魔法少女は会社員

naomikoryo

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第4章:都市防衛と魔法制度の再設計へ

第9話:LinkLine、初任務

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火曜日、午後五時半。
都庁の地下連絡通路を抜けた先にある小さな会議室。
そこに、LinkLineのコアメンバー四人が招かれていた。

「まさか……正式依頼が来るなんて」

ミユキは、資料を見つめながらつぶやいた。

封筒に入っていたのは、行政文書らしからぬ簡素な報告書だった。
けれど、その冒頭には確かに、

【依頼種別】試行:魔力感応型市街安定化協力
【発信元】新宿区 防災課内 特別災害対応係(仮称)

とあった。

「やっとここまで来たのね」

アイナが腕を組んだまま頷く。

「でも、手続きは“仮称”だらけ。“正式な窓口”はまだ整ってないのよね?」

「うん。要は、試金石ってやつだね」

ナナが口元をわずかに引き上げる。

「実績作ってくれたら“制度整備も検討します”って、
役所特有の“様子見”って感じ、ひしひしと伝わってくる」

「でも、断る理由はないわよ」

まどかが言った。

「これは、私たちが“制度に選ばれる側”じゃなくて、
“制度を形にする側”になる最初の一歩だもの」

ミユキは深く頷いた。

「じゃあ、受けよう。
LinkLineの初任務、正式に始めよう」

依頼内容は、こうだった。

・新宿区西部で、ここ1週間の間に小規模な交通トラブルが異常頻発。

・発端は乗客間の些細な衝突・言い合いなどだが、異様な高確率で「暴発」している。

・関係者は後に「なぜあんなことで怒ったのか自分でも分からない」と証言。

・一部の防災係職員が“魔力反応らしきノイズ”を記録。

都市交通――つまり、人の感情がもっとも密集する空間。

「地下鉄は、感情エネルギーのホットスポット。
知らない人と密着し、行き先も目的も違う人たちが同じ空間に押し込められる。
この国で一番“心の摩擦熱”が高い場所よ」

アイナが路線図を開いて言った。

調査対象は都営地下鉄・D07番線――新宿三丁目と初台の間。
車両内だけでなく、改札付近、エスカレーターの折り返しなど、
“人の行き来が交差しやすいポイント”で異変が多発していた。

「つまり、“通行感情の異界化”……」

未紗が呟いた。

「その可能性が高い。
私たちは“通る”ことに感情を費やしている。
“譲ること”“抜かすこと”“詰まること”――
その一つ一つに、無意識のストレスが蓄積してる」

ミユキは、端末に目を落としながら言った。

「そういう感情が溜まりすぎたとき、
都市のインフラそのものが“魔力の触媒”になる。
次の戦場は、都市構造の上よ」

金曜夜20時。調査実行。

ミユキ・ナナ・アイナ・まどかの4人は、制服のまま定時退社し、私服に着替えてD07線に乗り込んだ。
各駅に分かれ、感応フィールドと魔力探知を使いながら、異常な“気配”を探っていく。

「ナナ、こっちは静か」

《こっちも異常なし。けど……時々、人がぶつかった瞬間だけ“妙な静電反応”が走る。
感情の“巻き込み爆発”が疑われるわ》

まどかの位置からも、断続的な報告が入る。

「この感じ……場所が動いてる。
“固定地点”じゃない。感情そのものが歩いてるんだよ」

「つまり、魔物の正体は……?」

その瞬間、ミユキの乗っていた車両で異変が起きた。

席を巡るささいな争い――が、突然の怒声と衝突に発展した。

男が立ち上がり、手を振り上げかけた瞬間、
その背中から“黒い煙のようなもの”がぶわりと広がった。

《反応!》

「今よ、ミユキ!」

変身――

次の瞬間、車内の時間が“ゆるやかに捩れた”。

ミユキの手に剣が生まれ、ナナの蔦が車両の両壁を縫うように張り詰めた。

魔物が実体化した。

人型ではない。
構内アナウンスと電子案内板を組み合わせたような、**“感情の交通信号”**だった。

「“クロスフレイム・リピーター”――
感情を制御信号に変換し、他人の怒りを複製・拡散する魔物!
こいつ、都市型の中でも面倒なやつよ!」

アイナが結界を展開しながら叫ぶ。

「これが……都市構造そのものの異界化……!」

ミユキは剣を構えた。

魔物は“怒り”を増幅させ、車両中の乗客に伝播させようとしていた。

ナナが一喝する。

「これ以上“他人の感情”をおもちゃにするな!」

蔦が閃き、魔物の主軸を絡め取る。
そこにミユキが突撃し、コアへ突き刺す。

「トラフィック・ブレイク!」

車両全体に走る閃光――
魔物が断ち切られ、爆ぜるように消滅した。

騒ぎは“なかったこと”として処理された。
LinkLineは現場を後にし、駅裏の階段で深く息を吐く。

「……終わった?」

「うん。今回は完全に“社会の構造”が魔力の起点になってた。
こっちが攻撃しなくても、誰かが誰かとぶつかるだけで、
勝手に魔物が増える。……最悪な仕組みよ」

ミユキは目を閉じ、言った。

「でも、抑えられた。
LinkLineの“初出動”は、成功だよ」

未紗からチャットが届く。

お疲れさまです。
区の災害係から、対応に感謝の連絡がありました。
『正式制度化、検討の価値あり』と記載されていたそうです。

まどかが小さく笑った。

「一歩ずつ、形になっていくね」

「うん。都市と感情と魔法の“接点”を作る。
それが私たちの仕事なんだ」

そう答えたミユキの横顔には、
剣とスーツ、両方の重みが静かに宿っていた。
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