Heavens Gate

酸性元素

文字の大きさ
80 / 133
地獄編

またもや彼らは家族という名の鎖の中で④

しおりを挟む
幼少期、朧げに覚えているのは、家族で過ごした冬の日だった。食卓を囲む中、父も母も笑っていた。
だが成長するに連れて、父親の愛するものは変わっていった。勉強、世間体、それを父は愛するようになったのだ。
進級する事に、習い事と課題の量は増えていった。
歌を歌うのが好きだったっけ。
上手いと周りから言われて、調子づいて歌手になるなんて志したものだ。だけど父親は、うるさいと自分の頬を殴った。歌など歌えたところで何にもならない。と一蹴された。
学校では、女のような容姿だと馬鹿にされていた。そのせいか女友達しかできなかった。
そして全てが崩壊したのは、弟が生まれてからだった。
自分より後に生まれた弟は
自分より早く物事をこなしていった。
何もかもが弟の下位互換。兄として自分を頼る弟の笑顔が、自分はどうしても好きになれなかった。
そしてその結果、父は自分への関心を持たなくなった。好きの反対は無関心というが、どうやら本当らしい。
日常から習い事がさっぱり抜け落ち、何もすることが無くなった。そこにあるのは、上級生数人から殴られる苦痛のみ。
母だけだった。母だけが自分に優しくしてくれた。
だが、そんな母も父の言いなり。何でも母の借金を代わりに建て替えたのが父だったが為に、意見ができない状態にあるのだそうだ。
しばらく空虚な日々が続いた。家では父は自分を無視し、弟もまた、父の言いつけを守り、無視を貫いた。
唯一の良心であったはずの母親でさえ、最早自分にとっては鬱陶しい存在でしかない。
そしてついに、ついに爆発してしまった。
女のような容姿の自分を痛ぶる上級生に噛みつき、全員を病院送りにした。やってやった。当初はそう思っていたが、実際はそうもいかなかった。どういう訳か、自分だけが咎められたのだ。上級生たちが口裏を合わせ、自分の父親の名声を使って脅していたと言い放ったのだという。皆が見ていた筈なのに。誰もが知っていたのに。何処からも擁護の声は上がらなかった。
そして停学処分の通告を受けると、その日父親に殴り飛ばされた。
一体こいつに何の権利があるんだ。ふざけるな。
気がついた時、その場には、頭を押さえてうずくまる父親の姿と、床に散らばる花瓶の破片があった。
家から逃げ出した。
叫びながら、泣きながら。
弟の悲しげな表情を忘れようと、ひたすらに頭を掻き回した。
すると突然、車のクラクション音が辺りに鳴り響いた。
その場に転がっていたのは、弟の死体だった。
まさか、自分を探しに来たのか。
当時はまだ6歳。幼いながらも頭の良かった弟は、自分のせいで苦しめた、と罪悪感を抱いたのだ。
天を仰いで泣き叫んだ。
どうして、どうしてこうなったんだ。
なにが悪かった?どこで間違えた?
そしてもう、家に戻ることはなかった。
かつてあったはずの心はどこかに行ってしまったのだ。
代わりにお前が死ねば良かったのだ。
病院で父親が言い放ったその言葉に、最早なにも感じなかった。だが母は違ったらしい。もう限界だ、と言わんばかりに父親に詰め寄り、何か捲し立てていた。
そうしてまもなく、両親は離婚した。母親と2人で田舎に引っ越した。危険区域にやや近い為、以前のように楽な暮らしはできない。そんな生活が、自分を非行に駆り立てた。
麻薬と銃の横行する、危険区域外では屈指の治安の悪さ故、すぐに不良の仲間ができた。暴行、強姦、恫喝。やれることは何でもやり、その度魔導士の怒号が飛んだ。
いや、実際仲間なんかいなかったのかもしれない。なにをやっても、どこに行っても、一切として寂しさは埋まらなかったのだから。
でももう遅い。女のようだと言われた顔立ちはどこにも無く、かつて華奢だった指先には銃が握りしめられている。
『ははは!マジやばくね?!』
笑っているのに笑ってない。
『金ちょっと貸してよお兄さーん。』
笑ッテイルノニ笑ッテナイ。
『あー…マジ気持ちいわこれ。お前も吸えよ。』
誰か俺を。
誰か俺を。
『はははははは!は…はは…』
助けてください。


