IQ150のぼく、ただいま自治会活動中!

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第26話『たっくん、敬老会でマジックをする』

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十月の終わり。

ひかりが丘団地では、毎年恒例の敬老会が開催される。

公民館の広間に、団地の60歳以上の方々が一堂に会し、
昼食を囲み、歌や踊りや漫才で盛り上がる、
いわば「ひかりが丘版 紅白歌合戦」のようなものだった。

そして今年――

その出し物のひとつに、「たっくんのマジックショー」が組み込まれていた。

 
(なんでだ)
 

たっくんは、ポータブル机に向かって腕を組んでいた。

横にはノートパソコン、ハサミ、トランプ、スプーン、そしてなぜか紙風船。

「たっくん~!スプーン曲げやるんでしょ~!?」

のぞみが楽しそうにスキップして入ってくる。

「やらない」

「え、なんで。IQ150でしょ?」

「その数字が“なんでもできる魔法のライセンス”みたいに使われるの、ほんとにやめてほしい……」

(IQ150は“お箸の正しい持ち方が早く分かる”程度の地味さなんだよ……)

 
***
 

ことの始まりは、先週の自治会定例会だった。

田所さんが「今年は若い子の出し物も入れたいわよねぇ」と言い出し、
のぞみが「たっくん、何かできるよ!」と即答したことで、
ほぼ強制的に出演が決定した。

「“団地の小さな天才書記がマジック披露!”って宣伝するの!」

「そんなふうに宣伝されたら、もう何かが浮いたり消えたりしないとだめじゃん……」

「たぬきが喋るとか?」

「その技術はNHKがやってるよ!」
 

とはいえ、すでにチラシも作られ、
プログラムの「第3部・子どもからの贈り物」には――

《 柊拓斗くんによるマジックショー「不思議の団地」》

と、しっかり印刷されていた。

(ここから“やっぱり出ません”は、書記として信用問題)

(書記に大事なのは、“書かれたことを守る”ことでもある)

(……でも、どうしよう)
 

***

 
たっくんは、敬老会の1週間前から試行錯誤を重ねた。

図書館の本を読み、動画を見て、
簡単なトランプマジックやハンカチ消しに挑戦してみた。

が――

「なぜだ……なぜ“手が小さすぎてタネが隠れない”んだ……」

「手の大きさってそんなに関係ある!?」

「小学生の掌サイズは、マジシャン界では不利なんだよ……!」

(あと、団地の人たちって“見抜く目”が鋭すぎるんだ)

(去年、歌の出し物で“口パク”がバレて、
会場の空気が冷蔵庫並みに冷えたって話、まだ語り継がれてるし……)

(何か、別の路線で考えなきゃ)

 
***

 
前日。

たっくんはスケッチブックを広げ、考え込んでいた。

マジックというのは、「目の前で“ありえないこと”が起きる驚き」だ。

でも、道具がなくてもできる“ありえないこと”は、もっと身近にあるのでは――

「……そっか」

(“技”じゃなくて、“気持ちで驚かせる”マジックにすればいい)

(たとえば――)

 
たっくんの目がキラリと光った。

「これだ……これなら、“団地”にしかできない」

 
***

 
敬老会当日。
団地の広間にはテーブルとパイプ椅子がずらりと並び、
お赤飯、煮物、お吸い物、お茶のセットが出されていた。

その脇の舞台には、「たっくんのマジックショー」と書かれた手書きポスター。
 

「はい、それでは続きまして~
団地の誇る若き書記、柊拓斗くんの出し物でーす!」

拍手。
どこか、微笑ましく、でもちょっと“本当にマジックするの?”という空気。

たっくんが、深呼吸して登壇する。

(いける……いける……団地の人たちは“驚き”より“想い”に敏感だ)

「こんにちは。ぼく、団地の書記をしている柊拓斗です」

「今日は、“タネも仕掛けもないマジック”をお見せします」

会場がザワッとする。

(そう。今回のマジックは、舞台を使わない)

(でも、きっと驚く)

 
たっくんは、一枚の紙を取り出した。

「ここに、“誰かから誰かへのメッセージ”が書かれています。
今日はそれを、魔法のように――届けたいと思います」

広間の後方から、のぞみが箱を持って歩いてくる。
その箱には、“団地の手紙”と書かれていた。

 
「ぼくは書記なので、いつも“たぬきポスト”でお手紙を見ています。
その中で、敬老会のときに“ぜひ伝えたい”という手紙を、10通だけ預かってきました」

「今日はそれを、読ませていただきます」

会場が静まり返る。

「1通目。A棟・川井じいちゃんへ」

『敬老会、楽しんでますか?
今は県外に住んでて行けないけど、
じいちゃんが昔、お風呂で“スーパーマリオ”歌ってたの思い出します。
あれは衝撃でした。

でも、元気でいてくれてありがとう。
また帰ったら、団地の階段、いっしょに上ろうね。』

会場から笑いが起きる。

「あの人、ほんとに風呂でマリオ歌ってたのよ~!」

「ワ~~~ワッワ~ワ~~ってやつよね!」

「2通目。B棟・佐久間さんへ」

『いつも、お花をきれいにしてくれてありがとうございます。
おかげで、うちの孫が“おばあちゃんちみたい”って言ってくれました。
見えないところで手をかけるあなたが、
いちばん素敵な魔法使いです。』

「たっくん……このショー、マジックじゃないよ」

と、のぞみがそっと耳打ちしてきた。

「うん。でも、すこし心がふわっとするでしょ?」

 
***
 

そして最後に、たっくんは自分の手紙を読んだ。

『この団地には、いろんな音があります。
お茶を注ぐ音、テレビの音、階段をのぼる足音。

ぼくは、その音の中で育ちました。
一人でごはんを食べるときも、隣の部屋の声が聞こえてくると、安心します。

だから今日は、みんなの前で“ありがとう”を言いたいです。
この団地にいてくれて、ありがとう。』

その言葉に、ぽつりと拍手が生まれ、
やがてホール全体にひろがっていった。

あるおばあちゃんが涙をぬぐい、
あるおじいちゃんが、となりの友人と頷きあった。
 

「これが、ぼくのマジックです」

「“言葉”って、“心を動かす手品”だと思っています」

「来年も、またよろしくお願いします」

深く、たっくんが一礼すると、
ひかりが丘団地の広間に、大きな拍手が鳴り響いた。
 

(団地の魔法は、誰かが笑うと、もう一人も笑ってること)

(それを、ちゃんと届けられたなら――成功)

 
―――つづく
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