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魔人衝突編
孤高に立ち尽くす、その瞳は
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「…ふむ、魔族の群れの仕組みは大体分かった。絶え間なく増え続けているなら、互いにぶつかり合っている部分から溢れ返ってしまうハズ…だがアレはそうならない。おそらく上限があるんだろう。上限以上は増えず、破壊と想像を繰り返して進んでいるのか。」
「だとしても脅威なのに変わりはないけどね。」
クレアはため息混じりに言う。
「…それはそうだね。ノーマン君のとこの彼女がいれば戦況は変わっていたんだが…先月に使ってしまったからねえ。」
「もう一回さっきのやり方、出来ないのかい?」
「できない事もないけど、流石に連続してやるのはこの状況じゃキツい。そもそも出来るのは私くらいだろ?だったら尚更実用的じゃない。というかやり過ぎるとかえって戦況をややこしくする。」
「ダメかー。…まあでも、ノーマン氏はコレの影響はほぼ受けないからね、そこは幸いと言ったところだ。」
「…」
メリッサはケイン達のいる方角を見ていた。
グウェルガンドの剣戟が迫る。
『見える!』
ケインは間一髪で回避する。
『先輩、アレは本気じゃない。半分の能力も…』
「分かってるっての!」
ケインはグウェルガンドの懐に潜り込み、斬撃を交差させる。青い血液が迸った。
『よし、入る!』
突如ケインの視界を魔力が埋め尽くす。
「…っそ!」
後ろに下がる。斬撃が無差別に周囲を切り裂いていく。
「デケェしはええし…しんどいわ!」
グウェルガンドの右手が飛んだ。
が、その後の一瞬の硬直の隙、ケインの目の頭に剣が迫っていた。
捉えた、と思われたその瞬間、グウェルガンドの背後にケインは移動していた。
「ぐっ…!ゲホ!ゲホ!」
連続の遠距離からの魔能力の使用により、龍は吐血する。吐瀉物を受け止めた右手には血がベッタリと張り付いていた。
「おい!大丈夫か?!…あんまり無理するな。」
よろめいた龍の体をセシルは支える。
『こいつ…なんなんだ?!俺が全力で支援しても全然勝てる気がしねえ!』
身体強化、治療、感覚接続、魔力中継、あらゆる支援能力に特化した、最強の支援能力『黒鋼』をもってしても歯が立たない。グウェルガンドという怪物にセシルは冷や汗を垂らした。
「っ…!」
ケインの出力が上がるとともに、負荷を肩代わりしたセシルの魔法神経が浮き上がっていく。想像を絶する痛みに、気を失いそうになる。
『耐えろ…全員体は限界なはず…!』
セシルは額の汗を拭った。
「…レナ、まだ行ける?」
「舐めんなっつーの。…行けるわボケ。」
遠距離の感覚操作に加え、この後追加での100人規模の支援。絶望する他なかったが、倒れる事こそ真の絶望であると彼女は理解していた。
「そっかそっかじゃあ行こう!」
アンは満面の笑みで返す。
「あーくっそ腹立つ!」
気遣いの一つも見せない彼女への怒りをぶつけるように、レナは地面を殴りつけた。
「目標確認!」
「了解!ノーマン君、行けるかい?」
「いつでも行ける。…それじゃあね!」
ノーマンは車から飛び降り、魔族の群れへと向かっていく。
「なんだ…?アレは。」
魔族が次々と両断されていく。
まだいたのか?あれほどのものが。メルディベールのその思考は即座に消えた。
否、隠していたのか。どうやってかは知らないが、無視できるものではない。
メルディベールは魔法陣を上空に刻み込む。
