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第5話「休日の偶然」
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日曜日の昼下がり。
東京・代々木公園。ぽかぽか陽気で人も多く、ベンチにはカップル、芝生には子供連れ、道端には大道芸人。
舞子はひとり、ベンチでクレープを食べていた。
「うーん、クリームたっぷり……しあわせ……」
先週は怒涛の一週間やった。残業もしたし、資料も必死でまとめたし、
その中で本庄課長に対する感情が、どんどん変わってきてる自分にも気づいてしもたし……。
「……あかん、好きになってもうたんちゃう?」
東京に来てすぐ、こんな恋に落ちるとは思ってへんかった。
それも相手が、あんなに感情を見せへん氷の男やなんて。
舞子はクレープをもう一口かじって、空を見上げた。
「まあ、ええか。好きになってしまったもんは、しゃあないしな」
そう、自分の気持ちは誤魔化されへん。
でもそれを伝えたところでどうにもならへん相手やとも、わかってる。
(あーあ、せめてもうちょっと本庄課長のこと知れたらなぁ……)
そう思って視線を落としたときだった。
目の前の小道に、見覚えのある後ろ姿が現れた。
「……えっ、まさか……」
紺のカーディガンに白のTシャツ、スリムな黒パンツ。無駄のない姿勢。
あの髪型、歩き方、雰囲気――
あれ、絶対、本庄課長やん!?
まさかの休日遭遇に、舞子は反射的にクレープをもぎって手に持ったまま、背後をそっと追いかけ始めた。
(え、どこ行くんやろ……しかも、誰かと待ち合わせ!? まさか彼女!?)
しかし歩くスピードも早く、つかず離れずの距離感を保つのに必死。
そして、ある広場に差し掛かったときだった。
公園の真ん中で、小さな子供が泣いている。
「ままぁ~……うぇぇん……」
周囲を見渡しても、保護者らしき姿はなし。
そしてその子に近づいていったのは――
本庄課長だった。
「大丈夫か?」
優しい、けれどはっきりとした声で話しかける。
「お母さん、どこに行ったの?」
子供はびえびえ泣きながら、本庄の袖をぎゅっと掴んだ。
すると彼は、しゃがみこんで子供の目線に合わせてこう言った。
「大丈夫。絶対に一緒にお母さんを探すから。安心していいよ」
そして、まわりにいたカップルに
「すみません、もしよろしければ近くの警備員のところまで、この子の特徴を伝えてもらえませんか?」
とお願いまでしていた。
(……え? ちょ、え、何? なにこのナチュラルなヒーロー感!?)
舞子は、手にしたクレープが完全に溶けてきていることにも気づかず、口をぽかんと開けて見ていた。
いつも無表情で冷たくて、言葉も淡々としてて……
それが今、迷子の子供の前でこんなにも優しくて、頼りがいがあって、人間味にあふれている。
(……そら、惚れるわ)
自分の胸の中から、ぽん、と何かが音を立てて跳ね上がる。
5分後、子供の母親が駆け寄ってきて、無事に再会。
お礼を何度も言う女性に対して、本庄はただ一言。
「よかったですね」
そのあと、振り返って立ち去ろうとする姿――その時、
(目が合った)
舞子は思わず、ベンチに隠れようとしたが、完全に遅かった。
本庄課長の視線が、こちらを確実に捉えていた。
「あ……あっ……」
「あれ……宮本さん?」
「……うっ……は、はい……すんません、なんか……」
(あかん、言い訳できへん! 見とれてたの完全にバレとる!)
5分後、近くのカフェにふたりで座っていた。
「偶然ですね」と言われたけど、本庄が笑ったような気がしたのは舞子の錯覚か。
「さっきの、すごかったです。子供にあんなに優しく対応できるなんて……」
「迷子の対応は、マニュアルより“安心させること”が第一です」
「それ、会社でも言うてくださいよ!」
「会社は“安心”より“精度”を求められる場なので」
「そら冷たく見られますわ」
すると本庄は、ふっと笑った。
はっきりとした、笑顔。
(えっ……え、うそ……今、笑った!?)
