2 / 133
レド編
またしてもケニーシュタインは失態を犯す
しおりを挟む
「おーい…おーい…」
「…あっはい…」
レドは白衣を着た女性に肩を叩かれる。
「またボーッとしてたよ。君はなんというか…考え事が多いんだね。」
レドは彼女のその発言に、YESとは素直に返せなかった。考え事をしていたわけでは無いし、かと言って寝ていたというわけでも無い。意識を失っていたかのように、その間の記憶がない。最近思考能力が低下しているよう気がする。
「ところで…血液型や性別および身長体重趣味思考を教えてくれないかい?」
彼女は先ほどと同様にレドに質問攻めをする。
「ああ…すまないね。名前も知らない相手からの質問に答えると言うのは抵抗があるか。私はクレア・アインベルツ。見た目でわかると思うけど魔法医術師だね。まあそれ以外もするけどね。」
やや早口でクレアはレドに自己紹介する。
「さあ…君の番だよ?」
クレアは若干上目遣いで、レドに自己紹介を迫った。
「ああ…レド・ケニーシュタインです。
「ケニーがミドルネームかい?」
「あ、いえ。ケニーシュタイン含めて苗字です。」
「変わった苗字だね。もしかしたら…家系が特別なのかも。」
クレアはそういうと再び、彼を上目遣いで見つめる。
「…?」
彼は思わず首をかしげる。その一瞬生じた隙の内に、彼の腕をクレアは掴み、彼が寝ていたソファに押し倒した。
「はあ…はあ…じっとしててくれよ?」
もしや彼女は痴女だったのか?とレドはため息を漏らす。ろくでなし集団とは聞いていたが1人目からこれとは中々に骨が折れそうだ。と彼は諦めに近い心情を抱いた。だが現実は違った。
「よしこれでOK。」
実際はただの血液採取だった。
「魔法医術師ならもう少し丁寧にするべきだったのでは…」
「面倒くさいという事だけ言っておくよ。」
クレアは楽観的な声色でレドに返す。
「ああ…そう言えば明日ここで面接なんだってね。もう夜だし泊まるといいよ。」
「いや…家まで帰ります。」
「家までって…ロザリオ地区三番地だよ?君の家は隣町だ。二時間くらいはかかるだろう。」
そういえばそうだな、レドは落胆する。2時間はかかるが帰るしか無いか。
「まさか帰る気かい?君、財布も今朝無くしてるんだよ?悪いが私は金欠でね。金は貸せないよ?」
「それでも帰ります。」
「ダメだよ。私が回復魔法で君の欠損した腕を治したとは言え、その分君の体力は大幅に削られてる。魔法医術師の端くれとして帰らせるわけには行かないよ。さらに怪我でもされたら溜まったもんじゃない。1人の人間を回復させられる量にも限界があるんだ。一定以上回復魔法を使ったら細胞が壊死する。」
「あ…腕治ってたんですね。」
「治ってたんですねって…さっき君に注射した腕だよ?…ああ。成る程。」
クレアは言葉を発する途中でレドの本質に気づき、少し笑みを浮かべてそう言った。
「まあ…寝るところに案内するよ。」
クレアはその表情のまま、レドを手招きした。レドは徐に立ち上がり、クレアの背を追おうとした。が、何かに躓いて体制を崩し、そのまま後ろへと倒れ込んだ。
「ああ、そこは色々転がってるから気をつけてね。」
レドが起き上がって足元を見ると、衣服、菓子類のゴミ、何本かの便、そして何故かリンゴが転がっていた。
レドが案内されたのは、ベッドが1つあるだけの殺風景な部屋だった。
「あ、あと風呂はそっちにあるから。入りたければそちらにね。あととなりの部屋は開かない方が良いよ。ケイン氏の部屋は色々と地獄だからね。今はどっかに行ってるけど…君が入ったのを知ったら怒るとかそういうものじゃ無いだろうねえ。」
まるでその行動を望んでいたかのように不敵な笑みを浮かべるクレアだったが、レドはそれら全てを無視して、無言で軽く頭を下げた。
「あ、あと所長は10時くらいに来るからその辺りで面接だと思うよ。何かあったら言ってくれた前。」
そう言うとクレアは自身の部屋へと戻っていった。
レドはベッドへと倒れ込んだ。今日はとても疲れた。そのまま寝てしまおう。そう思った彼は目を瞑り、眠りにつこうとした。だが結局、いつも通り彼は眠りにつけなかった。
「ただいま帰りましたよっと…ゲッ!」