無詠唱にて刻まれる魔法陣。その数実に40。その総量は最上位魔法を超越していた。
「自然の魔力を際限なく熱線に還元する殺戮の雨…
君臨せし天の怒号!」
800℃にも及ぶ熱が雲を吹き飛ばす。周囲の魔力を取り込む事によって秒単位で威力を増していく。触れれば即死であることなど、誰から見ても分かっていた。
「ノーマン君!」
メリッサの指示と同時に、黒い壁が空を覆っていく。
『あれは…セシル氏の?』
「ああ…似てるね。だが実際は違う。こんな事を言ったら彼は怒るだろうが、防御力ではノーマン君の方が圧倒的に上だ。」
が、黒い壁を光線は容赦なく溶かしていく。
「無駄だ…これは魔法陣が焼き切れるまで絶え間なく放出される。」
僅か10秒程度の耐久の後、壁はあっさりと砕け散った。
「……時間稼ぎは済んだ。」
メリッサは不敵な笑みを浮かべる。
勝ち誇ったようなメルディベールの表情は即座に崩れ去った。
取り払われた壁から彼が見た光景。
1000を超える砲台が彼の方へと向いていた。
「な…!」
メルディベールは5重に及ぶ魔力防壁を前方に張ると、砲撃から逃れるために下降を始める。
しかし、防壁は崩れ去り、砲撃は彼の右腕を捉えた。
「そのまま追え!逃すな!打ち終わったものは装填しろ!射撃第一、第三部隊は魔法陣を破壊しろ!」
弱まった熱戦を貫通した砲撃の束は、上空の魔法陣を破壊していく。
「逃避に集中すれば当然威力は弱まるとも…。射撃部隊なら他の部隊より砲撃の威力は高い。当然貫通するさ。」
メルディベールは地面に着地する。この量を装填できるなら先手を取られてしまう。魔力の総力は上がったが出力は変わらない。であれば正面から受け切るほかあるまい。
「自惚れすぎだよ、君。」
低い声がする。
突如自身の足元から迫る男に、メルディベールは反応できなかった。
「っ…!」
反射的に魔法を放つ。
ノーマンは片手でそれを弾くと、彼の懐に一瞬のうちに潜り込んだ。
魔力防壁すらも貫通した彼の拳は、メルディベールのみぞおちにめり込む。身体中の骨がへし折れ、彼の意識は一瞬の暗転を迎えた。
「ああああ…!」
が、あくまで一瞬。よろめく体を右足で支えると、メルディベールはノーマンを睨みつけた。
『なんだ…?こいつは…このパワーはグウェルガンド並み…いや、それ以上の…。ただの人間が?ふざけている!』
彼は思考を巡らせながら、魔法陣の群を展開する。
「おっと…少々キツイかな?」
ノーマンは後ろに下がる。
と、同時に大量の弾幕が魔法陣から放たれていく。
先ほどとは別物。一秒間に8000発放たれるそれは、蹂躙のみを目的にした攻撃。
「放て!」
メリッサの合図とともに、砲撃が次々放たれていく。
が、弾幕を防ぎ切ることはできない。弾幕は隊員を吹き飛ばしていく。
「まだ…終わりはしない!」
メルディベールは畳み掛ける。
魔法陣の量はねずみ算式に増えていく。
「……」
ふと、彼は違和感を覚える。先ほどまで叫び続けていたメリッサが沈黙している。
「……まさか。」
メルディベールは顔を上に向ける。
上空、空を走る一閃の矢。それが向かう先は、それが向かう先は…
『アンさんの白撃を感知されない方法…一つ案があるんですが良いですか?』
レドはメリッサに耳打ちする。
『貴方も予想しているでしょうが…あの魔力はおそらく、周囲の魔族と人間の魔力を糧に出来たものだ。
