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レド編
罪の名前
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「…つまり働かせてくれって感じ?」
「ええまあ…。人手が増えた方が助かるでしょう?」
「そうだけどさ…うん…そうなんだけど…さ。」
バーのマスターは、そういいながら、レドの風貌に思わず眉を寄せる。
「……やっぱり愛想悪いですよね…」
レドは少々落ち込み気味につぶやく。
「やっぱダメっすかね?」
ケインは店主へ懇願する。
「…まあまずやってみないとね。今日仕事やってみてから今後のことについて決めるって感じで。」
「よし!やったな!」
「…頑張っては見ます。」
やはりレドは無愛想に返した。
「…じゃあ取り敢えずそこら辺の机みんな拭いてくれる?で…それが終わったらコップやらの整理を…」
「了解しました。」
レドは手際良く机を拭き、全てを拭き切った後、即座に整理へと取り掛かった。一歳止まる事なく機械運動の如く振り分けられ、収納されていく。
「ほお…」
「…俺も手伝い…」
「いいや君はいい!君はいいんだよそうさそうだろう?何せ君が居るだけで女性客が来てくれる。そうなんだよそれ以外を君に背負わせてしまったらきっと君は壊れてしまう…」
「軽い手伝いへの重みの捉え方がおかしいと思うんですが。」
「先輩ってもしかして…細かい作業やら出来ないんですか?」
「うっ…!」
「なんか毎日部屋散らかってますし、バイトも割とやらかしてる事多いし……」
「はい…そうですよそうですとも。少年時代の色々のせいかわからないですが戦闘以外のことがからっきしでございますよ…」
整理を終えたレドはゆっくりと立ち上がり、ケインの言葉に反論した。
「そうとは思わないですよ。……先輩は僕にないものをたくさん持ってる。僕は貴方を多少也とも尊敬してるし、人生の指標の一つにしてる。」
「…んだよ急に。」
「先輩の欠点もこの数日で見つかりましたけど、同時に良いとこも見つかったって事です。」
「……そうかい。ありがとよ。」
「ところでマスターさん。僕は清掃やらなんやらをしてれば良いと言う感じで…?」
「え…?どうして?」
「どうしよっかなー…いきなり店頭に出せないし…」
「お酒の組み合わせは一通り覚えました。」
「え?!嘘!じゃあこれは?」
マスターは酒のリストの中から適当に書かれたものの一つに指を指す。
「これとこれを4:6。」
「………合格。」
「はあ…」
「はっはっはケイン君優秀な人を見つけてきてくれたじゃないのお!」
「なんの脈略もなくフランクになるあんたの癖治すべきだと思いますよ。」
「…ところで先輩は出来るんですか?」
「……」
マスターは容器を取り出し、中に少量の酒を注ぎ、ケインに降らせる。蓋が付いていると思わせぬほどの勢いで中身が飛び出す。
「……さあ、これを見てもまださっきと同じことが言えるかい?」
ケインは自慢げに言った。
「吹っ切れた人間って無敵ですね。」
「悪意100%の皮肉やめろ。」
ーーーーーーーーーーーーー
「ケインくーん聞いてよー」
「んー?どしたンスか?」
「ウチの旦那…ほら…知ってんでしょ?」
「あー…車弄ってる人ね。」
「そう!そこ!そこよ!ホント最っっっっ悪!ちょっと手伝ってって言ったら車車って…ふざけんじゃねえよ…」
「……多分向こうとしてはこっちなりに手伝ってるつもりなんでしょうね。」
「低すぎだっつーの!手伝う基準が!」
「でも貴方は貴方でこっちの意志をこっちなりに伝えてるつもりでいるんだと思うッスよ。まあ要は……お互いにすれ違ってるとこがあるんスよ。きっと口論したら向こうも貴方への不満を言ってくる。そしたら貴方もぶちまけてやればいい。…ぶちまけあって落ち着いたら割と消化しきってうまくいくんじゃないスか?」
「…うまく行く自信ない。」
「言うて結婚5年目でしょーに。子供も考えてるんでしょ?こう言うの出来るのって子供居ない内だと思いますよ。想像して下さい。…子供の前で長年募った不満をぶちまけ合う自分。子供の自由を親が奪っていいはずが無い。そうでしょう?」
「……」
「結局やるのは貴方ですから…まあやるかやらないかは自由ッスよ。…所詮22の男の助言ですし。」
「うん…もーちょい頑張るわぁ…。さっきの奴もう一杯。」
「はいよ。レド、さっきの。」
「あ、はい。」
「へえー…最近入ったの?」
「今日から入るバイトっス。」
「……ケイン君の第一印象ってどう?」
「は?!ちょっと何を聞いて」
「…ヤリチンのチャラ男。」
「ギャハハハハハ!!」
「……あながち間違って無いのが悔しい。」
ーーーーーーー