「……そうかもしれませんね」
その笑顔は一瞬だったけど、確かに氷が少しだけ、溶けたような気がした。
舞子の心はもう、ズブズブに沈み込んでいた。
この人の知らん顔、もっと見たくなってきた。
帰り道、ふたりは並んで歩いた。
日曜の午後の東京は、意外と静かで、心地よかった。
舞子は、ふと本庄に聞いた。
「課長、もしかして……休日、ああやってボランティアとかよくされてるんですか?」
「……たまに、ですね。そういうの、あまり話すのは得意じゃないので」
「……もったいないですよ」
「そうですか?」
「そうですよ。“冷たい人”って思われるの、損してますよ。今日の課長、めちゃくちゃ……素敵でしたから」
本庄はしばらく沈黙したあと、ぽつりと言った。
「そう言ってもらえると……救われる気がします」
(あかん……あかんわ……そんなん言われたら……)
舞子はその夜、帰宅してからもしばらくベッドに転がりながら悶絶していた。
「あーもうっ! 好き! 完全に好きやん!」
けど、それと同時に思った。
この気持ち、バレたら終わりや――
そう思うくらい、真剣な気持ちになってきてる自分が、ちょっとだけこわかった。
東京・代々木公園。ぽかぽか陽気で人も多く、ベンチにはカップル、芝生には子供連れ、道端には大道芸人。
舞子はひとり、ベンチでクレープを食べていた。
「うーん、クリームたっぷり……しあわせ……」
先週は怒涛の一週間やった。残業もしたし、資料も必死でまとめたし、
その中で本庄課長に対する感情が、どんどん変わってきてる自分にも気づいてしもたし……。
「……あかん、好きになってもうたんちゃう?」
東京に来てすぐ、こんな恋に落ちるとは思ってへんかった。
それも相手が、あんなに感情を見せへん氷の男やなんて。
舞子はクレープをもう一口かじって、空を見上げた。
「まあ、ええか。好きになってしまったもんは、しゃあないしな」
そう、自分の気持ちは誤魔化されへん。
でもそれを伝えたところでどうにもならへん相手やとも、わかってる。
(あーあ、せめてもうちょっと本庄課長のこと知れたらなぁ……)
そう思って視線を落としたときだった。
目の前の小道に、見覚えのある後ろ姿が現れた。
「……えっ、まさか……」
紺のカーディガンに白のTシャツ、スリムな黒パンツ。無駄のない姿勢。
あの髪型、歩き方、雰囲気――
あれ、絶対、本庄課長やん!?
まさかの休日遭遇に、舞子は反射的にクレープをもぎって手に持ったまま、背後をそっと追いかけ始めた。
(え、どこ行くんやろ……しかも、誰かと待ち合わせ!? まさか彼女!?)
しかし歩くスピードも早く、つかず離れずの距離感を保つのに必死。
そして、ある広場に差し掛かったときだった。
公園の真ん中で、小さな子供が泣いている。
「ままぁ~……うぇぇん……」
周囲を見渡しても、保護者らしき姿はなし。
そしてその子に近づいていったのは――
本庄課長だった。
「大丈夫か?」
優しい、けれどはっきりとした声で話しかける。
「お母さん、どこに行ったの?」
子供はびえびえ泣きながら、本庄の袖をぎゅっと掴んだ。
すると彼は、しゃがみこんで子供の目線に合わせてこう言った。
「大丈夫。絶対に一緒にお母さんを探すから。安心していいよ」
そして、まわりにいたカップルに
「すみません、もしよろしければ近くの警備員のところまで、この子の特徴を伝えてもらえませんか?」
とお願いまでしていた。
(……え? ちょ、え、何? なにこのナチュラルなヒーロー感!?)
舞子は、手にしたクレープが完全に溶けてきていることにも気づかず、口をぽかんと開けて見ていた。
いつも無表情で冷たくて、言葉も淡々としてて……
それが今、迷子の子供の前でこんなにも優しくて、頼りがいがあって、人間味にあふれている。
(……そら、惚れるわ)
自分の胸の中から、ぽん、と何かが音を立てて跳ね上がる。
5分後、子供の母親が駆け寄ってきて、無事に再会。
お礼を何度も言う女性に対して、本庄はただ一言。
「よかったですね」
そのあと、振り返って立ち去ろうとする姿――その時、
(目が合った)
舞子は思わず、ベンチに隠れようとしたが、完全に遅かった。
本庄課長の視線が、こちらを確実に捉えていた。
「あ……あっ……」
「あれ……宮本さん?」
「……うっ……は、はい……すんません、なんか……」
(あかん、言い訳できへん! 見とれてたの完全にバレとる!)
5分後、近くのカフェにふたりで座っていた。
「偶然ですね」と言われたけど、本庄が笑ったような気がしたのは舞子の錯覚か。
「さっきの、すごかったです。子供にあんなに優しく対応できるなんて……」
「迷子の対応は、マニュアルより“安心させること”が第一です」
「それ、会社でも言うてくださいよ!」
「会社は“安心”より“精度”を求められる場なので」
「そら冷たく見られますわ」
すると本庄は、ふっと笑った。
はっきりとした、笑顔。
(えっ……え、うそ……今、笑った!?)
「……そうかもしれませんね」
その笑顔は一瞬だったけど、確かに氷が少しだけ、溶けたような気がした。
舞子の心はもう、ズブズブに沈み込んでいた。
この人の知らん顔、もっと見たくなってきた。
帰り道、ふたりは並んで歩いた。
日曜の午後の東京は、意外と静かで、心地よかった。
舞子は、ふと本庄に聞いた。
「課長、もしかして……休日、ああやってボランティアとかよくされてるんですか?」
「……たまに、ですね。そういうの、あまり話すのは得意じゃないので」
「……もったいないですよ」
「そうですか?」
「そうですよ。“冷たい人”って思われるの、損してますよ。今日の課長、めちゃくちゃ……素敵でしたから」
本庄はしばらく沈黙したあと、ぽつりと言った。
「そう言ってもらえると……救われる気がします」
(あかん……あかんわ……そんなん言われたら……)
舞子はその夜、帰宅してからもしばらくベッドに転がりながら悶絶していた。
「あーもうっ! 好き! 完全に好きやん!」
けど、それと同時に思った。
この気持ち、バレたら終わりや――
そう思うくらい、真剣な気持ちになってきてる自分が、ちょっとだけこわかった。
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