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第60話『旦那様は逃げられない』【陰謀と策謀の王都編⑪】
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事件から数日。
王都はすっかり落ち着きを取り戻していた。
市場には人の声が戻り、子どもたちは通りで走り回り、露店からは香ばしい匂いが漂っている。
だが、街の噂話の中心はひとつに尽きていた。
「カイ先生が王都を守ったんだって!」
「異邦人? いや、英雄様やろ!」
「“婿殿先生”は公爵領だけやない、王都でも大人気や!」
どこへ行っても、カイの名が飛び交っていた。
学園の校門前。
夏を抜けた風が、朝の清涼を運んでくる。
その門の周りには、異様な数の生徒たちが集まっていた。
「先生ー!」
「サインください!」
「一緒に記念魔法陣を描いてください!」
押し寄せる声と手。
カイは額に手を当て、胃のあたりをさすった。
「……ワイ、ただの数学教師やのになぁ。」
「カイ!」
澄んだ声とともに、人垣を割って現れたのはルーティアだった。
蒼い瞳をきらめかせ、当然のように彼の腕へ絡みつく。
「旦那様、大人気ですわね。」
「だから旦那様言うな! ワイはまだ独身の――」
「もう王都中があなたを旦那様だと思っていますわ。」
「勝手に決めるなぁぁ!」
必死に振りほどこうとするが、ルーティアの腕の力は容赦ない。
その様子に、生徒たちから笑いが漏れる。
「やっぱり先生とルーティア様はお似合いだな!」
「ほんま漫才やわ!」
そこへ、レオンとフィリアがやって来た。
レオンは微笑を浮かべながらも、どこか悔しそうにカイとルーティアを見つめる。
「……あれが、ルーティアの本当の笑顔なのか。」
彼女がかつて婚約者であった頃には、一度も見せなかった自然な笑み。
その光景に、レオンは胸の奥がずきりと痛んだ。
だがすぐに、横にいるフィリアの手を優しく握りしめる。
「いや、俺にはフィリアがいる。俺は彼女と幸せになるんだ。」
フィリアは驚いた顔で彼を見上げ、頬をほんのりと染めた。
「レオン様……」
◆◇◆
一方その頃、教師たちの間でもカイの話題は尽きなかった。
「カイ先生の授業は本当に革命的だ。」
「魔法の理論を数式で説明するなんて、前代未聞だぞ。」
「彼を追い出そうと言っていた自分が恥ずかしい……。」
皮肉にも、かつて彼を疑っていた教師たちまでもが、今や彼を認めざるを得なくなっていた。
放課後。
夕焼けに染まる校庭で、カイは大きく伸びをした。
「やっと静かになったなぁ……。」
だが次の瞬間、横からするりとルーティアが腕を絡めてきた。
笑顔は朝から一度も曇っていない。
「ねぇ、カイ。もう逃げ道はありませんわよ。」
「なんでそうなるんや!?」
「だって、王都でも公爵領でも、みんなが“旦那様”って認めてしまったんですもの。」
「せめて本人に確認とってくれぇぇ!」
必死に叫ぶカイの声は、夕焼け空に響いて消えていった。
しかしルーティアは一向に腕を離そうとしない。
その横顔は、誰が見ても幸せそのものだった。
-------------------------------------------
こうして“陰謀の影”を巡る一連の事件は幕を閉じた。
異邦の数学教師は、王都と学園の英雄となり――
そして何より、公爵令嬢ルーティアから「旦那様」と呼ばれる日々が、
ますます確かなものになっていくのだった。
王都はすっかり落ち着きを取り戻していた。
市場には人の声が戻り、子どもたちは通りで走り回り、露店からは香ばしい匂いが漂っている。
だが、街の噂話の中心はひとつに尽きていた。
「カイ先生が王都を守ったんだって!」
「異邦人? いや、英雄様やろ!」
「“婿殿先生”は公爵領だけやない、王都でも大人気や!」
どこへ行っても、カイの名が飛び交っていた。
学園の校門前。
夏を抜けた風が、朝の清涼を運んでくる。
その門の周りには、異様な数の生徒たちが集まっていた。
「先生ー!」
「サインください!」
「一緒に記念魔法陣を描いてください!」
押し寄せる声と手。
カイは額に手を当て、胃のあたりをさすった。
「……ワイ、ただの数学教師やのになぁ。」
「カイ!」
澄んだ声とともに、人垣を割って現れたのはルーティアだった。
蒼い瞳をきらめかせ、当然のように彼の腕へ絡みつく。
「旦那様、大人気ですわね。」
「だから旦那様言うな! ワイはまだ独身の――」
「もう王都中があなたを旦那様だと思っていますわ。」
「勝手に決めるなぁぁ!」
必死に振りほどこうとするが、ルーティアの腕の力は容赦ない。
その様子に、生徒たちから笑いが漏れる。
「やっぱり先生とルーティア様はお似合いだな!」
「ほんま漫才やわ!」
そこへ、レオンとフィリアがやって来た。
レオンは微笑を浮かべながらも、どこか悔しそうにカイとルーティアを見つめる。
「……あれが、ルーティアの本当の笑顔なのか。」
彼女がかつて婚約者であった頃には、一度も見せなかった自然な笑み。
その光景に、レオンは胸の奥がずきりと痛んだ。
だがすぐに、横にいるフィリアの手を優しく握りしめる。
「いや、俺にはフィリアがいる。俺は彼女と幸せになるんだ。」
フィリアは驚いた顔で彼を見上げ、頬をほんのりと染めた。
「レオン様……」
◆◇◆
一方その頃、教師たちの間でもカイの話題は尽きなかった。
「カイ先生の授業は本当に革命的だ。」
「魔法の理論を数式で説明するなんて、前代未聞だぞ。」
「彼を追い出そうと言っていた自分が恥ずかしい……。」
皮肉にも、かつて彼を疑っていた教師たちまでもが、今や彼を認めざるを得なくなっていた。
放課後。
夕焼けに染まる校庭で、カイは大きく伸びをした。
「やっと静かになったなぁ……。」
だが次の瞬間、横からするりとルーティアが腕を絡めてきた。
笑顔は朝から一度も曇っていない。
「ねぇ、カイ。もう逃げ道はありませんわよ。」
「なんでそうなるんや!?」
「だって、王都でも公爵領でも、みんなが“旦那様”って認めてしまったんですもの。」
「せめて本人に確認とってくれぇぇ!」
必死に叫ぶカイの声は、夕焼け空に響いて消えていった。
しかしルーティアは一向に腕を離そうとしない。
その横顔は、誰が見ても幸せそのものだった。
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こうして“陰謀の影”を巡る一連の事件は幕を閉じた。
異邦の数学教師は、王都と学園の英雄となり――
そして何より、公爵令嬢ルーティアから「旦那様」と呼ばれる日々が、
ますます確かなものになっていくのだった。
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