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魔人衝突編
死の反転
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「クソ…見えねえ……」
脳が回らない。剣を握るしかできない。ただ不可視の攻撃を咄嗟にかわしていくことしかできない。ケインは焦るばかりだった。
「なんだあ…?あの人間……見えてねえ筈なのに避けてやがる……。魔力視覚じゃねえな…しかもこっちに近づいてやがる。野生の勘って奴かあ?だがまあいずれは打ち抜けんだろ。」
魔族は木にもたれかかり、風を空中で圧縮させ、ケインの方向に発射する。ケインの右肩を風が掠め、彼の肩から赤い血が滴る。
「……急所が外れるな。ギリギリでかわしているのか?」
魔族が木から木へと移った瞬間、ケインの刀が彼の背後を掠める。
「?!」
「はあ…はあ…よく分からねえ……よく分からねえが…そこにいるのか?」
「嘘だろ……?!ここから200mは離れてんだぞ?!魔力視覚にしたって視認できねえぞ!」
「音がした……そこか!」
ケインは無我夢中で目標に向けて走り出す。
「チィ!こりゃ隠密はダメだな!」
魔族は体を変形させ、両腕をケインに伸ばす。蛇が這うが如くの動きでケインへ距離を詰めていく。
「今更効くかこんなもん!」
ケインは木に突き刺さった刀を手繰り寄せると、腕に刃を当てる。
ーが、鈍い金属音と共に虚しく弾かれてしまった。
「なっ……!」
ケインの剣戟をものともせず、魔族の腕は彼の喉元を掴む。
「つくづく驕った思考回路だ。猪突猛進に進むことしか出来ねえのは驕るからだ。大事なのは戦況の見極めと切り替えだ。そうだろ?兄弟。さあどうする?俺は隠密から接近戦に切り替えた。……お前の得意分野は接近なようだが、見たところ俺より下だ。」
腕が振り払えない。いくらもがこうと意味などなさない。腕は彼を掴んだまま、体を振り回し、森の木々へと叩きつけていく。身体強化も間に合わない。武器も落とした。彼は自身の死を肌で感じ取る。
ーバキバキ。鈍い音を立てて肋骨が折れる。全身に激痛が走る。だがもはやそんな暇すら与えてくれない。痛みが濁流の如くなだれ込んでいく。痛覚が次の痛覚へと信号を切り替えていく。
攻撃が止んだ。視界が赤黒く染まっている。紛れもなく自分の血だ。思考回路が追いつかない。否、思考回路がそもそも回らない。
「……他愛もない。接近戦にこだわる奴は皆こうだ。遠くをいつも見渡せない。」
魔族は自身の腕を戻し、ため息混じりに呟いた。
ーが、ケインは立ち上がっていた。
「…何?どう言う原理だ?……ああ、根性ってやつか?俺はそう言う根拠のねえ原動力が嫌いなんだよ……!何一つとして大義がねえ!」
魔族は風の弾幕を空中に張り巡らせる。数はおよそ60。それら全ては、紛れもなくケイン一人に向けてのものだった。
「はあ…はあ……いつか教えてもらったコレ……役に立つとはな。」
咄嗟の判断だった。咄嗟の判断とすら呼べない。反射行動とも呼べる領域の行動だった。いつの日か気まぐれでクレアが教えた回復魔法の構造。自分にはできるまい、と流していたが土壇場で成功させた。微々たる物ではあったが、満身創痍の体を奮い立たせるには十分であった。
「なんだ……?あの上に光ってるアレ……」
降り注ぐ弾幕をケインは的確にかわしていく。
「なっ……!魔力視覚?!使えたのか?……いや、だとすればさっきまで素直に攻撃を喰らった理由が……」
魔族が思考回路を巡らせる内に、ケインは彼の目前まで迫っていた。
魔族はのけぞるように剣戟をかわす。
「まさか……!土壇場で?!魔力視覚は魔導士の高等技術と聞く……それを土壇場だと?!」
魔族は再び両手を伸ばす。ケインは体を捻る。彼の腹部と頬を指先が掠める。出血など最早眼中には無い。
「調子に乗るな!」
魔族は風の防壁を生成し、ケインの剣戟を受け止める。ケインの前進は止まり、後ろに弾かれる体の勢いを殺す。