アルバイトが終わり、事務所へと戻ったレドは、新しい自分の部屋の扉を開ける。我ながら殺風景だな、とレドは思う。
「歯でも磨くか。」
そう一言呟いたレドは、荷物を部屋に置くと、洗面所へと足を運ぼうと後ろを向く。その時、ふと煙臭さを感じ、僅かに立ち込める煙の跡を追う。その煙の先には、窓に手をかけて煙草を吸引するケインの姿があった。レドの足は、自然と彼の隣へと向かっていた、
「…どうも。」
「おう。…なんか相談でもあんのか?」
「あ…いや…これと言ったものは無いんです。」
「他人のことなんてどうでもいいってスタンスだったってのに…随分な変わりようだなお前。」
「多分…僕は極端にしか考えられない人間なんだと思います。関わろうと思った人間には徹底的に関わるし、見捨てようと思ったら徹底的に切り捨ててしまうような。」
「…それクレアに言われたろ。」
「やっぱり分かります?」
「あいつっぽい言い方だったしな。」
「…先輩は…なんで人を助けたいと思うんですか?…バーでのバイトだって…来る人来る人と不満げなく話してましたし。」
「んだよ急に。」
「答えてください。」
「そりゃそうだろ。困ってたら大体の人間は助けたいとは思うさ!」
「それはそうかも知れないですけど…僕には少しその信念が強すぎるような気がして。」
「そうか?…言うてそう思われる行動はしてないが…」
「根拠はないです。…ただの感覚でそう思っただけで。」
「うーん…お前はほんとに色々矛盾してるよな。常人の感覚とずれてるからよく分からないと言っといて相手の本質やら心理やらをやけに読み取るし、論理的な感じかと思いきや感覚に頼るし。」
「…そりゃまあ…昔は分からなかったですよ。それで周りを不幸にしていった訳ですから。そこから観察したんです。一体どうすれば相手は喜んだんだろう。一体どうすれば怒らせずに済んだんだろう、と言った具合に。まあ人間関係に踏ん切りを付けていたので実践する気はありませんでしたが。…ただ、やっぱり僕の取った行動が如何におかしいかが分かって…尚更絶望しましたね。…今も怖いですよ、他人と話すのが。まだ自覚していない行動があるんじゃないかって。だから…所謂普通の人間と話すのは未だ怖い。」
「じゃあ俺は普通じゃないってか?」
「ああ…いやそうじゃないです。」
「知ってるよんな事は。…でも俺も…自分が変なことくらい自覚してるよ。」
「……」
「でもな、それをやめようとは思った事はない。そうじゃなきゃ壊れちまう。そんな自分を否定したくないから俺はここにいるんだよ。…」
「貴方の歪み…それは人を助ける所ですか?」
「どうだろうなあ…。俺は許せねえんだよ。中々言いたい事を言葉に出せない奴、道で倒れても無関心に踏みつけられる奴、少しの違いで虐げられる奴、………腹が減って、ずっと一人でも誰にも助けてもらえない奴、そんな奴らを笑う人間、蔑む人間がさ。理解どころか歩み寄ろうともせずに、ただ『可哀想だね、運が悪かったね』だので終わるなんて…絶対あっちゃならないんだよ。」
『子供の未来を大人が奪っていい筈がない』
ケインがバーでしていた会話を彼は思い出した。……彼は家庭環境で何かしらがあったのだろう。僕とはまた違った形で。レドはそう結論づけ、ケインに返答した。
「そのままで良いと僕も思いますよ。…その方が好きですし。」
「んだよ。お前まさか…まあそうなら真剣に向き合いはするが…」
「あーいやそう言う訳じゃないです。そう言う訳では…」
レドとケインの声は、窓越しから微かに深夜の街へと響きわたっていた。
「……うん、うまく馴染んだね。」
クレアは、人知れず2人の会話を聞きながら、満足げにそう言った。
ーーーーーーーーーー
「よしお前ら、デカイ依頼が入った!」
意気揚々とシャーロットは、朝に3人を集合させて言い放った。
「昨日言ってたでしょうに。」
ケインは眠気を抑えながら、呂律の回らぬ口調で言う。
「…どれくらいの金が?」
「聞いて驚け100万ドルだ。」
レドの問いかけに、シャーロットは自慢げに答える。
「……それは裏社会の方では?」
「正解!…まあウチはグレーだからな。法外な値段交渉やらも有れば雀の涙もあるって訳よ。」
「それが許されるのは…ここの存在が特異であるが故という事で?」
「そう言う事さ。」
「…貴方の事だからまあ…今から行くなんて言い出すんでしょう?私にだって色々やることがあるんだから今回くらい用意する時間は設けてくれても…」
「ダメです。」
「計画性って知ってます?!ねえ!私だって一応レディだぞ?!最低限の色々はするんだぞ?!ケイン氏だってシュタイン氏だってああ見えて清潔感というものが…」
「ああ見えてってなんだよ。」
「そもそも普段から衛生管理してたらこう言う話にはならないのでは…」
「……だってよ。」