であればつまり、彼の持つ魔力は魔族と人間の魔力で混ざり合っている。自身の魔力と他の魔力に差を生み出し、認識するのが魔力感知の仕組みですから…同じ魔力を纏っていれば感知は困難を極めると言うことになる。ましてや周囲は人間の死体と魔族の群れの魔力で包まれているうえ、彼自身の膨大な魔力が周囲を包み込んで、彼自身の感知能力の枷になっている。より一層困難を極めますよ。』
『だとしたら?…奴の感知能力は桁違いだよ。何故ならここまで魔能力の範囲を広げられるからね。精密製は半端じゃない。…ましてや同じ魔力など…」
『ですからね、もし魔族の群れに殺された人間、そして魔族の群れの血液を矢に混ぜたらどうなるのかって話です。』
『!』
『魔族の群れは増えているとは言ってもコピー…同一の存在てす。取り込んだ魔族の魔力とはほとんど差はない筈。先住民族が土を体に塗って動物の嗅覚を誤魔化すのと同じです。血液にも魔力は篭ってますからね、微弱であってもカモフラージュには十分なんじゃないかと。とは言っても、ただ塗るだけじゃ普通に取れちゃいますからね。魔法で色々定着させるのは大前提です。』
勝った、と周囲の誰もが思った。が、答えは予想を簡単に覆すものだった。
「………はははは!想定しているとも!」
メルディベールは空中に仕掛けた魔法陣を起動する。矢の向かう先、すなわちシャーロットの前で立ち塞がる罠。
終わった。
もう、終わり…
と、思われた。
さらに予想は覆った。
「ハハァ!騙し合いのセンスがないね!想定でさえも想定するのが常識だよ!」
矢は魔法陣の前で上へと曲がった。
「な…?!」
上空、遥か1000m。ドーム状の結界の核を、矢は寸分のずれなく捉えた。
「この結界が…狙いだと…?!」
「君は私たちがシャーロットを過大評価していると思っていたようだが…本当に過大評価していたのは君だったようだねえ!」
「くっ…!だからなんだと言うのだ!」
魔法陣はふたたび組み上がる。その数、800。
「おいおい…忘れたのかい?ああ…君は知らないか。」
メリッサは詠唱を始める。
「天地の独楽《こま》.禊ぎて廻れ<>手繰り寄せしは我が手中-
冥土の底.廻りて散れ<>三千世界の咎人よ!
絶対魔法-欺世盗名の操り人形!」
瞬間、
不可視の糸が張り巡らされる。
光線は、雲の巣に固定されるが如く、あっさりと絡め取られた。
「これは物質であろうがなんであろうが、『認識している限り』全てに干渉できる…定着型の最上位.絶対魔法であるが故に成せる所業だ。」
光線は糸によって、メルディベールの方向へ跳ね返される。
が、彼の顔色は変わらなかった。眉ひとつ動かさず、光線を全て自らの手で打ち消した。
「そうか…分かった。君たちはまだ戦うんだね?であれば『僕』は殺してみせる。君らの全てをねじ伏せよう。」
「出し抜かれて開き直ったかい?!」
「挑発になど乗る気はない。死んでしまえば無意味だからね。」
空中に黒い穴が開く。
「これは…魔族の自動発生か?」
800、900、1800…穴という穴から魔族が這い出る。
「魔能力で魔族は僕の支配下にある…。理論上なら自動発生も容易い。」
魔力の消費は馬鹿にならないが、これも仕方あるまい。
地に足をつけた魔族は、水風船から水が溢れるが如くの勢いで増幅を始める。
『っ…!増幅の総量に限界があるとは言え、これは…』
命令を下す暇なく、一瞬のうちに魔族の群れはメリッサの目と鼻の先へと迫る。
その瞬間、周囲の魔族の体が切り裂かれていく。
「…っぶないなあ!」
ノーマンはひたすらに剣を走らせる。しかしもはや反撃の隙はない。防戦でさえも困難を極める状況であった。
「くっ…!このまま突破する!射撃部隊は…」
メリッサは言葉を失った。
上空、無数の点が浮かんでいる。
「魔族の群れだ!迎え撃て!」