「………」
「………」
しばらく両者に沈黙が流れる。
30秒ほど経った頃、レドがついに口を開いた。
「そうか、思い出した。」
「え?」
「魔族が地下鉄に侵入したあの事故、知ってるかい?」
「……ああ、どこかで。」
「あの場に僕もいたんだ。そしてその時、助けてくれた魔導士がいた。」
「………!」
「彼の胸ポケットには…」
「やめろ!」
「聞け!逃げるな!ここで向き合うんだ。良いか?!その魔導士の胸ポケットにはな!その人と子供が写った写真があったんだよ!アンタの父親は魔導師だったんじゃないのか!サレム!」
「……………そうだよ。若くして魔導士になった父は魔導士の中じゃエリートだった。畜生………何なんだよ…今更………………!」
あの時あの魔導士が自分にかけたセリフ、あれは息子と僕を重ねていたのかもしれない。他人に労わってもらえない悲しみを知り、後悔したのかもしれない。
写真を胸ポケットにしまっていた理由。それはかつての行いを反省していたのかもしれない。
だが、最早わかり得ない。両者共に、理解することを放棄してしまったのだから。
「……君を助けた理由がわかった。他人を理解するのに疲れてしまっていたからなんだ。僕がやっていたように、君もそう。」
「…………」
「やり直そう、とは言わないさ。終わりは終わりだ。
これからやるのは『やりたいこと』だ。『やり直す』事じゃない。だってさ、何もかも失ったって事は、どんなものでも手に入れられるって事だろ?何かを得るということは、何かを失うことだからさ。失うことがないっていうのは、そういう事さ。」
「…………」
「君が何の為に生きるかは君次第だよ。僕のやりたいようにして君を助けたんだ、今度は君のやりたいようにやれ。」
レドは部屋から出ていった。
「…………」
サレムは俯いたまま、しばらく部屋で沈黙を貫いていた。

「……隣、良いかい?」
「ええ。」
ベッドに腰掛けるレドに、ノーマンが座り込んだ。
「ありがとうね、助けてくれて。」
「……取り繕って話す感じで行くんですか?」
レドから発せられた質問に、ノーマンは目を見開いた。
「驚いたな……いつから気づいてた?」
「側から見てれば分かりますよ、貴方は他人に興味がない。」
「そういうアンタもそうだろう?…ま、俺と同類さ。」
「でしょうね。」
「……前から感じてたんだよ、アンタとは気が合いそうだとな。気持ち悪がんなよ、こういう感情になったのは俺も初めてなんだ。何か運命的なものなのかもな。」
「はあ……」
「俺はアンタについて行くよ、レド。困った時はアンタの矛にも盾にもなる。職務も放棄しよう。」
「極端すぎる…とは僕も言えた話ではないですね。」
「極端…か…。そうだな……。俺もアンタも何か守りたいだけなのにな…どうしてこうなるんだろうな。」
「それはそうでしょう。他人なんだから。基本は理解できないのが他人なんだ。理解できる前提で接するから失敗する。」
「……そうだな、そうだ。うん。とにかく、だ。いざという時は俺を頼れ、レド。本当にいざという時だ。」
「………?」
「そういう訳だから、よろしく。じゃ、定期的に来るからな。」
ノーマンは部屋を出て行った。
何なのだろう、彼は。とても嘘を言っているようには見えない。本気でアレを言っているのか。味方が増えた、と考えれば良いのだろうか。
彼がそう考えながら、レドは静かに目を瞑った。


『昨日の8月4日、セリアム連邦国にデウス.エクス.マキナと名乗る集団が……』
『8月4日セリアム連邦……』
「どうやら他国サンはうちらに大注目らしいぜ?」
そう言うと、アンドレアはラジオを切った。
「……アタシ勝てる気がしないよ、まだ。」
デボラは深いため息を交えつつそういう。
「とにかく行きましょう。勝つしかないんだ。」
レドは、打ち合わせでの会話を思い出していた。
『…奴らの目的が分かった。奴らの目的は『死者の復活』だ。方法はオーガスタス自身も知らないが、あの塔から何かを吸収して、そのエネルギーを利用するらしい。』
死者の復活、など許してたまるか。後悔を得るからこそ人は平等なのだ。
一同は車に乗り込むと、それぞれの方向に散らばっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...