雨の向こう

naomikoryo

文字の大きさ
上 下
2 / 11

2.夏祭り

しおりを挟む
島の夏祭り最初の日は朝から晴天だった。
今日から祭りの3日間は、島中が祝日のような扱いだ。
コンビニ以外の店はみんな閉まっており、島の中の公共交通機関でさえ全て運休という始末だ。
それでも、朝から賑やかで楽しそうな子供たちの笑い声が島中に木霊しているようだった。

悠太も昼近くまで惰眠を貪り、眠そうにアパートの部屋の窓から海を眺めていた。
ここから海までは徒歩でも十分足らずだろう。
本土にわたるフェリーも漁船の一隻もない静かな海だ。
昨日コンビニで買って枕元に置いてたあんパンをかじりながら、改めて海を眺めてみた。
(あれ?)
海から漁港、そしてその少し先にある小学校、までは普段も見えていた。
だが、更にその少し上の小高い所にある赤く大きな鳥居は見た事が無かった。
まして、この島に神社があることも聞いた事が無かった。
こんな遠目からもはっきり見える鳥居だが、普段は薄暗い雨のせいで見る事が無かったのだろう。
悠太はそう考えた。
「だいたいこの島は、なんだってこんなに雨ばかり降るんだろう・・・」
また、そう呟いていた。


一通り目覚めの儀式を終えて、悠太はさっき見た鳥居に行こうと思った。
どうせ花火は最終日だけだし、小雪もいないんじゃ一日ごろごろとして過ごそうかと思っていたのだったが、
「あんなもの見つけてしまったんじゃあ・・・」
と高揚感を抑えられずにいた。
ただでさえ、色々と疑問に思っていることを自分でも無理に抑えていたのだから・・・

Tシャツにショートパンツに着替え、この島に来た時に漁港から貰った古い自転車にまたがり、颯爽と小学校に向かって漕ぎ始めた。
チェーンが錆びててキーキーと音はするものの、多少の負荷を感じるだけで自転車はすんなりと進んでいく。
珍しく太陽の光がギラギラとあちらこちらで反射している程なので、Tシャツはあっという間に汗ばんできた。
「タオルでも持ってくればよかったな・・・」
そう呟きながら、小学校へ向かう上り坂を立ち漕ぎでハァハァ言いながら進んでいった。

目指す赤い鳥居がまっすぐ坂の上に見えてくると、悠太は自転車から降りた。
いつの間にか細い砂利道になっていたが、悠太は気付いていなかった。
自転車は脇に寝かせてかごに入れてきたペットボトルの水を飲みながら悠太は歩き出した。
もう自転車どころか歩くのもやっとの急勾配だったが何とか鳥居の下へ辿り着いた。

だが、鳥居から先への道はどこにも無く、鳥居の先は竹林が鬱蒼と茂っていたのだった。
しおりを挟む

処理中です...