「……良いよ、分かった。俺は体を自由に変形できてな…まあドレイク程じゃねえが体を硬化できるし……こんな風にもなれる。」
化け物、と言う言葉が具現化した姿だった。昆虫と獣の同化したようなその風貌は、誰から見ても殺戮を目的とした形態だった。
「……遅えよ。」
ケインの後ろから声が聞こえる。次の瞬間には、彼の腹部からは血が吹き出していた。
「あっ…!」
見えない。挙動も何も見えない。空気抵抗を無くし、かつ攻撃に特化させた形態。それに風の加速を加えれば、音速の攻撃へと至るのも当然であった。
「他愛もねえ。……そこらの知性魔族で生きがってやがったのか?テメェらの言うStage5と6は違うんだよ。」
「は…あ…!」
「…なぜ立ち上がる?再生能力もねえお前らじゃ戦闘不能も良いとこだ。」
「ちくしょうがよ…なんで俺ばっかこんなコト…めんどくせぇ‥めんどくせぇ…」
「ブツブツと…おかしくなったか。じゃあ死ね。」
魔族は前屈みの姿勢になり、ケインに照準を定める。
その直後には、既にケインの腹部に彼の身体中の爪が突き刺さった。瞬きよりも早かった。目視など到底不可能な速度である。……が、彼の体は止まっていた。ケインの体に刺さったまま、彼の体は固定されていたのだ。
「なっ……!」
「はあ…結局お前は俺に触れる…だったら触れさせて止めれば良い。……自分の重さを上げて、お前が触れた瞬間にお前の身体中に重力を付与した。」
「触れた瞬間に重力付与だと……?!どんな出力とコントロールがあれば…」
ケインの『物干し竿』が魔族の装甲を貫く。かわすことなど当然不可能。咄嗟に核を避ける以外できはしなかった。
ー魔族の右腕が飛ぶ
「図に乗るな!」
風の弾幕が降り注ぐ。ケインは魔族から体を引き抜き、弾幕から距離を取る。右肩を数発の弾が貫く。が、もはやそんなことは気にならない。
「テメエエエ……待てええ!」
魔族はケインを睨みつけ、再び体を加速させる。
ケインは正面に刀を構え、魔族の攻撃を受け止める。
魔族の体ごとケインの体は持ち上げられていく。
「やべえ…落ちる…!」
魔族の右腕が彼を襲う。ケインは刀から手を離し、魔族の体を左手で掴むと、背中に回り込む形で攻撃をかわし、そのまま顔面に拳を叩き込んだ。ケインを振り落とそうともがきながら、魔族は落下していく。ケインは途中で手を離し、真下の木の枝に手をかける。しかし掴むことはできず、よろけるように着地した。
ケインはしゃがみながら辺りを見渡す。途端、膨大な魔力が当たりを埋め尽くす。
突風がケインを襲う。そしてその直後、彼の耳元に轟音が届く。
音速を超えたのだ、と彼は悟る。彼の周りを回るように、魔力の塊は移動していく。
「っ…!来る!」
ケインは何十にもわたる重力の壁を周囲に生成する。が、それらはもはや意味を為さなかった。魔族の爪がケインの首元を捉え、ビニール袋を刃物で切るが如く容易に皮膚を断ち、そして血管を分断させた。魔族の右目には魔力の明かりが灯っている。魔殲だ。魔殲を使用したんだ。魔法においての頂点にして奥義。それに勝てる訳が無い。出血量はとっくに限界を超えている。思考するだけの力など持っては居ない。
魔族は体に風を収束させる。
際限なく加速していく風ー
体を押し上げ、加速させる事においても例外ではない。
威力、速度、それらは既に人間の手に負える領域ではない。
だとしても、そうであったとしてもー
俺はー
立ち上がるしか、できない。
立ち上がらねば生きられない。
このまま一人で死にたくない。
だから、だから……
なんだとしても俺は生きる。ここでコイツを殺してやる。
ー立ち上がる。
「…お前、名は?」
ー敵が問いかける
「ケイン。」
ーただそうとだけ答えた。
「そうか。俺はドレッドだ。ドレッド.フェルナンド。」
答えはしない。必要などない。
ただ一心に地面を蹴った。
ただ一心に拳を振り上げた。
魔族も同様に地面を蹴る。