3時ごろに帰宅したケインは、玄関で靴を脱ぐと、居間で床を掃除していたレドに気づき、彼の元へと駆け寄った。
「ちょいちょいちょい…なんでいるんだよお前…」
「いやクレアさんに泊まれと…」
「あんのやろうまためんどくせえことを…ってかこんな時間だしもう寝ろよ。」
「その時間まで夜遊びしてた人に言われても」
「ぐうの音も出ないのが腹立つわ…。なあ分かるだろ?…ほら…玄関前に見えるだろ?」
ケインは玄関を指差す。
「はい?」
「女連れ込んでんだよ!あんまりお前との会話長引くと帰っちまうよ!あいつそういう性格だし…」
「自分の部屋でやれば…あっ…そっかそうだった。」
一瞬の沈黙が走る
「お前…俺の部屋見たのか?」
「あ、いやクレアさんが…」
「野郎…マジで殺す!」
女性なのだから野郎と言うのは適切じゃないのでは、とレドは思う。その時、ケインは玄関で物音を感じ、まさかと思い玄関へと足早に戻った。そこには既に誰もいなかった。
「…裁判所で会おうな。」
ケインは涙目で言う。
「僕こんなんで訴えられるんですか」
「俺にとっちゃ名誉毀損なの!」
「名誉…?」
「うぜええええ!」
レドの淡々とした返答にケインは頭を抱える。
「ってかさ…お前何してたわけ?」
「ああ…片付けを…」
「そういやだいぶ片付いてんな。あ!俺のリンゴこんなとこに!」
「アレあなたのだったんですか。」
「腐っちまってんなー…」
「じゃあ捨てましょうよ」
「勿体ねえだろ!食べ物を粗末に…」
「液状化しかかってるのにもはや食べ物と言えるんですかこれ…。」
「うるせえよこせ!」
「これでお腹壊されても困るんですけど…。」
2人の何1つとしてひねりのない口論が始まろうとしていた中、再び玄関のドアが開く。
「おい。何をやってんだこんな時間に。」
「ゲッ…所長…その…何というか…」
先ほどまで大声で話していたとは思えぬケインの萎縮ぶりに流石のレドも困惑する。
「こんな時間までお忙しいねお前は。ってありゃ?お相手さんが居ないあたり今日は違うのか?」
所長らしき人物の声は高く、どうやら女性のようである。レドが暗闇越しに目を凝らすと女性のような体型の人影が確認できた。人影はゆっくりとレドたちに近づき、暗闇から姿を現した。
「ん?その横にいるのは誰だ?茶髪で猫背…身長普通で目の下にクマ…ああ!お前か!新入りのケニーシュタインってのは!」
そう言いながら現した彼女の姿は、修道服を着た金髪の少女であった。
「まあ言いたいことは分かる。男優った口調でタバコ吸って修道服着たエルフ金髪美女が何故所長?とかそんなとこだろ?」
自分で美女って言うのか、とレドはふと思ったが、口には出さなかった。
「ってか…お前ら俺が数日開けたらすぐ散らかすなあ…」
「こいつが掃除してくれてますので多分すぐ片付くんじゃないスか?」
「おお!お前家事できるのか?!」
少女が元気はつらつに浮かべる笑顔のお手本のような表情を彼女はレドに向けた。
「ええ…まあ…病気の母と暮らしていた時期があるので…そこで多少…」
「いやー助かったわ!料理もできるか?」
「少しだけ。」
「よし合格!お前は今日からこの所の一員だ!」
「ええ…」
まるで家政婦のような扱いじゃないか。いや、家政婦に雇われる時もここまで雑ではないだろう。とレドはやりきれない心情に陥る。
「あの…面接は…」
「あ?Q:あなたの特技は何ですか?」
「え…?」
「A:家事が出来ます。これで合格だろうが!」
あたかも筋の通った話をしたかのような表情で答える彼女に、レドは半ば諦めを感じた。
「魔導師としての話は?」
「ああ…まあ人手が足りてないんでな…面接とか良いわ。」
「あ…はい。」
ついさっきまで半ば諦めだったレドの期待度は、完全なる諦めへと変わった。
「さあて…片付け再開しようじゃないか!お前も手伝えよケイン。クレアとお前がこうなってる原因なんだし…」
「ちょっと!シュタイン氏!」
突如後ろから声がしたのを感じ、レドは振り返る。
「安静にしろと言ったろう!」
クレアは想像以上に怒っていた。
「眠れなくて…」
「布団に着くくらいしたまえ!ほら!行くよ!」
「あ…いや…ちょっと…ああ…」
レドは床に引きずられながら自分の部屋へと戻されていった。