「いやシャーロットさんにも原因があると思いますよ。そもそもここの所長ならある程度でも清潔感を保つ決まりみたいなのをつけるべきだった。なのにそれをつけないせいで元々生活に粗がある人たちを暴走させてここまで行き着いてしまったんじゃないですか。…今回だって土壇場の依頼を無計画に受けたからこんなに生き急ぐ事に…」
「…ぐうの音も出ん。」
「あ、すいませんなんか…言い過ぎました。」
またしても自身の行動で他者の心情を損害した事を、レドは後悔した。
「あーいや…悪くねえ!悪くねえよお前は…!例えるならばガキ大将に野球やろうと無理やり誘われて流されるように野球をやったら結果として怖い隣のおっちゃんの窓ガラス割って謝りに行く役に強制的に任命される奴くらい悪くない!」
「猫型ロボットがいそうな世界観だなあその例え話」
「結局時間は?!」
「じゃあ…30分だけな。30分だけ。」
「今日も修道服なんスか?」
「これは仕事服だ仕事服!勝負服でもなければ普段着でもない!仕事服だ!」
「アッハイ」
ケインは目を細めて軽く流した。
レドは一見何も感じさせない会話の中で、彼女の根底にあるものを感じ取っていた。シャーロット.ギルティ.ホワイト…50年前の魔族と人の戦争、魔神戦争で2万の魔族を殺した『英雄』…。どこかの書籍で知った文字列がレドの脳内を駆け巡る。これもまた絶対的に触れてはいけないものなのだろう。もし安易に触れて仕舞えば、もう取り返しがつかないかも知れない。それが暴力的であろうと残虐的であろうと、或いは精神的なものであろうとも、崩壊を招くかもしれない。レドは自身の身の危険を、半ば無意識的に察知した。そうであると感じさせる程の恐怖を彼女は纏っていたと気づいたからである。その恐怖が自分自身によるものなのか、あるいは彼女自身のものなのか、そこまで考える事はしなかった。
ーーーーーー
シャーロットと共に彼らが進んだ先は、古びた小さな家の地下だった。それも地下の中でも、所謂隠し通路と言われる程に厳格なもので、それ程までに隠し通したい依頼とはなんなのだろう、とレドは疑問に感じたが、さして気にする事でもない、とその思考を停止させた。地下の部屋は思いの外広く、家族一世帯が暮らす分には十分な広さだった。
「…来たか。」
そこには、黒いスーツに身を包んだ50代中盤程の見た目をした男が、10数人の護衛を引き連れて座っていた。その奥には、レド達同様依頼を受け、雇われたであろう人間が2人居た。
「ええまあ…。人手が増えた方が助かるでしょう?」
「そうだけどさ…うん…そうなんだけど…さ。」
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「よし!やったな!」
「…頑張っては見ます。」
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「了解しました。」
レドは手際良く机を拭き、全てを拭き切った後、即座に整理へと取り掛かった。一歳止まる事なく機械運動の如く振り分けられ、収納されていく。
「ほお…」
「…俺も手伝い…」
「いいや君はいい!君はいいんだよそうさそうだろう?何せ君が居るだけで女性客が来てくれる。そうなんだよそれ以外を君に背負わせてしまったらきっと君は壊れてしまう…」
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「先輩ってもしかして…細かい作業やら出来ないんですか?」
「うっ…!」
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「はい…そうですよそうですとも。少年時代の色々のせいかわからないですが戦闘以外のことがからっきしでございますよ…」
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「そうとは思わないですよ。……先輩は僕にないものをたくさん持ってる。僕は貴方を多少也とも尊敬してるし、人生の指標の一つにしてる。」
「…んだよ急に。」
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「……そうかい。ありがとよ。」
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「え?!嘘!じゃあこれは?」
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「これとこれを4:6。」
「………合格。」
「はあ…」
「はっはっはケイン君優秀な人を見つけてきてくれたじゃないのお!」
「なんの脈略もなくフランクになるあんたの癖治すべきだと思いますよ。」
