Heavens Gate

酸性元素

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シャーロット編

守るべきもの、壊されるもの

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「………」
荒れた荒野、2人の隊員が歩いていた。
「魔族の残党…本当にこんな所にいるのですか?」
「いやーまあ、言われたからにはやらなきゃねえ…。そもそも大規模な殺し合いってのはさあ、結局どこかでそう言うのは出てくるもんだよ。」
男の方はノーマン、と言われている男だった。
「一理ありますが結局根拠はないでしょう?」
「そう言うこと言わないでよヘルガちゃーん!」
「近いですってばあ!」
ヘルガはノーマンから距離をとった。
「じゃあ二手に分かれますから、見つけ次第連絡下さい。」
「……大丈夫?1人で。」
途端にノーマンは真顔になる。
「大丈夫ですって。」
ヘルガはそこから逃げるように進んだ。魔力視覚を使用し、周囲を見渡す。
何も無い。やはり残党などいないのか?
その瞬間、彼女の背後に衝撃が走る。
「…探しに来たって訳か。だが随分弱えな。魔力視覚使ってる辺り完全な雑魚って訳じゃねえ筈だが…」 
魔族の顔面に蹴りが飛んだ。
ガードをとった姿勢のまま後ろにバランスを崩される。
即座に背後に回ったヘルガは、魔装剣で背中を切りつけた。
「っ……!テメェ!」
魔族の腕をしゃがんでかわすと、次は両足を切断する。
再びバランスを崩した魔族に閃光弾を投げ、視界を奪う。
ヘルガは崖から飛び降りると、無線機のスイッチを入れた。
「連絡しないと…」
無線機は破壊された。
ヘルガは周囲を見渡す。
10体を超える魔族が彼女を囲んでいたのである。



「もう1人いると聞いたが?」
放置された要塞の中、魔族数人が会話している。
「ええ、ですがまだ見つかりません。他の者に向かわせております。」
「……………よお、不機嫌そうだな。」
「?!」
魔族の視界の先には、彼らを鬼の形相で睨むノーマンの姿があった。
「貴様いつの間に…!」
「おい。」
「なんだ?」
「彼女に何をした?」
「死んじゃいねえし犯してもいねぇよ。それは安心できる。つーかお前も知ってんだろ?俺ら魔族は基本的には人間に欲情しねぇ。あくまで基本的にだが。」
ノーマンの表情はさらに険しさを増していく。
「はあ…なんて事だ…なんて事だなんて事だなんて事だなんて事だ………僕は最低だ…クソだ……死んじまえゴミ野郎………!」
突如ぶつぶつと自虐を始めるノーマンに、魔族らは困惑を隠せなかった。ただ1体、中央の魔族を除いては。
「ところで……向かわせた魔族はどうした?」
「殺したよ、4体くらいか?」
魔族らに戦慄が走った。
わずか数分で全員やられたのか?魔力も大してないこの男に。
「成程……では死ね。」
中央の魔族は、やはり表情を変えずに魔能力を使用した。
全長8mにも及ぶ巨大な氷が、凄まじい速度でノーマンに迫る。
が、それは一瞬のうちに砕かれてしまった。
「もう良い……お前達が何をしていようと『俺』は恨まない。こうなったのは俺の責任だ。
だが殺す。それが仕事だ。仕方ねぇよな?」
ノーマンは、黒いキューブを右手に出現させる。
ただ空中でクルクルと回るだけ。
一体なんの脅威があると言うのか。
その疑問は即座に払拭された。何故なら、一瞬の内に魔族らは皆即死していたからだ。
その場から離れ、攻撃を回避した魔族を除いては。
キューブから生成された剣が、魔族の核のみをピンポイントで捉えていたのである。

