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再最終章
病室にて
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あれから半年が過ぎ、太一はまだ目を覚まさず、病室のベッドで静かに眠り続けている。
夕方になると決まって貴子が訪れ、彼に寄り添うように座る。
毎日、小一時間ほど話しかけたり、時には優しく太一の体を拭いたりしていた。
太一の家族もみんな貴子が毎日来ていることを知っていたが、基本は母親が日中に来るぐらいで、貴子と会うことはほとんどなかった。
勿論、週末とかに貴子の働く道の駅『SARADA』を訪れたりして貴子に会った者は必ずお礼を言っていた。
病室の棚の上には、一枚の大きめの写真が額に入れられて飾ってある。
写真は、この春に卒業を迎えたバスケ部の部員たちが、太一を励ましにこの病室を訪れ、記念に撮ったものだ。
太一のベッドの周りに、笑顔の部員たちが集まっている。
真ん中には、まだ眠ったままの太一が横たわり、そのすぐそばに貴子が寄り添うように座って、彼の顔の横で優しく微笑んでいる。
写真の端には、どこか淋しげな表情を浮かべた麻友も、陽子と一緒に写っていた。
だが、どんなに目を凝らしても、そこに優也の姿はなかった。
彼がどうして姿を現さなかったのか、誰にも分からないが、貴子もそのことについて深く追求することはなかった。ただ、そこには空白が残されているようだった。
それでも、写真に映る笑顔たちは、太一がいなくとも彼の存在がその場を温め続けていることを物語っているようだった。
今日はホワイトデーだ。
窓から差し込む淡い夕陽が、病室に柔らかな光を落としている。
貴子は太一の左手を両手で包み、指をそっとさすりながら、バレンタインデーの日に彼のために持ってきたキャンディーでできた小さな花束を見つめていた。
「バレンタインのお返しが欲しいんだけどな~」
貴子はふっと軽く微笑み、ぽつりと呟いた。
だが、返事は当然ない。
静かな病室にただ彼女の声だけが響く。
それでも貴子は、太一のぬくもりを感じながら、そっと寄り添い続ける日々を大切に思っていた。
その日は珍しく、花瓶の花を取り換えた後、いつもなら帰るはずの時間が来ていた。
しかし、貴子は何故かその場を離れたくなかった。
「胸騒ぎ?それとも第6感?」
と心の中で呟き、ぼんやりと太一の眠る顔を見つめていた。
ナースステーションからは、
「何時まででもいていいですよ」
とお墨付きをもらっているため、特に誰かに報告する必要はない。
それでも、その日は不思議と落ち着かない気持ちが胸を占めていた。
ふと、貴子はナースコールのボタンに手を伸ばし、迷いながらも押してしまった。
呼び出されたのは今夜の当直である沢口みどりさんだった。
もし今、太一の目が覚めたら何をするべきか、それが急に気になった貴子は、沢口さんに尋ねてみることにした。
しばらくして現れた沢口みどりさんは、優しく微笑みながら説明を始めた。
「もし太一さんが目を覚ましたら、まずは落ち着いてください。
彼の意識がはっきりしているかどうかを確認するために、名前や簡単な質問をしてみましょう。
例えば、『ここがどこか分かりますか?』とか、『私が誰だか分かりますか?』などです。」
貴子は静かに頷きながら、沢口さんの言葉に耳を傾け続けた。
「そして、目覚めた直後は体が動かないかもしれません。
それは長い間寝ていたせいで、筋力が落ちているからです。
ですから、無理に動かそうとせず、リハビリを始めるまでは安静が必要です。
その時は、すぐに医師を呼んで、適切な処置を行います。」
沢口さんは穏やかに言葉を続ける。
「それから、太一さんが長い間眠っていたことで、彼自身も状況に戸惑うかもしれません。
だから、安心させるように、ここで何があったのかを少しずつ教えてあげるといいでしょう。」
貴子は聞きながら、もし太一が目を覚ました時、自分はどんな言葉をかけるべきかを想像してみた。
沢口さんは続けた。
「もちろん、目を覚ました時には私たち看護師もすぐに対応しますから、ナースコールで呼んでくださいね。」
「ありがとうございます。