「…ところで先輩は出来るんですか?」
「……」
マスターは容器を取り出し、中に少量の酒を注ぎ、ケインに降らせる。蓋が付いていると思わせぬほどの勢いで中身が飛び出す。
「……さあ、これを見てもまださっきと同じことが言えるかい?」
ケインは自慢げに言った。
「吹っ切れた人間って無敵ですね。」
「悪意100%の皮肉やめろ。」
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「ケインくーん聞いてよー」
「んー?どしたンスか?」
「ウチの旦那…ほら…知ってんでしょ?」
「あー…車弄ってる人ね。」
「そう!そこ!そこよ!ホント最っっっっ悪!ちょっと手伝ってって言ったら車車って…ふざけんじゃねえよ…」
「……多分向こうとしてはこっちなりに手伝ってるつもりなんでしょうね。」
「低すぎだっつーの!手伝う基準が!」
「でも貴方は貴方でこっちの意志をこっちなりに伝えてるつもりでいるんだと思うッスよ。まあ要は……お互いにすれ違ってるとこがあるんスよ。きっと口論したら向こうも貴方への不満を言ってくる。そしたら貴方もぶちまけてやればいい。…ぶちまけあって落ち着いたら割と消化しきってうまくいくんじゃないスか?」
「…うまく行く自信ない。」
「言うて結婚5年目でしょーに。子供も考えてるんでしょ?こう言うの出来るのって子供居ない内だと思いますよ。想像して下さい。…子供の前で長年募った不満をぶちまけ合う自分。子供の自由を親が奪っていいはずが無い。そうでしょう?」
「……」
「結局やるのは貴方ですから…まあやるかやらないかは自由ッスよ。…所詮22の男の助言ですし。」
「うん…もーちょい頑張るわぁ…。さっきの奴もう一杯。」
「はいよ。レド、さっきの。」
「あ、はい。」
「へえー…最近入ったの?」
「今日から入るバイトっス。」
「……ケイン君の第一印象ってどう?」
「は?!ちょっと何を聞いて」
「…ヤリチンのチャラ男。」
「ギャハハハハハ!!」
「……あながち間違って無いのが悔しい。」
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「歯でも磨くか。」
そう一言呟いたレドは、荷物を部屋に置くと、洗面所へと足を運ぼうと後ろを向く。その時、ふと煙臭さを感じ、僅かに立ち込める煙の跡を追う。その煙の先には、窓に手をかけて煙草を吸引するケインの姿があった。レドの足は、自然と彼の隣へと向かっていた、
「…どうも。」
「おう。…なんか相談でもあんのか?」
「あ…いや…これと言ったものは無いんです。」
「他人のことなんてどうでもいいってスタンスだったってのに…随分な変わりようだなお前。」
「多分…僕は極端にしか考えられない人間なんだと思います。関わろうと思った人間には徹底的に関わるし、見捨てようと思ったら徹底的に切り捨ててしまうような。」
「…それクレアに言われたろ。」
「やっぱり分かります?」
「あいつっぽい言い方だったしな。」
「…先輩は…なんで人を助けたいと思うんですか?…バーでのバイトだって…来る人来る人と不満げなく話してましたし。」
「んだよ急に。」
「答えてください。」
「そりゃそうだろ。困ってたら大体の人間は助けたいとは思うさ!」
「それはそうかも知れないですけど…僕には少しその信念が強すぎるような気がして。」
「そうか?…言うてそう思われる行動はしてないが…」
「根拠はないです。…ただの感覚でそう思っただけで。」
「うーん…お前はほんとに色々矛盾してるよな。常人の感覚とずれてるからよく分からないと言っといて相手の本質やら心理やらをやけに読み取るし、論理的な感じかと思いきや感覚に頼るし。」
「…そりゃまあ…昔は分からなかったですよ。それで周りを不幸にしていった訳ですから。そこから観察したんです。一体どうすれば相手は喜んだんだろう。一体どうすれば怒らせずに済んだんだろう、と言った具合に。まあ人間関係に踏ん切りを付けていたので実践する気はありませんでしたが。…ただ、やっぱり僕の取った行動が如何におかしいかが分かって…尚更絶望しましたね。…今も怖いですよ、他人と話すのが。まだ自覚していない行動があるんじゃないかって。だから…所謂普通の人間と話すのは未だ怖い。」
「じゃあ俺は普通じゃないってか?」
「ああ…いやそうじゃないです。」
「知ってるよんな事は。…でも俺も…自分が変なことくらい自覚してるよ。」
「……」
「でもな、それをやめようとは思った事はない。そうじゃなきゃ壊れちまう。そんな自分を否定したくないから俺はここにいるんだよ。…」
「貴方の歪み…それは人を助ける所ですか?」