弾幕が突如降り注ぐ。
魔族らと合流してしまった。だが早すぎる。通常ではもっと遅い筈。
「もっと遅い…そう思っているようなら愚かだよ。僕は全員に強化を付与している。君はそれを予測できなかったのかい?」
あの出力、強化付与はないと思っていた。仮に、仮にもし結界の減少効果を彼自身の魔族も受けていたとしたら…。それによって本来の能力を隠していたのだとしたら…。
「まずい…アレは並の魔族ではない…!」
メリッサは上空に糸を張り巡らせる。空中に弾幕は固定されていく。
が、糸による妨害から解き放たれた魔族は、容赦なく彼女を襲う。
「…っラァ!」
ノーマンは更に加速する。メリッサの穴を埋めようと、周囲を駆け回る。
「ぐぅ…!」
メリッサは魔力を加速させ、魔族の体を絡めとると、しき集めた魔族を空中で押しつぶす。上空から青い血液が降り注いだ。
が、両手の負荷が倍増し、滝のような勢いで汗が溢れ出る。
「射撃部隊は上空の魔族を撃ち落とせ!その他はメルディベールへ総攻撃を!……アン、君は…」
無線機に応じた彼女の声は、生気のひとつも纏っていなかった。
『はあ…はあ…すみません…魔力がもう…限界で…レナも向こうの対応に必死みたいで…』
「周辺部隊からの支援は?」
『無理です…魔族の群れを突破するのは不可能…私たちも魔族への対応にいっぱいいっぱいで…』
「……!」
メリッサは歯を食いしばる。その気になれば簡単に握り潰せたとでも言うのか?どうする、魔力視覚で見た限りではシャーロットの周囲につけられた罠は200以上。どう考えても突破は不可能。
「自身を責める必要はないさ。…君の魔導士としての能力は神級レベル…通常ならば僕と戦えただろう。だが君以上に準備をしてきただけの事だ。」
地形が組み変わっていく。生きているように、蠢いていく。
「砂山のパラドックス…アレをやる。無限に土は増えていく。そして全てが僕のものだ。」
空中に持ち上げられた土は一点に固められていく。
それも一つではない。10、20…
これではまるで、シャーロットが見せたあの魔法ではないか。
「さようなら、魔道士。僕らの為に死んでくれ。」
「だとしても脅威なのに変わりはないけどね。」
クレアはため息混じりに言う。
「…それはそうだね。ノーマン君のとこの彼女がいれば戦況は変わっていたんだが…先月に使ってしまったからねえ。」
「もう一回さっきのやり方、出来ないのかい?」
「できない事もないけど、流石に連続してやるのはこの状況じゃキツい。そもそも出来るのは私くらいだろ?だったら尚更実用的じゃない。というかやり過ぎるとかえって戦況をややこしくする。」
「ダメかー。…まあでも、ノーマン氏はコレの影響はほぼ受けないからね、そこは幸いと言ったところだ。」
「…」
メリッサはケイン達のいる方角を見ていた。
グウェルガンドの剣戟が迫る。
『見える!』
ケインは間一髪で回避する。
『先輩、アレは本気じゃない。半分の能力も…』
「分かってるっての!」
ケインはグウェルガンドの懐に潜り込み、斬撃を交差させる。青い血液が迸った。
『よし、入る!』
突如ケインの視界を魔力が埋め尽くす。
「…っそ!」
後ろに下がる。斬撃が無差別に周囲を切り裂いていく。
「デケェしはええし…しんどいわ!」
グウェルガンドの右手が飛んだ。
が、その後の一瞬の硬直の隙、ケインの目の頭に剣が迫っていた。
捉えた、と思われたその瞬間、グウェルガンドの背後にケインは移動していた。
「ぐっ…!ゲホ!ゲホ!」
