Heavens Gate

酸性元素

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魔人衝突編

死の反転③

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20分前………
「班長!魔族の群れ、駆逐完了したようです!」
「おう、了解。」
セシルら支援部隊は射撃第三部隊、白兵第5部隊、に同行していた。
「……」
自身の師、ゾルダの言葉が彼は頭に残っていた。
『君はこの状況、どう思う?』
確かに上手く行き過ぎている。侵略する分には戦力は決して少なく無い。だが余りにもこちらの不利が少なすぎる。こちらが優勢になり過ぎている。
『セシル君、治療は?』
アンがセシルに通信を繋げる。
「ああ、終わりましたよ先輩。」
「班長!他に何ありますか?!」
アズラの声があたりに響き渡る。
「ねえよ!うるせえなあもお……」
「早く自分は魔族を殺したいんです!そうすればみんな平和になれるので!」
何でも無い笑顔でアズラは言い放つ。
「出来たら苦労せんわ。」
「ああ……みんな殺せば喜ぶかなあ…」
笑顔、と言うよりは、口角が横に広げられた真顔だった。高揚であっても優しさなどその目には微塵も無かったのだから。
「ん?なんだ?」
希望と恐怖が両立している状態、そういう場においては常に後者が具現化する。
今回もまた例外ではなかった。
セシルが目に捉えた黒い点。距離からして3kmは離れている。
徐々に他の隊員もソレの存在に気づき始めた。
「先輩…アレ見えます?」
『……魔族かな?さっきまで気づかなかった。サイズからしたら2くらいな気が…』
「違う。」
そう呟いたレナの声は震えていた。
「え?」
「今すぐ知らせるべきだ。アレはまともに相手にして良い奴じゃない!この世にいる関わっちゃいけない奴だ!」
「……!」
昔から彼女の勘はよく当たる。彼女の感覚操作魔能力の延長線とも呼ばれているが、当たる事は確かなのだ。
アンは他の隊に伝えようと無線機を手に取った。


しかし、耳障りな音しか聞こえてこない。
まさか
まさかこれは
アンが恐怖した次の瞬間、周囲の隊員がどよめき始める。
アンは前へと向き直った。そして正体を知った次の瞬間には、凄まじい衝撃があたりを吹き飛ばしていた。
「白兵部隊が…!」
どうやって壊滅させたかなど見えるはずがない。
ただ一つ分かるのは、襲いかかった巨大な塊は、Stage3などと言うものでは無い事だった。
「セシル君!」
セシルは後悔した。嫌な予感がしていたなら、もっと他にやりようがあったじゃ無いか。どうして…
しかしそんな後悔は打ち消された。
「アズラ……おい…アズラ!」
車内から衝撃によって投げ出され、その場に倒れ込んでいた隊員、それは紛れもなく彼の部下だった。
「うっ……痛う……!はあ…やっとだ…やっと魔族を…」
アズラは勢いよく立ち上がる。しかし、その勢いは急速に萎んでいった。
4mを超える身長、瞳孔のない漆黒の瞳、背中からは大量の骨が露出し、背中を覆うように肩、腹まで伸びていた。
体の色は白と黒。骨の様な不気味さを放っている。
アズラの体が痙攣を始める。
勝てない。
ここにいる誰一人、勝つことができない。
こいつに全員殺される。
こいつにこの国は壊される。
天敵に狙われた獲物、という比喩すら物足りない。鼠が獅子の群れに正面から立ち向かうが如くの無謀。