「魔道具.蚩尤しゆう。かつて神として崇められていたが、その実態は、あらゆる武器に変形する魔道具であった……なんて言う話だよ。だがこれは負荷があまりに強すぎて、俺以外に適合しなかった。今度ウチに龍って奴が来るんだけどよ、そいつも魔道具に対しての高い適性がある。だがこれには耐えられねえだろ。」
「なるほどなぁ……だからどうした?詳細明かされたところで俺は言わねえぞ?」
「魔能力、氷の操作。固有能力、大気操作。どうだ、当たりか?」
「……正解。単純さ。氷を操作して、大気を体で操作する。今やこの空間は俺のテリトリーだ。」
「ふっ…はははははははは!なんだそりゃ!シャーロットの完全下位互換じゃねぇか!」
「だからどうしたと言ってんだよ。」
無数の氷がノーマンを囲い込む。
ノーマンは蚩尤を展開し、盾を作り出した。氷は全て盾に弾き返されてしまった。
「………」
「盾、アイギス。何も篭っていない直接攻撃以外の全てを防ぎ切る最強の魔道具の一種だ。」
「魔道具の複製ってのはこうも厄介なのか……」
遠ざかるしかない、と魔族が判断した時には、既にノーマンは魔族の目と鼻の先に迫っていた。
「!」
咄嗟に回避の姿勢をとる。が、剣の長さが突然伸び、彼の両腕はいとも簡単に切り裂かれた。
「魔剣.物干し竿……それを模倣した。」
2本の剣をノーマンは握り、地面を蹴る。
魔族はノーマンから距離を取りつつ、氷の柱を次々と生成する。
ノーマンはそれらを一才の無駄なく切り裂いて行く。
「~!」
出来る限り最大限、氷の壁を作り出し、身を守る。
「脆い!」
ノーマンは剣をしまうと、天井を蹴り、右拳を壁にぶつけ、薄氷のように砕いた。そしてそのままの勢いに乗せて魔族の腹部にその拳を叩き込んだ。
魔族は床を貫通し、そのまま最下層まで叩きつけられる。
『…?!なんだこの威力…痛みが抜けない…立ち上がれない……息ができない……魔族でもこんな威力は…』
倒れ込んだまま喘ぐ魔族をノーマンは上から見下ろす。
「立てよ。立ってさっきまでのドヤ顔を続けろ。」
魔族は倒れた姿勢のまま、魔殲を発動し、立ち上がった。
絶対零度の空間が周囲に広がっていく。
この空間ではあらゆる物が凍りつく。であれば奴も例外ではないはず。
だが真実は違った。
炎天の剣ヴァジュラ…雷撃の斧と同様の雷電の剣だ。それを模倣した。」
「……!」
「ところで超伝導って知ってるか?超低音状態で電気を流すと、電気抵抗が0になる現象の事だ。お前は一体どれぐらいだ?」
雷撃が周囲を吹き飛ばした。要塞など跡形もなく崩れ去る。

衝撃が止んだ瓦礫の山、そこにいるのは瀕死の魔族。
「………なるほどなぁ。正直俺はよお、情熱なんてのは生まれてこの方持った事がない。ただ仕事ができれば良かったのさ。だが今は少し……楽しいぜ?!」
魔族の魔力が増幅する。
「ははははは!さあやろうぜ?!テメェと俺の…」
「やらねぇよ。」
魔族の体はバラバラに分解された。
肉眼では到底捉えきれない程の速度の斬撃で、数センチ単位でバラバラにされたのだ。
「これが核か。………ちっせえな、お前と同じだな。」
ノーマンは容赦なく握りつぶした。
「なーにが情熱だ。そんなもん俺もねぇよ、くだらねぇ。………僕は君さえいれば良いや。」
未だ意識を失ったままのヘルガを見て、ノーマンはいつもの笑顔を取り戻し、そう言った。
あの時俺が彼女を避難させたことにも気づかないとは、つくづくあの魔族は三流だ。
「あれ…先輩、魔族は…」
「僕が片付けたよ。……まあでも、ちょっと危ないかも。」
無知性魔族の群れがノーマンたちを取り囲む。
「よし、じゃあ行こう。」
蚩尤から放出されたのは、バイクだった。本当にバイクであった。
「え?」
「はい、ヘルメット。捕まってて!」
ノーマンはバイクに乗り込むと、ヘルガを乗せ、エンジンを入れた。
魔族に背を向け、バイクは走り出す。
「運転免許持ってるよね?」
「ええ、まあ…」
「よし任せた!」
「えええええ?!」
ノーマンはバイクから飛び上がると、蚩尤から魔装剣を取り出した。
ヘルガは突如交代を告げられたバイクのハンドルを握る。
目にも止まらぬスピードで魔族の体を切っていく。到底肉眼では捉えきれない。
全ての魔族を切り終わった後、ノーマンはバイクに向かって走り、ヘルガの後ろに乗り継いだ。
「はいはいちょっと前いかせてね…」
ヘルガを跨いで前に移ると、バイクのハンドルを握りしめた。
「ち、ちょっとデカいの来てるんですけども?!」
前方を3m大の魔族が遮る。
「じゃあこっちも…どでかい一発行きますかあ!」
蚩尤から魔装銃を取り出し、魔族に向けて装填する。
魔族の体は吹き飛ばされ、その体に空いた穴を、2人はバイクで突き抜けていった。
「ヒャッホー!!テンション上がるじゃないの!」
「どこが上がるんですかこの野郎!」
「いてていてていてててて………ごめんって謝るから!」
2人は暫く荒野を走っていた。
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