連続の遠距離からの魔能力の使用により、龍は吐血する。吐瀉物を受け止めた右手には血がベッタリと張り付いていた。
「おい!大丈夫か?!…あんまり無理するな。」
よろめいた龍の体をセシルは支える。
『こいつ…なんなんだ?!俺が全力で支援しても全然勝てる気がしねえ!』
身体強化、治療、感覚接続、魔力中継、あらゆる支援能力に特化した、最強の支援能力『黒鋼』をもってしても歯が立たない。グウェルガンドという怪物にセシルは冷や汗を垂らした。
「っ…!」
ケインの出力が上がるとともに、負荷を肩代わりしたセシルの魔法神経が浮き上がっていく。想像を絶する痛みに、気を失いそうになる。
『耐えろ…全員体は限界なはず…!』
セシルは額の汗を拭った。
「…レナ、まだ行ける?」
「舐めんなっつーの。…行けるわボケ。」
遠距離の感覚操作に加え、この後追加での100人規模の支援。絶望する他なかったが、倒れる事こそ真の絶望であると彼女は理解していた。
「そっかそっかじゃあ行こう!」
アンは満面の笑みで返す。
「あーくっそ腹立つ!」
気遣いの一つも見せない彼女への怒りをぶつけるように、レナは地面を殴りつけた。
「目標確認!」
「了解!ノーマン君、行けるかい?」
「いつでも行ける。…それじゃあね!」
ノーマンは車から飛び降り、魔族の群れへと向かっていく。
「なんだ…?アレは。」
魔族が次々と両断されていく。
まだいたのか?あれほどのものが。メルディベールのその思考は即座に消えた。
否、隠していたのか。どうやってかは知らないが、無視できるものではない。
メルディベールは魔法陣を上空に刻み込む。
無詠唱にて刻まれる魔法陣。その数実に40。その総量は最上位魔法を超越していた。
「自然の魔力を際限なく熱線に還元する殺戮の雨…
君臨せし天の怒号!」
800℃にも及ぶ熱が雲を吹き飛ばす。周囲の魔力を取り込む事によって秒単位で威力を増していく。触れれば即死であることなど、誰から見ても分かっていた。
「ノーマン君!」
メリッサの指示と同時に、黒い壁が空を覆っていく。
『あれは…セシル氏の?』
「ああ…似てるね。だが実際は違う。こんな事を言ったら彼は怒るだろうが、防御力ではノーマン君の方が圧倒的に上だ。」
が、黒い壁を光線は容赦なく溶かしていく。
「無駄だ…これは魔法陣が焼き切れるまで絶え間なく放出される。」
僅か10秒程度の耐久の後、壁はあっさりと砕け散った。
「……時間稼ぎは済んだ。」
メリッサは不敵な笑みを浮かべる。
勝ち誇ったようなメルディベールの表情は即座に崩れ去った。
取り払われた壁から彼が見た光景。
1000を超える砲台が彼の方へと向いていた。
「な…!」
メルディベールは5重に及ぶ魔力防壁を前方に張ると、砲撃から逃れるために下降を始める。
しかし、防壁は崩れ去り、砲撃は彼の右腕を捉えた。
「そのまま追え!逃すな!打ち終わったものは装填しろ!射撃第一、第三部隊は魔法陣を破壊しろ!」
弱まった熱戦を貫通した砲撃の束は、上空の魔法陣を破壊していく。
「逃避に集中すれば当然威力は弱まるとも…。射撃部隊なら他の部隊より砲撃の威力は高い。当然貫通するさ。」
メルディベールは地面に着地する。この量を装填できるなら先手を取られてしまう。魔力の総力は上がったが出力は変わらない。であれば正面から受け切るほかあるまい。
「自惚れすぎだよ、君。」
低い声がする。
突如自身の足元から迫る男に、メルディベールは反応できなかった。
「っ…!」
反射的に魔法を放つ。
ノーマンは片手でそれを弾くと、彼の懐に一瞬のうちに潜り込んだ。