もしその時が来たら、ちゃんと対応できるように心の準備をしておきます」
と貴子は感謝の気持ちを伝えた。
夕方になると決まって貴子が訪れ、彼に寄り添うように座る。
毎日、小一時間ほど話しかけたり、時には優しく太一の体を拭いたりしていた。
太一の家族もみんな貴子が毎日来ていることを知っていたが、基本は母親が日中に来るぐらいで、貴子と会うことはほとんどなかった。
勿論、週末とかに貴子の働く道の駅『SARADA』を訪れたりして貴子に会った者は必ずお礼を言っていた。
病室の棚の上には、一枚の大きめの写真が額に入れられて飾ってある。
写真は、この春に卒業を迎えたバスケ部の部員たちが、太一を励ましにこの病室を訪れ、記念に撮ったものだ。
太一のベッドの周りに、笑顔の部員たちが集まっている。
真ん中には、まだ眠ったままの太一が横たわり、そのすぐそばに貴子が寄り添うように座って、彼の顔の横で優しく微笑んでいる。
写真の端には、どこか淋しげな表情を浮かべた麻友も、陽子と一緒に写っていた。
だが、どんなに目を凝らしても、そこに優也の姿はなかった。
彼がどうして姿を現さなかったのか、誰にも分からないが、貴子もそのことについて深く追求することはなかった。ただ、そこには空白が残されているようだった。
それでも、写真に映る笑顔たちは、太一がいなくとも彼の存在がその場を温め続けていることを物語っているようだった。
今日はホワイトデーだ。
窓から差し込む淡い夕陽が、病室に柔らかな光を落としている。
貴子は太一の左手を両手で包み、指をそっとさすりながら、バレンタインデーの日に彼のために持ってきたキャンディーでできた小さな花束を見つめていた。
「バレンタインのお返しが欲しいんだけどな~」
貴子はふっと軽く微笑み、ぽつりと呟いた。
だが、返事は当然ない。
静かな病室にただ彼女の声だけが響く。
それでも貴子は、太一のぬくもりを感じながら、そっと寄り添い続ける日々を大切に思っていた。
その日は珍しく、花瓶の花を取り換えた後、いつもなら帰るはずの時間が来ていた。
しかし、貴子は何故かその場を離れたくなかった。
「胸騒ぎ?それとも第6感?」
と心の中で呟き、ぼんやりと太一の眠る顔を見つめていた。
ナースステーションからは、
「何時まででもいていいですよ」
とお墨付きをもらっているため、特に誰かに報告する必要はない。
それでも、その日は不思議と落ち着かない気持ちが胸を占めていた。
ふと、貴子はナースコールのボタンに手を伸ばし、迷いながらも押してしまった。
呼び出されたのは今夜の当直である沢口みどりさんだった。
もし今、太一の目が覚めたら何をするべきか、それが急に気になった貴子は、沢口さんに尋ねてみることにした。
しばらくして現れた沢口みどりさんは、優しく微笑みながら説明を始めた。
「もし太一さんが目を覚ましたら、まずは落ち着いてください。
彼の意識がはっきりしているかどうかを確認するために、名前や簡単な質問をしてみましょう。
例えば、『ここがどこか分かりますか?』とか、『私が誰だか分かりますか?』などです。」
貴子は静かに頷きながら、沢口さんの言葉に耳を傾け続けた。
「そして、目覚めた直後は体が動かないかもしれません。
それは長い間寝ていたせいで、筋力が落ちているからです。
ですから、無理に動かそうとせず、リハビリを始めるまでは安静が必要です。
その時は、すぐに医師を呼んで、適切な処置を行います。」
沢口さんは穏やかに言葉を続ける。
「それから、太一さんが長い間眠っていたことで、彼自身も状況に戸惑うかもしれません。
だから、安心させるように、ここで何があったのかを少しずつ教えてあげるといいでしょう。」
貴子は聞きながら、もし太一が目を覚ました時、自分はどんな言葉をかけるべきかを想像してみた。
沢口さんは続けた。
「もちろん、目を覚ました時には私たち看護師もすぐに対応しますから、ナースコールで呼んでくださいね。」
「ありがとうございます。
もしその時が来たら、ちゃんと対応できるように心の準備をしておきます」
と貴子は感謝の気持ちを伝えた。
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