「…お前は片付けろよ。」
「え~?!」
「ええじゃねえ!」
そして朝になり、やはり眠れなかったレドはのっそりとした動きで居間へと戻ってきた。
「お、起きたか。」
所長は付けていたテレビを消すと、レドの方へ向き直った。
「他の奴らは名前教えたのか。…んじゃ俺の紹介かな。俺はシャーロット。シャーロット・ギルティ・ホワイト。よろしくだ。」
「ああ…よろしくお願いします。」
かれはシャーロットの差し出した手を機械的な動きで握る。
「…お前は言わねーのな。」
「?」
「俺がホラ…エルフだってこと。」
「え?」
「この耳見て気づかなかったのか?」
「ああ…気づきませんでした。魔族と亜人が同一視されてた時代なんてとっくに過ぎましたしそんなの気にしても…」
「ふーん…。ま、その方が楽で良いわ。取り敢えず俺は寝るからな。」
「何か作るか。…卵とハムしか無いじゃん。…なんでこれなんだ?シリアルの一つでもあればいいのに…」
レドは冷蔵庫を漁りながらそう独り言を漏らした。
「お、お前メシ作ってんの?」
ケインが後ろから現れ、思わずレドは顔を曇らせる。
「一人分しか無いですけど。」
「分けるなり何なりあるだろ。」
「ちゃっかり頂くつもりなの何なんです?っていうかそもそも上半身裸で来るのやめてください。」
「裸は人類の境地だろうが!ヌード系の芸術舐めんなよ?!」
「中学生みたいな言い訳やめてくださいよ。」
「あとで覚えてろよお前。」
レドは卵を割り、温まったフライパンと、既にフライパンに接触しているハムへと落下させようとする。
「お前卵割れるのか?」
「割れない方がおかしいと思うんですけど。」
2人はそんな会話を淡々と繰り返していた。レドは殻を割り、フライパンへと落とす。卵がフライパンへと落下していく。が、突如発生した揺れによって、フライパンもろとも食材は床へと流出した。
「あーー!」
ケインの叫びが響き渡る。
「ちくしょう誰だあ!俺の卵を落としたやつ!」
そういうと、ケインは玄関から飛び出して外へと出て行った。
「いつからアンタのになったんですか…」
レドはそうとだけ呟いた。
「うーわ…最悪だ。昨日のやつが生き残ってやがった。」
ケインはマンションの共同廊下の手すりから揺れの根源を見ながら愚痴をこぼすように言った。レドが遅れて少し奥の道路を見ると、そこには数体の魔族が人々を襲っている光景が広がっていた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!だれか…ア"!」
魔族に押しつぶされて女性の腑が飛び散る。
「ね、ねえ…どうするの…?どうするのよこれ!」
「へへ…悪いな…」
男は魔族のある方向に女を突き飛ばす。」
「は…?何よあんた…ふざけんじゃ無いわよ…!ちょっと!いやあああ!」
女の両足が魔族に掴まれ、双方に引き裂かれる。
「はあ…はあ…これで助かっ…」
魔族は逃げようと走った男を目で捉えると、翼を広げて滑空し、男を壁に叩きつけた。
その凄惨な光景を目の当たりにし、ケインの表情は激しく強張る。
「昨日のところとは離れてるんじゃ無いですか?」
「いや、ここらは地下鉄の真上だ。伝ってきててもおかしくはねえ。所長!クレア!」
「ちょっとくらい敬ってもいいと思うんだよねえ…私は一応年上なんだし…今行くよ。」
クレアは早いとも遅いとも言えない足取りで2人の元へと近づいた。
「取り敢えず俺は人命救助をする。必要であれば戦闘に参加する。」
先ほどまで寝ていたシャーロットは、レドの真横に気づかないうちに立っていた。
「んじゃ…俺があいつら狩るからクレアも人命救助。でお前は…クレアに付いてけ。」
「…了解。」
レドは感情の籠らない返事をする。
「なぜ君は年上年下関係なく図々しく話すんだか…」
クレアはケインに一言文句を垂れる。
「うるせえ!話してる暇あったらさっさと行くぞ!」
ケインは上半身の服を手早く羽織ると、マンションから飛び降り、自身の手から2本の刀を出現させる。
「7、8体ってとこか…多いなあホントによ!」
ケインは落下に体重を乗せ、魔族一体の体を分断する。そこから畳み掛けるように、壁を蹴って露出した核を切り裂いた。