魔力防壁すらも貫通した彼の拳は、メルディベールのみぞおちにめり込む。身体中の骨がへし折れ、彼の意識は一瞬の暗転を迎えた。
「ああああ…!」
が、あくまで一瞬。よろめく体を右足で支えると、メルディベールはノーマンを睨みつけた。
『なんだ…?こいつは…このパワーはグウェルガンド並み…いや、それ以上の…。ただの人間が?ふざけている!』
彼は思考を巡らせながら、魔法陣の群を展開する。
「おっと…少々キツイかな?」
ノーマンは後ろに下がる。
と、同時に大量の弾幕が魔法陣から放たれていく。
先ほどとは別物。一秒間に8000発放たれるそれは、蹂躙のみを目的にした攻撃。
「放て!」
メリッサの合図とともに、砲撃が次々放たれていく。
が、弾幕を防ぎ切ることはできない。弾幕は隊員を吹き飛ばしていく。
「まだ…終わりはしない!」
メルディベールは畳み掛ける。
魔法陣の量はねずみ算式に増えていく。
「……」
ふと、彼は違和感を覚える。先ほどまで叫び続けていたメリッサが沈黙している。
「……まさか。」
メルディベールは顔を上に向ける。
上空、空を走る一閃の矢。それが向かう先は、それが向かう先は…
『アンさんの白撃を感知されない方法…一つ案があるんですが良いですか?』
レドはメリッサに耳打ちする。
『貴方も予想しているでしょうが…あの魔力はおそらく、周囲の魔族と人間の魔力を糧に出来たものだ。
であればつまり、彼の持つ魔力は魔族と人間の魔力で混ざり合っている。自身の魔力と他の魔力に差を生み出し、認識するのが魔力感知の仕組みですから…同じ魔力を纏っていれば感知は困難を極めると言うことになる。ましてや周囲は人間の死体と魔族の群れの魔力で包まれているうえ、彼自身の膨大な魔力が周囲を包み込んで、彼自身の感知能力の枷になっている。より一層困難を極めますよ。』
『だとしたら?…奴の感知能力は桁違いだよ。何故ならここまで魔能力の範囲を広げられるからね。精密製は半端じゃない。…ましてや同じ魔力など…」
『ですからね、もし魔族の群れに殺された人間、そして魔族の群れの血液を矢に混ぜたらどうなるのかって話です。』
『!』
『魔族の群れは増えているとは言ってもコピー…同一の存在てす。取り込んだ魔族の魔力とはほとんど差はない筈。先住民族が土を体に塗って動物の嗅覚を誤魔化すのと同じです。血液にも魔力は篭ってますからね、微弱であってもカモフラージュには十分なんじゃないかと。とは言っても、ただ塗るだけじゃ普通に取れちゃいますからね。魔法で色々定着させるのは大前提です。』
勝った、と周囲の誰もが思った。が、答えは予想を簡単に覆すものだった。
「………はははは!想定しているとも!」
メルディベールは空中に仕掛けた魔法陣を起動する。矢の向かう先、すなわちシャーロットの前で立ち塞がる罠。
終わった。
もう、終わり…
と、思われた。
さらに予想は覆った。
「ハハァ!騙し合いのセンスがないね!想定でさえも想定するのが常識だよ!」
矢は魔法陣の前で上へと曲がった。
「な…?!」
上空、遥か1000m。ドーム状の結界の核を、矢は寸分のずれなく捉えた。
「この結界が…狙いだと…?!」
「君は私たちがシャーロットを過大評価していると思っていたようだが…本当に過大評価していたのは君だったようだねえ!」
「くっ…!だからなんだと言うのだ!」
魔法陣はふたたび組み上がる。その数、800。
「おいおい…忘れたのかい?ああ…君は知らないか。」
メリッサは詠唱を始める。
「天地の独楽《こま》.禊ぎて廻れ<>手繰り寄せしは我が手中-
冥土の底.廻りて散れ<>三千世界の咎人よ!