アズラは昔のことを思い出していた。
昔から俺はヒーローに憧れていた。漫画とかで見るヒーロー。コスチュームを身に纏って倒す。正義を信じて戦い続け、死を恐れない姿に憧れていた。
故に人助けが好きだったんだ。だけれどいつしか、周りの人間は俺を支持しなくなった。
次第に軽蔑をするようになった。どうしてだろう?どうして誰も助けないんだろう。どうして余計なことを、なんて言うんだろう。
そうしている内、間違っているような気がしてきた。ヒーローはそんな事思わない筈だ。ヒーローは誰にどう言われても救い続ける筈だ。そう言い聞かせていた。
そんな中、レドと言う男に出会った。関係としては学校の下級生。彼を一目見た時、こう思ったんだ。
ああ、あいつこそヒーローだ、と。何があっても守り通せる人間なんだ、と俺は分かったんだ。
だから彼が魔導師になると聞いた時は感激した。やっぱり彼はそうだったんだ。
故に俺も入った。俺もきっとああ成れる。悪い奴らを殺せるんだ。
だけど途中、彼からそれは無くなった。まるで抜け殻みたいに、無気力な表情をするだけになった。
何でだよ。俺は信じてたのに。
そう思いながら、俺は魔導士なんかになってしまった。結局新入りの俺じゃ魔族を相手にできず、本当に無気力でたまらなかった。しかもアイツは国公にならなかったそうじゃ無いか。
どうして?どうしてだよ。
そう思っていた。
そして数日前、彼に再開した。瞳が戻っていたんだ。あの時の顔になっていたんだ。俺は再び感激した。俺のヒーローが帰ってきた。帰ってきたんだ。
だけれど、今になってみたら、俺のあの憧れは何の意味もなかったのだ。ただつまらない人生が嫌で、ただ自分は違うという実感が欲しくて、そのまま大人になってしまっただけだったのだ。
だって
だってあの漫画のヒーローは
目標のためにもっと頑張ってたんだ。
俺は彼に一度でも話しかけただろうか?
俺は彼の本質を知ろうとしただろうか?
ただ外界から見て、勝手に自分の理想を押し付けていたに過ぎないんじゃ無いのか?
俺は正義の味方じゃない。ヒーローでも無い。
だって
だってホントは、
危険区域に住む人間から
家を無くした人間から
足元に転がったゴミ袋を蹴り上げるように目を逸らしていたんだから。
俺は正義の器じゃなかった。
自分が特別だと思いたかった。
いくら魔能力を持っていたって
いくら成績が上位だったからって
人を守る才能がなかったんだ。
いや、そもそも、
人を守る覚悟さえ出来ていなかったんだ。
メジャーリーグを眺めて野球選手を目指す少年なまま育った
無意味で無知なガラクタなんだ。
「アズラーーーー!」
このすぐ後、俺は死ぬ
ああ、最低だなあ、俺
凡人ですら無いじゃないか
何にもできてなかったじゃ無いか
再開した時、俺は一度彼に話しかけた事があった
忘れた事にしていたけれど、やっぱり忘れられない
その一言を、思い出した
『…誰ですか?』
本当に、クズだなあ
ーアズラの意識は途切れた
「クソ!射撃部隊は?!支援部隊は援護する!」
「……ウチの班以外支援部隊は…」
「関係あるか!こいつは死んでも止めないと行けないんだよ!」
射撃部隊は一斉に銃を構える。
「………!」
魔族は両腕を大きく開き、不適な笑みを浮かべる。
「挑発…?!だけど魔力視覚で見ても何も無い……本当に何も無い…」
「アン!」
「……!一斉射撃!」
どっちみち止める方法はこれくらいしか無い。距離は200m。霧散する量も少ない。Stage6であろうとひとたまりもないだろう。
だが、炎に包まれたソレは、何一つとして傷を負っていなかった。
もはや誰一人声をあげない。これはclassAなどという枠には収まらない。
classSだ。
炎の音に紛れ、聞き慣れない音が聞こえる。これは歌っているんだ。あの魔族が歌っている。ロックの鼻歌を口ずさんでいるんだ。
「……他の、部隊は?」
「………連絡が取れない。おそらくこの数分でここら一帯のはコイツに…」
アンとレナの会話には最早希望などない。ただ詰んでいることを確認するだけの会話。
それでも
立ち向かうしか無いんだ
ここでやらなきゃいけない
「セシル君、行ける?」
『やるだけやる。』
「アレ準備して。こっちが時間を稼ぐ。……聞いて。ここでアタシ達は死ぬ。どう足掻いても死ぬ。それでも…」
アンは振り返る。彼女は言葉を失った。誰一人として、震えるものはいなかったのだ。
「生き残るって言ったのは貴方でしょう?だったら最後まで生きるつもりで行きましょうよ。」
隊員の一人が言う。
「うん、そうだね!準備して!やるよ!」
アンは弓を構える。
アレを使うしか無いのか。深く息を吸い込んだ。
「2班、4班は目標に近づいて支援部隊から攻撃を逸らす。他の班は目標を囲んで攻撃する!攻撃の手は緩めないで!」
魔族に弾幕が浴びせられていく。煙と炎が舞い、魔族の視界が遮られる。
セシル達の班はその隙に魔族から距離を取っていく。
魔族は笑みを浮かべ、そして再び鼻歌を歌い始めた。リズムに乗りながら、獲物を次々殺していく。バックダンサーが踊るが如く、無作為に破壊されていく。
血飛沫、爆発、血飛沫、爆発、血飛沫爆発血飛沫爆発血飛沫爆発血飛沫爆発………
全てが舞台のセットのように奏でられていく。
既に部隊は4割が壊滅、あと10秒も持たない。
「セシル君!」
「黒鋼.繊維形態!」
セシルの全身から黒い線が伸びていく。途端、魔族の足元に穴が開き、空中に放り出される。今の時間に穴を掘り、繊維にした事で落とし穴として機能したのだ。
1万を超える線が伸び、魔族を捉える。魔族の動きが一瞬硬直する。
アンの両腕に黒鋼が纏われる。続けてレナはアンの全感覚を拡張させた。
腕力、魔法出力、あらゆる能力が8倍以上上昇した。最早Stage6のclassAが何体いようと吹き飛ばせる威力。
アンは弓を引き、魔能力を発動する。
白撃ジ.アストローズ!」
あの技は負荷が強すぎる。発動する前に死んでしまう。ならこれが限界だ。