「…あっはい…」
レドは白衣を着た女性に肩を叩かれる。
「またボーッとしてたよ。君はなんというか…考え事が多いんだね。」
レドは彼女のその発言に、YESとは素直に返せなかった。考え事をしていたわけでは無いし、かと言って寝ていたというわけでも無い。意識を失っていたかのように、その間の記憶がない。最近思考能力が低下しているよう気がする。
「ところで…血液型や性別および身長体重趣味思考を教えてくれないかい?」
彼女は先ほどと同様にレドに質問攻めをする。
「ああ…すまないね。名前も知らない相手からの質問に答えると言うのは抵抗があるか。私はクレア・アインベルツ。見た目でわかると思うけど魔法医術師だね。まあそれ以外もするけどね。」
やや早口でクレアはレドに自己紹介する。
「さあ…君の番だよ?」
クレアは若干上目遣いで、レドに自己紹介を迫った。
「ああ…レド・ケニーシュタインです。
「ケニーがミドルネームかい?」
「あ、いえ。ケニーシュタイン含めて苗字です。」
「変わった苗字だね。もしかしたら…家系が特別なのかも。」
クレアはそういうと再び、彼を上目遣いで見つめる。
「…?」
彼は思わず首をかしげる。その一瞬生じた隙の内に、彼の腕をクレアは掴み、彼が寝ていたソファに押し倒した。
「はあ…はあ…じっとしててくれよ?」
もしや彼女は痴女だったのか?とレドはため息を漏らす。ろくでなし集団とは聞いていたが1人目からこれとは中々に骨が折れそうだ。と彼は諦めに近い心情を抱いた。だが現実は違った。
「よしこれでOK。」
実際はただの血液採取だった。
「魔法医術師ならもう少し丁寧にするべきだったのでは…」
「面倒くさいという事だけ言っておくよ。」
クレアは楽観的な声色でレドに返す。
「ああ…そう言えば明日ここで面接なんだってね。もう夜だし泊まるといいよ。」
「いや…家まで帰ります。」
「家までって…ロザリオ地区三番地だよ?君の家は隣町だ。二時間くらいはかかるだろう。」
そういえばそうだな、レドは落胆する。2時間はかかるが帰るしか無いか。
「まさか帰る気かい?君、財布も今朝無くしてるんだよ?悪いが私は金欠でね。金は貸せないよ?」
「それでも帰ります。」
「ダメだよ。私が回復魔法で君の欠損した腕を治したとは言え、その分君の体力は大幅に削られてる。魔法医術師の端くれとして帰らせるわけには行かないよ。さらに怪我でもされたら溜まったもんじゃない。1人の人間を回復させられる量にも限界があるんだ。一定以上回復魔法を使ったら細胞が壊死する。」
「あ…腕治ってたんですね。」
「治ってたんですねって…さっき君に注射した腕だよ?…ああ。成る程。」
クレアは言葉を発する途中でレドの本質に気づき、少し笑みを浮かべてそう言った。
「まあ…寝るところに案内するよ。」
クレアはその表情のまま、レドを手招きした。レドは徐に立ち上がり、クレアの背を追おうとした。が、何かに躓いて体制を崩し、そのまま後ろへと倒れ込んだ。
「ああ、そこは色々転がってるから気をつけてね。」
レドが起き上がって足元を見ると、衣服、菓子類のゴミ、何本かの便、そして何故かリンゴが転がっていた。
レドが案内されたのは、ベッドが1つあるだけの殺風景な部屋だった。
「あ、あと風呂はそっちにあるから。入りたければそちらにね。あととなりの部屋は開かない方が良いよ。ケイン氏の部屋は色々と地獄だからね。今はどっかに行ってるけど…君が入ったのを知ったら怒るとかそういうものじゃ無いだろうねえ。」
まるでその行動を望んでいたかのように不敵な笑みを浮かべるクレアだったが、レドはそれら全てを無視して、無言で軽く頭を下げた。
「あ、あと所長は10時くらいに来るからその辺りで面接だと思うよ。何かあったら言ってくれた前。」
そう言うとクレアは自身の部屋へと戻っていった。
レドはベッドへと倒れ込んだ。今日はとても疲れた。そのまま寝てしまおう。そう思った彼は目を瞑り、眠りにつこうとした。だが結局、いつも通り彼は眠りにつけなかった。
「ただいま帰りましたよっと…ゲッ!」
3時ごろに帰宅したケインは、玄関で靴を脱ぐと、居間で床を掃除していたレドに気づき、彼の元へと駆け寄った。