「どうだろうなあ…。俺は許せねえんだよ。中々言いたい事を言葉に出せない奴、道で倒れても無関心に踏みつけられる奴、少しの違いで虐げられる奴、………腹が減って、ずっと一人でも誰にも助けてもらえない奴、そんな奴らを笑う人間、蔑む人間がさ。理解どころか歩み寄ろうともせずに、ただ『可哀想だね、運が悪かったね』だので終わるなんて…絶対あっちゃならないんだよ。」
『子供の未来を大人が奪っていい筈がない』
ケインがバーでしていた会話を彼は思い出した。……彼は家庭環境で何かしらがあったのだろう。僕とはまた違った形で。レドはそう結論づけ、ケインに返答した。
「そのままで良いと僕も思いますよ。…その方が好きですし。」
「んだよ。お前まさか…まあそうなら真剣に向き合いはするが…」
「あーいやそう言う訳じゃないです。そう言う訳では…」
レドとケインの声は、窓越しから微かに深夜の街へと響きわたっていた。
「……うん、うまく馴染んだね。」
クレアは、人知れず2人の会話を聞きながら、満足げにそう言った。
ーーーーーーーーーー
「よしお前ら、デカイ依頼が入った!」
意気揚々とシャーロットは、朝に3人を集合させて言い放った。
「昨日言ってたでしょうに。」
ケインは眠気を抑えながら、呂律の回らぬ口調で言う。
「…どれくらいの金が?」
「聞いて驚け100万ドルだ。」
レドの問いかけに、シャーロットは自慢げに答える。
「……それは裏社会の方では?」
「正解!…まあウチはグレーだからな。法外な値段交渉やらも有れば雀の涙もあるって訳よ。」
「それが許されるのは…ここの存在が特異であるが故という事で?」
「そう言う事さ。」
「…貴方の事だからまあ…今から行くなんて言い出すんでしょう?私にだって色々やることがあるんだから今回くらい用意する時間は設けてくれても…」
「ダメです。」
「計画性って知ってます?!ねえ!私だって一応レディだぞ?!最低限の色々はするんだぞ?!ケイン氏だってシュタイン氏だってああ見えて清潔感というものが…」
「ああ見えてってなんだよ。」
「そもそも普段から衛生管理してたらこう言う話にはならないのでは…」
「……だってよ。」
「いやシャーロットさんにも原因があると思いますよ。そもそもここの所長ならある程度でも清潔感を保つ決まりみたいなのをつけるべきだった。なのにそれをつけないせいで元々生活に粗がある人たちを暴走させてここまで行き着いてしまったんじゃないですか。…今回だって土壇場の依頼を無計画に受けたからこんなに生き急ぐ事に…」
「…ぐうの音も出ん。」
「あ、すいませんなんか…言い過ぎました。」
またしても自身の行動で他者の心情を損害した事を、レドは後悔した。
「あーいや…悪くねえ!悪くねえよお前は…!例えるならばガキ大将に野球やろうと無理やり誘われて流されるように野球をやったら結果として怖い隣のおっちゃんの窓ガラス割って謝りに行く役に強制的に任命される奴くらい悪くない!」
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「じゃあ…30分だけな。30分だけ。」
「今日も修道服なんスか?」
「これは仕事服だ仕事服!勝負服でもなければ普段着でもない!仕事服だ!」
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レドは一見何も感じさせない会話の中で、彼女の根底にあるものを感じ取っていた。シャーロット.ギルティ.ホワイト…50年前の魔族と人の戦争、魔神戦争で2万の魔族を殺した『英雄』…。どこかの書籍で知った文字列がレドの脳内を駆け巡る。これもまた絶対的に触れてはいけないものなのだろう。もし安易に触れて仕舞えば、もう取り返しがつかないかも知れない。それが暴力的であろうと残虐的であろうと、或いは精神的なものであろうとも、崩壊を招くかもしれない。レドは自身の身の危険を、半ば無意識的に察知した。そうであると感じさせる程の恐怖を彼女は纏っていたと気づいたからである。その恐怖が自分自身によるものなのか、あるいは彼女自身のものなのか、そこまで考える事はしなかった。
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シャーロットと共に彼らが進んだ先は、古びた小さな家の地下だった。それも地下の中でも、所謂隠し通路と言われる程に厳格なもので、それ程までに隠し通したい依頼とはなんなのだろう、とレドは疑問に感じたが、さして気にする事でもない、とその思考を停止させた。地下の部屋は思いの外広く、家族一世帯が暮らす分には十分な広さだった。
「…来たか。」
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