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第6話『たっくん、箱を置く』

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月曜日の朝。
 
天気は晴れ。
風は少し冷たく、空は雲ひとつない。
 
「……設置日和、だな」
 
団地の敷地の中、公民館の正面玄関わきに、ぬっくりと立つたぬきポスト。

 胸には「ひかりが丘 みんなのこえポスト」と手彫りされた看板。
にっこり笑って、ウインクして、鉛筆を構えるたぬきは、まるで「さあ、話してごらん」と言っているようだった。
 
その下に取り付けられた投函口は、白く塗られた木製のフタ付きで、雨の日にも安心設計。
 
「棟梁、マジで仕事細かすぎ」
 
拓斗は、ポストの鉛筆部分に手を置きながら呟いた。
 
(このたぬき、ぼくより人気出るかもな……)
 
掲示板の下には、拓斗自作の説明ポスター。
今日から本格稼働ということで、カラフルで読みやすいレイアウトにした。
 
その横には、田所さんが準備してくれた「投稿用紙と鉛筆セット」のボックスが置かれている。
 
用紙の端には、拓斗の手描きのちびキャラが「どんなお悩みでも、まかせといて!」と笑っている。
 
(たぬきの目力がすごいから、キャラでちょっと和らげたつもり……)
 
投稿箱の中は、まだ空っぽ。
 
でも、それがかえって神聖な感じがして、拓斗はそっと帽子を脱いでぺこりと頭を下げた。
 
「よし。がんばれ、たぬき」

 
***

 
ポストの噂は、団地内のあちこちに広まっていた。
 
「匿名でいいって書いてあるけど……本当に匿名なの?」
「たっくんって、あの子?なんかすごいって聞いたわよ。小学生とは思えないって」
「誰が読むの?返事はどうやって来るの?」
 
町内の情報は、掲示板と“にじや”で拡散される。
つまり、スーパーのパートおばちゃんたちは情報のプロ。
 
「今日の特売はキュウリ三本百円よー!あと、“たぬき”が相談受けてくれるってよー!」
 
「ちょっと!キュウリよりポストの方が大事!」
 
店の入口前に並ぶ買い物客の中には、
「ついでに投稿してこようかしら」とつぶやく人も。
 
(“ついで”って言ってる時点で、深刻ではないのかも)

でも、それでもいい。
 
(悩みって、誰かに“聞いてもらえる”って思うだけで、ちょっと楽になるんだよな)
 

***
 

放課後。
 
視聴覚室での作業を終えた拓斗は、カバンにノートパソコンをしまい、帰り道にふとポストに寄ってみた。
 
(まだ何も来てないかな……)
 
カチ。
小さな鍵を差し込んで開ける。
 
中には――
 
白い封筒が、一通だけ入っていた。
 
「……来た」
 
思わず、ゴクリと唾をのむ。
 
たぬきの口元が、なんだか満足そうに見える。
 
「最初のひとつ……重みあるな」
 
封筒の表には何も書かれていない。
 
中を開くと、折りたたまれた便箋に、ゆっくりと丁寧な字が並んでいた。
 

《投稿内容》

最近、回覧板が回ってきません。
自分のところで止まっているのではと疑われてしまい、
とても悲しい気持ちになります。

でも、確かに私も、うっかり置き忘れたり、夜になってから気づくことがありました。
こういうこと、どうすればいいのでしょう。

ひかりが丘住人・女(60代)

 
拓斗は、ふうっと息を吐いて、便箋を丁寧に折りなおした。
 
(これは……“本当の悩み”だ)
 
誰のせいでもない。
でも、誰かのせいにされそうで、もやもやする。
 
(なるほど……回覧板は“まわす文化”だけど、“止まる責任”が個人に偏るのか)
 
それは、ちょっと不公平だ。
 
(じゃあ、情報の伝達を“見える化”する方法が必要かも)
 
拓斗は、自宅に戻るとすぐにノートPCを開いて、アイディアを書き出し始めた。

 
***

 
翌朝。掲示板の前に新しく貼られたコーナーに、団地住人たちがざわついていた。
 
「“相談ポストへのお返事コーナー”?なにこれ」
「これ、ほんとにあのたぬきに入れた手紙のこと!?」
 
掲示された用紙には、手描きのちび拓斗のイラストと共に、こう記されていた。
 

【相談①:回覧板が回ってこない問題】

回覧板の遅れ、うっかり、行き違い……
誰にでもあることです。

でも、誰かが責められるのはちょっと寂しいですね。

そこで、“回覧リレーシール”を提案します。

これから配布される回覧板に、
受け取ったら貼る「名前シール」を添付します。

表紙に、シールで“誰まで回っているか”が見えるようにすれば、
止まっている場所も“責める”んじゃなくて“サポート”できるかも。

「困ったら、お互いさま」の空気を作りたいと思います。

担当:たっくん(8)

 
「……シール?貼るだけ?」
「え、簡単じゃない?」
「誰が止めてるかバレるんじゃなくて、気づかせてあげるための仕組みってわけね」
「おっ、子どもが考えたにしちゃ、やるわね」
 
(“にしちゃ”って何だよ)
 
掲示板の少し離れたところから、様子を見ていた拓斗は、頬をふくらませながらもにやっと笑った。
 
(やっぱり、ちゃんと伝わると嬉しいな)
 
そのとき、隣からのぞみがやってきて、ひょいと一枚の投稿用紙を見せた。
 
「ほら、見て。あたしも書いた」
 
「なに書いたの?」
 
「“最近、たっくんが人気者でくやしいです”」
 
「……ポストは愚痴箱じゃない」
 
「いや、心の叫びだもん」
 
(……でも、わかるよ)
 
ちょっとだけ、誇らしそうに胸を張って、たっくんは再びたぬきのポストに一礼した。

 
(さあ、次はどんな声が届くかな)

 
―――つづく
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