「ちょいちょいちょい…なんでいるんだよお前…」
「いやクレアさんに泊まれと…」
「あんのやろうまためんどくせえことを…ってかこんな時間だしもう寝ろよ。」
「その時間まで夜遊びしてた人に言われても」
「ぐうの音も出ないのが腹立つわ…。なあ分かるだろ?…ほら…玄関前に見えるだろ?」
ケインは玄関を指差す。
「はい?」
「女連れ込んでんだよ!あんまりお前との会話長引くと帰っちまうよ!あいつそういう性格だし…」
「自分の部屋でやれば…あっ…そっかそうだった。」
一瞬の沈黙が走る
「お前…俺の部屋見たのか?」
「あ、いやクレアさんが…」
「野郎…マジで殺す!」
女性なのだから野郎と言うのは適切じゃないのでは、とレドは思う。その時、ケインは玄関で物音を感じ、まさかと思い玄関へと足早に戻った。そこには既に誰もいなかった。
「…裁判所で会おうな。」
ケインは涙目で言う。
「僕こんなんで訴えられるんですか」
「俺にとっちゃ名誉毀損なの!」
「名誉…?」
「うぜええええ!」
レドの淡々とした返答にケインは頭を抱える。
「ってかさ…お前何してたわけ?」
「ああ…片付けを…」
「そういやだいぶ片付いてんな。あ!俺のリンゴこんなとこに!」
「アレあなたのだったんですか。」
「腐っちまってんなー…」
「じゃあ捨てましょうよ」
「勿体ねえだろ!食べ物を粗末に…」
「液状化しかかってるのにもはや食べ物と言えるんですかこれ…。」
「うるせえよこせ!」
「これでお腹壊されても困るんですけど…。」
2人の何1つとしてひねりのない口論が始まろうとしていた中、再び玄関のドアが開く。
「おい。何をやってんだこんな時間に。」
「ゲッ…所長…その…何というか…」
先ほどまで大声で話していたとは思えぬケインの萎縮ぶりに流石のレドも困惑する。
「こんな時間までお忙しいねお前は。ってありゃ?お相手さんが居ないあたり今日は違うのか?」
所長らしき人物の声は高く、どうやら女性のようである。レドが暗闇越しに目を凝らすと女性のような体型の人影が確認できた。人影はゆっくりとレドたちに近づき、暗闇から姿を現した。
「ん?その横にいるのは誰だ?茶髪で猫背…身長普通で目の下にクマ…ああ!お前か!新入りのケニーシュタインってのは!」
そう言いながら現した彼女の姿は、修道服を着た金髪の少女であった。
「まあ言いたいことは分かる。男優った口調でタバコ吸って修道服着たエルフ金髪美女が何故所長?とかそんなとこだろ?」
自分で美女って言うのか、とレドはふと思ったが、口には出さなかった。
「ってか…お前ら俺が数日開けたらすぐ散らかすなあ…」
「こいつが掃除してくれてますので多分すぐ片付くんじゃないスか?」
「おお!お前家事できるのか?!」
少女が元気はつらつに浮かべる笑顔のお手本のような表情を彼女はレドに向けた。
「ええ…まあ…病気の母と暮らしていた時期があるので…そこで多少…」
「いやー助かったわ!料理もできるか?」
「少しだけ。」
「よし合格!お前は今日からこの所の一員だ!」
「ええ…」
まるで家政婦のような扱いじゃないか。いや、家政婦に雇われる時もここまで雑ではないだろう。とレドはやりきれない心情に陥る。
「あの…面接は…」
「あ?Q:あなたの特技は何ですか?」
「え…?」
「A:家事が出来ます。これで合格だろうが!」
あたかも筋の通った話をしたかのような表情で答える彼女に、レドは半ば諦めを感じた。
「魔導師としての話は?」
「ああ…まあ人手が足りてないんでな…面接とか良いわ。」
「あ…はい。」
ついさっきまで半ば諦めだったレドの期待度は、完全なる諦めへと変わった。
「さあて…片付け再開しようじゃないか!お前も手伝えよケイン。クレアとお前がこうなってる原因なんだし…」
「ちょっと!シュタイン氏!」
突如後ろから声がしたのを感じ、レドは振り返る。
「安静にしろと言ったろう!」
クレアは想像以上に怒っていた。
「眠れなくて…」
「布団に着くくらいしたまえ!ほら!行くよ!」
「あ…いや…ちょっと…ああ…」
レドは床に引きずられながら自分の部屋へと戻されていった。
「…お前は片付けろよ。」
「え~?!」
「ええじゃねえ!」