ー速度は歴然の差
誰が見ても勝敗など決して居た。
ー筈だった。
魔族の頭部に当たった拳は、彼の体半分の装甲を吹き飛ばした。魔族の腕はケインの腹部を捉えていた。しかし彼の半身を分離させるよりも、体が朽ちる方が早かった。腕を上げ切る程の筋力は、欠損した体にあるはずも無かったのである。
ケインは畳み掛けるように、彼のうなじ部分の核を刀で突き刺した。
「はあ…はあ……ガハ!」
途端に血が逆流する。ケインはその場に力無く倒れる。
「お前…何を…」
「はあ…お前が空飛んでる時…はあ…ぶん殴ったろ…。重力その時に増やしたんだよ…。俺の魔能力は重複できるように工夫してるからな…。
アンタの風に俺の魔力が勝てるかは正直分からなかった……拳は実際砕けたしな…」
ケインは弱々しく右手を魔族に見せる。もはや手の形をしていなかった。
「はあ…クソ…」
「アンタは接近戦にこだわる奴がどうのと抜かしてたが……1番拘ってたのはアンタだったぜ…。俺を貫いた時点で形態を元に戻して、遠距離から大人しく撃ってりゃ勝ちだったんだよ。」
「そうか……クソ……ダメだなあ俺は……勝てねえ奴がいるからオールラウンダーになったってのに…」
「う…!やべえ……俺死ぬかも…」
体の痛みが増し、汗が次々流れていく。
「…持ってけ、人間。俺の荷物に回復薬がある。だいぶ上等な奴だ。」
「……良いのかよ?命令違反だろそれ?」
「そうだな、だがまあ……お前みたいに覆していく奴に賭けてみたくなったのさ。人間が魔族かは置いておいてな。……その場にいるのがお前だからそうしただけだ。魔族がいたならそいつに渡してたよ。」
「そうかい……魔族は上下関係が厳しいと聞いていたが…案外話せば分かるじゃねえの。」
「…殆ど話しちゃいねえだろ。」
ケインは回復薬を飲み干すと、体の回復のために木にもたれかかった。
「……ああ、そうだ。一応言っとくが、お前の真価は身軽さでも戦闘センスでもない。魔力のコントロールだ。覚えておきな。」
「……なんでそんなこと教える?」
「賭けてみたくなったって言ったろ?あとはお前次第さ。」
不敵にも取れる笑みを浮かべて魔族は消えていった。
脳が回らない。剣を握るしかできない。ただ不可視の攻撃を咄嗟にかわしていくことしかできない。ケインは焦るばかりだった。
「なんだあ…?あの人間……見えてねえ筈なのに避けてやがる……。魔力視覚じゃねえな…しかもこっちに近づいてやがる。野生の勘って奴かあ?だがまあいずれは打ち抜けんだろ。」
魔族は木にもたれかかり、風を空中で圧縮させ、ケインの方向に発射する。ケインの右肩を風が掠め、彼の肩から赤い血が滴る。
「……急所が外れるな。ギリギリでかわしているのか?」
魔族が木から木へと移った瞬間、ケインの刀が彼の背後を掠める。
「?!」
「はあ…はあ…よく分からねえ……よく分からねえが…そこにいるのか?」
「嘘だろ……?!ここから200mは離れてんだぞ?!魔力視覚にしたって視認できねえぞ!」
「音がした……そこか!」
ケインは無我夢中で目標に向けて走り出す。
「チィ!こりゃ隠密はダメだな!」
魔族は体を変形させ、両腕をケインに伸ばす。蛇が這うが如くの動きでケインへ距離を詰めていく。
「今更効くかこんなもん!」
ケインは木に突き刺さった刀を手繰り寄せると、腕に刃を当てる。
ーが、鈍い金属音と共に虚しく弾かれてしまった。
「なっ……!」
ケインの剣戟をものともせず、魔族の腕は彼の喉元を掴む。
「つくづく驕った思考回路だ。猪突猛進に進むことしか出来ねえのは驕るからだ。大事なのは戦況の見極めと切り替えだ。そうだろ?兄弟。さあどうする?俺は隠密から接近戦に切り替えた。……お前の得意分野は接近なようだが、見たところ俺より下だ。」
腕が振り払えない。いくらもがこうと意味などなさない。腕は彼を掴んだまま、体を振り回し、森の木々へと叩きつけていく。身体強化も間に合わない。武器も落とした。彼は自身の死を肌で感じ取る。
ーバキバキ。鈍い音を立てて肋骨が折れる。全身に激痛が走る。だがもはやそんな暇すら与えてくれない。痛みが濁流の如くなだれ込んでいく。痛覚が次の痛覚へと信号を切り替えていく。
攻撃が止んだ。視界が赤黒く染まっている。紛れもなく自分の血だ。思考回路が追いつかない。否、思考回路がそもそも回らない。
「……他愛もない。接近戦にこだわる奴は皆こうだ。遠くをいつも見渡せない。」
魔族は自身の腕を戻し、ため息混じりに呟いた。
ーが、ケインは立ち上がっていた。
「…何?どう言う原理だ?……ああ、根性ってやつか?俺はそう言う根拠のねえ原動力が嫌いなんだよ……!何一つとして大義がねえ!」
魔族は風の弾幕を空中に張り巡らせる。数はおよそ60。それら全ては、紛れもなくケイン一人に向けてのものだった。
「はあ…はあ……いつか教えてもらったコレ……役に立つとはな。」
咄嗟の判断だった。咄嗟の判断とすら呼べない。反射行動とも呼べる領域の行動だった。いつの日か気まぐれでクレアが教えた回復魔法の構造。自分にはできるまい、と流していたが土壇場で成功させた。微々たる物ではあったが、満身創痍の体を奮い立たせるには十分であった。
「なんだ……?あの上に光ってるアレ……」
降り注ぐ弾幕をケインは的確にかわしていく。
「なっ……!魔力視覚?!使えたのか?……いや、だとすればさっきまで素直に攻撃を喰らった理由が……」
魔族が思考回路を巡らせる内に、ケインは彼の目前まで迫っていた。
魔族はのけぞるように剣戟をかわす。
「まさか……!土壇場で?!魔力視覚は魔導士の高等技術と聞く……それを土壇場だと?!」
魔族は再び両手を伸ばす。ケインは体を捻る。彼の腹部と頬を指先が掠める。出血など最早眼中には無い。
「調子に乗るな!」
魔族は風の防壁を生成し、ケインの剣戟を受け止める。ケインの前進は止まり、後ろに弾かれる体の勢いを殺す。
「……良いよ、分かった。俺は体を自由に変形できてな…まあドレイク程じゃねえが体を硬化できるし……こんな風にもなれる。」
化け物、と言う言葉が具現化した姿だった。昆虫と獣の同化したようなその風貌は、誰から見ても殺戮を目的とした形態だった。
「……遅えよ。」
ケインの後ろから声が聞こえる。次の瞬間には、彼の腹部からは血が吹き出していた。
「あっ…!」
見えない。挙動も何も見えない。空気抵抗を無くし、かつ攻撃に特化させた形態。それに風の加速を加えれば、音速の攻撃へと至るのも当然であった。
「他愛もねえ。……そこらの知性魔族で生きがってやがったのか?テメェらの言うStage5と6は違うんだよ。」
「は…あ…!」
「…なぜ立ち上がる?再生能力もねえお前らじゃ戦闘不能も良いとこだ。」
「ちくしょうがよ…なんで俺ばっかこんなコト…めんどくせぇ‥めんどくせぇ…」
「ブツブツと…おかしくなったか。じゃあ死ね。」
魔族は前屈みの姿勢になり、ケインに照準を定める。
その直後には、既にケインの腹部に彼の身体中の爪が突き刺さった。瞬きよりも早かった。目視など到底不可能な速度である。……が、彼の体は止まっていた。ケインの体に刺さったまま、彼の体は固定されていたのだ。
「なっ……!」
「はあ…結局お前は俺に触れる…だったら触れさせて止めれば良い。……自分の重さを上げて、お前が触れた瞬間にお前の身体中に重力を付与した。」
「触れた瞬間に重力付与だと……?!どんな出力とコントロールがあれば…」
ケインの『物干し竿』が魔族の装甲を貫く。かわすことなど当然不可能。咄嗟に核を避ける以外できはしなかった。
ー魔族の右腕が飛ぶ
「図に乗るな!」
風の弾幕が降り注ぐ。ケインは魔族から体を引き抜き、弾幕から距離を取る。右肩を数発の弾が貫く。が、もはやそんなことは気にならない。
「テメエエエ……待てええ!」
魔族はケインを睨みつけ、再び体を加速させる。
ケインは正面に刀を構え、魔族の攻撃を受け止める。
魔族の体ごとケインの体は持ち上げられていく。