絶対魔法-欺世盗名の操り人形!」
瞬間、
不可視の糸が張り巡らされる。
光線は、雲の巣に固定されるが如く、あっさりと絡め取られた。
「これは物質であろうがなんであろうが、『認識している限り』全てに干渉できる…定着型の最上位.絶対魔法であるが故に成せる所業だ。」
光線は糸によって、メルディベールの方向へ跳ね返される。
が、彼の顔色は変わらなかった。眉ひとつ動かさず、光線を全て自らの手で打ち消した。
「そうか…分かった。君たちはまだ戦うんだね?であれば『僕』は殺してみせる。君らの全てをねじ伏せよう。」
「出し抜かれて開き直ったかい?!」
「挑発になど乗る気はない。死んでしまえば無意味だからね。」
空中に黒い穴が開く。
「これは…魔族の自動発生か?」
800、900、1800…穴という穴から魔族が這い出る。
「魔能力で魔族は僕の支配下にある…。理論上なら自動発生も容易い。」
魔力の消費は馬鹿にならないが、これも仕方あるまい。
地に足をつけた魔族は、水風船から水が溢れるが如くの勢いで増幅を始める。
『っ…!増幅の総量に限界があるとは言え、これは…』
命令を下す暇なく、一瞬のうちに魔族の群れはメリッサの目と鼻の先へと迫る。
その瞬間、周囲の魔族の体が切り裂かれていく。
「…っぶないなあ!」
ノーマンはひたすらに剣を走らせる。しかしもはや反撃の隙はない。防戦でさえも困難を極める状況であった。
「くっ…!このまま突破する!射撃部隊は…」
メリッサは言葉を失った。
上空、無数の点が浮かんでいる。
「魔族の群れだ!迎え撃て!」
弾幕が突如降り注ぐ。
魔族らと合流してしまった。だが早すぎる。通常ではもっと遅い筈。
「もっと遅い…そう思っているようなら愚かだよ。僕は全員に強化を付与している。君はそれを予測できなかったのかい?」
あの出力、強化付与はないと思っていた。仮に、仮にもし結界の減少効果を彼自身の魔族も受けていたとしたら…。それによって本来の能力を隠していたのだとしたら…。
「まずい…アレは並の魔族ではない…!」
メリッサは上空に糸を張り巡らせる。空中に弾幕は固定されていく。
が、糸による妨害から解き放たれた魔族は、容赦なく彼女を襲う。
「…っラァ!」
ノーマンは更に加速する。メリッサの穴を埋めようと、周囲を駆け回る。
「ぐぅ…!」
メリッサは魔力を加速させ、魔族の体を絡めとると、しき集めた魔族を空中で押しつぶす。上空から青い血液が降り注いだ。
が、両手の負荷が倍増し、滝のような勢いで汗が溢れ出る。
「射撃部隊は上空の魔族を撃ち落とせ!その他はメルディベールへ総攻撃を!……アン、君は…」
無線機に応じた彼女の声は、生気のひとつも纏っていなかった。
『はあ…はあ…すみません…魔力がもう…限界で…レナも向こうの対応に必死みたいで…』
「周辺部隊からの支援は?」
『無理です…魔族の群れを突破するのは不可能…私たちも魔族への対応にいっぱいいっぱいで…』
「……!」
メリッサは歯を食いしばる。その気になれば簡単に握り潰せたとでも言うのか?どうする、魔力視覚で見た限りではシャーロットの周囲につけられた罠は200以上。どう考えても突破は不可能。
「自身を責める必要はないさ。…君の魔導士としての能力は神級レベル…通常ならば僕と戦えただろう。だが君以上に準備をしてきただけの事だ。」
地形が組み変わっていく。生きているように、蠢いていく。
「砂山のパラドックス…アレをやる。無限に土は増えていく。そして全てが僕のものだ。」
空中に持ち上げられた土は一点に固められていく。
それも一つではない。10、20…
これではまるで、シャーロットが見せたあの魔法ではないか。
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レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
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