そして朝になり、やはり眠れなかったレドはのっそりとした動きで居間へと戻ってきた。
「お、起きたか。」
所長は付けていたテレビを消すと、レドの方へ向き直った。
「他の奴らは名前教えたのか。…んじゃ俺の紹介かな。俺はシャーロット。シャーロット・ギルティ・ホワイト。よろしくだ。」
「ああ…よろしくお願いします。」
かれはシャーロットの差し出した手を機械的な動きで握る。
「…お前は言わねーのな。」
「?」
「俺がホラ…エルフだってこと。」
「え?」
「この耳見て気づかなかったのか?」
「ああ…気づきませんでした。魔族と亜人が同一視されてた時代なんてとっくに過ぎましたしそんなの気にしても…」
「ふーん…。ま、その方が楽で良いわ。取り敢えず俺は寝るからな。」
「何か作るか。…卵とハムしか無いじゃん。…なんでこれなんだ?シリアルの一つでもあればいいのに…」
レドは冷蔵庫を漁りながらそう独り言を漏らした。
「お、お前メシ作ってんの?」
ケインが後ろから現れ、思わずレドは顔を曇らせる。
「一人分しか無いですけど。」
「分けるなり何なりあるだろ。」
「ちゃっかり頂くつもりなの何なんです?っていうかそもそも上半身裸で来るのやめてください。」
「裸は人類の境地だろうが!ヌード系の芸術舐めんなよ?!」
「中学生みたいな言い訳やめてくださいよ。」
「あとで覚えてろよお前。」
レドは卵を割り、温まったフライパンと、既にフライパンに接触しているハムへと落下させようとする。
「お前卵割れるのか?」
「割れない方がおかしいと思うんですけど。」
2人はそんな会話を淡々と繰り返していた。レドは殻を割り、フライパンへと落とす。卵がフライパンへと落下していく。が、突如発生した揺れによって、フライパンもろとも食材は床へと流出した。
「あーー!」
ケインの叫びが響き渡る。
「ちくしょう誰だあ!俺の卵を落としたやつ!」
そういうと、ケインは玄関から飛び出して外へと出て行った。
「いつからアンタのになったんですか…」
レドはそうとだけ呟いた。
「うーわ…最悪だ。昨日のやつが生き残ってやがった。」
ケインはマンションの共同廊下の手すりから揺れの根源を見ながら愚痴をこぼすように言った。レドが遅れて少し奥の道路を見ると、そこには数体の魔族が人々を襲っている光景が広がっていた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!だれか…ア"!」
魔族に押しつぶされて女性の腑が飛び散る。
「ね、ねえ…どうするの…?どうするのよこれ!」
「へへ…悪いな…」
男は魔族のある方向に女を突き飛ばす。」
「は…?何よあんた…ふざけんじゃ無いわよ…!ちょっと!いやあああ!」
女の両足が魔族に掴まれ、双方に引き裂かれる。
「はあ…はあ…これで助かっ…」
魔族は逃げようと走った男を目で捉えると、翼を広げて滑空し、男を壁に叩きつけた。
その凄惨な光景を目の当たりにし、ケインの表情は激しく強張る。
「昨日のところとは離れてるんじゃ無いですか?」
「いや、ここらは地下鉄の真上だ。伝ってきててもおかしくはねえ。所長!クレア!」
「ちょっとくらい敬ってもいいと思うんだよねえ…私は一応年上なんだし…今行くよ。」
クレアは早いとも遅いとも言えない足取りで2人の元へと近づいた。
「取り敢えず俺は人命救助をする。必要であれば戦闘に参加する。」
先ほどまで寝ていたシャーロットは、レドの真横に気づかないうちに立っていた。
「んじゃ…俺があいつら狩るからクレアも人命救助。でお前は…クレアに付いてけ。」
「…了解。」
レドは感情の籠らない返事をする。
「なぜ君は年上年下関係なく図々しく話すんだか…」
クレアはケインに一言文句を垂れる。
「うるせえ!話してる暇あったらさっさと行くぞ!」
ケインは上半身の服を手早く羽織ると、マンションから飛び降り、自身の手から2本の刀を出現させる。
「7、8体ってとこか…多いなあホントによ!」
ケインは落下に体重を乗せ、魔族一体の体を分断する。そこから畳み掛けるように、壁を蹴って露出した核を切り裂いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる