悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo

文字の大きさ
66 / 136

第65話『夜の図書館にて』【魔族姫編⑤】

しおりを挟む
 夜の学園は静かだった。
 昼間は生徒たちの笑い声や剣戟の音で賑わう校庭も、今は虫の声と夜風の囁きしかない。
 塔の高窓からは、橙色の灯りが漏れていた。図書館だ。

 カイは、巡回ついでにそこへ足を向けた。
 残業といえば聞こえは悪いが、寝付きが良すぎる自分が夜に目を覚ますこともある。
 今日は飴をなめすぎて糖分が血に回ったのか、眠れなかった。

(しゃあない。夜の図書館は落ち着くし、ええ息抜きや。)

◆◇◆

 扉を開けると、広い閲覧室にただ一人の人影があった。
 ランプの光に白金の髪が揺れる。リリシアだ。
 分厚い魔導書を抱え込み、視線を頁に食い入らせている。

「……熱心やなぁ。」
 カイが声をかけると、リリシアは顔を上げた。

「先生……! 驚かせないでください。」
「すまんすまん。こんな時間に読書会か?」
「はい。ここの蔵書は素晴らしいです。式が、言葉を超えて浮かび上がってきます。」

 彼女は瞳を輝かせながら言った。
 その目は、勉強にのめり込む生徒のそれであり、同時に何かを隠している影でもあった。

 カイは歩み寄り、机の上の魔導書を覗き込んだ。
 そこに書かれているのは、かつて自分も見たことのある高等式の解説だった。
 ただし注釈が細かく、余白にびっしりと誰かの筆跡で数式が書き加えられている。

「……これ、君が書いたんか?」
「はい。式の隙間にもう一つ補助線を入れると、もっと安定すると思って。」
「ほう。」

 カイはチョークを持つように指で空中をなぞり、彼女の補助線をなぞる。
 数式がすっと呼吸するように変化した。

「なるほどな。アンタ、ほんまに“理”のセンスあるわ。」
「ありがとうございます、先生。」
 リリシアは微笑んだ。だがその微笑みの奥に、ほんのかすかな翳りが差す。

「……先生。」
 リリシアが声を落とした。
「もし、普通とは違う力を持っていたら……それでも、生徒として受け入れていただけますか?」

 その問いに、カイは少し目を細めた。
 夜風が窓を叩き、ページが一枚めくれる。

「――そんなん、関係あるかいな。」
 静かに答える。
「黒板の前で学びたい言うて座っとるなら、そいつは生徒や。
 強かろうが弱かろうが、普通やなかろうが、ワイにとっちゃ一緒や。」

 リリシアの瞳が揺れる。
 けれど次の瞬間には、笑みでそれを隠した。

「……先生は、そう言ってくださると思っていました。」

 そのとき、棚の影から声がした。
「先生ー! 夜食買ってきました!」
「パンとスープです!」
「先生もどうぞ!」

 一年生たち数人が両手いっぱいに食べ物を抱えて駆けてきた。
 護衛であるはずの彼らは、まるで修学旅行の子どもたちのように騒がしい。

「お前ら、夜は寮で静かにせぇって言うたやろ!」
「だって先生、ここにいると思ったんですもん!」
「なんで分かんねん……エスパーか。」

 リリシアが肩を震わせて笑う。
 その笑いは自然で、どこか解放された響きがあった。

◆◇◆

 結局その夜は、図書館の机を囲んで即席の夜食会になった。
 パンの香ばしさ、スープの温もり、チーズの塩気。
 笑い声が広がり、夜の静けさに柔らかな灯りが溶けていく。

(……やっぱり不思議やな。揺らぎがない力。けど、こいつらは無邪気に“生徒”やっとる。)
(問い詰めるより、この笑い守る方が先やろな。)

 カイは最後に残った飴玉をひとつ机の真ん中に置いた。
「はい。デザートや。誰が取る?」
「先生、ずるい! それ争奪戦になりますよ!」
「ほな、ジャンケン大会や。」

 夜更けの図書館は、学園で一番にぎやかな食堂になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...