だが、魔族は拘束を一瞬で振り払い、その攻撃を片手で受け止めていた。



「え…?」
何一つとして意味がなかった。今までに味わったことのない理不尽。恐怖は怒りへと変わりつつあった。
だが突然、魔族は後ろを振り返る。
そして今まで以上に不適な笑みを浮かべ、こう呟いた。
「なあんだ、もっと良さげなのがあんじゃねえか。」
その次の瞬間には、魔族の姿は消えていた。
「なんで…?!クソ!ふざけんな!ふざけんなああああ!」
アンは叫んだ。弄ばれていたんだ。初めから。
「待て…あそこは……あそこは!くそ!」
セシルは魔能力で対象に呼びかけた。
『おい!逃げろ!』
「逃げろ?…誰からの」
アルスの疑問は一瞬で解消された。背後から迫る巨大な塊をこの目で捉えたのである。
槍を構える。このままでは車に攻撃が当たる。魔族の腕に限界速で槍をぶつける。
腕は車からそれ、傾斜にぶつかった。が、発生した衝撃で吹き飛ばされた隊員はそのまま投げ出された。
アルスは咄嗟に構える。何とか防がないと。何とか、何とか…


しかし、槍は砕けていた。そして次の瞬間には魔族のもう片方の手は彼を襲い、壁に叩きつけていた。赤い血がこべり付く。脳、腑、骨、全てが飛び散り、アルス.モラクラスだった男はバラバラに弾け飛んでしまった。
「ああ……あああ…あああああああああああああああ!」
吹き飛ばされ、身を起こした状態で劉龍は叫ぶ。
魔族はー
グウェルガンド.ゼルベナードは高揚に包まれていた。
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