「やべえ…落ちる…!」
魔族の右腕が彼を襲う。ケインは刀から手を離し、魔族の体を左手で掴むと、背中に回り込む形で攻撃をかわし、そのまま顔面に拳を叩き込んだ。ケインを振り落とそうともがきながら、魔族は落下していく。ケインは途中で手を離し、真下の木の枝に手をかける。しかし掴むことはできず、よろけるように着地した。
ケインはしゃがみながら辺りを見渡す。途端、膨大な魔力が当たりを埋め尽くす。
突風がケインを襲う。そしてその直後、彼の耳元に轟音が届く。
音速を超えたのだ、と彼は悟る。彼の周りを回るように、魔力の塊は移動していく。
「っ…!来る!」
ケインは何十にもわたる重力の壁を周囲に生成する。が、それらはもはや意味を為さなかった。魔族の爪がケインの首元を捉え、ビニール袋を刃物で切るが如く容易に皮膚を断ち、そして血管を分断させた。魔族の右目には魔力の明かりが灯っている。魔殲だ。魔殲を使用したんだ。魔法においての頂点にして奥義。それに勝てる訳が無い。出血量はとっくに限界を超えている。思考するだけの力など持っては居ない。
魔族は体に風を収束させる。
際限なく加速していく風ー
体を押し上げ、加速させる事においても例外ではない。
威力、速度、それらは既に人間の手に負える領域ではない。
だとしても、そうであったとしてもー
俺はー
立ち上がるしか、できない。
立ち上がらねば生きられない。
このまま一人で死にたくない。
だから、だから……
なんだとしても俺は生きる。ここでコイツを殺してやる。
ー立ち上がる。
「…お前、名は?」
ー敵が問いかける
「ケイン。」
ーただそうとだけ答えた。
「そうか。俺はドレッドだ。ドレッド.フェルナンド。」
答えはしない。必要などない。
ただ一心に地面を蹴った。
ただ一心に拳を振り上げた。
魔族も同様に地面を蹴る。
ー速度は歴然の差
誰が見ても勝敗など決して居た。
ー筈だった。
魔族の頭部に当たった拳は、彼の体半分の装甲を吹き飛ばした。魔族の腕はケインの腹部を捉えていた。しかし彼の半身を分離させるよりも、体が朽ちる方が早かった。腕を上げ切る程の筋力は、欠損した体にあるはずも無かったのである。
ケインは畳み掛けるように、彼のうなじ部分の核を刀で突き刺した。
「はあ…はあ……ガハ!」
途端に血が逆流する。ケインはその場に力無く倒れる。
「お前…何を…」
「はあ…お前が空飛んでる時…はあ…ぶん殴ったろ…。重力その時に増やしたんだよ…。俺の魔能力は重複できるように工夫してるからな…。
アンタの風に俺の魔力が勝てるかは正直分からなかった……拳は実際砕けたしな…」
ケインは弱々しく右手を魔族に見せる。もはや手の形をしていなかった。
「はあ…クソ…」
「アンタは接近戦にこだわる奴がどうのと抜かしてたが……1番拘ってたのはアンタだったぜ…。俺を貫いた時点で形態を元に戻して、遠距離から大人しく撃ってりゃ勝ちだったんだよ。」
「そうか……クソ……ダメだなあ俺は……勝てねえ奴がいるからオールラウンダーになったってのに…」
「う…!やべえ……俺死ぬかも…」
体の痛みが増し、汗が次々流れていく。
「…持ってけ、人間。俺の荷物に回復薬がある。だいぶ上等な奴だ。」
「……良いのかよ?命令違反だろそれ?」
「そうだな、だがまあ……お前みたいに覆していく奴に賭けてみたくなったのさ。人間が魔族かは置いておいてな。……その場にいるのがお前だからそうしただけだ。魔族がいたならそいつに渡してたよ。」
「そうかい……魔族は上下関係が厳しいと聞いていたが…案外話せば分かるじゃねえの。」
「…殆ど話しちゃいねえだろ。」
ケインは回復薬を飲み干すと、体の回復のために木にもたれかかった。
「……ああ、そうだ。一応言っとくが、お前の真価は身軽さでも戦闘センスでもない。魔力のコントロールだ。覚えておきな。」
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