家の出身でありながら、前世はただの社畜。 高い魔力と最強の肉体、そして“魔女の核を斬ることのできる唯一の剣”を手に、彼は世界を平和にするという使命にすべてを捧げていた。 ──しかし、最初に討伐した《闇の魔女・ミレイア》はこう言った。 「あなたの妻になります。魔女の掟ですから」 倒された魔女は魔力を失い、ただの美少女に。 しかもそのまま押しかけ同居!? 正妻宣言!? 風呂場に侵入!? さらには王女や別の魔女まで現れて、なぜか勇者をめぐる恋のバトルロイヤルが始まってしまう!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。 記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...